第44話・つまり大人の事情ってやつなわけだ
大人には色々あるんですよ、色々と・・・
まだ学生な読者様はお気をつけください
「しかし空中マップねぇ……」
空中ゲロという地上にいるプレイヤーにとっては地獄のような状況をなんとか回避したトライ。
もちろんゲームなのでゲロまで再現されたりはしない、というかそんなゲーム誰もやりたくないだろう。
現在は地上に背中を向け、ふよふよと水に浮かぶようにして漂いながら中身の少ない頭で考え事をしているようだ。
「ラ○ュタだったら空から少女が落ちてくんだけどな」
思わず危ない発言が出てしまうのも仕方がない。
実際のところ存在がわかっているだけで、どこにあるかはヒントすらないのだからそんことを言い出すのも仕方がないだろう。
肝心の父は結局何も教えてくれなかったし、今現在のNPCに会話ができない状態ではろくに情報も集まらないだろう。
そういえばシャイン達に空中マップのことを話してなかったな、と思い出したあたりでトライの視界に影が差し込んだ。
「こんにちわ」
そこにいたのは一人の男性だった。
濃い緑に白の細いストライプが入ったダブルのスーツ、きっちりとした着こなし方はそれだけで年齢を感じさせる雰囲気を纏う。
しかし顔は意外なまでに若く、20代の後半くらいだと言われてもほとんどの人は信じるだろう。
金髪に青目とアメリカ人のモデルケースのようなその人物は、トライに優しい瞳を向けながら微笑んでいた。
「おう」
飛行装備らしきものが何も見当たらないその男性に違和感を覚え、体勢を正面から向くように動かしながら少しだけ怪しまれない程度に警戒してみるトライ。
ところがこの男性はそれに気づいたようだった。
「初めまして、君のお父様の知り合いだよ」
気づかれたことに気づいたトライは警戒を解く。
父の知り合いだったらそんな人物くらいいるかもしれない、と思えるだけの人脈が父にはある。
その9割に会ったことは無いのだが。
「……ってこたあんたがあのサプライズを手伝った人っすか」
今更だがトライは敬語が苦手なようだ。
社会人になったら苦労しそうなタイプである。
「ははは、無理に敬語を使おうとしなくてもいいよ。
実は私もあまり得意では無くてね」
「そうっすか、助かるっす」
それでも最低限のマナーとして使おうとはしてみる。
トライはバカではあるが、常識が無いわけではない。
「ふふ、そういうところは母親似かな?」
「まあ親父では無ぇっすね、親父はいいよっつったらほんとにやる人なんで」
「あっはっはっ! 確かにな!
あっさりと空中都市のこともバラしたみたいだしなぁ」
何か思い出すことがあったようで、声をあげて笑い始める男性。
今回の件を話題にするくらいには、それに似た内容だったらしい。
「やっぱマズかったんすかね?」
トライとしてはまずい話かと思ったようだ。
言ってしまえば試験の解答が試験前に出回ってしまったみたいなもので、管理会社に損をさせてしまうような結果なのだ。
「いやいや、この程度ならどうってことは無いさ。
私としてはむしろ他のプレイヤー達のほうが困ったものだしねぇ」
「あー、ありゃ大変っすね。
お陰で空中都市の話も聞けないっすよ」
「そうだねぇ、だからちょっとお願いがあるんだけどいいかな?」
茶目っ気たっぷりに軽くウィンクをしてくる男性。
妙に年齢を感じる風格と若く見える顔立ちのギャップ、それがウィンクという行為がとても似合う不思議な雰囲気を作り出す。
……というところまで感じて、トライは聞かれていない答えを返す。
