第35話・つまり戦闘回ということだ
タイトルの通り戦闘回です
最初から最後まで戦闘ばっかりです
あんまり馬鹿っぽくない・・・かな・・・
ナレーションはいつも通りお馬鹿さんです
「シャギャーーーッ!!!!」
木々が鬱蒼と茂るジャングルのような森の中で、巨大な猿が獲物に飛び掛かっていた。
一本一本が毛糸のような太さで、しかしその全てが硬質ゴムのような硬さと弾力を持った体毛。
それにびっしりと埋め尽くされた人間の胴体ほどある巨大な腕を振るう、体長2メートルほどの大猿。
「うるぁっ!」
上から振り下ろされた腕に、真っ向から両手剣の刃を切り上げるようにしてぶつけるのはトライだ。
これが現実であったなら、相手の重力と共に振り下ろされた腕の力と反対方向のベクトルを持った斬撃によって、この腕はちょっとグロテスクな音を出して千切れ飛んでいただろう。
少なくとも今のトライが持つベルセルクブレードでは、よく表現で使われるバターを切るような、なんていう素晴らしい切れ味は持っていないように見える。
そもそも両手剣を含めた西洋剣というのは「斬る」よりも「潰す」とか「断ち切る」とかの使い方をされるほうが多い、なので恐らくこのまま強化しても、この剣にそんな切れ味は絶対に生まれないだろう。
しかしこれはゲームだ。
明確に数値化されたステータスと、そのステータスの差によって計算された結果によって状況が決まっていく。
今回は残念ながら、トライのステータスでは切断とまではいかなかったようで、大猿の腕が上方に弾き飛ばされるという結果に止まった。
「ハッ!」
気合の掛け声が響き、その声が響いたことを大猿が認識するころには、彼の目の前にはすでに矢が飛んできていた。
「ギャッ」
リナが放った矢は正確に大猿の頭を貫き、彼の命をあっさりと奪い取った。
大猿がゆっくりと倒れていく仲、周辺の木に隠れていた仲間らしい大猿が3体ほど飛び出してくる。
狙いをつけているのは仲間にトドメを刺したリナ、そしてその近くにいる貧弱そうな女と男。
猿としては異様に大きい牙をむき出しにしてにやりと笑い、トライの脇をすり抜けようと走りだしたが。
「『させるかってんだよっ』」
トライの周囲に浮いていたリビングウェポン(に見える歪んだツーハンドソード)が、それぞれ1体に対して1本ずつが飛んでいく。
真後ろから背中を縦に、あるいは側面から横薙ぎに、あるいは男のロマンを彷彿とさせるようなドリルよろしく回転突きを行い、それぞれに多少のダメージを与える。
「おらよっ!」
さらに自分の近くに待機させてた1本を武器を持つ手とは反対の手で掴み、一番近くにいた大猿に向けて勢いよく投げつける。
見事な円弧を描いて大猿へと向かっていく両手剣は、少し前とは比較にならないほどの速度で飛んでいく。
かつてが人間の全力疾走程度であった速度だが、現在は高速道路を走る車ほど(時速100キロ)くらいとなって勢いよく飛ぶ。
ここまで早いと、対応する側はワンアクション行うのが限界であり、少なくともこの大猿はそれ以上の行動を起こすことはできなかった。
「ギ! (ガスッ)ギャース!」
怒りを表現しようとしていたのか、声を漏らしながら振り返った大猿。
顔が後ろを向いた途端、飛来した両手剣が頭部にどストライクしてしまい、非常に情けないやられ方をしてしまう。
しかし両手剣は突き刺さったり肉を切って硬直するようなことはなく、硬いものに当たったかのように弾かれてしまっていた。
さらには大猿もこの程度で死んだりするような弱いモンスターではなかったため、単純に怒りを倍増させて狙いをトライへと変更しただけになった。
他の大猿も同じく、スキルの効果もあって直接攻撃をしかけてきたトライへと狙いを変えたようで、向きを変えて再び走り始める。
「いっくわよーっ! 『フレイム』!!」
3体の大猿がトライを押しつぶそうとしたその瞬間に、トライを中心とした地面が真っ赤に染まる。
それが鉄板を熱したときのような赤、と連想できる余裕があるほどに、トライにとっては見慣れた光景だ。
大きくバックステップし、赤くなった地面から普通の地面の範囲まで逃れる。
それと同時に投げたことで減ったリビングウェポンを新たに出現させ、同時にベルセルクブレードを地面に突き刺し、両手に一本ずつスキルではない両手剣を出現させる。
すでにこの行動は何度も行ってきたものであり、フレイムとわずかな攻撃だけではこの大猿共は倒せないと経験している。
フレイムが発動し、ダメージ量の問題でトロンのほうへとターゲットが移ることがわかっている以上、対策をしておくのは当たり前だ。
「『マジックブースター』!!」
