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第43話・つまり飛行ってのは気分がいいわけだ

そ~ら~をじゆうに、と~びた~いな~♪

はい!課金装備~~~っ!


・・・どうぞ!

 夜。

 

 三神家の寝室ではパソコンが起動していた。

 使っているのは三神ではなく、その父親のほうだ。

 父はキーボードもマウスも触れようとはせずに、両腕を組んでイスの背もたれに寄りかかっている。

 じっと何かを待つようにパソコンの画面を見続ける父に根負けしたかのように、パソコンはチャットの招待が来たことを伝える軽い電子音を鳴らせる。

 

「……来たか」

 

 誰にでも無く呟いた父。

 チャットの招待を受け、画面に会話用のウィンドウを開かせた。

 

 すぐに遠くにいるであろう誰かの文章が表示される。

 

【よう、ちゃんと起きてるか?】

 

【当たり前だ、じゃなかったら招待受けられないだろう】

 

【ははは、確かにそうだ】

 

 画面越しに会話する誰かは気さくな人物なのか、単純に仲がいいだけなのか、軽い冗談を言い合える程度の人物であるらしい。

 

【で、今家に帰ってるんだろ。

 わざわざ呼び出すなんて何かあったのか?】

 

 父は少しだけばつが悪そうな表情をして、頬をポリポリとかく。

 

【あー、すまん。

 息子に空中都市のことを教えちまった、あれまだ発見されてなかったんだな】

 

【あ〜】

 

 どうやら相手はそういう人物らしい。

 今回協力を仰いだと思われる取引先の「重要人物」がこの画面を隔てた向こう側にいるのだろう。

 

【そんなことなら別に大丈夫だろ。

 あそこは元々課金しないと行けないから、ボーナスステージみたいなもんだしな】

 

【そう、か。

 なら良かったが……】

 

 見るからに安堵の表情を浮かべる父。

 それはたかがゲームに対するものとしては些か違和感を覚える姿だった。

 

【ははは、お前でもそんな表情かおするんだな。

 どんだけ気にしてんだよ】

 

【うるさいヤツだな。

 俺だって色々考えているんだぞ】

 

【おぉ、ちゃんとわかってるって。

 その考えがぜーんぶ的外れだってとこまでな、ダハハッ!】

 

【ほんとにうるさいヤツだ……】

 

 父は組んだままの腕を組み直し、腰で座るようにして重心を後ろに傾けるのだった。

 

 

――――――――――

 

 

 翌朝。

 

 三神が普段登校を始めるより1時間も早い時刻。

 まだ寒さの厳しい季節の早朝は、ただでさえ冷たい空気がさらに冷たく感じられる。

 

 澄んだ空気がさらに空気を冷やしていくような感覚の中、その影響で凍らないかと心配になるほど大量の涙を流し続ける人物がいた。

 

 当たり前だが三神母である。 

 

「じゃあね従朗ちゃん、ぐすっ」

 

「よし、なぜ一生会えなくなるかのような別れをしようとしているのかの説明から聞こうか」

 

 ちなみに父は般若のような表情で三神を睨んでいる。

 三神にはわかっているが、殺気もビンビンに感じている……というかむしろ殺気しか放っていないのではないだろうかくらいに殺気を放っている。

 三神で無かったなら気絶くらいできるんじゃないだろうか。

 

「だ、だってぇ〜、ぐすん。

 従朗ちゃんとまたしばらく会えないなんて……うぇ〜ん」

 

 父はそろそろ殺気の出しすぎで悪魔か何かに変身しそうな勢いなので、そろそろ止めておかないとまずそうだ。

 

「おら、ちゃっちゃと仕事行ってこいって。

 次は来月くれーに帰ってくんだろ?すぐそこじゃねぇか」

 

「うん、うん、わかったわ」

 

「カエッタラシナス」

 

 宥める三神と鼻をチーンとしながらなんとか落ち着く母、最後の台詞はあえて誰とは言わないほうがいいだろう。

 

「従朗、一応これ渡しとくからシナス」

 

「怖ぇよ、こんな状況で渡されても怖くて受け取れねぇよ」

 

