第7話・つまり俺はやりすぎていたわけだ
主人公のおかげでゲームの秘密が一つ明かされます
「……なによ?」
睨み付けるようにして絶世でプロポーションがバッチリでボンキュッボンなおいこら制作側どんだけ補正がんばったんだと言いたくなる美女がそう言ってくる。
「いや……綾華だよ……な?」
「リアルの名前を呼ぶのはノーマナーだが合ってるよ、ちなみに俺は……」
「お前はテルだ、間違いない」
「リアルネームを出すな、こっちじゃシャインと名乗ってる」
「社員ね、了解」
「なんか失礼なこと言われた気がする」
「気のせいだ。
それよりアヤ……いやお前は?」
「デ○トロイガン○ム」
「マジか>(゜ロ゜;」
「もちろん嘘だけど。
本当はトロンよ、天使メタトロンのトロン」
「なぜに天使から、しかも微妙なヤツ」
「なんとなく?
名前を決めるときにたまたま視界に入ったからかな」
「マジか>(゜ロ゜;」
綾華、いやトロンの思考がいまだによく理解できないトライであった。
女性の心というのはいつの時代もミステリーである。
「まあいいか。
それよか早くねぇか?まだ9時くれーだろ?」
「正確には8時47分だな」
ちなみにステータス画面に詳細なリアル時間が表示されているので、テルはそれを確認しただけである。
トライはステータス画面の開き方を(略)
むしろ感覚だけでかなり近い時間を言い当てたあたり大したものである。
「大分早いな、俺んとき送信だけで3時間もかかったじゃねぇか。
10時くれーだと思ってたぞ」
「あ〜、それな。
なんというか、ヒロイン補正?」
「なんじゃそりゃ」
「念じたのよ。
そしたらブーンってなってニュイーンな感じでスルスル〜って、そんでピローンってなって終わってたの」
「すまん、9割わかんねぇ。
テル通訳」
「あまりに送信が遅いので早くしろと念じたら、パソコンがファンを全力運転させるほど限界まで処理能力を酷使した結果、目に見えて送信速度が増加してあっというまに送信完了したのでゲーム可能になるまで早くなった」
「よし、結局わかんねぇ」
「つまりパソコンがんばった」
「最初からそう言え」
理不尽な理由だが、トロンだから仕方ないと深く追求したりしない。
本人が一番よくわかっていないのだから追求のしようがない。
「んじゃ二人ともチュートリアルはやってるだろうから、軽く説明したらさっそくどこか行ってみようか」
「うん」
「え?」
「「え?」」
微妙な空気が流れる。
何疑問系で答えちゃってんのお前的な白けた空気が……
「受けた……よな?チュートリアル」
「……」
「……最初に受けますかって聞かれたわよね?」
「……いや……?」
実は最初にログインした時に表示されていた神父の言葉、それを進めていくとチュートリアルに突入するのだが、トライはそんなことよりも大事な漢の勝負に賭けたため、そのウィンドウは脇にどけたまま記憶のブラックホールにホールインワンしていた。
「……そんなの無かった……よな?」
「「あったわ!」」
二人のツッコミは綺麗に重なっていた、
――――――――――
場所は若干変わり、教会の近くにある公園のような場所。
「えー、チュートリアルを飛ばしちゃったトライのために簡単に説明します」
「はい先生!」
「はいそこ! トライ君どうしましたか!」
「はい! 自分オンラインどころかゲームほとんどやったことありません!」
「はい! 私もです!
実はチュートリアルも半分くらいしかわかりませんでした!」
「よろしい!
ではわかりやすくざっくりと説明していこう!」
クイッとかけてもいない眼鏡を持ち上げるフリをするシャイン。
メインキャラなら見た目装備も大量にあるらしいが、トライ達に合わせて0からスタートすることにしたため今は二人と同じ、布の服しか着ていない。
「まず! このゲームの目的です!