トロンのフレイムが発動する直前、実際に火柱があがる瞬間に、シャインからスキルが発動される。
淡い緑色の光がトロンを包み、トロンが持つ杖を若干強めの同じ緑の光が包み込む。
スキル「マジックブースター」
魔法関係のステータスを一時的に引き上げるスキル。
本来なら使った瞬間からそれなりの時間を強化し続けてくれるスキルだ。
レベル最大で使えば最低でも10分間は維持してくれる。
しかしこのスキルがレベル最大になるのは、順当なレベルの上げ方をしていれば転職直前くらい。
今のシャインではせいぜい1分程度が限界であるため、スキル発動の直前に使うのが頭のいい使い方である。
もちろん、このタイミングで使ったのには理由がある。
今現在でトロンのスキル再発動までにかかる時間は、スキル発動後の硬直時間と発動のための詠唱時間を全て含めて約50秒ほどかかる。
1分と50秒という、このわずか10秒間、たった10秒間ではあるものの、これが意外なまでに効果的に働く瞬間があるのだ。
例えば―――
「追加来ました、後ろです!」
―――スキルの発動直後に敵が出現した場合などがそうである。
リナの指摘した方向を見てみれば、そこには新たに3体の大猿が木の陰から現れていた。
このモンスターはリンクという特性を持っており、周辺で同種のモンスターが戦闘していると近寄ってきて戦闘に参加するという特性を備えている。
その周辺というのが結構な範囲で設定されており、マップの広さの関係上で戦闘が決まりそうな瞬間に増援が来る、というのもすでに何度か経験している出来事だった。
「リナさん、一回タゲとってください。
トライ、そっち倒せるか?」
ゴウッ! とその言葉の直後に火柱があがる。
噴水のような勢いで燃え盛る炎は、最初の3体の大猿を間違いなくその攻撃範囲に捉えている。
しかしよく見ればその動きは停止しておらず、トロンに向かって進もうと向きを変えているのが見て分かった。
「まかせな! 『どこ見てやがる!』」
再び「威圧」スキルを発動させると同時に、両手に1本ずつ持っていた両手剣をシュートで投げつけるトライ。
狙いたがわず大猿に1本ずつ衝突し、倒すとまではいかないものの注意をトライに向けることに成功する。
同時にベルセルクブレードを再び構え、シュートでダメージを与えなかった一体へと一気に接近し、唯一トロンの方向を向いていた1体を背後から縦に斬りつけた。
「ウギャッ!」
他人から見れば炎の中に突っ込むという常識外な行動で、頭ではわかっているベテランプレイヤーでさえも二の足を踏むような行動を迷いもなく実行するトライ。
彼からすれば炎の中に飛び込む経験を現実で行ったことがあるので、死なないとわかっていれば余裕だろぐらいにしか思っていないが……
「『アローレイン』!!」
それとは別に、リナが後方から現れた大猿達の若干上に向けて大量の矢を打ち放つ。
普通そんなことしたら飛ばないどころか、どうやって弓の弦にひっかけんだよみたいな状態になるのだが、そこはゲーム。
束になった状態で固定された大量の矢のどれかを弦につがえただけで、全部が一斉に飛び出していくという経験者からしたらなんじゃそりゃー! な状態で矢が飛ぶ。
なんじゃそりゃーが空中のある一転に差し掛かった瞬間、まるで束を固定していた紐がほどけたかのように、打ち出された指向性こそ失わないもののばらばらと不規則になって飛んでいく。
大柄な体格の猿達は、その体格に見合うだけの機敏性しか持っておらず、言ってしまえば動きが遅い。
つまり大量に飛んでくる矢を避けることなどできるはずもなく、本来なら防具の役目を果たすその硬質ゴムのような毛皮も、リナのステータスの前には役目を果たしきれなかった。
「ギャッ」
「ギュッ」
「ギョォー!?」
ビーストリンカーとなった現在のリナのステータスは高い。
はっきり言ってメンバーの中で一番高い。
特に弓の威力に直結してくる、DEXの値が群を抜いて高くなっている。
熟練度のことを考えれば今後は状況が変わってくるのかもしれないのだが、少なくとも現時点でリナの火力は頼もしい戦力だ。
トライに貫けない壁(猿の毛)も、今のリナなら貫くのは難しくない。
その意味が示す通り、矢は大猿達の毛を貫いて突き刺さり、非常に痛々しい見た目をした3体の大猿という光景ができあがった。
当然ダメージ量により、大猿達は狙いをリナへと変更し、距離が離れていることもあって突進に近い勢いで走り出す。
ものの数秒もすれば到達できる程度の距離で、そもそも近距離で打つ手の無いリナは逃げの一手を打つのが正解なのだが。
「『エクスチェンジムーブ』」
走って移動する、ということをせずにスキルを使うリナ。
