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33/52

第33話・つまりやっぱり他の職業があったわけだ

※2012/8/28

メタ発言の修正に伴い大幅修正

伴って前書き後書きを消去

「と、いうことがありまして」

 

 リナと無事合流することに成功したトライ達は、リナが来た途端にパッタリと止まったMPKをこれ幸いとばかりに急いで帰還した。

 元々リナと会うまでの不安を払拭するための行動だったため、リナが来た以上あの場に留まる理由など1つも無かったのだ。

 

「ということは、今はビーストテイマーなんだね?」

 

 とはシャインの言葉、これは「普通の」ビーストテイマーかと聞いている。

 

「えーっとちょっと違います」

 

 話の流れからして、恐らくは後衛1次職のアーチャーをジョブレベル50まで(無理矢理に)あげて転職したのだろう。

 となれば当然、転職の瞬間も参加したギルドメンバー全員が立ち会ったのであろうから、通常会話での進行などできないだろうと、つまり「普通の」ビーストテイマーに転職したのかと思っての発言だったのだが、何か違うらしい。

 

「実は、転職の時にマスターにだけは打ち明けたんです」

 

「……そうか」

 

 少しだけ残念そうな顔をするシャインだが、諦めの感情こそあれど、怒りや呆れといったものは見られない。

 

 遅かれ早かれ誰かには知られていたことが、たまたま今回だったに過ぎない、という理由からだろう。

 

「それで、マスターにだけ付き添ってもらって、転職しようとしたんですけど……」

 

「……けど、なんだよ?」

 

 続く言葉で終わらせる、ということは、何か言いたいことがあるということだ。

 

「ビーストテイマーに転職は出来るけど、ちょっと違うビーストテイマーになったみたいでして」

 

「……よし」

 

 ある意味予想通りといった展開に、シャインは鬼気迫る表情でリナへと近寄る。

 

 そして―――

 

 ガシッ!

 

「ヒッ!?」

 

 ―――リナを睨み殺さんばかりの勢いで見つめ、ガッシリと肩をホールドして「お話」を聞こうと口を開く。

 

「詳しく」

 

「落ち着け」

 

 トライが全力を持って引き離そうとするも、まるで地面に刺した杭のように微動だにしないシャインだった。

 

 

――――――――――

 

 

「て、転職したいんですがっ!」

 

 時間は少し遡り、リナが転職するために前衛組合の後衛版へと訪れた時のこと。

 

 通常のウィンドウ会話で進めるならば、今リナが話しかけている女性NPCの前に立つと定型文と共に転職できる候補が羅列され、どれかを選ぶと言い方は様々だが指定されたNPCに向かえという指示が出る。

 あとはそのNPCの指示に従っていくことで転職、となるのだが……

 

「あら、こんにちわかわいいお嬢さん」

 

「あ、どうもこんにちわです」

 

「ふむ、本当に話したな……」

 

 自然な感じで返答をするNPCと、ちゃんと挨拶していなかったといった感じで挨拶をするリナ。

 その二人を驚愕の表情で見つめるミィエンだった。

 

「あら、話すのがそんなに変かしら?」

 

「いや、そうだな。

 何も変なことはない、変なのは私のほうだったようだな」

 

 確かに変なお兄さんね、と続けるNPCを見つめるミィエン。

 今、彼の胸中を探ることができたならきっとこんな言葉が出てくるだろう。

 

(ってことはあのNPCようじょとも直接O☆HA☆NA☆SIができるっ! ヤバイキタコレ)

 

 彼はちょっとあれな性格であった、リナに思考を読む特殊能力が無かったのは幸いだろう。

 普段の立場からは残念でならない彼の胸中ではあるが、リナはそんなことを察している場合ではなかった。

 

「あなたがビーストテイマーねぇ……問題は無いんだけど」

 

「無いんだけど、なんですか?」

 

「そうねぇ、もう少し上を目指してみる気は無いかしら?」

 

「上、ですか」

 

 トライ達から転職時の話は聞いていなかったため、リナにはこれが正しい展開なのかどうか予想がつかない。

 傍らにいるミィエンはさっきから思考が明後日の方向にある空の彼方のお星様にダイブシュートされているため、役に立ちそうに無い。

 

「具体的に聞いてもいいですか?」

 

「そうねぇ、ビーストテイマーじゃなくて、ビーストリンカーっていう職業があってね」

 

