(6)
本作をいつもお読み下さっている皆様、いつもありがとうございます。
そろそろこの辺から怒涛のシリアス展開の始まりです。
主人公の雫にとって辛い事、苦しい事、認めたくない事の連続です。
読者様方もご心配なさるかもしれませんが・・・
キーワードの『でもきっと日は昇る』を信じて、頑張る雫を見守ってくださると嬉しいです。
岩長はハッピーエンド推奨。
それを信じて最後までお付き合い下されば幸いです!
「事実? 真実?」
「あなた達にとっての事実が、人間側にとっての真実ではないの!」
「おいどうしたんだよ雫、しっかりしろ」
「だから、人間には人間のやむを得ない事情があったんだってば! それを理解して欲しいの! ううん、理解しなきゃならないのよ!」
「雫、目を開いて良く見ろ」
ジンはそう言ってモネグロスの肩を抱く。
蒼白な顔で生気も抜け落ち、希望すら無く涙を流し続けるだけの哀れなモネグロスを。
「愛するものを奪われ、仲間を失い、住む場所も崩壊し、自分の存在すら危うい神の姿だ」
「…………」
「事情があれば何をしたって許されるのか? すでに消滅させられてしまった神や眷属達にも言えるか? これには『事情』があるんだから、お前達も殺された事を納得しろと」
「…………」
「それほどまでに優先されるべき物なのか? その『人間のやむを得ない事情』ってのは」
あたしはなにも言い返せず、唇を噛み締める。
そう。これが神や精霊側の事情だ。
事実は事実として、人間達はそれを認めて受け入れなくてはならない。
「ヴァニスも言っていたわ。弁解はしないって」
「当然だな。弁解できる範疇をすでに超越してる。この残虐行為は」
「でもそれはヴァニスが残虐な人間だからやった事じゃないのよ!」
「いい加減にしろ雫。なぜ狂王や人間達の肩をもつんだよ」
「肩をもってるわけじゃない!」
あたしはだんだんイラついてきた。
肩をもつとかもたないとか。
どっちの側だとかこっちの側だとか。
あぁもうみんな口を開けばそんな事ばかり! だから、そういう考えが一番邪魔なんだってば!
事態の解決の前に立ちはだかる唯一の壁なの!
なんでそんな簡単な事が見えないかな!? みんな揃いも揃って!
「事態は一刻の猶予も無いのよ!?」
「分かってるさ。だから神殿に戻るんだよ」
「だから戻っちゃダメなんだってば!」
「戻らずにどうしろって言うんだよ!」
「人間と話し合って誤解を解いて、理解し合って協力しろって言ってるの!」
「はあぁ!!?」
ジンは見た事も無いような表情で絶句した。
そのいかにも受け入れなさそうな態度に、あたしのイラつきはますます大きくなる。
「雫、気は確かか?」
「あたしはこれまでの人生最大に正気で本気で真剣よ!」
プロポーズ受けた時とはもう、比較にならないぐらい真剣だわ!
ヴァニスには理解してもらえなかったけれど、ジン、あなたには分かってもらえるわよね!? あたしの気持ちを!
だってあたし達の心は通じ合っているんだもの!
「お願い分かって!」
「……分かった」
「ほんと!?」
「あぁ、お前は操られているんだ」
あたしは愕然とした。
「言いくるめられて利用されているんだよ」
「そ、んな……」
「許さん狂王め! よくも雫にこんな真似を! やはり人間はやる事が悪辣だ!」
「そうじゃない! そうじゃないのよぉ!」
あたしは頭を抱えて地面を強く踏みつける。
堪らなくもどかしい!
伝わらない心が、どうしようもなくもどかしくて今にも爆発しそうだ!
ねぇジン! あたし達、通じ合ってるんじゃなかったの!?
「雫、やはりここはお前にとって良くない場所だ。すぐに出よう」
「放して!」
あたしの腕を掴んだジンの手を強く振り払う。そして感情に任せて叫んだ。
「なんで分かんないのよ! こんな簡単なことが!」
大事なのは垣根を越える事なのに!
自分達の狭い了見に、まるで世界のたったひとつの真実のようにしがみ付いてる事に気付いてよ!
その了見を捨てさえすれば解決するのに! 大きな物が手に入るのに!
「なのにどうしてなの!?」
「お前の言ってる事は不可能なんだよ」
「ほらみんな同じ事ばかり言ってる!」
不可能なんじゃないわ! 誰ひとりとしてやろうとしないだけの話でしょ!?
不可能って楽な言葉に責任を押し付けてるだけよ!
「全部相手が悪いんだ、自分はちっとも悪くないって被害者ヅラしてる方が楽なだけよ!」
「事実オレ達は被害を受けているだろ!?」
「そこが間違っているって言ってるのよ!」
「間違っていない!」
「間違ってる! なによ! 人身御供でずっと人間の命を奪い続けてきたくせに!」
「!!」
今度はジンが呆然と絶句する番だった。
あたしはその表情を見て、逆に気分が高揚する。
どう!? 少しは話を聞く気になった!?
「精霊達だって、災害を起こして人間の命や生活基盤を破壊し続けてきたんでしょう!? だから人間は仕方なく行動を起こしたのよ!」
自分達を守るためにはそれしかなかったんだもの。
そう、これできっとジン達にも分かってもらえるわ。
人間側だけが加害者なわけじゃない。
だからこそ話し合う余地がある。みんなが話し合わなきゃならないんだって。
「災害って、何だよそれは」
ジンの表情は強張っていた。
「自然には自然の摂理がある。人間はそれを、オレ達を『害』と断じるんだな」
「ち、違う!」
「オレ達はできる限り人間達に譲歩してきたんだぞ。それが神達の望みだったから」
「だから、それにも原因があって……」
「自然に生きるオレ達が、自然の摂理を曲げて、無事だったと思うか?」
「……え?」
「起こって当然の事象を無理矢理捻じ曲げるんだぞ? こっちだってどれほど被害を被ると思っているんだよ? それでもずっと文句も言わずに耐え続けてきたんだ。それを『害』か」
ジンは吐き捨てる。
「世界に生きる者がその世界の摂理を『害』呼ばわりし、全て自分の利益になるように動かそうとする」
仕方なかった。
こっちには事情がある。
だから理解しろ。
「たいしたもんだよ人間様は」