「はははシナス、何が怖いっていうんだシナス。

 何も父さん秘蔵の日本刀コレクションで居合い切りを実体験させてシナスしてあげようなんて考えていないよシナス」

 

「例えが具体的すぎて笑えねぇんだよっ!?」

 

 父はどうやら母のことになると、頭のネジが1本どころか全部まとめて吹っ飛ぶようだ。

 

「いいから受け取れ。

 シナスみたいな……じゃなかった御守りみたいなもんだから」

 

「微妙に言い間違うあたりが怖ぇんだよ……」

 

 ちょっと受け取るのに勇気がいりそうな、手のひらに収まるサイズの小さな袋を差し出す父。

 さすがに受け取らないわけにもいかないので嫌々ながら手に取る三神であった。

 

「常に付けてたほうがいい。

 デザインはまあちょっとこっちだとあれだけど、従朗ならあんまり違和感は無いハズだ」

 

 デザインがあれらしいので、確認のために取り出してみる三神。

 そこにあったのは、確かにちょっと日本ではあまり印象がよろしくないネックレスだった。

 

「個人情報だだ漏れじゃねぇか」

 

 赤い金属的な輝きを放つそれは、悪魔の顔を模した兜のようであり、鎧のようなものを兜の周辺に無理矢理コンパクトに納めたような複雑な装飾でガチガチに固められたものだった。

 

 つまりトライの装備である「クリムゾンブラッドシリーズ」を模したようなデザインなのである。

 

 ふふん、とどや顔をするバカ親父に呆れるしかない三神であった。

 

 

――――――――――

 

 

 そしてようやく落ち着いたその日の夕方。

 たった1日であったのに随分と長い間ログインしていなかったような感覚がする三神は、ヘッドセットをつけてログインをしようとしていた。

 

「……なんか調子わりぃな?」

 

 いつもなら独特の侵入されるような感覚の後、真っ暗な視界が光に包まれて徐々に周囲がはっきりしてくる。

 しかし今日は視界が光に包まれはしたのの、待てど暮らせど周囲の光景が少しも出てこない。

 ヘッドセットの故障かとも思ったが、このヘッドセットはFGのプレイに合わせて購入した新品だ。

 純国産で作られているものが、たかが半年程度で壊れるほど日本の技術力は甘くない。

 

 大人しく待ってみることにした三神は、自身がトライへと変わる瞬間を静かに待った。

 

 

 

 やがて5分ほど経過し、やっと三神の視界に周囲の光景が見え始めてくる。

 やっとトライになったことに安心したが、すぐに周囲の光景に驚くことになる。

 

「なんじゃこりゃ」

 

 完全にはっきりとした視界に映ったのは、大量の視界を埋め尽くすほどのプレイヤー達だ。

 

 いつものログインとログアウトをしている教会の庭。

 そこは今、まるで襲撃でもされているのかと思えるくらいにプレイヤーが集まっていた。

 

「どういうこった?」

 

 実は掲示板に情報が公開された直後、実際に行動を開始したプレイヤーはかなりの数がいたのだ。

 そして尋常では無い量のイベントが次々と発見されていき、それを一部のプレイヤーが自慢気に掲示板へと、或いは自分のブログやツィッターに書き込んでいった。

 結果、嘘だ誤情報だ自分が正解だ幼女だ巨乳だはぁはぁだと様々な情報が入り乱れた結果、FG関係の掲示板という掲示板は炎上も炎上、大炎上という事件に陥った。

 

 そして現在はいつまでたっても情報を集められないプレイヤー達が、実際にログインして自分で確かめようと行動を開始したのだ。

 

 その結果、NPCというNPCには大量のプレイヤーが群がった。

 当たり前だが普通に会話する以上、いくらNPCとはいえ1度にそんな大量のプレイヤーと会話できるわけがない。

 我先にと群がるプレイヤーを前にまともな会話ができず、逆にイベントが何も進まない・発生しないという異常な状況になってしまっているのが現状である。

 最初に行動を開始したプレイヤーでさえ、途中までクリアして続きが出来ないという異常っぷりである。

 

 トライがログインしたのはそんな渦中のど真ん中だった。

 普通のネットゲームでこういった状況が発生すると、あまりにも処理に負荷がかかるためまともなログインすら出来なくなる場合もある。

 それを考えるとログインに時間がかかったとはいえ、ログインできただけマシだったかもしれない。

 

