表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/182

(4)

 水が溢れるように湧き、緑が豊かに育ち、眷属達が賑やかに息づく。

 そして砂漠の砂は、日の光を浴び黄金色に輝く。


 モネグロスとアグアの愛も光り輝いていた。

 それらの全てが永遠に変わらないと誰もが皆、信じていた。


「森の人間の国の狂王が、神を裏切るまでは」


 この世界の全ての物は神達によって創り上げられた。

 オレ達精霊も。当然、人間達も。

 神達は自分達の姿を映した人間の存在を、ことのほか愛でた。


「生まれたばかりの人間達を特別に庇護し、守り、恩恵を与え育てたのさ」

「人間達も我々神を信じ、心から敬い、支えとしてくれていました」


 神と人はお互い愛し愛され、双方無くてはならないほどに親密な関係を保ち続けた。


 そして…そして、気の遠くなるような長い長い蜜月の年月が過ぎて…。


 人間は、いつの間にか独自の『知恵』を持つようになった。

 自分達の国を作り、規範を作り、思想を持つにつれ、人間は徐々に神の手から離れていった。


「我ら神は、それを良い成長だと喜びました」


 生み落とし、常に見守り、手助けしてきた愛し子達。それがやっと自らの足で歩み始めた。

 寂しくはあったけれど、それこそが種として正しい道だと。

 人間達も、神への畏敬の念は変わらず持ち続けていた。お互いの関係はとても良好だった。


「狂った王が現れるまでは」

「狂った王…」


 沈痛な表情のモネグロスと風の精霊。

 モネグロスはぼんやりと視線を浮かせ、風の精霊は怒りをはらんだ目で空を睨む。


「何があったの?」

「狂王は産みの親たる神に刃を向けたのさ」

「我ら神達の存在の消滅を目論んだのです」


 神の存在の消滅!? そんな事、人間に可能なの!?

 いや、そもそも何でそんな事を考えたのよ? 罰当たりな。


「神の存在が邪魔だったのさ」


 風の精霊が忌々しそうに吐き捨てた。

 モネグロスは悲しげに俯いて、床の剥げた幾何学模様を眺めている。


「邪魔って何でよ?」


 良い関係だったんでしょう?

 それに、今は昔ほどベッタリ親密だったわけでもないんでしょう?

 いわゆるスープの冷めない距離ってやつ。余計なトラブルを回避できる、ベストな距離感よ。

 なら何もわざわざ消滅なんて考えなくてもいいじゃない。


「王は、自らがこの世で唯一無二の存在になる事を望んだのです」

「人間の社会は成長した。巨大に、そして複雑になり過ぎた」

「それを統治する王には、強大な力が必要なのです」


 絶対的存在感。強大な権力。

 この世の全ての人間をひれ伏させるほどの権力。

 王にはそれだけの力があるのだと誇示しなければ、誰も従わない。

 そう、例えるなら…


 いまだに人々が存在を忘れず、畏敬の念を持ち続ける偉大なる神。

 その神すらも超越した力の持ち主であると。


 狂王は神の存在に目をつけた。人々が尊敬し、頼りにし、心の支えにする神。

 その神の座に、自分がそっくりそのままつけばいい。

 そうすれば人心も国も思いのままだ。


「狂王は、自分が神より偉大な存在であると誇示し始めたんだ」


 神よりも偉大な…。それで神様を消滅しようって結論に?

 発想が単純な点は、いかにもよくいるバカな王様って感じだけど。


 でもたかが人間よ?

 人間ふぜいが神様に刃向かったって、三歳児がお相撲さんに向かって、張り手をかましてるようなもんじゃないの。

 指シッペひとつで引っくり返されかねないわ。


「狂王は、人々に神を敬う一切の行為を禁止しました」


 矮小な神の像など残らず破壊せよ。神について書かれた書物を全て焼き払え。

 皆が崇め称えるべきは、神より偉大な我のみである。


「従わない者は一族全員が拷問に処された」

「ご、拷問?」

「容赦無い責め苦が与えられ、日毎夜毎、苦悶の声が人間の国に充満したのです」


 宗教弾圧。

 日本で、ううん、世界中で繰り返された歴史が脳裏をよぎった。


「それでも変わらず神を崇める者には、公開処刑が行われた」

「公…!?」


 磔にされる隣人。女や子どもすら一切の慈悲も例外も無かった。

 火をつけられ、絶叫と共に燃え上がる人の姿。

 体中串刺しにされ、おびただしく焼け爛れた体を何日間も晒される。

 濃厚な血の臭いがどこまでも漂い、やがてその身は野生の鳥や動物に喰い散らかされていった。


「そんな、酷い」


 背筋がゾォっと凍り付く。子どもすら例外無いなんて。

 磔にされて、狂ったように泣き叫ぶ幼子の姿が目に浮かんで…。

 とても耐えられずに、あたしは頭を振って打ち払った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