第6話・つまり無知は罪だったというわけだ
やっと三人揃います
「知らないてんじょ……いや見慣れてんな」
目を覚ましたトライこと三神は、自室のベッドの上にいた。
枕元には、FGをプレイするために装着していたヘッドセットが無造作に置いてある。
昨晩、結局連戦に次ぐ連戦となり、最終的に三度目となる背後からの筋肉弓手によるヘッドショットクリティカル即死プギャーして終了となった。
教会に死に戻りとなったが、何故か神父がおらず愚痴る相手もいなかったので、いい加減寝るかと判断してログアウトしたのである。
ちなみに方法がわからず、実際にログアウトするまでに多少時間がかかったのはご愛嬌。
ログアウトした時点で朝の4時だった。
廃人と呼ばれるプレイヤーに近い行動時間だったが、それを咎める親も今は海外でいない。
手早くシャワーを浴びて歯を磨いて就寝したわけだが、いささか寝不足感が否めない。
学校に行ったらテルに難易度が高すぎることを愚痴りつつ、綾華にはしっかりと注意したほうがいいだろうなどと考えながら登校した。
意外と三神は優等生なのでサボったりはしない、真面目に勉強してる割りに成績は普通だが。
―――――――――
「向いてねんじゃね?」
で、さっそくテルに愚痴った結果はこの一言である。
全部を全部話したわけではなく、「ゴブリン倒すのに30分かかったぞボケ、どんだけ難易度高えんだ!」という色々はしょりすぎた言葉の結果だが。
テルは「ゴブリン」だと思っているので当然の反応なのだが、実際には「オーガ」を相手していたということを知らない。
ちなみにオーガはLV1で挑むような相手では当然なく、LV10を超えることではっきりとした職業についたプレイヤーがパーティーを組んで挑むような相手である。
その割りに装甲値が高く、装甲値を超えるステータスになるころには別のマップのほうが効率がよく、ソロで戦うには弓手との連携がうっとおしいため好んで行くプレイヤーはいない、というのが一般プレイヤーの見解である。
当然テルもそう考えているし、初心者は何をするかわからないとは言えさすがにそんなマップには行かないだろうとの考えから、間違ってオーガと戦ってました☆ なんてことは考えもしない。
となると、単純にゴブリン相手に苦戦した下手くそという評価になってしまう。
「いやいや! あれ強すぎだろう!?」
「何言ってるんだ、ゴブリンなんてちょっと頑張れば初心者でも倒せるぞ?」
「確かにそうだけどよ……」
実際倒せてしまった三神としてはなんとも言えない、オーガをと付け加える必要はあるが。
「まぁ綾華を心配するのもわかるよ、死に戻りがトラウマになる人もいるらしいし」
「トラウマって、意外となんも感じねぇじゃねぇか?」
「実際の痛みじゃないよ、殺されたっていう実感がトラウマになるらしい。
ゴブリンならともかく熊とか犬みたいなヤツに頭から食われたら……どうよ?」
「あ〜、怖ぇかも」
「みんながみんな心が強いわけじゃないしね」
唐突に授業開始を知らせるチャイムが二人の会話を邪魔する。
「んじゃまあ続きは帰りにだな、今日は挑戦状来てないだろ?」
「だからなんで俺の予定をお前が把握してんだよ」
ちなみに三神に挑戦状が来る日は結構多い。
週に1〜2回ほど。
ほとんどはキラーン☆ な結末になるが。
三神としてはウザイだけなのだが、テルと綾華を二人っきりにしてあげられるので真面目に全部受けていたりする。
挑戦状の理由は半分が、いや7割が綾華絡みで2割5分がテル絡み、残りが三神自身である。
――――――――――
で、放課後。
「ちゃっちゃと帰るよ!」
綾華がノリノリだった。
何があったかは知らないが、昨日FGをプレイできなかったのがよっぽど残念だったらしい。
「落ち着けって、どうせ三人揃うまでスタートはしねぇんだろ?」
「そういえば綾華って分身の設定は終わってるの?」
「え、なにそれ」
まずはそこかららしい。
「テル、まかした。
その間ゴブリン練習しとくわ」
「了解、じゃあ綾華の家よっていくからスタートは夜かな?」
「え! そ、そうなの?(ヤバい、部屋片付けてない)」
「大丈夫だよ綾華 (にっこり)」
綾華の肩に手をポンと乗せ、聖人君子のような素晴らしい笑顔で語りかけるテル。
「ボソッ(従朗には言わないから)」
誰に見られたくないのか全く理解していない天然テルであった。
――――――――――
「おぅ、神父いたのか」
「ははは、私はいつでもここにいますよ」
「昨日いなかったじゃねーか」
「夜中のことですかな?
