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第37話・つまり俺はやっぱりバカだったわけだ

バカ全開でお届けします

日間5位キターッ!!!


こ、この調子で1位とかとれたりしないかなっ?

あ、調子のりすぎですかすいません

「うむ」

 

 トライは自分達の前に広がる光景を前に、一言だけ呟きながら頷く。

 その言葉を出す前に行ったのは、たった三度だけ視線を動かすという行為だ。

 

 発見し、立ち止まる。

 遠くを見て、上を見て、下を見る。

 簡略化すればただそれだけしか行ってはいない。

 しかし得てして人の考えというものは、体が起こす行動の何倍もの量を考え、時にはそれが幻覚さえ引き起こすほどの具体的なイメージさえももつ。

 

 この時のトライもそうだったのかもしれない。

 

 自分の予想が正しければ、もしかしたら……

 

 

――――――――――

 

 

「で、何を作ってるんだ?」

 

 これはシャインの発言である。

 唐突に聞こえる言葉だが、なぜこの言葉を放ったかと聞かれれば、少し前の話をしなくてはならない。

 

 唐突に休憩しようと言い出したトライ。

 消耗品を使えばまだまだ行動できる程度の消費しかしていないが、そういう類いは使わないならそれに越したことはない。

 時間的にも精神的な疲れが溜まるころでもあったし、四人は休憩することにして地べたへと座り込んだ。

 

 座った途端、トライはかつてチェックを入れたまますっかり忘れていて全員に見える状態のままになっているステータスウィンドウを開いた。

 余裕さえあればまずはステータス、そう教えたシャインは自分の言葉に素直に従っているトライを見て「これであいつも脱初心者だな」なんて甘いことを考えてしまった。

 その考えがハチミツに砂糖をかけて甘いジュースに溶かして飲んだくらい甘かった。

 

「ふんふんふ〜ん」

 

 女性が言ったら、トロンかリナが言えば非常に可愛らしいお花畑とか見えちゃいそうな鼻歌を奏でるトライだが、声が低いわ顔怖いわで色々と残念な光景に仕上がっている。

 

 思い思いの姿勢で座る三人の訝しげな視線がトライに突き刺さるが、本人はさすが熟練度MAXから来る高HPと高VIT。

 三人の視線など子供のパンチなみに気にならないようで、自分の目的をこなすためにウィンドウを鼻歌まじりに操作していく。

 

 時に余談ではあるのだが、生物の尻尾というのは普通肉体の一部だ。

 腕や足のように芯となる骨があり、その周りを肉が多い、生物によってはそこに髪の毛のように毛が生えている。

 ところがトライ達が戦い、そのドロップ品として手に入る「マッスルモンキーの尻尾」

 これは説明欄にも書いてあるのだが、実はこれ尻尾と呼んでいい物体ではなかったりする。

 実は、これは芯のない、毛の塊なのである。

 いや、正確にはそれも表現としては間違っている。

 一本の毛、これが表現としては正しくなり、枝毛と説明するのが最も適当な表現となる。

 つまり一本の長い毛がものっそい枝分かれしまくった結果生まれる物体であり、尻尾という表現は見た目上の伝わりやすさを重視した呼び方に過ぎないのだ。

 

 なぜこんな余談をしたか?

 その理由は簡単だ。

 

 つまりこれ、言ってしまえば一本のロープのようなものなのだ。

 50センチほどある巨大な毛のロープ、生前のマッスルモンキーが纏う毛皮の特徴をしっかりと受け継いでおり、柔軟性と弾力性に富んだ硬質ゴムのような毛のロープ。

 そしてそのロープのようなものを、自分のアイテムインベントリから次々と出現させていくトライ。

 ロープ同士を硬結びで次々と繋いでいくトライ、芯の無い毛の塊であるので、正しい尻尾では不可能な折り曲げや結び目も容易く行うことができる。

 ここまで来て先程のシャインの言葉につながるという状況なわけだ。

 

「なにって、あれだよ」

 

