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 だからまず真っ先に、これからの行動に関係する質問をしよう。


「あたし達は何の目的で、砂漠の神に会いに行くの?」


 見知らぬ世界で、理由も知らずに動き回るんじゃ不安だわ。

 神殿に行けば戻るための手助けになるってんなら、そりゃもう喜んで御同行するし。


「それくらい説明してくれるわよね? さすがに」


 風の精霊は銀の粒子が輝く両の瞳で、あたしをじっと見ている。

 その見た事もない美しさに、あたしは思わず心を奪われてしまいそうになる。

 やっぱり精霊って本当に綺麗だわ。


 コイツの性格自体は最悪だけど。


 研ぎ澄まされた刃物のような、無駄の省かれた美貌で精霊はあたしを見つめ続けた。

 砂漠を渡る風の音だけが、意味深に聞こえてくる。

 しばしの沈黙の後、やっとその唇が動いた。あたしは、どんな答えが戻ってくるのか身構える。


 いったいどんな重要な目的が?


「説明は無しだ。さっさと行くぞ」

「ちょっと! なによそれ!?」


 何を腕組みしながら、偉そうにキッパリ拒絶してんのよ!

 さっきの沈黙は何だったの!? 説明する言葉を考えてくれてたんじゃないわけ!?

 もったいぶった真似して期待させないで!


「事情が複雑なんだ」

「そこを上手く説明しなさいよ! 人の事を愚か者呼ばわりしたくせに!」

「話せば長くなる」

「いいわよ付き合うわよ! 別に他に予定があるわけでもなし」

「予定も無いが、オレ達には時間もない。神の聖域に入る許可を得ずに来てしまったからな」

「それがどーしたっ?」

「つまりここに長居すれば、それだけ命に危険が及ぶんだ」

「え?」


 命の危険って、なんで?

 だって無事に砂漠越えするために、あたしは水の力を継承したわけで。

 だったらもう問題は無いんじゃないの?


 そう言うあたしに、風の精霊は小バカにした表情を見せた。


「ここをどこだと思ってる? 神の聖域だぞ?」

「だからそれは知ってるわよ」

「いいや分かってない。神の領域に精霊や人間ふぜいが、許可無く入り込んで良いと思うのか? 本来オレ達は、ここにいてはいけないんだ」

「……」

「禁を犯している以上、それ相応の危険は常に及んでいる」


 うーん、言われてみれば。

 確かにあたしの居たあっちの世界でも、そういう場所はたくさんあったわね。

 入ってはいけない空間とか。開けてはならない扉とか。決して触れてはならないご神体とか、聖遺物とか。

 あっちですらその類はものすごく神聖に扱われているんだから、実際に神のいるこちらでは、重要さはその比じゃ無いんだろう。


 …じゃあ、なに?

 あたしって『ここから先、絶対禁止』区域に、許可無く土足で入り込んでるわけ?

 今まさに、ど真ん中ストライク?

 それってひょっとして、ひどくヤバい状況なんじゃないかしら?


「やっと事の重大さが理解できたようだな、半人間。だから砂漠の神に謁見し、この地に立つ了承を得るのが最優先なんだ」

「ねぇ」

「なんだ?」

「つまりあなた達は、まず了承も得ずにここへ来たの?」

「……」

「そんな、命に危険が及ぶほど大事な手順すらも吹っ飛ばして?」

「だから言ったろう。事情が複雑だと」


 難しそうな顔で風の精霊がそう言った。

 その固い表情から、あたしはようやく事態を飲み込み始める。

 いや、細かい事はいまだにサッパリ分からないけど。


 自分達の命の危機を顧みる余裕もないほど、切羽詰った事情を抱えてるって事?

 あたしは再び、水の精霊が消え去る瞬間に語りかけてきた言葉を思い出す。

『仲間を、世界を救って欲しい』って。


 いったい、この世界はどんな問題を抱えているんだろう。

 森の人間の国の狂王。衰えてしまった神と精霊達。

 砂漠の神に会うことが、それらに対する重要な要因なんだろうか?


「まずは神殿へ行くんだ。事情はその時に分かる。お前の身の振り方も神に相談すればいい」

「…分かったわ」


 あたしは仕方なく頷いた。心細そさと、情け無さ一杯の心境で。

 だってあんまりじゃない? この現状。

 異世界トリップなんて非常事態に見舞われたうえに、飛ばされた世界にまで、なんだか非常事態宣言が発令されてるみたいだし。


 悪いけどあたし、自分の事で手一杯なのよ。

 他人の深刻な事情なんてかまってるヒマ無いの。巻き込まれても迷惑でしかないわ。

 一刻も元の世界に早く無事に戻りたい。

 向こうでやるべき事が待っているのよ。悪の権化のあの二人を断罪する使命があるの。


 そのために、一応言う通りにしよう。

 神殿に行くのが最善なら、もうそれでいいわ。事情も何もどうでもいい。


「分かったわ。すぐ行きましょう神殿に」

「よし、じゃあ今すぐ実体化を解け」

「……」


 はい?


「だから、実体化を解くんだよ。生身の人間の体じゃ飛べないだろう?」

「言われてる意味が、分かんない」

「…おい、まさか人間ってのは、生身の体で長距離飛行が可能なのかっ?」

「いや、生まれてこのかた一度も生身で飛んだ経験は無いけど」

「あぁ驚いた。そうだろう? じゃあ早く実体化を解け」

「あのぉぉ」

「なんだよ? 早くしろって」

「生まれてこのかた一度も、実体化ってのを解いた経験も無いんだけど」

「……」


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