あの時は少し用事がありましてね、ちょっと席を外していたのですよ」
「ふ〜ん、神父も大変なんだなぁ」
「できることをできる時にやっただけですよ、たまたま昨日だっただけです」
「ま、そんなことよりよ!
昨日やっとゴブリン倒せたんだ!」
「おぉ! おめでとうございます!
これでトライ殿も立派な冒険者ですな!」
「神父だけだぜそう言ってくれんのは!」
「よければ話を聞いても?」
「あぁ〜話してぇのはやまやまなんだけどよ、仲間が今日から始めるってんだよ。
そいつのために倒し方のコツでも探っといてやろうかと思ってんだ」
「なるほど、素晴らしいことですな。
では話はまた今度といたしましょうか」
「悪ぃな。
んじゃさっそく行ってくるぜ」
「行ってらっしゃい。
あなたの無事を祈っていますよ」
「はは、祈るなら戦神にしてくれ!
加護のおかげでこうしてられるんだろうからな!」
振り向かずに片手を挙げ、声だけでトライはそう返した。
それを見届けた神父が戦神ヴァナルガンドに静かに祈りを捧げ始めたことをトライは知らない。
――――――――――
「どぅーおらしゃあああんならぁぁああ!!!」
妙に細かい叫びを上げながら、トライは再びゴブリン(実際はオーガ)と剣を交えていた。
連戦を繰り返した結果、相手の動きがある程度わかるようになってきており、一対一であればもはや負けるようなことは無くなっている。
負けないだけで無傷でというわけでは無いし、弓手の乱入があればあっさりと死んでしまうのは相変わらずだが。
さらにレベルアップの恩恵なのか、少しずつではあるが確実に身体能力が向上しており、戦闘時間も比例して短くなってきている。
と言ってもまだまだ一体あたり15分以上はかかる。
そして今戦っているゴブリン(もといオーガ)との戦闘時間も、そろそろ15分が経過しようとしている。
攻撃を当てたときの音もグロ音に変化していることから間違いない。
間違いを起こすこともなく、冷静に焦らず確実に攻撃を加えていき、ゴブリン(しつこいようだがオーガ)を今また倒した。
ピロリン♪
レベルアップ!
ステータスポイントを入手しました
スキルポイントを入手しました
「……そういやこのポイントって何に使うんだ?」
いまだにステータス画面の開き方をわかっていないトライでは、ポイントの意味も使い方も全くわかっていなかった。
ログアウトの時は音声コマンドというショートカットを使って直接行ったため、メニュー画面の存在そのものがわかっていない。
「まぁあとでテルに聞けばいいか」
わからないことはわからない! と無駄に悟りを開いたトライは、別の思考に頭を使い始める。
「戦士はもう問題なさそうだな、問題は弓のほうだ。
テルが対応できりゃいいが、そうじゃなかったら綾華が即死だろうしなぁ」
むんむん、と唸りながら頭で考えていたトライだったが、やがて1つの結論に達する。
「一回戦ってみりゃいいか!」
有限実行! とばかりに林の中へと入っていくトライであった。
――――――――――
「弱っ! 超弱っ!!!」
で、あっさり倒してしまった。
一応オーガであるので強い部類ではあるし、近距離でも初心者相手では相手にならないくらいの戦いをしてくる。
しかし戦士系と散々死闘を繰り広げてきたトライから見れば、話にならないくらいの動きしかしてこなかった。
遠距離でわざと発見されるようにして遭遇し、お互いに姿が見える状態からのスタートだったとはいえ、今のトライにとっては弓を放つ動作でさえもひどく緩慢に見えた。
「俺こんなのに殺されてたの……」
OTZのポーズをとって落ち込むトライ。
なんだかんだで今まで一度もまともに戦闘していなかったこともあり、強いと思い込んでいたせいで拍子抜けだった。
これなら先に発見できればなんとかなるかなと思っていたとき、聞きなれない電子音が耳に響いてきたのだった。
ピリリリリリ、ピリリリリリ
電話の着信音みたいだな、というのがトライの正直な感想。
電話となれば、あのネタをやるしかない。
