第4話・つまり何事も話すことから始めようということだ
やっと第1話につながります
バカイベントが少しづつ始まります
「ふむ、それは恐らくゴブリンでしょうな」
「ゴブリン? あれがか」
トライは結局あのあと選択の時間切れとなり、セーブポイントに帰還していた。
といってもセーブした記憶どころか、どこがセーブポイントなのかもわかっていなかったため、出現地点である教会に最初と同じように出現しただけであるが。
「そう、ゴブリン。
一体ではそれほどの強さではありませんが、必ず二体以上で組んで行動するため厄介なモンスター……らしいですな」
で、先ほど起こったことをありのまま神父に相談してみたわけである。
当然神父はNPCではあるが、冒険者では無いために断片的な情報しか提供してくれない。
「冒険者の間ではゴブリンを一人で倒せるようになれば一人前と言われているようですな。
我々一般人からすれば、倒せるだけでも英雄のようなものですが」
「はっ、確かにありゃ倒せりゃ英雄だ。
何の前触れもなくいきなり即死じゃあな」
「はっはっはっ。
しかしこうして生きておられる、トライ殿も十分冒険者として素質があるのでしょうな」
ちなみにゲーム的な理由なのか、神父は死ぬ=実際に死ぬと考えている。
しかし実際に死んでも戻ってきただけのトライと、若干意識のズレが発生しているのだが、トライは「そういうもの」だと思って特に訂正しようとはしない。
決してめんどくさいからではない、と言い切れないのが彼の残念なところだ。
「まぁしかし、逃げるのも時には正しい判断です。
特に冒険者の方々には「熟練度」というものがあり、わざと敵を倒さない方もいると聞いたことがありますし」
「熟練度ぉ?」
「私も聞いた話なので詳しくはありませんがね。
何事も繰り返せば繰り返しただけ上手くなるのが道理、戦いも自分の能力も同じように、戦っただけ、使っただけ、たとえレベルがあがらなくても自らの力になるということです」
「ふ〜ん?
ようは無駄じゃねぇってことか」
「生きて帰ること自体に意味があるということですな」
ちなみに熟練度に関してはこのゲームにおいて隠しステータスである。
なんとなくそうかもと思っているプレイヤーこそいるが、神父が言ったような熟練度「のみ」を狙って上昇させるようなプレイヤーはまだいない。
「ん〜む、しかしあんなヤツがいたんじゃ一人で冒険すんのも楽じゃねぇなぁ」
「まあ仲間を探すのは重要ですな、何事も一人では辛いものです。
一人でするなら、圧倒的な力か……あるいは工夫が必要ですな」
「工夫ねぇ」
「例えばそうですな、ゴブリンは戦士系より弓手系のほうが総じて足が遅い、というのを利用している冒険者の話を聞いたことがありますな」
「そうなの!?
そういうのは先に言えよ!?」
「いやいや、いきなりゴブリンと戦うとは思っていなかったものですからね」
「まぁいい!
あいつは俺の最初の獲物だ! 今決めた!
それさえわかりゃこっちのもんだ!」
ガバッと立ち上がったトライは、踵を返して外へと向かう。
「は?ちょっ……」
「じゃあなクソ神父!
二度と来ねぇと思うが、またな!」
神父のありがた〜い、助言の続きを大声で遮り、トライはずんずん外に向かって歩き出す、むしろ走ってるに近い。
「ゴブリンは弱ると仲間を〜……ダメだ、聞いてない」
溜め息を吐きながら、また戻ってくるんだろうなと確信している苦笑いを浮かべる神父。
今トライと同じように、この場に誰かが来たならば、今の神父がNPCだと思う人は誰もいなかっただろう。
――――――――――
「と、いうわけで今度は一対一だ!」
再び林に場所は移る。
走ってきたのでトライは若干息があがっているような仕草をするが、ゲームなので当然そんなことはありえない。
気分の問題だ。
前回と同じようにして、いつの間にかアイテム欄に戻っていた両手剣を出現させ、しっかりと握りしめる。
「フフフ、今回は前の俺とひと味違うぜ!」
そういって前回と全く同じポーズをビシィッと決めた! カッコいい! (と本人は思っている)
そして。
「ここだっ!」
一瞬を置いて突然横にずれながら、体を反転させて後方を確認する。
その動作に合わせるようにして、トライの目の前を見覚えがある矢が飛んでいった。
「はっはっはっ!
2度も同じ手をくうかボケェ!」
偉そうにふんぞり返るトライ。
自分の考えが上手くいって上機嫌になっているようだ。
それが致命的すぎる隙だとは、考えることさえせずに。
「さぁこっからがほんばぷげらっ!?」
トライの後頭部に衝撃が走り、再びトライの体は不自然に停止した。
そして見覚えのあるメッセージが表示される。
HPが0になりました、セーブポイントに帰還しますか?
