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 始祖の神。またその言葉が。

 潜む影のように、いつも見え隠れする言葉。


 その始祖の神の眷属だって? 唯一の?

 でも始祖の神って、この世界の始まりの神でしょう?

 モネグロスですら記憶に無いほどの遥か昔。まさに神話の域よ?

 日本でいえば、高天原で神が生まれたって類の。

 途方も無い話だわ。いくらなんでも。


「わたしは、始祖の神が世界で一番最初に生み出した存在である。神々よりも先に、わたしはこの世界に生み出された。以来最も永くこの世を見続けてきた」


 一番最初に? 神よりも先に?

 本当に太古より生き続けてきたって言うの?


「そう、わたしは他の精霊達とは一線を画す。故に精霊の仲間とは言えぬ」

「でも、あなたは長なんでしょう?」

「わたしは役割ゆえに、世界全ての力を持って生まれた」


 役割?


「それを畏怖した精霊達が、わたしを勝手に長の座に祭り上げた。遥か昔の事だ」

「勝手にって、そんな」

「わたしは自分で自分を精霊の長だと断言した事は、一度も無い」


 ノームが泣きそうな顔で長の話を聞いている。

 困惑の極致なんだろう。当然だわ。

 だって、勝手に祭り上げたとか断言した事は無いとか言われたって。

『今さらそんなあんた、何言ってんの!?』だろう。


 今までさんざん、この長に従ってきた。何の疑問も持たずに命令通り生きてきた。

 それを今になって『自分は長じゃない』なんて言われても、冗談じゃないだろう。

 信じていた相手に、信じていた事を引っくり返される。

 その衝撃は半端じゃない。

 あたしは長の、つかみ所の無い無表情な目を見た。


「ねぇ、長」

「わたしは長ではない」

「だってそんな今さら。じゃあ何て呼べばいいのよ?」

「番人、と」

「番人?」

「それが始祖の神より与えられし、わたしの役目である」


 始祖の神。番人。役目。

 繭に閉じ込められた精霊達。

 堕落させられた人間の心。

 それぞれの事実がグルグルと頭の中を駆け巡る。いったい。


「いったい、あなたの目的はなんなの?」


 正体を隠し、精霊達を従え、ヴァニスを偽り。

 影からずっと画策してきたあなたの真の目的はなに?

 あるのでしょう? 理由が。


「教えて。その理由を」


『時は、満ちた。大願成就の時が来たり』

 なんの時が満ちたというの?


「始祖の神の復活である」


 始祖の神の復活。

 あたしはその言葉を素直に納得して受け入れた。

 やっぱり。そんな気がしていた。


 始祖の神。それが全ての鍵なんだ。


 人間も精霊も神も。

 いまや全ての種族が始祖の神の復活を望んでいる。その目的はそれぞれだけれど。


 あなた……。


 誘導したんじゃないの?


 世界中が始祖の神の復活を望むように、糸を手繰るように皆の心を操って仕向けたんじゃないの?


「なぜ?」


 あたしは瞬きもせずに番人を見ていた。

 さっきから心臓がバクンバクンと騒いでいる。でもなぜか心は冷静だった。


「なぜ始祖の神を復活させたいの?」


 他の種族たちが復活を望む目的は分かる。

 でも、この番人の目的が分からない。

 なぜ今さら復活を望む? そして、なぜ復活の為にこんな仕打ちが必要なの?


「始祖の神が復活する為には必要な条件があるのだ。それがこの世に満たされなければ、復活の為の土台が整わぬ」

「土台……」

「世界を整えるのだ。始祖の神の出現に相応しい世に」


 ごくりとノドが鳴った。

 鼓動が速まる。指先が冷たい。

「なにによって、この世界を満たすの?」


 あたしの問いに、番人の唇が動く。


「傲慢、嫉妬、憤怒、怠惰、強欲、暴食、色欲。あのお方に相応しき、これらの全てで世界が満たされた時、ようやく扉が現れる」


 傲慢、嫉妬、憤怒、怠惰、強欲、暴食、色欲。


 その名は『大罪』


 大罪こそが、復活に必要で相応しい?

 それでは、それではまるで、その神は。


 あたしの額と背中にジットリと汗が浮かんだ。自分の耳に激しい動悸と呼吸の音が響いている。


 聞かなければ。

 あたしは、聞かなければならない。


「始祖の神の正体は、なに?」


 番人は、初めて唇の端を上げて……わらった。



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