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第41話・つまりたまにはリアルの話も・・・あれ、このタイトル前にも使った気がする話なわけだ

タイトルの通りリアル回です

あまり話は進みません


気楽にお読みください

 穏やかな午後の昼下がり……というのを高校生で感じる人は少ないだろう。

 1月ともなれば多少はマシになってくるとは言え、まだまだ春を感じるには遠すぎる季節だ。

 3年生ともなれば、人によっては受験の合否を気にしてピリピリとしていたり、逆に内定しているので思い出作りに勤しんでいたり。

 寒さに負けることの無い猛者ともなれば、活発に外で遊んでいたりするかもしれないが、とにかく穏やかな昼下がりという言葉と無縁な人が多いのが学生というものである。

 

 周りはそんな状況ではあるものの、まだ2年生であるトライこと三神達には余裕がある時期だ。

 三神はともかく、シャインとゲーム内で名乗る腐れ縁のイケメン幼馴染み「光明院こうみょういん 輝明てるあき」と、同じくトロンこと「宮澤みやさわ 綾華あやか」は、イケメンと美人の幼馴染みにはテンプレな容姿端麗・文武両道という完璧超人であるため、殊更に心配する必要など無い。

 

 そんな彼らの昼休憩、ほとんどの学校では1時間設けられ、大体の学生は15分で食事を終わらせて残り時間を満喫するような時間。

 彼らも例に漏れず、食事を終わらせて三人集まったものの特に何をするでもなく、まさかの穏やかな午後の昼下がりを体験している真っ最中だった。

 

 カチカチカチ

 

 三神は椅子の背に体重を預け、4つ足の椅子の後ろ足2つでバランスを取りながらふらふらとしている。

 結構危ないのだが、これをやる学生は非常に多い、学生じゃなくてもやる人は多い。

 

 カチカチカチ

 

 綾華は本来なら三神のものであろう机に突っ伏してだらしなくしており、胸に装備した2つの夢が押し潰されている。

 何人かの男子生徒がそれを見て生唾を飲み込んでいるのだが、あまり凝視すると三神から恐ろしい目にあわされそうなのですぐに目を逸らしては再びチラ見を繰り返している。

 

 カチカチカチ

 

 二人を説明したならば、当然残ったイケメン様を説明する必要がある。

 

 カチカチカチ

 

 現代で携帯を持っていない人も珍しいかと思うので、すぐに気づけたかと思うが、間違いなくその動作を行っている。

 

 カチカチカチ

 

 つまり、携帯をいじるという人の前でやるのは場合によって失礼に当たる行為をひたすら行っているのだ。

 

 カチカチカチカチ

 

「なあ、さっきから何やってんだ?」

 

 さすがに気になったらしい三神は、テルに向かって聞いてみる。

 こういう場合最初の返答は大体が気の抜けたような。

 

「ん〜?」

 

 とかである。

 ちょっとね、などをつける場合もあるが、気が抜けたような返事が返ってことがほとんどだろう。

 

「wikiを見てた」

 

 携帯画面を見るために下へ向けていた顔を持ち上げ、三神を一度見てからテルは答える。

 

「wiki? 俺らが欲しい情報乗ってたっけか?」

 

 今の時点で三神のキャラクター、トライはかなりの高レベルへと成長している。

 テルと綾華の主人公補正やご都合主義も重なりまくった結果、装備品も充実なんてレベルではないほどに集まり、結果wikiに彼らが必要な情報というのはほとんど載っていない。

 もちろん三神は未だに勘違いが続いており、これは知っているプレイヤーが情報公開していないだけで、自分達の行動がそもそも例外だとは考えてもいない。

 

「いや、FGのじゃないよ。

 こっちのwikiさ」

 

 テルはそういって携帯を三神に見せる。

 

「あん? フェンリルのほうかよ」

 

 そこに表示されていたのはフェンリルに関するwikiだった。

 