 そのシャインの言葉に対し、トライは自分の後方をあごでしゃくる。

 この動作は人によっては非常にイラッとされるのだが、トライはそんなことを考えなかったようだ。

 

「あれって、どれだよ」

 

 シャインも若干イラッとしたのかもしれない、少しばかりトゲのある言葉使いで聞き返してくる。

 一応視線はトライの示した後方を見てはいるが、シャインには底が川になっている幅が10メートルほどの谷が見えるだけだ。

 ジャングルの成長した木がトンネルのように谷の上部を覆っていて、日を完全に遮断するほどではないが邪魔といえば邪魔という程度に成長した枝が伸びている。

 枝の上を歩いていけば向こう側に渡れそうな気がしなくもないが、その細さは人間を乗せるには心もとない太さでしかない。

 

 トライは自分以外の三人がその谷を見て、自分以外の誰も思いついていないことにニヤリとする。

 そして、彼は自分の思い描くちょっと先の未来のヒントを与えるべく、谷の横幅と同じくらいの長さにまで結んだロープを手に立ち上がり、谷の際まで歩き出す。

 

「ふふふ、よく見ろシャイン。

 ここには男の、いや漢のロマンが揃ってるじゃねぇかっ!」

 

「お、漢のロマンだってっ!?」

 

 ガビーンという擬音がシャインから聞こえた気がする。

 そのシャインの様子を満足げに見ながら、トライはさらにヒントを出し始めた。

 

「見ろシャイン! ここには谷がある!」

 

 下が川になっているが、確かに谷がある。

 ちなみにこの谷結構深い、20メートルは軽くあるんじゃないだろうか。

 10階建て小規模ビルくらいの高さだ。

 

「たっ、確かに!」

 

 オーバーリアクションで反応するシャイン。

 

「確かに谷ね」

 

「確かに谷です」

 

 こちらは普通に確認するように呟くトロンとリナ。

 

「そしてそれを覆うように木があるっ!」

 

「確かにっ!!!」

 

「うん、木もあるわね」

 

「確かにありますね」

 

 同じような問答を繰り返す四人。

 なんとなくトロンは気がついたようで、言葉はすでに呆れたような言い方になっている。

 

「そして! ここに! ロープがある!!!」

 

「ロープがあるっ!?」

 

「……」

 

「今しがた作ったばかりのロープですね」

 

 トロンはもはやツッコミさえ入れない。

 絶対に「あれ」をやる気だとわかっているようだ。

 

「つまりっ!」

 

「つまりっ!?」

 

「……」

 

「つまり?」

 

 熱のこもったトライ・シャインと、妙に冷めた反応のトロン・リナ。

 ギャップが激しく感じられるこの空気の中、トライがいざ実行!とばかりにロープを握り締める。

 

「こういうことどぅぁあああああっ!!!」

 

 トライが野球のピッチャーのようにしてロープの先端を握り締め、大きく振りかぶって投げた。

 熟練されたシュートスキルと魔力操作スキルによってロープは正確に木の枝へと向かい。

 

 バキッ!

 

 向かい……向かい……

 

 バキバキバキッ!

 

 ……向かった結果

 

 バキンッ!ガランッガラァーン

 

 向かった結果、熟練されすぎたシュートと「ある理由」によって、枝が折りまくられただの環境破壊という結果を残した。

 

「「「「……」」」」

 

 四人の間を痛い空気が流れたのは説明する必要もない。

 

 

 ――――――――――

 

 

「気を取り直してだな」

 

 その後環境破壊につぐ環境破壊を行い続け、「単純に魔力操作だけでやりゃいんじゃね?」ということに気づいたシャインによってやっと成功した。

 ロープは見事に頑丈そうな木の枝に絡みつき、ちょっとやそっとではほどけないだろうほどにがっちりと巻きついている。

 

 ここまで来れば読者の皆様も気づくであろう。

 つまりトライがやりたいのは「あれ」である。

 

 グッと最後に一度ロープをひっぱり、外れないことを確認したトライが構える。

 

「ではでは、ゴホン。

 あーあー、あ、あ、あ」

 

 喉を押さえて声の調子を整えるトライ。

 ゲームなのでタンが絡むとかありえないのではあるが、そこは癖であろう。

 とにかく準備万端、といった状態になったトライ。

 

「行くぜっ」

 

 最後に体制を構え、走り出す前にロープを思い切り引っ張り走りだs……

 

 バキバキッ!

