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 目が覚めたかのようにあたしの全身に力と気力が甦る。

 しっかりしなさいあたし! いいようにされてちゃだめよ!

 このまま最後まで行っちゃったら、あたしもう二度とジンの顔が見れないわ!

 そんなのは嫌よ!


 ヴァニスの体の下で必死にジタバタと蠢いた。

 いきなり暴れだしたあたしの動きを、軽く押さえつけながらヴァニスがなだめる。

「落ち着け雫。余に全てまかせろ。初めてでも怖がる事はないのだ」


 初めてじゃないわよ!

 それが理由で抵抗してるんでもないし!

 勘違いと思い込みのまま事既成事実が成立しちゃうのは御免だわ!


 懸命に動いて抜け出そうとしても、敵もさるもの。

 あたしの抵抗を難なくかわし、それどころかこっちの動きを利用してますます寝間着を脱がせてくる。

 夜目にも慣れた月明かりの中、ついに無防備な胸が完全にヴァニスの下に晒されてしまった。


「あぁ、雫……」


 切なそうな声で名を囁くヴァニス。

 彼の大きな手があたしの生身の胸を覆うように包み込む。

 夢中で首を横に振るあたしに、ヴァニスが被さるように荒い息でキスをした。


 とろりと生暖かい舌が入り込んできて、愛しそうにあたしのそれに絡めてくる。

 かと思えば不意に耳朶を甘噛みし、首筋を這う。

 そのたびにあたしは思わず声を漏らし、びくんと震えた。

 するとますますヴァニスの唇と舌があたしを甘く責めたてる。

 だめ! だめ!


 その間も胸を包むヴァニスの無骨な指先は、休み無く意外なほど繊細に動き続ける。

 優しく、時に強く、包み込み刺激して、あたしの体が痺れる。

 甘い。切ない。心臓が破裂しそう。

 体の奥の熱さが息となって吐き出され、ヴァニスの唇に吸い取られる。

 だめ……だめ……。

 唇、だめ。指、だめ。

 ヴァニス、だめ、だめ、だめ、よ……。


 翻弄され、救いを求めるように無意識に手を動かした。

 ふと指先に何かが触れた感じがした。

 とにかく夢中で、あたしはそれを自分の方に力一杯手繰り寄せる。

 そしてヴァニスのキスと指の刺激にひたすら耐え続けた。


 ……

 ……バタ

 ……バタバタ


 ……ドタバタバタ!


 ―― バターーーンッ!!


「どうかなさいましたかっ!? 雫様!?」


 扉を蹴破らんばかりの勢いで、数名の侍女達が部屋の中に飛び込んできた。


 ―― シ――――ン


 次の瞬間、室内は沈黙に包まれる。

 廊下の明かりのおかげで光度が増した中、あたしとヴァニス、そして侍女達全員の視線がバッチリ絡み合った。

 硬直したあたしは手に掴んでいる物の正体を確認する。


 あ、これって、呼び鈴のヒモ。


 そうか。これを引っ張ったから侍女達が駆けつけて来たんだ。

 あたしの容態に変化が起きたと思って、すわ一大事とばかりに大挙して押し寄せてきてくれたのね。


 その侍女達は目を丸くして固まってしまっている。

 目の前の状況を把握しきれてないんだろう。

 執務中のはずの国王陛下がベッドの上で、肌もあらわな女性の胸を鷲掴みの真っ最中。

 しかもエプロン着用ってとこが、わけのわからない意外性満載。

 これは、かなり、かなり、微妙な状況だ。


 客人が一大事になると思って駆けつけてきたら、自分達が一大事になってしまった。

 そんな表情をありありと見せながら、侍女達は石像のように立ち尽くしている。

 いっそこのままほんとに石になってしまいたい心境だろう。

 微妙な沈黙を一番最初に破ったのはヴァニスだった。


「お前達、いったいどうしたのだ?」


 いや! それはこっちのセリフだろう!?

 と、よほど突っ込みたいところだろうが、さすが王室仕えの侍女達は畏まって返答する。


「呼び鈴が鳴らされましたので」

「あぁ、ふむ。雫の身を案じて駆けつけたか。それは良い心がけだ」

「お褒めに預かり光栄でございます」

「これからも雫の世話をくれぐれも頼むぞ」

「粉骨砕身、努めます」


 どこかこの場にそぐわない主従の会話がのんびり進んでいく。

 あのぉ~。ところでちょっといいですか?


「ヴァニス」

「なんだ?」

「手」

「手?」

「だから、この手!」


 この、胸鷲掴み状態を何とかして欲しいんだけど!

 明るい室内でギャラリーが一杯な中、この状況は恥ずかしすぎる!


「あぁ、うむ」

 ヴァニスは頷き、あたしの寝間着をきちんと整え、ゆっくりとベッドから降りた。

 あたしはホッと安心する。

 良かった。内心まだ不安だったのよ。

 侍女達を追い返した後で第二ラウンド突入って事になったら、どーしようと思った。


「羞恥のあまり、思わず呼び鈴を鳴らしてしまったか。なんと初々しい反応だ」

「え゛?」

「余も乙女に対して性急過ぎた。許せ」


 勘違いと思い込みとすれ違いの状況は、いまだ継続中……。


「次回はしっかりと相応の手順を踏もう」


 次回があるのっ!? しかも、相応の手順ってなに!?


「余は執務に戻らねばならぬ。皆、雫を頼むぞ」

「承知いたしました」

「雫、今宵は非常に有意義な時間を共に過ごせた事を嬉しく思う」

「は、はぁ」

「また明日会おう。時間を作る」


 そう言ってヴァニスは身を翻し、相変わらずの堂々とした風格を漂わせながら去っていった。

 あ、でもエプロン付けたままだわ。いいのかしらあれ。


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