 フェンリルは北欧神話に出てくる怪物だ。

 最初は普通の狼だったが、徐々に強く大きくなっていき、神の一人テュール(呼び方は諸説有り)の腕と引き換えに封印された怪物。

 北欧神話における最終決戦「ラグナロク」において封印を破り、主神オーディンを飲み込んだという話が有名だ。

 

「なんで今更なの?」

 

 突っ伏した姿勢のままで綾華がそう訪ねてくる。

 眠くて欠伸でもしたのか、若干瞳が潤んでいるので非常にエロい。

 

 残念ながら三神とテルはその程度で動揺したりはしないが。

 

「いや、FGって変なところでリアルだったりするからさ。

 何かヒントになること無いかなと思ったんだけど、面白い話がわかったよ」

 

「「面白い?」」

 

 言われて三神がフェンリルのwikiを順次読んでいく。

 綾華も気になったのか、体を起こして隣から覗きこんでくる。

 綾華が起きた瞬間、周囲から残念そうな声が聞こえた気がするが、きっと気のせいだろう。

 

「……なるほどな」

 

「もしかしてリナちゃんはこれ知ってたのかな?

 じゃなかったらあんな名前つけたりしないわよね」

 

「さぁ?本人に聞いてみたほうが早いね。

 実際どうなんだい、莉奈さん」

 

 何を言ってるんだこいつは、と言いたげな顔をする三神と綾華。

 

「知ってました」

 

「うおっ!?」

 

 ガタガタンッ。

 唐突に後ろから聞こえた声に、思わず体を揺らしてしまう二人。

 三神はもう少しバランスを崩していたら後頭部から地面にヘッドバットをするところだった。

 

 後ろにいたのは当然、三神達の1年後輩である「たちばな 莉奈りな」である。

 

 ゲーム内のキャラクターに引っ張られているのか、それとも女性特有の成熟の早さなのか、わずか半年という期間で幼さの残っていたかつての雰囲気は大分大人びたものに変わっている。

 

「びっくりさせんなよ。

 いつから現実リアルでエクスチェンジムーブ使えるようになったんだよ」

 

「普通に入ってきましたよ?

 FGのやりすぎで勘が鈍ってるんじゃないですか?」

 

 聞く人が聞いたら「喧嘩番長に何言ってやがるんでございますか貴様は」と言われそうな台詞をサラッと言う莉奈。

 実際のところ、ある意味では現実リアルより巧みに動くモンスターなどがいるため、三神の勘は鈍るどころか逆に鋭くなっている。

 ところがこれは莉奈も同様で、こっちは逆に気配の消し方や気づかれないように移動する術などに長けており、続けているうちに現実リアルでも無意識でやってしまうようなレベルになってしまっている。

 ゲーム内でも本気を出したリナをトライが補足するのはまず不可能で、探知系のスキルを持ったプレイヤーでさえ気をつけなければすぐに見失ってしまうほどだ、下手なシーフ系より凄まじい。

 その結果現実でも突然現れたように見えることが多々あり、最近では唐突な出現がデフォルトになってきているような状況だった。

 

 余談で申し訳ないが、実はFGの特徴の1つがこれだったりする。

 身体的な部分はともかくとして、あまりにも現実に近い感覚がもたらすゲーム内での活動が、実際の肉体に影響を及ぼしてくることがある。

 例えば反射神経があがったりだとか、今まで感じ取れなかった気配というものに敏感になったりだとか、運動が苦手だったプレイヤーが改善されたという話まである。

 他のVR系でも稀に発生する現象なのだが、何故かFGのそれは群を抜いて発生率が高い。

 未だに解明されないVRとFGの謎現象なのだが、悪い方向では無いため半ば放置されているというのが現状だった。

 

「で、フェンリルですよね。

 私もすぐには気づきませんでしたけど、ハティの名前を決める時にネットで色々と調べてたら見つけたんですよ」

 

「なるほどな。

 ……で、なんか解決策になんのかこれ?」

 

