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第38話・つまり無理ゲーってことだ

お騒がせいたしました


詳細は活動報告にて記載させていただきます

ちょっと短めですが、ごらんください

「よっ、と。

 こんなもんか?」

 

 無駄に叫び声をあげ、見えない壁の隙間、入れるようになった通路の崖に降り立ったトライ。

 その後は他のメンバーがこちら側に来れるようにと作業をしていた。

 

 全員分の素材を使い、新たに作り出したマッスルモンキーテールの束をアイテムインベントリから取り出す。

 

 ちなみにこの時点でトライはこれが武器になっていることに気づくのだが、例によってみんな知ってることだろうと思い誰に話すこともしなかったようだ。

 

 そして取り出したロープ代わりの鞭を魔力操作により反対側へと渡し、受け取ったシャインが近くの木へと結びつける。

 トライも同様に近くの木に結びつけ、これと同じ作業を何度も繰り返していった。

 

 3本が斜めに、それと交差して英語のエックスを描くかのようにしてロープを張る。

 さらにその上を真っ直ぐに直線で結んだ10本並ぶロープという使われ方のマッスルモンキーテール。

 さらに左右1本ずつ、ちょうど手の高さに来るようにしてロープが張られている。

 

 ロープを使った簡易橋が完成したのだった。

 

 これが現実リアルであったのなら、2〜3メートルくらいならともかく10メートルとかこんな橋で渡れるわけ無い、ゲームであるからこそ渡れる橋なのだ。

 

 素材の強さなのか、完成した橋はトライが乗っても余裕で耐えきり、他の三人が危なげなく渡ることに成功したのだった。

 

「うし、んじゃ行くか」

 

 こうして障害を乗り越えたトライ達は、改めてフェンリル目指して奥へと進む。

 

 

――――――――――

 

 

 それは唐突だった。

 唐突すぎて、誰も反応できなかった。

 

 フェンリルがトライ達に気づいた瞬間、「それ」は起こった。

 

 全てを飲み込むかのような眩い光が勢いよく進む。

 そして飲み込むという表現を正しく証明するかのように、周囲の木々をその光で包み込み、木の緑も、土の茶色も、木の実の赤も、何もかも無関係に白一色に染め上げていく。

 透明であるはずの白い光は、絵画に白の絵の具を原液のままで上塗りしたような光景を残し、一瞬してその光が消えた後はまさに「飲み込まれた」かのような光景だった。

 

 消滅。

 

 光に飲み込まれたものは何一つとして残ることなく、ただ何も無くなった地面が広がるだけの光景が広がっている。

 

「おいおい、マジかよ」

 

「は、派手な演しゅちゅっていう可能性もありますよ?」

 

「そこらへんはどうなの、シャイン?」

 

 その光景を流れるはずの無い脂汗が流れるような感覚で見つめる四人。

 トライとリナの驚愕に、ダメ元とわかりながらもシャインに確認するトロン。

 ただの演出で実際には大したことはない、シャインからそう言われることを願って。

 

 しかしシャインの首が縦に降られることは無かった。

 

「いや、あれはマジだ。

 カンスト超レア装備ガチムチステがミリ残りするレベルのマジだ」

 

「よくわかんねぇがヤバいんだな?」

 

 通称「暴食グラトニー」と呼ばれるフェンリル専用の特殊スキル。

 正式名ではなく、飲み込んだようなその圧倒的な破壊がもたらす光景を、プレイヤーが某アニメから連想したものが定着したもので、フェンリル自身もこの名で呼ばれたりする。

 

「FG全体で見てもあれを耐えられるプレイヤーは1%もいない。

 絶対喰らうな、絶対喰らうな!」

 

 大事なことらしい。

 2回も言ってしまうほどに大事なことらしい。

 

「言われなくても……散らばれ!」

 

 トライの叫びに呼応するかのように、フェンリルは再び動き出す。

 

 2階建ての一般的な家ほどもある深い青色の狼のような巨体。

 白いラインが何かの紋章のように所々に走り、その紋章の中心、ちょうど背中に当たる部分に規則的に並んだ鉄のような質感の突起物が並んでいる。

 それが白く光を放ち始めると同時にフェンリルは頭を1度地面を見るようにして下げ、勢いをつけて今度は空を見上げるようにして頭を上げる。

 頭のその挙動に合わせて一瞬だけ両腕を浮き上がらせ、白い絵の具のような光が溢れる口腔をトライ達に向けると同時に両腕を地面に強く打ち付け。

 

「――――ッ!!!」

 

 自らの叫び声さえ消し去るような轟音を響かせた。

 

 白い光は瞬く間にトライ達に迫り、消滅という無慈悲な結果を生み出そうとする。

 

「っ!?」

 

 間一髪、と感じる程度のタイミングでトライはなんとか光から逃れた。

 すぐに立ち上がってみればすぐ目の前にはシャインの姿。

 さすがイケメン、こちらもなんとか避けたらしい。

 

「おい! こりゃ無理じゃねーか!?」

 

 トライには、今いつかの言葉が甦っていた。

 

『それはのう、敗北……それも圧倒的な実力差での敗北じゃ。

 お主、そんな相手と戦ったこと無いだろう?』

 

 侮っていた。

 ここまでの差ではないとはいえ、トライは1度それを経験していたハズだった。

 転職し、新たなスキルを取得し、擬似的とはいえ修羅場を潜ってきた。

 それがいつの間にか、自分の中に慢心を生み出していたのだ。

 

