第9話・つまり育成ってのは難しいわけだ
半分説明の回です
主人公が少しづつチート化していきます
「というわけでやってまいりましたロックタートル!」
ビシィっと決めポーズをしてロックタートルを指差すトライ。
アホである、今更だが彼はアホである。
そんなトライの行動は華麗にスルーされ、トライ自身も何事も無かったかのように自然に行動を再開する。
まずは狩りの対象であるロックタートルを観察してみる。
一見するとただの岩のような物体がゴロゴロ転がっているのだが、よく見ると四肢と頭らしき部分のつなぎ目が亀裂のように割れている岩がいくつかある。
見た目まんま岩なうえに動こうという気配がまるで感じられない。
「ノンアクティブタイプって言って、こっちから手を出さない限り攻撃してこないタイプなんだ。
ついでに言えば最初に攻撃したヤツに一番注意を向けてくる。
その後は大ダメージを与えたりしない限りはずっと最初のヤツを狙い続ける」
「つまりトライの出番ね」
「俺か!?
いやそうだろうとは思ってたけどよ」
「そうしよう、熟練度あげのためにトライは普通に戦っててくれ。
俺とトロンは後ろからひたすら魔法を使う、MPが切れたら座れば回復が早くなるから座って回復」
「味方に当たったりしないの?」
「おう、そりゃ大事だぜ!
巻き込まれたらたまったもんじゃねぇぞ」
「まぁ微効果装備じゃ当たっても死にはしないよ。
ちなみに回答としては当たります、がっつり当たります、でも無効になる。
当たっても痛くないしダメージも無い、熟練度があがるかどうかは正直わかんないけど」
ちなみに味方に当てても熟練度はきっちりと「上がる」
熟練度のみを目的とするならば、プレイヤー同士で組手のようなものをするのが一番効率がよかったりする。
レベルと違って倒さなくても熟練度は上昇するということもあるが、そこまで知られてはいない。
「ちなみにパーティーを組んでなくてもダメージにはならないけど。
PVP指定されてるマップだとダメージも出るようになるから気をつけて」
プレイヤーVSプレイヤーのことをPVPというが、このゲームでは基本的に存在しない。
専用フィールドにてお互いに許可を出したうえでやっと可能になる……ようは決闘のようなものしか無い。
将来的にはギルドと呼ばれるプレイヤー同士の集まり用の大決戦フィールドが用意されるのではとの噂もあるが、公式では名言されていない。
「しかしよ、そのやり方だとお前らINTしかあがんねぇことになるよな?」
「あぁ、それは多分そうだろうな。
まぁ多分問題ない……と思ってる」
「どういうこっちゃ?」
「それは……おいでなすったみたいだ」
シャーという威嚇音が聞こえてくる。
音の発生源を見てみれば、蛇のようなモンスター……というか蛇がいた。
まんま蛇である、何の変哲もないただの蛇。
「名前はまんまスネークっていうモンスターさ。
強さは最低、動き回るだけでスライムと強さは変わんない。
ただし自分から攻撃してくるうえに、狙いをひょいひょい変える特徴がある」
「なるほど、こいつを利用するわけか」
「そゆこと、まぁ若干めんどうだけどね」
「どういうこと?」
「つまりわざと攻撃をくらい続けるんだろ?
んでHPがギリギリになったら回復、してずっと放置」
「うん、まぁ抵抗あると思うけども、意外と痛くないから大丈夫。
それほど衝撃があるわけでもないし」
「う~ん、まぁシャインがそう言うなら……」
「まぁこんなやり方すんのも序盤だけだろ、中盤以降になりゃやり方次第でいくらでもあげられそうだしよ」
「ま、その通りだな。
熟練度に気づいてみれば俺が知ってるだけでも有効なマップが山ほどあるぞ」
「よーし、じゃあさっさとレベル上げるわよー!」
「あいよっと!」
――――――――――
「はえぇ! はえぇよ!!!」
ロックタートルの首が一瞬にして1メートル近く伸び、トライのすぐ脇を通り抜けて地面に突き刺さった。
地面はロックタートルの顔の形に陥没している。
「見た目より全然はえぇうえに全く防御しねぇぞこいつ!?」
三人が勇んでロックタートルに挑み、トライが初手を加えた瞬間ロックタートルは猛烈な勢いで攻撃を開始してきた。
足が遅い=動きが遅いという公式を完全に無視した速度である。
「このっ!」
ガッギィーン!
