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 どこかへ去っていった始祖の神、か。

 本当にヴァニスの神達に対する姿勢は完璧に容赦がない。徹底的に根絶するつもりなんだわ。


 そんな事されてしまったら取り返しがつかない!

 核ミサイルのスイッチを押すのに等しい行為よ! 決定的に世界に、そして種族間に修復不能な亀裂が生じてしまう!

 なんとか回避しないと!


 でも、なにをどうすれば回避できるのかしら?

 始祖の神様っていったいどこへ行ったの?

 一仕事終えて自宅でのんびりお風呂ってわけでもないだろうし。

 そもそも本当にまだ消滅して無いって確証はあるの?

 どうすれば再び世界に現れてくれる?


 神の領域の事なんて、いくら考えても分かりようがないわ。だからヴァニスもあんなに考え込んでいたんだろうし。


 あたしは、ふと思いたった。分からなかったら聞けばいいんだわ。

 いるじゃないの。ここに神様がひとり。


「モネグロス、教えて」


 あたしはグッタリして地面に座り込んでいるモネグロスの顔を覗き込んだ。

 モネグロスは閉じいてた両目を、ものすごく気だるそうに開ける。

 そして口を開けようとして、辛そうに呻きながらまた閉じた。

 きっともうしゃべる事すら辛いんだろう。

 ごめんねモネグロス。でもとても大事なことなの。


「始祖の神ってまだ存在してるの?」

「始祖の神は別格。創生そのものです。消滅するといった類の存在ではありません」

「どこにいる? どうして消えたの?」

「役目を終えたからでしょう。どこにいるかは私も知りません」

「知らないの? モネグロスでさえも? だって自分のお母さんの事でしょう?」

「気が遠くなるほどの昔の事ですから。雫は自分がこの世に生まれた時の事を記憶していますか?」

「全然まったく記憶に無いわ」

「同じです。自分が生まれた、つまり生んだ存在があったという事実は歴然ですが、詳細は闇の中です」


 そうか。神すらも、あまり詳しいことは分からない。

 なら人間であるヴァニスが手探り状態なのは当然だ。

 だったら今のうちにヴァニスの決意を変えてしまわないと。

 始祖の神を消滅させる方法が見つかれば、ヴァニスは迷わず実行する。

 そうなる前に、消滅じゃなくてみんなが救われる方の道へ進まなきゃ。


「ジン! 急がないと!」

「ああ、放ってはおけないな。できるだけ早く、もう一度狂王を襲撃する」

「襲撃!?」


 な、なに言ってるのよ!? なに考えてるのよ!?

 襲ってどうするのよ! まったく目指す方向が違うでしょう!?


「前回の事を考えれば、負傷させる程度が精一杯だろうな。それでも怪我の程度によっては足止めになるだろう。死んでくれればなお良いんだが」

「ジン!?」

「狂王が死ねば、人間の拠り所の王家が滅びるからな。……あぁそういえば、王家にはまだひとり女がいたな。妹姫が」

「!?」

「その妹姫も放っておくわけにはいかないかもな」


 あたしは頭にガツンと岩石を思い切りぶつけられたような気持ちだった。

 全身に冷たい何かが流れる。

 ジン、あなたまさかマティルダちゃんをどうにかするつもりなの!?

 あたしは思わずジンの襟首を両手で掴んで叫んだ。


「やめて! そんな酷い事しないで! なんでそんな恐ろしい事を言うの!? 信じられないわ!」

「信じられないのは人間の方だ!」


 ジンは襟首からあたしの手を引き離した。


「今まで人間が、どれほどの神や眷属達の大切な命を消し去ってきたと思ってるんだ!」


 ジンはあたしの両手首を痛いほどに握り締め、あたしの目を見て叫んだ。


「自分がやってる事とまったく同じ事を、他者からやられると極悪非道だと罵る! 理解不能だ!」


 あたしは泣きそうな顔でジンの目を見返す。

 分かってるよ。ジンの気持ち、分かってる。

 今まで全ての種族がずっと辛い思いをしてきた。

 だからそれぞれの立場で、なんとか状況を改善しようとしてる。

 でも方向が間違ってる! やり方が違うのよ!

 「やられたらやり返せ」じゃヤクザの抗争と同じでしょ?


「それじゃ誰も幸せにはなれない。どうして間違いに気付かないの?」

「そもそもの間違いは人間側の認識さ。なんだよ、人身御供って」


 暗い怒りに燃える銀の目と、嘲るような声。


「自分達が勝手に神に望んだんだろう? 摂理を曲げてまでも自分達を助けてくれと」


 ジンが人間の事を口にする時、決まって暗い炎が瞳に宿る。


「命の代償が必要なのは承知の上で、自分達が望み続けた。なのに今さら突然被害者か?」


 理解不能だ。まったく信じられない。ジンはそう何度も繰り返す。


「人間が、連綿と続いてきたこの世界のバランスを崩壊させたんだ」


 人間は神に代償を差し出し、摂理から身を守り自然の恩恵を受ける。

 神は人間に慈悲を下し、自然の摂理に最低限干渉する。

 精霊は神に従い、人間に必要なだけの恩恵を与える。


 このバランスで成り立ってきたんだ。

 なのに突然人間が欲を出した。

 代償は一切払いたくない。でも恩恵だけはたっぷり欲しい。

 そんな言い分が通用するか?

 このまま、このバランスのままで過ごしていけば問題は起きなかった。

 全ては人間の過分な我欲が生んだ悲劇なんだ。


「それは、我欲と呼べるものじゃないわ」

 あたしは震える声で反論した。


 大切な人を人身御供に差し出すのは本当に辛いよ? 

 そんな事、誰もしたくてしているわけじゃないよ。

 その犠牲による苦しみが永遠に続くのよ? そんなの嫌だ、もう御免だって思って当然でしょ?


「犠牲を払わずに済むなら、そうしたいって思うことがダメなの?」

「ああ。ダメな事なんだよ」

「どうしてそう言い切れるの!?」

「理由は簡単だ。その犠牲は絶対に必要だからだ」

「どうしてよ!? なにか別の方法が、解決策があるかもしれないでしょ!?」


 その方法をみんなで話し合って探そうとは思わないの!?

 みんなが幸せになる、どの種族も犠牲にならない、救われる道を探そうって!

 そう願う事がどうしてダメなの!?


「無いんだよ。お前や人間達が望むような、そんな道は存在しない」

ジンは淡々と話し続ける。


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