視界の端っこに移りこんでいる邪魔くさいウィンドウを手で視界の真ん中に持ってくるような仕草をすると、思った通りに真ん中に来た。
そして表示されている「通話・拒否」という文字を見て、思わず拒否を押したくなるが我慢して通話を押す。
そして渾身の一言。
「おかけになった電話番号は現在使われておりません、ダイヤルを確認してください」
『あっれ~、間違えたかなぁ……ってゴルァ!』
「さすがだな、完璧なノリツッコミだ」
さすがはイケメンで文武両道でイケメンで空気が読めてイケメンで女性にモテモテなテル。
トライの若干古いかもしれないネタにもきちんと反応できるあたり、慣れというよりも空気を読む能力が高いのだろう。
『綾華がチュートリアルまで終わったから集合な、教会の場所わかるだろ?』
「おう、教会なら大丈夫だ。
っつかもうそんな時間かよ?」
『いやまだ9時前だ。
とりあえず早めに来いよー』
「おーう」
通話中という文字を表示していたウィンドウが、通話終了という文字を表示して数秒で消える
さて戻ろうかと思った段階でトライは衝撃の事実に気づいた
「……帰り方わかんねぇ」
今まで死に戻りのみで帰還していたうえ、オーガを探して適当にふらふらしていた結果、トライは完全に迷子になっていた。
「死に戻りすんのもなんかイヤだしな」
だがそんな心配も杞憂に終わる
ピリリリリリ、ピリリリリリ
今度は迷わず通話を押す。
「現在おかけになった電話番号は、電波が悪いか電源が入っておりません。
ピーっと言う発信音のあとに……」
『言い忘れてたんだけどな、マップにいて戻り方がわかんなかったら一回ログアウトするとセーブポイントに戻れるぞ』
「せめて最後まで言わせろよ! でも助かったから礼は言っといてやる!」
人間素直が一番である。
即効でログアウトしたトライは、再びログインして教会に出現した。
「おう神父! 男と女が一人づつ来なかったか!?」
「おぉ、トライ殿
お二人連れの方ならいらっしゃいましたよ、何やら神妙な顔をして外に……って聞いてないな」
いらっしゃ←このへんでトライは外に飛び出していった。
なぜ聞いたといいたくなるほど速攻だ。
「待たせた……な……?」
外に飛び出したトライを待ち構えていたのは、恐らくテルと綾華なのであろう二人の男女だった。
恐らくとつくのは二人の外見がリアルの二人と似ているようで似ていなかったから確信がもてなかったためである。
テルのほうはなんとなくわかる。
黒髪黒目のイケメンがそのまま金髪青眼になって髪の毛をおでこにかかる部分以外ツンツンにしているが、顔の輪郭も体系もリアルそのまんまである。
プレイ歴がそれなりにあるはずなのだが、初期装備のような見た目をしている、恐らくトライと綾華にあわせるために新キャラを作ったのだろう。
綾華のほうはまだ顔が見えないのでなんとも言えないが、透き通るような空の青さをした腰まで届く長い髪が、リアルではありえない色合いなこともあって別人に見えてしまった。
身長はリアルよりやや高めで、隣に立つテルより若干低いくらいになっている。
なにより後姿だけでもわかるスタイルのよさ、ボンキュッボンである。
夢と希望と男の願望を全て含んだ巨大な山は、後ろから見てるのにわきの下から端っこの部分が見えている、リアルでもここまではでかくない。
どんだけ盛ったんだよ! とツッコミを入れたいところだが、ツッコんだらきっと後が大変なことになるとトライは経験から理解しているのであえて言わないが。
「おーう、お帰り~」
「おっそーーーい! どこほっつき歩いてたのよ!」
大して気にした風でもないテルの声にあわせて、綾華がゆっくりとこちらを振り返る。
リアルとはまた違う、絶世の美女と言っていいだけの美女がこちらを睨むようにして見ていた。
ゲーム的な補正がかかっているにしても、やりすぎだった。
巨乳?好きですが何か?
※2012/8/27
メタ発言を修正
テルのイケメンに関する部分を少し修正
その他細かいところを若干修正
※2012/9/4
文章を全体的に修正、内容には変化なし