はい
いいえ
「バカなああぁぁ!?」
結局どうしようもないトライは再び教会へと帰還するしかないのであった。
――――――――――
「だが諦めん!」
が、すぐに戻ってきた。
「さぁ!やり直しだ!」
今度は上手くやった。
挑発を決め、矢を避け、すぐに正面に向き直る。
「あめぇっ!」
真上に持ち上げた腕に持つ剣が、真っ直ぐに降り下ろされる。
それをトライは大きく左側に左足から下がり、膝を折らせることで上半身を大きく傾けながら避ける。
傾けたことによって崩れた重心を直そうともせず、むしろ残った右足を思い切り踏み込んでさらに力を加えた。
それだけでは終わらず、上半身を捻り、右足の踏み込みを使って半ば無理矢理体を回転させる。
踏み込んだ右足で地面を擦りながら、両手で握り締めた大剣を勢いにのせて斜め下から切り上げるようにして振り切った。
(ヤった!)
剣を振り下ろしたままの姿勢で、顔だけがこちらを見ていた筋肉が驚きの表情を浮かべている。(ような気がする)
咄嗟に左手に持っている盾で防ごうとしているようで、わずかに左手が持ち上がっているのが見えた。
(遅ぇ!)
だがそれも勢いに乗ったトライの斬撃には間に合わず、剣が描く軌跡に割り込むことはできなかった。
狙い違わず筋肉の脇腹に吸い込まれるようにして剣が進んでいき、接触する。
ガッギィーン!
「は?」
およそ金属と肉がぶつかったとは思えない音が鳴り響き、トライは剣を振り切った姿勢のまま硬直してしまった。
トライとしては「???」な状態である。
確かに剣が肉体に接触するのを確認したし、少なくとも見た目上は金属音がするような要素は無い。
まるで鉄の塊を攻撃したようなその効果音がトライの思考を掻き乱し、彼は完全に硬直してしまっていた。
サクッ
当然そんな致命的な隙を弓手が逃すはずもなく。
トライは自分の名のごとく、三度死に戻りという結果になったのであった。
HPが0になりました、セーブポイントに帰還しますか?
はい
いいえ
「なんでやねーーーーーん!!!」
――――――――――
「自信が無くなってきた」
教会に戻るなり、トライは神父に愚痴る。
「まぁまぁ」
神父としては苦笑いを浮かべるしかない。
冒険者として出会ったばかりの青年が数時間もしないうちに自信喪失。
神父が神父の立場でなかったのなら、「向いてないんじゃね?」の一言が出てきそうなものである。
「それは恐らく「装甲値」でしょうなぁ」
「装甲値ぃ?」
なんだか前にもやったようなやり取りが始まる。
「そうですな。
これもまた人から聞いた話ですので詳しくは無いですが……
モンスター達は総じて固い皮膚を持っているそうです、程度の差はもちろんありますがね。
それは人間で言うところの鎧のようなものだそうで、鎧を斬っているわけですから金属音のようなものが出たのかもしれませんな」
補足しておくと。
このゲームでは全てのモンスターに装甲値が設定されている。
この装甲値は簡単に言うと「装甲値以下のダメージを無効にする」というもの。
考えても見てほしい、子供のパンチで分厚い鎧を着た男を、「時間さえかければいつかは倒せる!」などと言えるだろうか?
低レベルのものを高レベル狩場に連れて行って無理矢理レベルを上げさせる行為の対策らしいのだが、一般プレイヤーには概ね不評なシステムだった。
その行為そのものは他のゲームではよくある光景だし、なぜ対策したのか未だに明確な回答が無いのも不評に拍車をかけている。
「ってこた攻撃力が足りねぇってことか?」
「まぁそういうことでしょうな。
ただこの装甲値というもの、何度も攻撃を当てているうちにどんどん低下していくそうですし。
まだまだ冒険を始めたばかり……というか攻撃を当てたのが始めてでは仕方ないのではないですかな?」
「はぁ~、つまり地道に戦っていくしか無いってことね……」
「がんばってください(にっこり)」
ちなみにこの「装甲値が低下する」という情報、他のプレイヤーは知らない。
普通は序盤の装甲値が関係ないような敵としか戦わないし、ある程度攻撃力があがってくれば装甲値を上回った状態から戦闘となる。
逆に装甲値を下回っているならば「攻撃力足んね(笑)、狩場変えるべ」となるので、低下するまで戦闘するということがほとんど起こらないのだ。
「しかし今のままではつらそうですな。
どうです?祈りを捧げてみませんか?」
「前にも言っただろうがよ、俺は神に祈ったこたねぇよ」
「ふむ、何故です?」
「……昔なんかの漫画でよぉ、かっこいい台詞があったんだよ。
それを真似してるだけだ」
「漫画が何かはわかりませんが、どんな台詞だったんです?」
「……神に祈るな、祈れば両手がふさがる……だったかな。
神に祈るために両手を使うぐれーなら、その両手で行動を起こせって意味だと思ってる」
「……なるほど、祈りを捧げる立場としてはなかなか辛い言葉ですな」
「わりぃな、そういうわけで俺は祈りってのはしねぇことにしてんだ」
「ではそうですな、あなたの代わりに私に祈らせていただけませんか?
