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第42話・つまりうちの両親もバカだということだ

報告の意味も兼ねて1話だけ更新

内容は「この親あってこの子あり」です


41話までのメタ発言を削除・修正しました

内容はほとんど変化ないので読み返す必要は無いと思います

「いっぱい食べてね従朗ちゃん」

 

 絶賛家族サービス中の三神とその両親が並んで座る食卓、そこに並ぶ豪華すぎる料理の数々は、どう考えても人数に対する量が多すぎた。

 

「お、おう」

 

 三神としては苦笑いを浮かべる他無い。

 高校生の男子なんて何も無くても量を食べる、部活なんてやっていれば尋常じゃない量を平気で胃袋に納めるものだ。

 しかしそれを考慮したとしても、三神の目の前に置かれた料理は多すぎた。

 

 そのうえ―――

 

「なあお袋よ」

 

「なぁに従朗ちゃん」

 

「この鶏肉の「ような」モノはなんなんだ?」

 

 三神は目の前にある白いおじさんがトレードマークのお店で出てくるような揚げた鶏肉の「ような」ものを手に取り、目の高さへ持ち上げてから質問する。

 質問したのは、それが鶏肉である、と言い切れない特徴が激しい自己主張を現在進行形で実践中だからだ。

 ちなみに今持っているのは恐らくモモ肉であろう物体。

 

「あら? 何か変かしら?」

 

「うむ、まあ爪まで一緒に揚げてあるのはこの際無視するとしてだな」

 

 普通この部位は急に肉の部分が無くなるので、足先は撤去してしまうのが普通だ。

 ところがこの肉、爪先までばっちり揚げてあり、母親は爪がおいしいんですよくらい言い出しそうな表情をしている。

 

「だがな、俺は爪が二重に重なって結果8本も爪がある鳥を知らん」

 

 ついでに言えば普通の爪の上にあるほうは、足のサイズに対して明らかにでかい。

 これで引っ掻きでもされたら痛いで終わらないのは間違いない。

 

「あらコカトリスのお肉っておいしいのに」

 

 頬に手を当てて嘆かわしいとばかりにため息を吐く母親。

 この答えになっていないズレた答えをするあたり、三神の空気が読めない能力は母親譲りかもしれないと思える。

 

「コカトリスって……

 いや他にもなんだこのはさみが刃物みてーな見た目の巨大海老は!?」

 

 今度はロブスターなみの巨大海老が刺身にされているのを指差して話す。

 

「気をつけてね、結構切れるわよ」

 

 そこを聞いているわけじゃない、と言いたいのを我慢して三神は次を指差す。

 

「なんだその苦悶の表情を浮かべた魚の活け作りは!? 人面魚かよっ!」

 

 そこにいるのは魚の活け作りといえばその通りなのだが、頭の部分が浮かべる表情が物凄い苦しんだような表情をしている。

 表現してしまうと若干気分が悪くなってしまいそうなくらいに恐ろしい状態だ。

 

「あら〜、よくわかったわね、さすが従朗ちゃん♪」

 

「ダメだ、会話ができねぇ」

 

 綾華が来なくてよかったと安心する三神であった。

 

「お待たせマイハニー。

 おおコカトリスにソードシュリンパー、人面魚まであるじゃないかっ!

 豪華だねハニーっ!」

 

「今日は従朗ちゃんと一緒ですもの、奮発しちゃった♪」

 

 バカ親父とボケ母親に挟まれる三神の図。

 普段の三神を知るものが見たら非常に残念な顔をすることになったかもしれない。

 

「まじうぜぇ……」

 

 

――――――――――

 

 

「で、なんだったんだよこの奇妙な食事は」

 

 食べてみれば意外に美味しかった料理を平らげ、今は食後の一時。

 ポーションと言われて差し出された清涼飲料のような爽やかなジュースは、不思議なことにFG内のポーションを飲んだ時の味に似ていた。

 

 この瞬間に三神は両親の狙いと、このあとに続く言葉をなんとなく理解した。

 

「お前がゲームを始めたと聞いて」

 

 とは三神父の言葉。

 

「やっぱりかっ!」

 

「しかもそれがFGだと聞いて」

 

 とは三神母の言葉。

 

「そこまでかっ!?」

 

 つまりこれはゲーム内の食事を再現した二人のサプライズだったというわけだ。

 

 少なくとも三神にはそう理解できるし、そういうことを平気でやるだけの両親だとも思っている。

 

「はぁ、帰ってきて早々にそれかよ」

 

「だって、ねぇ?」

 

「そうだなぁ、FGだもんなぁ」

 