 

「……」

 

 走り出そうとして、枝が折れた。

 

「うん、まぁトライのSTRで引っ張ったらそうなる……かもね」

 

 余談その2

 FGのオブジェクトは一部にHPが設定されており、普通に攻撃できちゃったりする。

 これまた妙にリアルに設定されたFGの仕様で、壊し方によっては特殊なアイテムが手に入ったりするのだが、この場合はそれは関係ない。

 普通はロープを引っ張った程度では壊れたりはしないのだが、今回こうなった原因ははっきりとしていた。

 

 武器「マッスルモンキーテイル」

 種別:鞭

 攻撃力:10

 耐久力:150

 重量:50

 マッスルモンキーの尻尾を束ねて作った鞭

 意外と強くて軽いが、獣臭いのがたまにきず

 

 この瞬間、システムではなく手作業でアイテムを作ることができる、という事実が発覚している。

 しているのだが、残念なことにそれを冷静に理解できる人物はいなかった。

 

 

 ――――――――――

 

 

「気を取り直してだなっ!」

 

 何事も無かったかのように再び同じ行動を起こすトライ。

 今度は慎重に無駄にロープと思い込んでいる武器を引っ張ったりはしない。

 声の調子もばっちり整え、今や「あれ」を実行するのみだ。

 

「行くぜっ!」

 

 そして間違うことなく、実行したっ!

 

 崖に向かって走り出し、加速をつけて一気に飛び上がる!

 それと同時にロープをしっかりと握り締め、右手は頭の上で固定し左手はわき腹あたりでロープを抑え付けるようにして抱える。

 そしてこれをやるなら出さねばならない、あの言葉をついに放ったっ!!!

 

「あ~あぁ~~~~~~!!!」

 

 そう! ターザンごっこ!

 漢なら一度はやってみたはずだ!

 

「かっこEEEEEEEEE!!!」

 

 なぜかシャインがキラッキラした目でトライを賞賛している。

 

 無駄にスペックのあがったステータスを無駄に活用し、無駄に見事な体重移動を行って無駄に真っ直ぐに進んでいくトライ。

 そして無駄に華麗なフォームでうまい具合に移動したトライだが、ここで重大な事実に気づく。

 

(長さが足りねぇっ!?)

 

 向こう側にたどり着くには長さが足りなかった。

 あとほんの少し!尻尾の長さあと5本分ほど長さが足りない!。

 しかしここで諦めては散々焦らしたあとの成功であるからして、ここで失敗して戻ってきました☆なんて格好悪すぎて目も当てられないことになるだろう。

 

 意を決してトライは。

 

 飛び立つっ!!!

 

「とうっ!」

 

 無駄に華麗な動きから無駄に高いスペックで飛び立ったトライ。

 そのジャンプはまさに無駄に完璧で、間違いなく向こう岸へと届くだけの勢いを持っていた。

 さぁあとは着地を決めるだけだ、そう思っていたトライに思わぬ壁が立ちはだかった。

 

「へぶっ!?」

 

 見えない壁という物理的なものが。

 

 ビターンと聞こえそうな感じで見えない壁にぶつかったトライ。

 当然つかまるものなど何も無い中空での衝突だ、トライに為す術などあるはずがない。

 ロープなどとっくに反対側へ戻っていっている。

 

「あーっあぁ~~~~~~!?」

 

 言葉は同じだが、非常に残念な叫び声を残してトライは谷底へと落下していく。

 

 バキンッ

 

 攻撃判定によって破壊された木の枝とともに、マッスルモンキーテールがトライのあとを追いかけていくのがトライ以外の三人に見えていた。

 

「トライさんって馬鹿なんですか?」

 