私は逆に祈ることしかできません、私の両手は祈るために存在します。
あなたの両手は行動を起こすために、私の両手は祈りという行動を起こすために。
あなたのために、私に祈らせていただけませんか?」
「はっ、人のもんをどうこうするつもりまでねぇよ。
あんたの両手はあんたのもんだ、あんたの好きに使えばいいだろが」
「はっはっは!
なるほどそれは失礼しました、では遠慮なく使わせていただきましょう」
神父はそう言って、神父の後ろに建っている神像へと向き直る。
そして自分で言った通り、両手をしっかりと組み合わせ、目を閉じ、片膝を地面につけ、祈りを捧げ始めた。
「……神よ、彼の者に祝福を与えたまえ」
ピロリン♪
(ん?)
唐突にトライの耳にそんな電子音が響いた。
神父にはどうやら聞こえていないようで、変わらず祈りを捧げている。
一瞬遅れてトライの前にウィンドウが表示されていた。
ミニイベント「神父の祈り」
内容
神父があなたのために祈りを捧げてくれました。
あなたに神の加護(弱)が与えられます。
加護を与えてくれる神を選んでください。
戦神の加護(弱):攻撃力がアップ(弱)、装甲値を一部無視(弱)
魔神の加護(弱):魔法攻撃力がアップ(弱)、最大MPがアップ(弱)
創神の加護(弱):生産成功率がアップ(弱)、生産の熟練度上昇率がアップ(弱)
それを見た瞬間、トライの脳に電撃が走った。
(装甲値一部無視……だと……っ!?)
今まさにそれで苦渋をなめさせられたばかりのトライにとって、まさに天啓だった。
迷うことなく戦神の加護を選ぼうとして……思いとどまる。
「なぁ……」
なんとなく、そうなんとなく。
神父は自分がこんな状況になっているなんて気づいていないのではないかと思ってしまったのだ。
そしてわずかとはいえ、自分に協力してくれていた神父に黙って決定してしまえば、この神父はこの先もずっと知らないままなのではないか。
所詮NPCではあるのだが、トライにはなんとなく、それは不義理なんではないだろうかと思えた。
「……祈るなら、戦神に祈ってくれねーか?」
「戦神……ヴァナルガンド様ですか、承知いたしました」
祈りの姿勢のままで、微動だにせずそう神父はそう返した。
そして数秒が過ぎ。
ピロリン♪
再び電子音がトライの耳に響く。
ミニイベント「神父の祈り」
戦神ヴァナルガンドの加護を得ました、ステータスが上昇します。
戦神ヴァナルガンドの加護:HP上限アップ、HP自然回復速度アップ、攻撃力アップ、装甲値を一部無視。上昇率・無視率はプレイヤーのレベルその他に応じて上昇する。
(なんかさっきと若干違うような?)
実際違っている。
完全に余談なのだが、戦神と一口に言ってもこのゲーム上では複数体存在する。
その中でもヴァナルガンドというのは、設定上では一番メジャーな神で、一番力のある神とされている。
トライが知る由もないのだが、戦神といえばヴァナルガンドというくらいに有名な神なのだ。
本来与えられるはずだった加護は、名の無い最低限の加護であり、別のイベントでも手に入るため所有者は結構いる、というか前衛系ならほとんどのプレイヤーが持っているだろう。
名前つきの加護も一部のプレイヤーは持っているが、いずれもヴァナルガンドより下位の神のものであり、ヴァナルガンドの加護は取得できないものだと思われているのが現状であった。
しかし繰り返すが、トライはそんなことを「知らない」
ただ戦神と伝えてしまったため、神父は一番メジャーなヴァナルガンドを選んだというだけなのだが。
「……ありがとよ」
その言葉に反応したのか、神父はスッと立ち上がる。
そして人当たりのよさそうな笑顔を浮かべ、にっこりとトライに向き直った。
「さぁ、祈りは終わりです。
あなたは祈りのためにではなく、戦うためにその両手をお使いください」
「ああ……、行ってくる!」
カッコつけて両手剣をインベントリから取り出し、肩にかつぎあげ、出口へと歩き出すトライ。
今度こそ本当に戻ってこないかもしれないと思いながら、トライはしかし振り返ることをせず、まっすぐに筋肉ダルマの元へと歩き出した。
――――――――――
が、第1話の冒頭につながるまでの話。
そしてその結果、彼はわずか30分後に再び神父の前に姿を現す結果となったのであった。
「心が折れそうOTZ」
「ははは(苦笑い)」
主人公あっさり死んでますが、MMORPGだとこんなもんですよね
※2012/8/27
メタ発言を修正
決してめんどくさいから~→後半を修正
例としてあげるなら~→削除・別の説明を記載
※2012/9/4
文章を全体的に修正、内容には変化なし