「ビーストリンカー……?」

 

「そう、って言っても基本は何も変わらないわ。

 少し転職に必要なものが多くなって、少しできることが増えるだけよ。

 強くなれるかどうかは貴女次第……なんてそこまで鍛えた貴女に言う言葉じゃないわよね」

 

 最後の言葉を言いながら、最後に軽くウィンクをするNPC。

 それを見たミィエンが「ヤバイ、あのウィンクをあのNPCようじょにやってもらいたい」などとのたまっているのだが、リナは華麗にスルーするという特技を先日習得したので何も問題は無かった。

 

「上限に達しているようだし、いくつかの試験は免除できるわ、どうする?」

 

「1つだけ聞かせていただいてもいいですか?」

 

「私に答えられることなら、ね」

 

「動物と、仲間にはなれます……よね?」

 

 真剣な瞳で、相手がNPCであるということも忘れてリナは尋ねる。

 先日の神父と会話して以来、リナはこの世界のNPCをNPCだと思えていないこともあるが、少なくとも相手をNPCだからと馬鹿にするような態度はとっていない。

 

「もちろんよ」

 

 女性はにっこりと微笑んで、優しく彼女に答えを返した。

 真剣なリナの態度を理解できているのか、彼女も真剣に答えを返してくる。

 それを見たミィエンは、今度こそさすがに驚いていた。

 彼もそこそこのゲーマーであるので、プレイヤーの言葉に反応して答えるNPCというのを見たことがある。

 しかしそれは特定の音声に反応して決まった受け答えをする、というものであって、今の彼女のように感情や態度にまで反応するNPCなど見たことがない。

 改めて今までのやり取りを振り返ってみれば、彼女はもはや人間なのではないかと疑うほどに、人工的なものを感じることができなかったのだ。

 

「なりますっ! ビーストリンカーになりますっ!」

 

「ええ、がんばってね、応援しちゃうわ

 え~っとビーストリンカーの担当は……っと」

 

 そういって引き出しから一枚の地図を取り出す女性は、ある点を指差して説明を始める。

 一言も聞き漏らすまいと、リナはおでこがぶつかるくらいに彼女に近寄って話しを聞くのだった。

 

「……明日から溜まり場変更しようかな、うぅむ……」

 

 NPCようじょの近くに溜まり場を移動しようかと真剣に悩むミィエンは、何の役にも立たない木偶の坊と化していた。

 

 

――――――――――

 

 

「というわけで転職しましてですね。

 すぐに会いに行こうとしたら神父様から炭鉱に行ったって聞いて追っかけたんですよ」

 

「なるほど」

「なるほどねぇ」

「なるほどなぁ」

 

 上からシャイン・トロン・トライである。

 コールを使わなかった理由としては、直接会って驚かせたかったから、ということらしい。

 

「ちなみに転職する場所は専用マップになってました、だから私以外は誰もNPCと直接話をしているところは見てませんよ」

 

 その言葉に若干安堵のため息を吐くシャイン。

 彼としてはいつかは公開するべき情報だと思ってはいるのだが、現状ではもう少し黙っていたいというのが本音である。

 理由としては、先駆者になってみたいという願望もあるし、他人の知らないことを知っているという優越感に浸りたいというのも多少有る。

 彼も聖人君子というわけではないので、人間くさい自分勝手な理由が一番であったりするのだが、むしろそっちのほうが人間っぽくてよっぽどマシだろう。

 テンプレみたいなイケメンだからといって性格までテンプレというわけではないのだ。

 

「そっか、じゃあ今はそのビーストリンカーなんだ?」

 

「はい、間違いなくビーストリンカーですっ」

 

 でん、と一般的なサイズの双子山がついた胸を張るリナ。

 実際転職したことでアバターの色んな制限が少し解除されたようで、転職前よりも若干大人びたような印象を受ける。

 

 ちなみに余談ではあるが、FGは転職しても見た目は一切変化しない。

 最上級の職業であろうが、始めたばかりの初心者であろうが、装備が同じなら見た目も同じようにしか見えない。

 唯一の例外が体格や纏う雰囲気といったものである。

 最初の設定のときに過度の筋肉や大人っぽい雰囲気などは設定できないようになっている。

 しかしこれが転職を重ねることによって徐々に解除されていき、最上級の職業になれば骨っ子だった見た目が筋肉ムキムキのいかついおっさんになったりする。

 もちろんこれは転職後であれば、いつでも最初のパソコン画面から再設定ができるので骨っ子のままでプレイすることも可能ではあるが。

 