「う~ん、このグレイプニール(呼び方は諸説あり)がFGにも存在したら話は変わったんだろうけどなぁ。

 材料からして俺たちでも見たこと無いアイテムばっかりだし、普通に戦うしか無いんだろうな」

 

 このグレイプニールというアイテムは、フェンリルを封印したという魔法の紐のことだ。

 この程度も食いちぎれないなら神々の脅威にはなりえないので自由にしようとフェンリルに持ちかけ、見掛け以上に強力なその拘束によって封印したという道具だ。

 それも結局はラグナロクにおいて破壊されてしまうのだが、FGが神話をなぞるのであれば何かしらの弱体化をさせることができたのかもしれない。

 少なくとも彼らはそんなアイテムも、それを作るのに必要とされたアイテムも1つとして知らないので絵空事に過ぎないが。

 

「どっちにしてもそろそろ決着つけたいところよね。

 次のアップデートでさらに強力なボスが出る予定なんでしょ?」

 

「あん? そうなのか?」

 

「三神さんはそろそろ公式サイトくらい見てください。

 半年たって公式サイトもwikiも見たことが無いなんて普通じゃないです」

 

「まぁ従朗だし。

 ボスは気になるけど今までより強いボスが出る、以外は何の情報も無いからなぁ」

 

 穏やかな午後の昼下がりの終わりを告げる予鈴が鳴るのは、それからすぐのことだった。

 

 

――――――――――

 

 

「じゃあ今日こそチャレンジしてみようか」

 

 まだゲームには入らない。

 下校時刻となり、それぞれの家へと分かれる前。

 リナだけは別方向なのだが、校舎から校門までというわずかな時間を共に歩くため、主にテルと綾華の計らいによって四人はゆっくりと歩きながら話していた。

 ちなみにこの間はどんなにゆっくり歩いても5分もかからず終わってしまうような距離だ。

 

「あ、わりぃ。

 今日は俺ダメだわ」

 

「ん? 今日は挑戦状来てなかったんじゃなかったの?」

 

 挑戦状はほとんどの場合、三神の机の中か下駄箱に投入されている。

 今日は机の中には入っておらず、さきほど下駄箱を確認したが何も入っていなかったためにこうして四人で歩いているのだ。

 

「ああ、実はな」

 

「ああ、今日は親父さん達が帰ってくるんだっけか」

 

 三神より先に答えるテル。

 もちろんこうなれば展開されるのはいつものパターンだ。

 

「だからなんで俺の予定をお前が知ってんだよ」

 

「お前のことで俺が知らないことなんてかっこりゃく」

 

「よし、ちょっと表出ろや」

 

「うむ、すでにここは表だと言うツッコミはしないでおいてやろう」

 

「言ってるよな!? それすでにツッコんでるよな!?」

 

 馬鹿な会話を繰り広げる男二人。

 女二人は苦笑いで見届けている。

 その光景もここ最近では日常となりつつあることを知らないのは、他ならぬこの四人だけであった。

 

「へぇ~、おじさん帰ってくるんだ」

 

「三神さんのお父様ですか、どんな方なんですか?」

 

 ガルルと聞こえてきそうな三神と、にっこり微笑んでいるのに冷ややかな気配のするテルを無視して女性二人は会話を続ける。

 

「う~ん、どんな人って言われるとちょっと難しいかな。

 とっても若く見えるってのは間違いないわ」

 

「難しいですか?

 わかりにくい仕事してるとかですか」

 

「仕事は貿易系だぞ」

 

「それも海外との、ね」

 

 いつの間にか男二人は収まったようで、ごく自然に会話に混ざってくる。

 

「明日にゃまた行っちまうらしいけどよ。

 そんなわけで多分今日は1日ログインできねぇと思うぜ」

 

「了解……だったら俺も今日はやめておこうかな」

 

「なんでだよ、お前らは普通にやればいいだろ」

 

「そろそろ情報公開していこうかと思ってね。

 さすがに俺たちも話題になってきてるみたいだし」

 