FGは文字通り! ファンタジーな世界への門です! 人間はもちろん亜人がいます! エルフにドワーフ、ウェアウルフ! モンスターもいます! ゴブリン・デーモン・ドラゴンも!
当然魔王なんていう悪の親玉的なヤツもいます!
しかし! ファンタジーの世界ではみんながみんな魔王を倒そうとしますか? 中には自分が生きるためだけに戦う人! アイテムをひたすら作り続ける人! なんの目的も無い人!
ファンタジーの世界で生きる! それがプレイヤーの目的であり、理由です!
ぶっちゃけよう、好きにすればいい!」
ちなみに現在確認されているイベントで、魔王を倒すようなものは存在していない。
NPCとの会話で存在が確認されているだけというのが現状だった。
「次! このゲームはVRです! 普通のゲームはボタン一つで勝手に行動してくれますが、FGではそうはいきません!
自分で動いて自分で攻撃して自分で避ける必要があります! 二人ならその辺は心配してないけどね!
一応システムアシストってのがあって、ステータスをあげればある程度勝手に体が動いたり、こうすればいいかな?的なのがわかるようになってます」
「はい先生!」
「はいトライ君!」
「ステータスはどうやってあげるんですか!」
「いい質問だ!
ステータスは基本レベルがあがった時に上昇します!」
「はい先生!」
「はいトロン君!」
「レベルはどうやってあげるんですか!」
「それもいい質問だ!
レベルの上げ方は4つ!
戦闘・生産・イベント・アイテムだ!
戦闘は主にモンスターを倒すこと! 倒さないとレベルはあがらないので注意が必要だ!
生産はアイテムを作ることだ! 戦闘と違い安全にレベルはあがるが、戦闘より時間がかかる!
イベントはNPCからの依頼などをこなしたとき、報酬代わりにあがったりする!
最後はアイテム!
専用アイテムがある! 差はあるが使えばレベルがあがったりする!
何か質問は!?」
「はい先生!」
「トライ君!!!」
「この無駄に高いテンションはなんなんだ?」
「急に冷静になるんじゃない」
小休止
「続きだな。
レベルがあがると基本的にHPは100、他の全ステータスが10Pあがる。
初期値はHPが100で、他が10。
んで重要なのが、レベル上がった時にステータスPっていうのを入手できるんだけど、これが10もらえる。
この10Pは自分の好きなステータスに割り振れるから、自分のなりたい将来に合わせて割り振りするといい。
もちろん貯めといて後で割り振りしても大丈夫だけど、序盤は振ったか振ってないかで全然違うから振り分けとくのがお薦め」
「なぁ、基本的にっつーけど基本じゃないのもあんのか?」
「ああ、当然ある。
というか多分10しかあがんないってことは無いと思うよ。
職業補正か何かはよくわかってないんだけど、自分の戦闘スタイルに合うステータスだけ10+3〜4くらい加算されるのが普通だね。
人によって数字も上がるステータスも違うからランダムじゃないかと言われてるけど、とにかく若干加算されるのが普通だね」
ちなみにこれ、実は熟練度によるボーナスなのだが、熟練度は隠しステータスなので表示されていない。
普通は3〜4くらいのところでレベルが上がるので詳しく知られていないが、熟練度による加算は最大10である。
「職業補正ってことは、ちゃんとした職業があるのね?」
「ああ、最初に適正を選んだだろ?
前衛・後衛・魔法の3つから一つ。
例外はあるけど、それぞれに何種類か職業が用意されているんだ。
レベルが10になったら転職できるから、そこまでいったら今日は終わろう」
「ちなみによ、俺は先に始めてっからいくつかレベルあがってんだがよ。
ステータスの割り振りってどうやんだ?」
「あぁ、そっからか。
えっとステータスって考えながら右手を上から下に、ロープを軽く引っ張るような感じでやってみて」
「こうか?」
シャーというカーテンを引いたような音と共に、半透明の青いウィンドウが何もない空間に出現した。
「おぉ、出た出た」
「右上に閲覧許可ってあるだろ、そのチェック入れてくれれば俺達にも見れるようになるよ。
試しにいれてみて」
「ほいほいっと、触りゃいんだな?