普通のプレイヤーから見れば、この段階で引かないというのは悪手、そうとしか思えないタイミングでのスキル実行。
しかしその内容を知っているプレイヤーからすれば、それは最前の一手であると理解できる使用だった。
そしてその内容を知っているプレイヤーというのは、現状ではここにいる四人しかいない。
ブォン、と突風が起こったかのような音がする。
その直後には、リナの姿は完全に「消えて」いた。
正確には消えたのではなく、トライと大猿達を結ぶ延長線上、1メートルほど離れた地点に瞬間移動していた。
スキル「エクスチェンジムーブ」
入替の名が示す通り、一瞬にして自分の位置を入れ替えるように移動するスキル。
正しい使用方法は、テイムしたモンスターとの位置を入れ替えるために使うのだが、それ以外の使い方も存在する。
視認できる数メートルの範囲に限り、まさに瞬間移動のように一瞬で移動することができるのだ。
ただしこちらの効果で使用すると消費MPが非常に大きく、一度使ってから再度使えるようになるまでがかなり長い。
何より使うタイミングと場所を間違えると、一気にピンチになりかねないという、使用にセンスが必要なスキルだ。
リナにセンスがあるかどうかはともかくとして、この場合はうまい方向に成功したようで、一瞬位置を見失ったものの大猿達は再びリナへと走り始める。
それはつまり交戦中のトライへと向かってくるということになり、そしてそれはモンスター達が密集するという状況を作り上げる。
「『こいや雑魚どもがぁっ!』」
そこへトライがすかさず「威圧」で注意を自分へ向けさせるとともに。
「『フィジカルブースター』!!」
再びシャインによる支援魔法がトライへと発動される。
こちらはマジックブースターの肉体版で、緑ではなく赤い光がトライを包む。
「詠唱終わるよーっ!」
大猿達の注意がトライへ向くころには、50秒という時間を経て再びトロンが魔法を発動させようとする。
マジックブースター1回で魔法2回を放つことができる、という事実が、2回目の魔法を使う前にトライを強化できるという事実につながる。
「『フレイム』!」
そして再び放たれる炎の噴水、今度は避けようともしなかったトライが、新たに迫ってきた大猿3体を炎の中で攻撃する。
強化された魔法の中で、強化されたトライが暴れまわり、リナが的確に援護射撃を入れていく。
大猿達に更なる援軍は来なかった。
――――――――――
名前:トライ
職業:ソードマン・ベネフィット
BLV:27
JLV:26
特殊能力:ヴァナルガンドの加護LV20(HP上限、HP自然回復速度、攻撃力40%上昇、敵装甲値40%無視)、状態異常耐性+10%(武器効果)、防御力上昇+10%(武器効果)
所持スキル:熟練度表示可能、シュートLV8(652)、魔力操作LV7(897)、威圧Lv5(478)、ダンシングウェポンLv7(991)
武器適正:両手剣
ステータス
HP:7800+3120
MP:510
STR:1420+568
VIT:780
AGI:780
DEX:780
INT:510
LUK:780
残りステータスポイント:0
残りスキルポイント:7
装備品
右腕:+6ベルセルクブレードLv32(攻撃力+12)
左腕:+6ベルセルクブレードLv32(攻撃力+12)
頭:スチールヘルム(防御力+6)
体:スチールプレート(防御力+10)
腕:スチールガントレット(防御力+6)
足:スチールグリーブ(防御力+6)
アクセサリー:なし
装備エリアカスタマイズ
無し
地味にトライは武器強化しています
メタルゴーレムから出る「ゴーレニウム合金」(耐久上昇・重量大上昇・防御力上昇スキル付与)を使っています
ステータスとかぶっちゃけのせて意味あるのかな・・・読者様には関係ないような気がしてきた・・・
今回のせた意味はSTR値が他の値の倍近くなってる、アホだこいつ(笑)というのを表現したくてのせました
一般プレイヤーはトライのSTR以外の値を
極振りした場合:同程度か若干上くらい
バランスよく割振した場合:70~80%程度
割振りせず熟練度ボーナスも無かった場合:50%
こんな感じの数字になると思ってください
※2012/8/16
ステータスのジョブレベルアップによるステータスポイント追加分を計算に入れてなかったので修正しました
前→STR1170
後→STR1420
スキル「威圧」が入力されていなかったのを修正しました
前→なし
後→威圧Lv5追加
※2012/8/28
メタ発言を修正
リナのセンスがどうたら付近を修正
※2012/9/13
文章を全体的に修正、内容には変化なし