 これはゲーム。

 

 だから、自分より強い存在なんていくらでもいる。

 自分より弱い相手しか見ていなかったから、自分が強いと思い込んでいた。

 

 その結果が、どんなことになるか考えることを忘れていた。

 

「くそっ、イベントだから戦闘は無いんじゃないかと期待したのにっ。

 これはガチバトルじゃないかっ!」

 

「ト、トライさん……」

 

 か細い声がシャインとは反対側から聞こえてくる。

 

「どうした、今はあいつから目はなせねぇぞ」

 

 油断しない、そう決めたようにトライはフェンリルをジッと見る。

 破壊された木々の向こう側に立つフェンリルは、それに気づいているのかジッと目を合わせるようにして動かない。

 

「トロ、トロンさんが……っ!」

 

「「なにっ!?」」

 

 トライとシャインは勢いよく後ろを振り返り、リナを見る。

 そしてリナが震える手で指差す方向を見てみると。

 

 そこには、食いちぎられたようにして上半身が消え去り、断面が真っ黒になっている下半身と伸ばした片腕だけが奇妙に空中で固定されていた。

 

 トロンは、避けきれなかったのだ。

 

「トロ……」

 

 トライが何かを叫ぼうとしたが、最後まで続けることはできなかった。

 

 三人は、白い光に飲み込まれて消えていった。

 

 

 

 HPが0になりました。

 このマップでは復活できません。

 セーブポイントに強制転送します。

 

 

――――――――――

 

 

「「「「あれは無理」」」」

 

 地味に死に戻り初体験のトロンがトラウマにならないか心配されたものの、本人は気がついたら死んでいた状態なので特に気にすることも無かったようだ。

 

 そして無事(?)に仲良く帰還した(させられた)四人は当たり前のように教会の庭に集まり、なぜかまたいなくなっていた神父を除いて作戦会議という名の言い訳大会を始めていた。

 

「モーション短すぎ、あれじゃ見てから避けるなんてできないわよ」

 

「それはレベルが上がっても同じらしいよ。

 だから討伐するような魔法職はAGIを装備で強化してたりするね」

 

 もちろんその装備は目玉が飛び出るような超高級品だったりするので、今の四人では1つ手に入れるだけでも不可能だ。

 

「おまけに発動の感覚が短すぎです。

 あんなに連発されたら迂闊に近づくのも難しいです」

 

「いや、あれは近い相手には使わないから一気に近づけば問題無いと思うよ」

 

「問題ありだバカ野郎。

 見つからずに奇襲できる相手じゃねーだろうが。

 一気に近づく手段がねぇって話だろ」

 

 フェンリルがいたマップは例の隙間から1度中に入ってしまえば、確かに視界はよろしく無いものの先が全く見えないわけではない。

 要するに動く何かがあればすぐにわかる程度の密度であり、おまけに何故か全てのオブジェクトがHP設定されている破壊可能なものだった。

 フェンリルからすれば何か動いたなら周辺ごと破壊すれば済む話なので、はっきり言って挑む側の不利から始まるような状況になっているのだった。

 

「解決策は、無いわけじゃない」

 

 しかしさすが頼れる頭脳担当シャイン、経験から来る知識というのは、何者にも変えがたい財産である。

 

「これは実際に討伐してるプレイヤーが用いる手段なんだけど……。

 剣士系で転職した先のスキルに『ブースターアクション』っていうのがある」

 

スキル「ブースターアクション」

 スキルが使えなくなる代わりに、文字通り加速された行動が可能になるスキルだが、効果時間が最大レベルでもわずか3秒という極端に効果が短いスキル。

 ただし加速された肉体と認識能力は壮絶の一言であり、効果が切れた瞬間に最大HPの3分の1が減るという仕様にも関わらず取得者は多い。

 つまりマト○ックス。

 

「さらにヒーラーが転職した先にあるスキル『アジリティバースト』っていうのがある」

 

スキル「アジリティバースト」

 10秒間AGIを2倍にするスキル。

 FGではAGI1ポイントあたりの恩恵が少ないため、極振りでもしていない限りあまり効果を実感できないスキルだ。

 普通は1回の攻撃が1.2回になったかな?程度にしか感じない。

 

「この2つが重なった前衛が全力で突撃すると、とんでもない速度で急接近できるようになるんだ」

 

 そしてここに魔法職が、最大火力で魔法を展開して戦闘開始となる。

 これがフェンリル戦の開幕となるのがセオリーだった。

 

「つまり」

 

「つまり?」

 

「転職しよう」

 

 ここで、諦めるという選択肢もあった。

 フェンリルのことなど忘れて、普通にプレイする道もあったはずだった。

 

 しかし誰もそれを選ぼうとすることは無い。

 

 それがどんな結末に繋がるかなど知りもしなかったから……

今後ともよろしくお願いいたします


お騒がせいたしました

大事なことなので前書きと後書きで2回言いました


※2012/8/26

削除の仕方がわからなかったので第38話をコピペして修正


※2012/8/28

メタ発言を修正

猿尻尾の橋付近を修正

死に戻り後の会話を若干修正

※2012/9/14

文章を全体的に修正、内容には変化なし

※2013/2/4

ラージエイプ→マッスルモンキーに変更

エイプは尾の無い猿のことらしい

(情報提供ありがとうございます!)

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