「うへぇ、一旦離れるしかねぇな」

 

 トライはあまりの人の多さに耐えられなかったらしい。

 人混みを掻き分けて外へ外へと、周囲のプレイヤーとは逆方向に進んでいく。

 

「悪い、ちょっと通してくれ」

 

「うお、栗ブラ装備だ」

「よく見ろ、ACエーシーされてるぞ」

「あれって噂の栗を一撃で倒すプレイヤーじゃね?」

「ああ、何故かBANされないバグ利用な」

 

 最後の一人はわざと聞こえるように言うほどの強者だったのだが、残念ながらトライに専門用語は難しすぎた。

 しかも自分のことを言われているなど考えもしていないので、振り返ることさえせずにずんずん外へ向かっていく。

 

 余談だが、FGのバグは非常に少ない。

 無いと言いきれないのが残念なのだが、少なくとも今のところ致命的なバグは1つも見つかっていない。

 しかしネットゲーマーにバグとは意外なまでに身近なものであり、バグ利用は個人のモラルが重要なネットの世界では非常に嫌われる行為だ。

 もちろん何をしてでも勝てればいい、強ければいいという考えも少なくは無い。

 

 だからこそ逆に、誰も知らないバグを発見して情報を秘匿し、一人だけ有利な立場にいるのではないかとあられもない噂がたてられ、「クリムゾンデーモンを一撃で倒せるプレイヤー」という存在はそれなりに有名になってしまっていた。

 

「どいてくれー」

 

 もちろん掲示板など見もしないトライがそんなことを知るはずは無い。

 

 

――――――――――

 

 

 その後トライは父の狙っていないサプライズによって明かされた空中のマップへと向かうべく、課金アイテム販売NPCに向かった。

 現実リアルのおマネーが関わるため、何かあるかもと期待されたのか、教会よりも熱気を感じるほど大量のプレイヤーに囲まれていたが。

 

 さすがのトライもこれには通常会話を諦め、ウィンドウ会話にて普通に購入を済ませた現在。

 

「こりゃ気分いいぜ」

 

 いくつもの種類がある中から悪魔の羽のような飛行装備を購入したトライは、街中では使えなかったため街の外で自由気ままに飛び回っている。

 

 ちなみにFGの課金は公式サイトにてポイントに変換し、それをキャラクターに割り当ててゲーム内で購入するという手段になっている。

 当然トライは公式サイトなど見ないので、シャインに封筒ごと渡して仕事のできない上司の如く「やっといて」と丸投げしてあったのでバッチリである。

 

「鳥になった気分、ってのはこういうことなんだろうな」

 

 飛行というのは気分がいい。

 相変わらず驚異の技術力で生み出された飛行装備は、使用者の思った通り自由自在に動く。

 

「イーーーッヤッホーーーウ!」

 

 調子に乗って蛇行運転やキリモミ回転、急上昇からの急速落下や急ブレーキなどを行って、トライは思う存分に空中散歩を満喫していた。

 

 ……が、急に止まって俯くように地面を見るトライ。

 地面のある一点を凝視し、まるで危機的な状況を発見したかのように体が震える。

 声を漏らさないようにするためなのか、片手で口を押さえつけ、もう片手は自分の腹に添えるようにする。

 

 つまり今のトライは―――

 

 

 

「おぇ……気持ちわる……」

 

 

 

 ―――酔っていた。

 

 何度も言うが、彼はバカである。


わりとどうでもいい小ネタ付き用語解説

栗→クリムゾンデーモンの略「栗無損デーモン」と誤字されたのが語源

栗ブラ→クリムゾンブラッドシリーズの略、「栗ブラ持ち前衛さん募集」に対して「前衛さんノーブラでもおk」などの派生がある

AC→エリアカスタマイズの略

BAN→垢BANとも、運営側から利用停止処分をくらうこと


ノーブラはどこかで入れたかった・・・っていうか一回は書いた・・・っ!!!


一部違和感を感じる方もいるかもしれませんが、間違ってはいません、多分


※2012/9/14

文章を全体的に修正、内容には変化なし

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