「……俺に魅了は効かねぇっすよ」
少しだけ驚いた様子の男に、トライは1つのアイテムを具現化させる。
「それは?」
「ただのレベルアップ武器っすよ。
こいつに状態異常耐性のスキルが付いてるっす」
「……なるほどね。
すまない、失礼なことをした」
きちんとした頭の下げ方で、素直に謝る男。
この人はどうやら理由もなくこういうことをやる人ではなさそうだ。
「いや、なんかあんですよね。
聞いてもらえないと困るようななんかが」
「ああ……ふふふ、そういう勘の鋭さは母親似だな」
「いや、これはどっちかっつったら親父っすよ。
お袋のは方向性が違うっす」
「そうか、そういえばそうだったかもな」
――――――――――
「マップの情報公開……っすか」
男が話した内容。
それは未だプレイヤーに発見されていないマップのいくつかへの行き方を教える代わりに、そこで得た情報を理解できた範囲でいいので公開してほしいという依頼だった。
「なんでんなことを?」
「簡単さ、できるだけ早く今の状況を変えたいんだよ。
我々としては大量のプレイヤーが長く街に留まることをして欲しくないんだ。
なぜそうなのか、というのは聞かないでもらいたいところだけどね」
「大人の事情っすか」
「ノーコメント、だ」
ニヤッと笑みを浮かべる男、しかしその笑みはイタズラを思い付いた子供のような顔で、何か裏があるとは感じられなかった。
例え裏があったとしても、それは決して悪い方向では無いと信じられる笑みでもあった。
「まぁただでというのも何だし、お礼はしようと思ってるよ。
1度だけそれぞれのマップのボスモンスターから100%全アイテムをドロップするとかどうかな?」
軽く言っているがこれ実はとんでもない話だったりする。
ゲームによるがボスモンスターというのは強力なアイテムをドロップしたりする、中にはボスモンスターしかドロップしないものもある。
物と相手の強さによっては希少価値も合わさって、どうやってお金を集めればいいのかわからないほどの金額で取引されるようなものさえあったりするのだ。
何が手にはいるかわからないとは言え、ボスモンスターのドロップ品が全て手にはいるというだけでもほとんどのプレイヤーは飛び付くだろう。
「いいっすよそんなん、俺らも楽しめそうだし」
が、残念なのはやはりトライのバカさであった。
トライ達はこのレベルに至るまで、それなりにボスモンスターとも戦闘はしている。
さすがに競争が激しい24時間監視されているようなものは戦ってはいないが。
それでもそれなりにレアなドロップ品を持つボスとも戦ってきたし、事実それなりにボスドロップのアイテムも数点所持している。
しかしそれらがどれだけの価値があるかというのを全てシャインとトロンに丸投げしてきたため、トライは未だに価値をよく理解していない。
せいぜいが「便利なアイテムがあるもんだ」程度の認識でしかなく、一部のプレイヤーが全財産と交換してでも欲しいものだなんて考えすらしていない。
「まあそう言わないでくれ、実を言うとこれくらいしか報酬としては出来なくてね。
私の面子のためにも受け取ってもらえないと困ってしまうのだよ」
「はぁ、そういうことなら……」
面子と言われてしまえばトライは頷くしかない。
トライというか三神はあまり気にしないのだが、三神に挑んでくる相手は理由の半分くらいが面子だったりする。
残りはテルと綾華絡みの私怨だが。
「じゃあこれ見てくれればわかるからっ!
