第45話・つまりドラゴンはかっこよくて強いわけだ
戦闘回・・・戦闘回なのかなこれ
戦闘?的な話ですがどうぞ
ドラゴン系ラスダンと呼ばれるマップ。
普通なら12人パーティーが2組以上揃わないとまともな戦闘にならないと言われる場所。
谷のようなそのマップの最奥部には、不思議な場所があった。
風溜まりと呼ばれるその場所は、風を操ると説明されるドラゴンがたくさんいる。
同様に火溜まりや水溜まりなどと呼ばれる場所も途中にあるが、それは関係無い。
風溜まりは常に暴風が吹き荒れており、ダメージにはならないがプレイヤーにとっては戦闘が非常にやりにくい。
激しすぎる暴風がプレイヤーの行動を邪魔して、時にはドラゴンの行動まで邪魔するほどの強烈な暴風が吹き荒れている。
対処法が全く存在せず、ドラゴンも邪魔されるのですぐに死んだりはしないものの、そんな状況でまともに戦うことは非常に難しい。
なぜこんな場所を作ったと言われるほど理不尽なそのマップは、このマップに来るプレイヤー達にとってはわざわざ訪れる理由が無かった。
というか道中が厳しすぎて、目指そうとしない限りここまで誰か来ることは少ない。
空中都市に行くためには、ここに行く必要がある。
「ぬほーーーっ!?」
奇声をあげて空中を縦横無尽に飛び回るのはトライだ。
空を飛ぶドラゴンに追いかけ回され、地を這うドラゴンには火のブレスで狙われ、味方には戦闘中のコールという集中力への攻撃をされている。
『しかし空中都市がボーナスステージってどういう意味だと思うトライ?』
『レアアイテムがいっぱいとかかな、トライもそう思うわよね?』
『二人ともトライさんは戦闘中ですよ、そうですよねトライさん』
「お ま え ら 。
少し黙ってろおおおわたぁっ!?」
『え、オワタ?』
「やかましい!」
集中力への攻撃が一番効いているようだ。
学生特有のどこにあるかわからないハイテンションスイッチが全員押されているようである。
とはいえそれを気にしていたらトライは一瞬で死んでしまうだろう、今の時点で軽く5体ほどに狙われているのだ。
「むっ?」
上空から迫っていた典型的な西洋竜の姿をしたドラゴン。
構えた腕の先にある爪で切り裂こうと振りかぶっていた。
普通なら離れて距離をとるようなその場面で、トライは逆にドラゴンへと向かっていった。
懐に入られる形となったドラゴンの腕はトライを追いきれずに空をきり、眼前にいるのに手を出せないという隙を生み出す。
「うるぁっ!」
体を思い切り回転させ、ズドンとドラゴンの顔に横からベルセルクブレードがぶつかる。
ゲーム内最大の攻撃力を誇る武器がモーションによる補正を受け、さすがのドラゴンでさえもふらつかせるほどの衝撃を与えたようだ。
「へっ、ざまぁああああぶねぇっ!?」
気分を良くしたトライがざまぁみろと言おうとして「調子のんな」と言わんばかりのツッコミ火球が襲いかかってきた。
トライを完全に包み込めるだけの巨大火球を同じ方向に逃げながら横方向へと力を加え反れるようにして避ける。
「うげっ、マジか」
しかしそれはまずかったと気づき、流れもしない冷や汗をかく。
高度をあげることで地上のドラゴン達から丸見えになったのと、空中のドラゴン達の直接攻撃範囲から外れてしまったようで、全てが一斉にブレス攻撃をしようとしていた。
なんなら数も7体に増えている。
「『ガードアタック』」
避けられないと判断したトライは、防御用のスキルを起動させる。
青い光に包まれたベルセルクブレードを両手で持ち、体の右側に構えてその瞬間を待つ。
一瞬の後。
1体のドラゴンから火球が放たれる。
それを機に、他のドラゴンからも次々とブレス攻撃が放たれていく。
火だけでなく、電気のようなバチバチと音を出す球や、なぜか緑色になって見えるようになっている風の塊なども混ざっている。
これがトライでなかったなら「あ、死んだ」と言ってしまいそうな状況が生み出された。