 疲れたような三神を見て、何か含みのある表情を浮かべる両親。

 口を開いたのは、ポーションをぐいっと飲み干した父のほうだった。

 

「実はFGってうちの取引先の1つでだな」

 

「それでか……」

 

 三神以上にこの二人はゲームと縁がない、少なくとも三神は二人がゲームに関する話をしているのを見たことは無いし、そういった機器が家にあった試しもない。

 そもそもテレビでさえ滅多に使われることはないのだ。

 

 そんな二人がこんな状況を作り出すためには、そんな状況を知り尽くした人物の協力なくしてはありえない。

 それもFG内では特に意味の無い食事に味があるというマイナーな部分の、しかもそれぞれの味まで記憶しているような人物の、である。

 

「直接製作に関わった人とでも知り合いなのか?」

 

「そこは企業秘密よ。

 重要人物ではあるけども」

 

「ふ〜ん?」

 

 貿易なんて仕事をしていればそんなこともあるかと軽く考える三神。

 ゲーム会社と何を取引するのか気にはなるものの、どうせ企業秘密かはぐらかされるかして教えてはもらえないだろう、と諦める。

 

「で、本題なんだが」

 

 どうやら父はこちらを話したかったらしい、顔つきが急に真剣になる。

 

「従朗よ、ゲームを止めろとは言わん。

 むしろ綾華ちゃんや輝明君も一緒なら存分に楽しめばいい」

 

「お、おう」

 

 ゲームをやりすぎる子、というのは大体の場合、親に勉強しろなどと言われて反発したりするものだ。

 しかし父はどうやら三神が勉強などもきちんとやっていることをわかっているようで、理解ある父親のような発言をする。

 

「だがな、これだけは言っておくぞ……」

 

 ゴクリ、と三神は生唾を飲み込む。

 父は今の時点で40歳近い年齢だが、その年代の父親とはあまり似ていない。

 若く見えるというだけでなく、普段から放つオーラが一般人でさえも感じられるほどに強烈な「気配」を放っているのだ。

 その父がマンガだったら背景にゴゴゴと表示されそうな雰囲気で、その「気配」を全て三神に向けてきている。

 

 喧嘩慣れしている三神でさえ気圧されるほどの強烈なそれは、まるでゲーム内で前衛組合のギルドマスターと相対したときのようだった。

 

 そして十分に間を溜めたあと、父はついに口を開いた。

 

 

 

「……課金は月に1万までだぞ」

 

 

 

「……おう」

 

 三神は何も言えなかった。

 

 

――――――――――

 

 

 今更ではあるがFGの課金システムの説明をさせていただく。

 FGは基本的に無料のサービスであり、楽しむだけなら別にお金を支払う必要は無い。

 しかしお金を支払えば楽になったり強くなったり限定アイテムが手に入ったりといった所謂「有料サービス」が当たり前に存在する。

 

 と、言っても他のゲームと比較すると、露骨な利益を出そうとしていないので「優良サービス」とわざと誤字をするプレイヤーもいる程度ではあるが。

 

 内容は正に優良サービスといった感じだ。

 例えば100円払えばログイン時間で24時間、経験値が2倍、それも重複可能で最大5倍まで上昇したりだとか。

 その代わりこれは公式サイトにて「追加ボーナスが若干減る可能性がある代わりに……」との説明がされていて、実際には5倍まで重複させても1ポイント程度しか減らなかったが、それでも1から最大レベルである150まで続ければ149ポイントもの差が出る。

 これを使わなくてもFGはレベルがあげやすいゲームであるため、ステータスを気にするプレイヤーは2倍程度で留めるのが普通であるが。

 

 他にも例えばちょっと高い1000円払えば、絶対にレベルがあがる経験の宝珠がランダムで10個前後手にはいるとか。

 装備品に関しては1回100円のガチャと呼ばれるタイプではあるが、ゲーム内の公式イベント等で全員に無料チケットのプレゼントが行われていたりする。

 こういうのは必ず1度やったら何度もやりたくなるものなので、100円という安さもあって結構人気があるようだ。

 さすがに超が付くような高性能装備は滅多に出ないが、最低でも初心者がサクッとレベルをあげるには十分な強さの、それなりの確率でベテランでも使える装備品が出ることもあり、「初心者はまず課金してガチャってこい」と言われることもある。

 そもそもレア装備が少ないこともあって、10万使っても最高ランク装備が出なかった等の話題は尽きないが、それでも夢にかけるプレイヤーは多い。

 

 他にも色々あるが、つまりは優良な有料サービスがFGの基本である。

 

 ではなぜ今の今まで影も形も三神達に課金の「か」の字も出てこなかったのか。

 