 逆に言えば見た目が変化しないので、ステータス画面を見ない限りは転職したかどうかというのが自己申告か体格の変化以外では判別できない。

 転職直後は体格や雰囲気が変化した状態になっているので、転職したかどうかはかろうじて判別がつくようにはなっている。

 つまり、リナが転職後にかつての仲間達と会ったとしても、転職したことはわかってもビーストテイマーではなくビーストリンカーになっている、などとは誰も気づくことができなかったということだった。

 

「しかしなんだな」

 

 鼻高々といった感じで胸を張り続けるリナを見て、トライが言葉を漏らす。

 

「なんつーかよ、騙してるみてぇでちっと気分悪ぃな」

 

「……そうです、ね」

 

 トライはシャインのような発想が一切無い。

 自分達がやってるんだから誰かやってんだろくらいの勢いで物事を考えている。

 しかも必殺「空気←なぜか読めない」が常時発動しており、この流れでリナのかつての仲間達が直接会話をわかっていないということが理解できていない。

 結果、単純に騙しているような気持ち悪さを感じている状態になってしまっているのだった。

 

「ま、ちゃっちゃと強くなって会いに行けばいい話か……だよな?」

 

「はい! そうですねっ!」

 

 シャインとトロンがフォローの言葉をかけようと、口を開きかけた瞬間にこの発言である。

 必殺「空気←なぜか読めない」は今日も全力で発動し続けているようだった。

 

「フフッ、それじゃあ行きましょっか」

 

 笑い、笑いあい、誰からとも無く立ち上がっていく。

 トロンの言葉を合図にしたわけではないが、それから彼らは歩き出した。

 

 そう、ここは始まりに過ぎない。

 

 これはまだ始まりにすぎない。

 

 彼らの冒険は、まだ始まったばかりだ。

 

 

 

「で、どこ行くんだ?」

 

 こんな時でも「空気←なぜか読めない」は発動するのであった。

 

 

 ――――――――――

 

 

 空気が読めないトライの発言のあと、シャインはそもそもなんでこんな展開になったかを再び説明した。

 つまりはビーストテイマーの公式イラストになっているドロージというNPCに会いに行くということだ。

 

「ただし、正直言って今のままだと危ないかもしれない」

 

「どういうこったよ? そんなに敵がつえぇのか?」

 

「確かにモンスターは今までより全然強いけど、十分倒せるレベルだよ」

 

 煮え切らない態度で話すシャインだが、トロン以外はその態度の意味がわかっていない。

 理解しているトロンだけが、その理由を説明してくれた。

 

「MPK、だね」

 

 先日トライ達に実行されたMPKという行為。

 さらには戦闘中にあからさまな妨害行動。

 極めつけは「悪いやつ」という台詞。

 

 ここまでくれば、あれは明らかにトライ達を狙った行動だと予想できる。

 これから行くマップでまたされてしまっては、さすがに炭鉱と違ってトライ達は一瞬耐えることしかできないだろう。

 

「……? どういうことですか?」

 

 リナはその状況を意図せずに救ったわけだが、あの段階で見ればいつも通りの光景に見えていたため、リナは深く突っ込んで聞いていなかった。

 

「えっとね」

 

 

 かくかくしかじか

 

 

「……それって……」

 

 

 リナは話を聞いているうちに、なんとなくもやっとした感覚を覚えていた。

 さらにはMPKを仕掛けたプレイヤーの容姿と、使ったスキルを聞いて嫌な予感を覚える。

 

「ちょっと、確認します」

 

 すぐにウィンドウを開き、かつての仲間へと遠距離通話の手順を実行していく。

 彼女が連絡した先は、もちろん彼である。

 

『やぁ、さっきの今で連絡が来るとはね、何かあったのかいリナ?』

 

「ミィエンさん、ちょっと確認していただきたいことがあるんです」

 

 頼れるかつてのギルドマスター、ミィエンその人であった。

※2012/8/28

メタ発言を修正

これを修正するのは大変だった・・・

※2012/9/13

文章を全体的に修正、内容には変化なし

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