もはや聞きなれた装甲値の差による効果音。
これは倒すのに骨が折れそうだと、トライには経験から悟った。
「『ブラスト!』」
ボッという音とともに、空気の塊のようなものがロックタートルに当たる。
ロックタートルは全く動じていないどころか気づいていないようであるが。
「そうそう、それが音声コマンド。
使うことを意識しながら言わないと発動しないから気をつけてね。
逆に使わないぞって意識してれば絶対発動しないから」
「わかったわ! 『ブラストー!』」
きちんと説明をしながらも、何故か咬みつきはしてこない蛇の体当たりをちょいちょい食らって減っているトロンのHPを回復させるシャイン。
ちなみにトロンは3回に1回くらいの頻度で攻撃を避けていたりする。
いつの間にか寄ってきたもう一匹の蛇によってシャインも攻撃を食らっていたりするが、こちらは余裕を持って対応できているようだった。
「ぬふおぉーーー!?」
トライと違って。
トライはかなり必死である、超必死。
一瞬で伸びてくる頭突きは、やはり一瞬で元の位置に戻っていく。
顔をちぢ込めたかと思った次の瞬間には再び高速頭突きが飛んでくる。
正面にいるから駄目なんだ!と思って回り込めば、今度は腕が、足が、尻尾が同じことをしてくる。
死角なしである。
「げふぁっ!」
まともに一発もらってしまい、トライのHPが大きく減る。
ちなみにこのゲームではパーティーを組むと味方のHPが割合でわかるようになる。
視界の端っこに固定された他人からは見えないウィンドウが出現し、味方全員の名前とライフバーが表示される、ちなみにこれは設定で消すことも可能だ。
今の一撃でトライのHPは3割ほど減った。
MAX4000中盤くらいだったはずなので、最低でも1000以上のダメージを追ったことになる。
「あー、ヒール(微)だと回復させるのに時間かか……る……から」
なんとか食らわないようにして、と言いかけてシャインは驚愕した。
わずかずつではあるものの、トライのHPが目に見えて回復していっているのだ。
本当にわずかずつ、気づかなければ気づかないほどほんの少しではあるが、確実に回復を始めていた。
「わかってるわ! あんなもん何回もくらってられっくうぉああああ!?」
話してる瞬間にトライの顔めがけて高速頭突きが飛んでくる。
すんでのところで避けたようだが、肩に若干当たったようで再びHPが少し減少する。
だがその減少した分は、今しがた回復していた分と同程度ほど。
これならまともに食らわない限りトライが死ぬことはなさそうだった。
「シャインー! 回復回復!」
「……おっとゴメン! 『ヒール!』」
(HP回復速度上昇の効果か? 今まであんまり役にたつと思ってなかったけど、中々いい効果かもしれないなぁ)
冷静に分析しながら、これならとりあえず大丈夫そうだと判断して三人はひたすら戦い続けた。
――――――――――
戦い続けること2時間ほど。
「そろそろ十分だ、トライとどめ!」
「おっしゃまかせろや!」
トライは剣を突き刺すように構え、脇の下に固定する。
動きを止めたのを見逃さず、ロックタートルは高速頭突きを迷わず繰り出してきた、それが罠だと考えもせずに。
「ぬぅらしゃーーんならーーー!」
叫び声が妙に細かいのは気にしてはいけない。
高速頭突きを潜るようにして避けたトライは、そのままの勢いで伸びきった首の肉、岩の皮膚と皮膚の間を狙って体の中心に向かって突きを放つ。
グロ音が響き(ちなみにトロンは効果音を消した)、剣が深々と突き刺さった瞬間、不自然にロックタートルが停止する。
やがて三角形の集合体となったロックタートルが消えていき、聞きなれた電子音が耳に響いてきた。
ピロリン♪
レベルアップ!
