(10)
滅亡なんかよりよっぽど良いじゃない!
単純に、普通に、良い方を選択しようって気にならないの!?
「ならないな」
ジンはあくまでも淡々と素っ気無い。
「お前の考えは唯一でも最善でも無い」
「じゃあどんな案があるって言うの!?」
「人間が滅亡する方が世界の為になる。その方が絶対に最良の解決への近道だ」
だから!!
争いよりも平和の方がいいって何度も何度も言ってるのに!
許し合って、仲直りして、協力し合う事は美しい事でしょ!?
「これって変!? あたしの言う事って何か間違ってる!?」
「いや、お前は間違っていない。正しい事を言ってる」
「だったら協力しなさいよ!」
いい加減にしてよもう!
もう、もう、もう完全に腹が立った!
ジンは反対の為の反対をしているだけなんだわ! 駄々っ子みたいに我がままを言い続ける分からずやよ!
「あたしの言う事が間違ってないなら、正しいなら、正しい事をしなさいよ!」
「正しいだけなんだよ。お前の言葉は」
「……!」
一瞬、気がそがれた。
「ただ正しいだけで、分かっていないんだ。お前は」
ジンはあたしにそう言った。
相変わらず冷たくて素っ気無いけれど、冷静な態度で。
それを見て、あたしは逆に頭に血がのぼる。
「あたしが何を分かってないって言うの!?」
「もう信じないんだよ」
「何をよ!?」
「人間が、神と精霊をだよ」
人間にとって、もう神や精霊は自分を苦しめてきた憎い相手にすぎない。
そして自分達は勝利者で、オレ達を敗北者だと思っている。
精霊に至っては、生活のための便利な奴隷だ。
その道具が、奴隷が
「このまま精霊達を使役し続けると、とんでもない事になるぞ」
と告げたところで誰が信じる?
「神を信仰しないと滅びるぞ」
と、滅びかけている神が言ったところで誰が信じる?
人間達は今、驕り高ぶり優越感に支配されている。
だからオレ達が何を言っても、敗者が勝者に向かって放つ負け犬の遠吠え、ぐらいにしか思わない。
目も頭も心も、曇ってしまっているんだよ。欲に。
欲に目がくらんだ人間が、どれほど浅ましいかオレ達は知っている。
驕った人間の欲望がどれほど醜く天井知らずか、オレ達は知っている。
身に染みて。痛いほどに。オレ達は知り尽くしている。
だから信じない。人間はオレ達の言葉を信じない。
そしてオレ達も人間を信じない。
もう、二度と信じない。
信じられるわけが無い。
今さら「悔い改めます。ごめんなさい」と言われても。
そんな言葉は絶対に信じない。
「絶対に絶対に、人間を許すことはできない」
キッパリと、決然とジンはそう言い放った。
一切の揺るぎの無い響きだった。
あたしは、彼の強烈な感情のこもった目を見ながら思い出す。
あの城の中の、不釣合いなほどに金色に輝く豪華な調度品。
貴族達が競う豪勢な衣装や、眩いほどに光り輝く装飾品。
無駄なほどの大量なご馳走の量。
普通に暮らしていくのに、何もあそこまで豪華絢爛になる必要はどこにもない。
それはただの欲だ。欲を満たす為だけの過剰な生活だ。
そんな不必要な贅沢の為に、精霊達が奴隷のように使役されている。
そのうえ貴族だけじゃなく、一般の国民全域の日常生活全てを、精霊達は支え続けなければならない。
そう。あたしは知ってるんだ。
そんな酷い目に遭わされて「許して」と言われたところで、聞く耳など絶対に持てない。
「オレ達は憎んでいるんだよ。人間を」
そう。憎んでいる。
「憎い人間をどうして救わなきゃならない? オレ達が?」
憎くて憎くてたまらない。
なのにどうして許せる? 許せるはずが無い。
「救うどころか滅んで欲しいんだよ。一人残らず根絶やしにしてやりたい」
他の誰が許してもあたしだけは絶対に許さない。
仕返ししてやる。
復讐してやる。
不幸にしてやる。
あたしには、あたしにだけはその権利がある。
「苦しみ抜いて死んで滅びろ。人間など」
あたしを裏切って傷付けた彼もあの娘も、不幸にまみれていっそ死ね。
あぁ、確かにあたしは、あの時そう思った。