後はよろしくっ!」
急にキャラが変わったような軽い言い方で、シュタッと片手をあげてログアウトしていく男。
「あ、ちょっ……」
三神が呼び止めようと行動したころには、ログアウトの痕跡だけが残っていた。
「まだ名前聞いてねぇよ……」
変なところで真面目な三神であった。
――――――――――
「と、いうことがあってだな」
その後トライと似たような展開で多少時間が遅くなったが、無事に合流を果たしたシャイン達にトライから今までの出来事を話しているところだった。
「う〜ん、不可解な点がいくつか、っていうかいくつも……もはや不可解な点しか無いような気がするけど」
不可解とは「解」答を出すのが「不可」能と書く。
実際の語源は違うのだろうが、とりあえず今の彼らでは「解」を出すことはできない。
「おじさんの知り合いなら悪い人じゃないでしょうけど」
けど、の先を言ったりはしないトロン。
後に言葉が続くと気づくような人なら勝手に言いたいことを理解してくれる、気づかない人なら「悪い人ではない」以上の意味には聞こえない。
トライは当然後者だ。
「いくつ教えてもらったんですか?」
リナもどちらかと言えば後者だ。
悪い人ではないのなら、信用できるだろうと安直に考えてしまうくらいには。
悪い人ではなくとも、その人の周囲が、その人を利用した誰かが、そもそも良かれと思って渡された情報自体に何かの罠があったりする、ということまで気づくには高校生という年齢は若すぎる。
高校生と大人には、それだけの差があるのだ。
「全部で4つだな、「空中都市」「海底神殿」「火山要塞」「幻の塔」
行き方以外は何も書いてねぇ」
とは言うものの、名前だけで大体予想がつきそうな場所ばかりである。
「悪ぃ、うそ。
空中都市は「ボーナスステージ」って書いてあった」
「ボーナスステージ?」
すぐに反応したのはシャイン。
MMOでそんなものを作るものだろうかと疑問に感じたようだ。
「親父の口振りだと飛行装備ねぇと行けねぇらしいからな、課金したヤツ限定のオマケとかじゃねぇの?」
「うーん……
ちなみに行き方は?」
「ほれ」
そう言って紙切れのようなアイテムを放り投げるように渡すトライ。
シャインはパシッとかっこよく受け取り、内容を見ようと視線を向けたのだが。
『残念! これは「だいじなもの」だからトライ君以外には見えないぞっ!
職権乱用? 開発者特権と言ってくれたまえHAHAHA!』
「よし、捨てよう」
本気で捨てようと思ったシャインの目の前にウィンドウが出現する。
『それをすてるなんてとんでもない!』
「キーーーっ!(#`皿´)」
「どうした」
「どうしたのっ!?」
「どうしたんです?」
遊び心満載な人だったようだ。
――――――――――
空中都市の行き方それそのものは難しいものでは無かった。
しかし誰にも発見できなかったのは当然理由がある。
トライ達は今、その理由に直面していた。
「……ここに突っ込むのかよ」
ギャーッギャーッ
「間違いなくここだ、そして俺は行きたくない」
グオオオオオッ
「そうね、これに飛び込むのは勇気がいるわね」
グフーッグフーッ
「トライさん、お土産よろしくお願いしますね」
ゴアァッ
「お前ら……その信頼が泣けそうだぜ」
彼らの目の前に広がる光景。
それはドラゴンが普通に歩き回り、飛び回る場所が広がっていた。
ロックタートルが麓に生息する山の頂上付近。
頂上に住むドラゴン型ボスモンスターへと続く道とは少し離れた方向にいる。
ここは最大レベルの150直前になった一般プレイヤー達が、定期的に大規模なパーティーを組んで追い込みに使用される有名な場所だ。
ドラゴン型モンスターは総じて強く、幼体と説明される個体でもオーガをデコピンで倒せるようなものばかりだ。
デコピンできるかどうかは別にして……
その分レベルもあがりやすく、ドロップ品も高額で売れるか強力なアイテムか何かしらのイベントで使えるか、最悪でも強力な効果を持つ回復アイテムと交換ができる。
よくファンタジーでは「ドラゴンは捨てるところが無い」なんて言われるほどの存在だが、まさにこのマップはそれだ。
同時にその大規模パーティーでさえ、最低でも1パーティーの最大数12人のグループが2組揃わないと来ないというほどの難易度を誇る場所でもある。
お互いをわかりあって連携がきちんとできるプレイヤー達なら12人パーティー1組でもなんとかなるが、それでも1時間は持たない。
熟練度による強みがあったとしても、たった四人でどうにかできるようなマップでは無い。
ではなぜ彼らがここに来たのか。
「……がんばれトライ。
なに、ちょっと一番奥にある風溜まりまでドラゴンとデスレースするだけだ、お前ならできる」
そう、ここの最奥部にこそ、「空中都市」へと続く道があるのだった。
ドラゴンかこいい、間違いない
作者は基本的にドラゴンというだけで大体好きになれます
余談ですがこの世界、VRがある以外は私達の世界と同じという設定なので、過去の作品に当然最後な幻想的なゲームとか、竜的なヤツの冒険的なあれとかが存在しています
※2012/9/14
文章を全体的に修正、内容には変化なし