 理由は考えてみれば当たり前のものしかない。

 

 経験値が2倍だろうが3倍だろうが、トライ達は熟練度が最大になってからレベルをあげている。

 熟練度もレベルがあがればそれだけ上昇率も悪くなるため、熟練度が最大になるころにはレベルが十分に上がるだけの経験値が貯まってしまう。

 レベルがあがる経験の宝珠など必要なわけがない。

 装備はレベルアップ装備を使うのでむしろ邪魔なだけだ。

 

 他の細かいサービスも、トライ達の視点から見ると何の役にもたたないサービスばかりだった。

 

 完全に何も必要無いか、という話になると実はそうでも無いのだが、少なくともこの時点まで三神には課金しようと思えるだけの要素は無かった。

 

 つまり「1万なら課金してもいい」と言われたところで、何に1万円も使えばいいのか三神にはさっぱりということだ。

 事実、わざわざ「FG用!」と太いマジックで書かれている1万円の入った封筒を渡され、何に使うべきかむんむんと唸っている三神の図が展開されていた。

 

「どうした?

 1万じゃ足りないか?」

 

「足りないっつったらもっとくれんのかよ」

 

「いや、やらん」

 

「何故聞いたっ!?」

 

「もしかして課金するほどの内容が無かったりとかかしら?」

 

 女の勘、というのは時に恐怖を覚えるほど的確に物事を言い当てる。

 母はどうやらその辺が鋭いらしく、三神の悩みを正確に言い当ててみせた。

 

「まあそうなんだよな、俺らのやり方だとあんま課金の必要が無ぇ……らしい」

 

 らしい、と言うのは三神が未だに公式サイトを見ていないからだ。

 ゲーム内に課金アイテム販売NPCがいるので、存在と内容はある程度知ってはいるのだが。

 

「……もしかして熟練度を知ってるのか?」

 

 ゲーム内システムを聞いてくる父。

 ゲームをやらないこの人物が知っているということは。

 

「あぁ、それも聞いたのか」

 

 ということになるだろう。

 

「あ、ああまあな。

 一応隠し要素らしいからな、教えてやろうかと思ってたんだが」

 

「あんなん長くやってりゃみんな知ってんだろ。

 ついでにレベルアップ装備も知ってるから大丈夫だぜ?」

 

「あ、あらそうなの。

 従朗ちゃんってば凄いわね〜」

 

 サプライズが失敗したためなのか、若干挙動不審になる両親。

 三神としては「その程度のことかよ」と思わずにはいられないが、ゲームを実際にやっている現役プレイヤーと使い方すら知らない一般人との差なんてこんなものだろう。

 

「だったらあれか、レアアイテムとか用意してもらったほうがよかったかい?」

 

「おいおい、んな特別扱いされて俺が喜ぶとでも思うかよ。

 俺は自分でなんとかすんのが好きなんだよ、知ってんだろ?」

 

「そうね〜、そういう子だったわね〜。

 誰に似たのかしら(チラッ)」

 

 ゴホンッと意味の無い咳が父から吐き出された。

 良くも悪くも親子とは似るものである。

 

「使うとしたらファッションアイテムか、じゃなきゃ飛行装備とかだろうなぁ……」

 

 ファッションアイテムは見た目だけを変化させるアイテムの総称だ。

 実際に装備するものやアイテムとして使うもの、持っているだけで効果があるものなど様々だが、戦闘には影響しない場合がほとんどだ。

 

「ん、飛行装備持ってないのか?」

 

「どこまで聞いてんだよ」

 

 聞いているうちに実はプレイヤーじゃないのかと思えるほどにサクサクと会話が進む。

 やったことが無いならどこかで「なにそれ?」の一言が出てきそうだが、不思議とまだ出ていない。

 

「飛行装備無いと行けないマップあるだろ、行かなかったのか?」

 

「え、なにそれ」

 

「「え?」」

 

 狙ったサプライズよりもよっぽどサプライズな情報がさらっと伝わった瞬間だった。

 

 空中都市の存在が明らかになるのは、それからすぐのこと。

 

 

 

「「「……」」」

 

 今の三人にとってはその前に、この微妙な空気になってしまった状況をどうするかのほうが大事なようだったが。

 

 

――――――――――

 

 

 某掲示板より抜粋。

 

『ねんがん の ようじょ と はなせたぞ』

 

 その掲示板はすぐに炎上したらしい。


子は親に似るものです

意識するしないに関わらず・・・

あ、なんか悲しくなってきた


※2012/8/29

課金の経験値アップあたりで説明不足があったので追加

※2012/9/14

文章を全体的に修正、内容には変化なし

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