 事実として、現在公式非公式を問わず掲示板関係で「クリムゾンデーモンを一撃で殺せるプレイヤーがいる」とか「フェンリルみたいなモンスターを連れたプレイヤーがいる」との情報があげられていたりする。

 証拠が無かったりするのと、他のプレイヤーが誰もそんな情報を持っていないことから誤情報、妄想乙などと言われてはいるものの、証言が多くなればそれだけで1つの証拠になったりするものである。

 変に話が広まっていくよりも、この辺できちんと情報を公開したほうがいいかもしれないとテルは判断しているようだ。

 

「ふ~ん、二人がいないんじゃ私もパスしておこっかな。

 久しぶりにおじさんに会いに行こうかな?」

 

「止めとけ、どうせ半端ねぇテンションで帰ってきやがるんだろうからめんどくせぇぞ」

 

「は、半端ないテンションって……」

 

「莉奈ちゃんはどうする?」

 

「あー、だったら私もお休みしようかと思います。

 たまにはそんな日も悪くないかな~なんて」

 

「ね、ね、だったら一緒に遊びに行かない?

 おいしいスイーツのお店教えてもらったんだー」

 

「もしかして最近噂の二丁目のお店ですか?

 私も行ってみたかったんですよっ!」

 

 女心と秋の空とはよく言ったもの。

 特に女性の会話の長さと話の切り替わりの勢いは本気で凄いと思う。

 真面目な政治経済の話をしていたかと思いきや5分もしないうちに色恋話に切り替わっていたりするのだから、あれは本当に凄いと思う。

 

「じゃ、今日はみんな休みってことで」

 

 テルの言葉と同時に、学校の正門へとたどり着く。

 狙ったようにタイミングのいい発言は、全員の会話をピタリと止めた。

 

「んじゃ俺は迎え行くからあっちだ、また明日な」

 

「じゃあ私は反対方向なので、また明日です」

 

「ああ、それじゃあまた明日。

 行こうか綾華」

 

「うん、それじゃあジュウまた明日ね。

 リナちゃん着替えたら電話するからまたあとでね~」

 

 四人はそれぞれの方向へと歩き出し、それぞれの家へと帰宅していく。

 穏やかな午後の昼下がり、そんなものは無かったと言いたくなるような、厳しい寒さがまだ残っていた。

 

 

――――――――――

 

 

 夜、複数の掲示板にある書き込みがされた。

 

『ウィンドウを使わずに直接NPCに話しかけると対応が変わる』

 

 その数分後、さらにまた別の書き込みがあった。

 

『システムを使わずに現実と同じ作業をすると、今まで作れなかったアイテムが作れる』

 

 その書き込みを運良く目撃できた人もいたが、さらなる書き込みがあることを期待してすぐには書き込みを行わない。

 そしてその期待は、別の意味で答えられることになった。

 

『嘘だと思う前にまずは実践してみることをお勧めする』

 

 この日、FG関係の掲示板はそのほぼ全てが炎上、つまりサーバーがユーザーの操作を処理しきれずに停止するという事件が起こった。

 事件の原因である三神が、その事件を知ることは無い。

 

 

 

「ジューーーローーーーーちゃーーーんっ!」←ダッシュで抱きついてくる。

 

「うぜぇ!お袋うぜぇっ!」←嫌がりつつも避けない。

 

「うざいとはなんだじゅうろうううう!!!

 愛しのマイハニーにそんなことを言う息子に育てた覚えはないぞコルァーーー!!!」←ダッシュで迫ってきて鬼のような顔をする。

 

「こっちはこっちでうぜぇっ!?」←いまここ。

 

 絶賛家族サービス? 中だった。

ちなみにフェンリルのwikiが気になった人は実際に見てみてください

ちょっと面白いかもしれない情報が得られます

伏線かどうか?それは今後にご期待ください


今後ともよろしくお願いいたします


※2012/8/28

メタ発言を修正・・・するほどひどくなかった

※2012/9/14

文章を全体的に修正、内容には変化なし

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