 リナの真剣な問いに、苦笑いするしかないシャインとトロン。

 ドボォンとトライが川に落ちた音だけがむなしく響いた。

 

 

 ――――――――――

 

 

「ひでぇ目にあったぜ……」

 

 システム的な話をすると、川や谷底などのいわゆる落ちたら助からない的な場所に落下した場合、一定のダメージか何らかのペナルティを受けた状態で落下する直前の場所に戻る、という仕様になっている。

 今回の場合はHPが無条件で1になるという設定だったようで、シャインが回復させつつ座って改めて休憩をしている。

 

「バカだな」

 

「バカよね」

 

「バカだったんですね」

 

「るっせ!」

 

 今更だがトライはバカだったようだ。

 システム的に立ち入れないエリアは今回のように見えない壁に遮られており、普通は今回のようにその直前が谷や川、場所によっては溶岩の滝などになっているため、そもそもそこを目指そうというプレイヤーはほぼいない。

 とはいえ今回は何も意味が無かったかと言えば、実はそんなことはない。

 川に落ちたトライ以外は、全員それに気づいている。

 

「ま、得るものが何も無かったわけじゃないみたいだけどね」

 

「怪我の功名……バカの功名って言ったほうがいいかしら?」

 

「う~ん、褒めればいいのか呆れればいいのか悩みます」

 

 シャインの言う得られたもの。

 それはまさに意外という他無かった。

 少なくともトライがいなければ、それを得るのは不可能だっただろう。

 

「どういうこった?」

 

「見てみなよ、トライが散々破壊したあたり」

 

「あん?」

 

 そこには、新たな道が見えていた。

 トライが散々環境破壊を繰り返した結果、一部の木々がボロボロに破壊され、その木のHPが0になったとシステムに判断されたらしい。

 トライが川底に落ちるのとほぼ同時くらいに、それらの木々はモンスターが倒された時のようなエフェクトを残して消えていったのだ。

 

 ちなみに道といっても、それは道とはとても呼べないような空間だ。

 ただ木々が一直線に隙間を空けているというだけで、地面の草もびっしり生えていて獣さえも通った形跡すらない。

 それでもそれを道と判断できるのは、その隙間がまるでそのために作られたかのように、不自然なほど一直線に奥まで続いているからだ。

 

「……奥になんかいやがるな」

 

 そしてそれが決め手だった。

 

 トライはこの時点では知らない、もちろんトロンもリナも、トライが川に落ちている間にシャインから聞くまでは知らなかった。

 紺色に近い深い青色の塊。

 保護色という機能を全否定するような色。

 何も知らなければただ変なのがあるな、で終わっていたかもしれないその情報。

 しかしその色をしている存在と、イベントの情報によってその存在がいるということを知っていたシャインによって、それが何であるかを教えさせられる。

 

「……行こう、あれがフェンリルだ」

 

 不自然なまでにぽっかりと空いた木々の隙間、そこから見えるフェンリル。

 フェンリルまでの距離は相当にあるように見える、それでもその体毛が青いということを認識できるということは、相手がそれだけ巨大な存在であることの証明に他ならない。

 トライは直感的に、これは今まで戦った「好敵手」などではなく、お互いの命を奪い合う「敵」だと認識していた。

 

「……ところでよ」

 

 そして彼らはその森へと進もうとして。

 

「どうやってこの川渡るんだ?」

 

 進む手段が無いことに気づくのだった。

 

「……ターザンごっこ……かな?」

 

「私はやらないからね」

 

「私も遠慮します」

 

 フェンリルのところに行くまで時間がかかりそうだ。

まぁうん、バカなんで・・・


今後ともバカをよろしくお願いします


※2012/8/28

メタ発言を修正

MAXコーヒーに関する部分を削除

このへんから段々まともに・・・

※2012/9/13

文章を全体的に修正、内容には変化なし

※2013/2/4

ラージエイプ→マッスルモンキーに変更

エイプは尾の無い猿のことらしい

(情報提供ありがとうございます!)

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