ポチッと」
トライには何の変わりも無いように見えるが、二人には突然ウィンドウが出現したように見えた。
それを確認してテルがトライのステータスを覗きこむ。
名前:トライ
職業:前衛見習い
LV:19
特殊能力:ヴァナルガンドの加護LV1(HP上限、HP自然回復速度、攻撃力10%上昇、敵装甲値10%無視)
所持スキル:無し
武器適正:両手剣
ステータス
HP:3700+370
MP:200
STR:370+37
VIT:370
AGI:370
DEX:370
INT:200
LUK:370
残りステータスポイント:180
残りスキルポイント:18
「……はい?」
「ん?」
「え?」
そして硬直した。
「……ちょっと待て、ツッコミどころが多すぎる。
何からツッコめばいいのかわからん」
さらに額に手をあて、悩みだした。
昨日始めた初心者が1日で見習い時代の最大レベルに近い(未転職状態はレベル20が最大)ことからツッコむべきか、レベル19のくせにすでにレベル30台中盤に近いステータスをツッコむべきか、はたまたここまで一切ポイントを振らずに成長したことからか。
とにかくツッコみどころが多すぎた。
めんどくさくなったので一言で済ませようと決める。
「一体何をした」
「何をしたって、ゴブリン倒しただけだぞ?」
「……アイテム欄を開いてみてくれるか?」
嫌な予感を覚えつつも、聞かずにはいられない。
シャインは自分の過去を思い出し、ありえるかもしれない事態を予想してしまっていた。
普通は初心者には南へ迎えと、チュートリアルでも教わる。
実際南側は弱いモンスターが多いし、間違えなければ順当にレベルをあげていけるような順番でマップが配置されている。
そう、「間違えなければ」
唯一、間違いが南側にあるのだ。
通称「オーガ森」と呼ばれる、南側にあってかなりの難易度を誇るマップが。
なにも知らずに入った初心者が間違いなく死に戻りを経験する序盤の名所。
しかもオーガはゴブリンを純粋に強化したようなモンスターなので、生態系までほぼ同じなのだ。
つまりトライがゴブリンとオーガを間違えて覚えてしまい、ひたすらオーガと戦っていたのではと思い至ってしまった。
「アイテム欄ってーと、これか、ポチッとな〜。
お、アイテムなんか持ってた、えーっと赤ポーションに青ポーションに……おいシャイン、これなんに使うアイテムだ?」
聞かれてもシャインは答えなかった。
アイテム欄が開かれた瞬間に、そのアイテムに目が釘付けになってしまっていたから。
オーガの牙×27
「OTZ」
「おい、どうした」
「ちょっと、てる……じゃなかったシャイン?
どうしたのよ」
「……ガだ」
「「は?」」
「そりゃゴブリンじゃなくてオーガだあああぁぁぁ!!!」
普段は冷静で滅多に大声を出さないシャインの叫びに、とりあえずトライが何かやっちまったということだけは理解した二人だった。
「むしろなぜ倒せた!?」
「え、だってゴブリン倒せて一人前って……」
「オーガをソロで倒せたら最早中級者じゃボケぇ!
むしろ初期装備で倒すとかどこの上級者だ!
むしろどうやって倒したのか教えてくださいお願いします!」
「とりあえず落ち着け!」
その後トライの話を展開した結果、シャインは呆れ返りトロンはワクワクし、トライはシャインの的確で今更すぎる「普通」の進め方を聞いて、自分がどれだけバカだったかをやっと理解したのだった。
ちなみに綾華ことトロンの見た目に関して
キャラメイキングしてスキャンしたときに、ある程度機械的な補正が入るようになってます
普通の人もそれなりに、美人美形はより美人美形に、当然ボンキュッボンはよりボンキュッボンに!(ただし本人により変更可能)
※2012/9/4
文章を全体的に修正、内容には変化なし