「うおらぁっ!」
火球が目前に迫った瞬間、彼がとった行動はまさにファンタジー的なありえない対応だった。
彼は火球を剣を振り上げて「攻撃」し、明後日の方向に「弾いた」のだ。
次々と飛来するドラゴンのブレス攻撃。
「だらっしゃぁっ!」
火球はやはり同様に弾き飛ばされ。
「ふんぬるぁっ!」
電撃は剣の腹を滑らせて軌道を反らされ。
「ちぃぃぃえすとぅーす!」
真正面から切られた風の塊はただの風となってトライの体を撫でるだけとなった。
「よしっ! 今のうちに逃げっ!」
不適な笑みを浮かべて(兜で見えない)、すぐに踵を返して最奥部まで飛行を再開するのだった。
スキル「ガードアタック」
「攻撃」を「攻撃」することで「防御」ができるようになるスキル。
攻撃の種類はお互いに問わず、判定さえあればどんな攻撃でも対応可能だ。
単純にぶつかり合った場合は攻撃の強かったほうが、上回った分だけ相手にダメージを与えることができる。
逆に言えば相手より弱い攻撃だとしても、単純に自分の攻撃分だけダメージを減らせるためかなり強力なスキルだ。
ただし現在装備品の効果以外で使用可能にはならず、その装備品は超がつくほどに入手率が低い。
トライが使うとやっちゃった系STRが遺憾無く発揮され、よほどではない限り攻撃を防いでしまう理不尽スキルとなるのだった。
「あーぶねぇあぶねぇ……」
しかしやはりドラゴンの攻撃は、その「よほどではない」攻撃だったようだ。
トライのHPは全体の2割ほど減少しており、感触では真正面からぶつからずに弾いて反らして受け流したからなんとか耐えきったようなものだった。
全てに真正面からぶつかっていたら、さすがにデスペナルティをもらっていたかもしれない。
「ぬぁっ、また来た!?」
逃げれば逃げた先に別のドラゴンがいるこのマップで、風溜まりまでの道程を必死に逃げ続けるトライであった。
――――――――――
「あれかっ!?」
逃げて、逃げて、逃げ続けたトライ。
とうとう風溜まりまで後少し、というところまで来ていた。
ここまで来れば一安心といったところであろう。
後方に大量のドラゴン行列ができていなかったら、と付け加える必要はあるが。
「ぬふぅんっ!」
今また1つ火球が飛来してきた、飛行したまま体を捻って切り上げるように上空へ向けて弾き、次が来るかとすぐに構え直してみるが。
「……ありゃ?」
追いかけては来るものの、火球などのブレス攻撃は飛んでこない。
「ま、いっか今のうちに……っておいおいまじかよ」
今のうちに逃げよう、そう続けようとして止めた。
ドラゴンがブレス攻撃のモーションに入ったのを確認したからだ。
それも―――
「全部かよっ!?」
―――全てのドラゴンが、一斉にだ。
トライが確認できる限り、地上空中問わず10体以上のドラゴンがいる。
しかも一斉に発射されるということは、到達するのもほぼ同時だろう。
10発以上のブレスを同時に捌くのは、どれだけ高ステータスだったとしても不可能だ。
「もうちょいっ! 間に合えっ!」
ドラゴンの口の中が赤く光る。
―――思い切って武器をしまい、移動することに集中する。
赤い光が球の形に集まっていく。
―――腕も足も真っ直ぐに伸ばし、少しでも空気の抵抗を減らそうとする。
完全に球の形になった光が突然燃え上がった。
―――あと少し、暴風によろけているドラゴンがもう見えている。
放たれた炎がいきなりトップスピードで飛び出す。
―――まだ足りない、あと少しだけ足りない、「今」ではない。
迫るのは炎だけではない。
―――まだだ。
雷が、風が、壁となってトライへ襲いかかる。
――― 一瞬。
迫るのは、抗うことの出来ない「死」
―――一瞬より短い刹那の瞬間が過ぎ、そして。
「『ブーストアクション』!!!」
トライと炎の間にあった距離は、こぶし1つ分も無かった。
1秒では長すぎるほどの、一瞬でも足りないほどの、刹那の瞬間としか言えないほどのタイミングで。