ステータスポイントを入手しました
スキルポイントを入手しました
「おぉ、俺もレベルあがっちまったい」
「レベル20おめ、俺も10になったな。
トロンもなってると思うけどどうだい?」
「うん、なってるよ」
「よし、じゃあ転職だな。
町に戻ろう」
そういってこれまたチュートリアルでもらえるらしい帰還アイテムを使うシャイン。
三人の周囲が闇につつまれ、意識が一瞬だけ飛びそうになる瞬間。
ピロリン♪
「ソードマン・ベネフィット」が選択可能になりました。
転職条件
ヴァナルガンドの加護Lv10
転職時のレベルが20
適正装備が「片手剣」「両手剣」のいずれかを所持している。
すぐに意識が消えたため、トライはそれを覚えていることは無かった。
――――――――――
「じゃあまずトライから行こうか」
「ん? 全員バラバラに行くんじゃねぇのか?」
「ちょっとした試験がある場合が多いから、協力できるものなら協力してやっちゃおうと思ってね。
内容がかぶってる場合もあるから、とりあえず一緒がいいかなと」
「やっと転職だ~、もうロックタートル飽きた~」
確かにと呟くシャインだが、有効な手段であることは確認できたので今後も活用しようと考えている。
「まず説明だな。
前衛が転職できるのは主にソードマン・ウォリアー・ファイター・シーフ・マーチャントの5種類。
内容は簡単に言えば剣・何でも・拳・短剣・何でもただし戦闘は強くない、って感じかな」
「ソードマン一択じゃね?」
「いやステータスも若干違うんだよ。
順番にバランス・攻撃重視・スピード寄りのバランス・スピード重視・戦闘以外重視、って感じ」
「まぁソードマンだな」
「聞いたうえでそう答えているならそれでいいと思うぞ」
聞いてないと思うがもう何を言っても無駄だと確信したシャイン、人生あきらめが大事だと悟っているのかもしれない、トライ限定で。
「というわけで行って来い」
「行ってらっしゃ~い」
「う~い」
今更だが三人は歩きながら話していた。
それで今まさに前衛用の転職クエストができる場所についたのだ。
中はなんていうか、すごくモン○ンでした。
三人で中に入ってみたものの、プレイヤーらしき人物は誰もいない。
受付カウンターにいるのもむさ苦しいおっさんだけだった。
例によって話を進めるためのウィンドウが出現しているが、トライはそれをガン無視して話し始める。
「よぉ、転職してぇんだが」
「あぁ? てめぇみてぇなヒョロいのが何に転職できると思ってんだ、帰りな!」
「んだとコラ、だったらてめぇはオーガをぶっ殺せんのかよ!?」
「あぁ!? オーガ程度でいきがってんじゃねぇよガキが!
だがまぁオーガを倒せんなら最低限はあるんだろうな! ステータス見せてみろクソガキ!」
「上等だ! 見て腰抜かすんじゃねぇぞこのクソ親父が!」
なぜかケンカっぽくなってしまった二人。
ウィンドウを表示して回すように念じながら端っこを持って動かしたら、ほんとにできてしまった。
「おら! これでどうだ!」
「んな!? レベル20で加護持ち!?
マジかよ! なんでてめぇみてぇなクソガキに! くっそぅ! 不公平だ!」
急にふせてカウンターをダンダンと殴り始めるおっさん。
おっさんの人生に一体何があったのか聞きたくなる行動だ。
「あー……えっとなんかすまん?」
「いや……いいんだ、すまなかったな。
ちょっと精神的に色々ときていたんだ、思わず八つ当たりしちまった」
「いや、おっさんも色々あんだろ。
こっちこそ失礼な態度だったしよ、すまん」
なぜか急に収まった。
周囲のNPCが何事もなかったかのように微動だにしていない光景は若干怖いものがあるが。
「で、転職だろ?
今のお前だったらソードマン・ベネフィットになれるぞ」
「べね……なに?」
「ベネフィットな、ちょっと強いソードマンってことだ」
「あぁ、ソードマンならそれで頼む。
なんせ剣しか使えねぇからよぉ!」
「だっはっは! いやいや男ならやっぱり剣だろう!」
「だよな! おっさん話がわかるじゃねーか!
やっぱ剣がかっこいいんだよな!」
「その通りだ! そして両手剣! これがまたいいんだ!」
今度は急に仲良くなった。
それを見守る二人が「うわぁ、通常会話で話進めるのめんどくさそう」と思ったのは秘密。
ちなみにこのゲーム、プレイヤー側での内容把握率は30%くらいです
※2012/8/27
メタ発言を修正
序盤の読者に対する発言を削除
その他細かい部分を若干修正
※2012/9/4
文章を全体的に修正、内容には変化なし