トライは、迫る死の手をすり抜けた。
まるで時間が止まったかのような感覚、周囲にあった「色」は全てグレーの濃淡のみで映し出されている。
熟練度がどれだけあがろうとも、効果時間は変わらないままたったの3秒。
しかしそのたった3秒は、トライの行動を終わらせるのに十分すぎる3秒だ。
スキル「ブーストアクション」
それを使ったプレイヤーにとっては効果時間が10秒となる。
体に重りをつけられたような感覚での10秒ではあるが、それでもその効果は高い。
そしてこの重りのような感覚は、熟練度が最大の状態でスキルレベルを上げるたびに軽減されていく。
最大レベルへと達すれば5秒の追加もされ、3秒という時間が15秒間に引き延ばされた世界で、自由に動くことができるということだ。
「このままっ!」
この場にもしプレイヤーがいたのなら、高速で飛行する赤黒い流星が見えただろう。
そしてその流星が、まるで吸い込まれるように風溜まりへと突入し、螺旋を描くようにして上空へと昇っていく光景まで見えたはずだ。
その流星が向かった先、ゲームであるが故に変わらないと思われていた空。
その空に常に浮かんでいる分厚い雲。
その雲の向こう側に、誰も知らない「空中都市」が広がっていることを、この時点ではまだ誰も知らない。
――――――――――
トライのもらったメモより抜粋。
空中都市の行き方
飛行した状態で風溜まりにブーストアクションを使って全速力でつっこめ☆
中には簡単に出入りできるようになる装置があるから仲間はそれを使って入ってね!
――――――――――
「……ぶはっ!?」
風溜まりにつっこんだトライは、目まぐるしく回転した視界と体にかかった遠心力、さらにはブーストアクションを使った反動のHP減少という原因が重なり、一時的に気絶していたようだ。
「はぁー、よかった。
なんとか着いたみてぇだな」
無事に到着したらしいと判断したトライは、座ったまま顔だけを動かして周辺を観察してみる。
「……滅んだ都市……って感じがしねぇな」
周囲は、不自然なまでに穏やかな空気に包まれていた。
建物があった形跡はある、それが一度は滅んだような形跡もある、何よりそれらの建物は全てが、何かしらの植物によって覆われている。
苔というよりも建物から草が生えているようなもの、壁という壁の全てを蔓に覆われているもの、建物そのものが木の根に包まれているようなものまである。
立体的に配置された通路と建物、あちこちにある階段は、まるでどこかの民族が住む土の家が、より人工的な石の壁になったような街並み。
2メートル近い幅の水路らしきものがあちらこちらに走っており、その全てが未だに機能を失うことなく綺麗な水を運び続けている。
空中都市、その名から連想できるような場所は、トライが今いる場所の背中側に突然現れる空から地上を覗くような光景だけだった。
「不自然な自然……ってか」
トライの言葉の意味はまさにその通りだ。
トライの周囲に広がる光景は、人のいなくなった場所に植物が入り込んだというような景色ではない。
まるでそうなる予定だったかのように、自然と人工物とが共存しているかのような錯覚さえ覚える。
「……ボーナスステージ、か」
不自然なまでの穏やかさ、しかしそれは、何も考えずに休むには最高の場所だった。
例えこのマップに何も無かったとしても、この空気に触れているだけで心が癒されていくような気がしてくる。
そのマップを独り占めしている、その事実だけでも、トライには十分なボーナスステージだと思えた。
穏やかな空気は、優しくトライを見守っていてくれた。
ひたすら逃げ続けるという戦闘でした
余談シリーズ
作中の空中都市とラピュ○は関係ありません、浮○石も出てきません
しかし作者の脳内イメージではこの文章から○ピュタしか出てきません
どういうことだ
今後ともよろしくお願いいたします
※2012/9/14
文章を全体的に修正、内容には変化なし




