第32話・つまりあの頃は若かったなんて言いたくなる話なわけだ
思い込みって怖いですよね、作者もこんな時代があった気がします
というかあったからこんな話を書けるわけですが・・・
自分の黒歴史を抉るような内容ですがどうぞ^^;
「ふむ、つまりリナは俺の嫁、で纏まったところd「纏まってませんからね」……冗談だよ」
流れに従って「いや俺の」「ばっか俺の」「私女だけど」とテンプレのような怒濤の発言ラッシュが続くが、全てに返していたらキリがないと気づいたリナは全スルーにチャレンジしてみたようだ。
「とりあえず真面目に話をしようか、全員いるかい?」
さすがギルドマスターであるミィエン、空気が読める男はタイミングが違う。
絶妙な瞬間に滑り込むようにしての発言は、見事にラッシュを食い止める。
流れが読めずにその言葉の後で嫁発言してしまったメンバーは、「お前何やってんの」的な空気に押し潰されそうになるという可哀想な状況になってしまった。
「カズやんがいないっぽい」
「ケルちゃんもいないみたい?」
「学生チームはほとんど落ちてるみたい」
ミィエンと同じくエアリーディング検定合格者らしきプレイヤー達はすぐさま通常運転に戻ったようだ。
逆に不合格者らしきプレイヤー達は「え? 俺が悪いの?」みたいな感じになってしまって対応が遅れている。
「ふむ、逆に社会人チームはほぼいるわけか。
お前ら仕事しろ」
「「「あんたにだけは言われたくない」」」
ギルド「○○は愛でるもの」のメンバーは年齢層が非常に幅広い。
具体的な年齢を明かしているものはいないが、それでも学生チームと社会人チームに分かれるぐらいには多数のプレイヤーがいる。
いつもの流れなら学生チームは12時付近になると続々とログアウトしていき、逆に社会人チームは1~2時程度まで残っている場合がほとんどだ。
不健康街道のど真ん中を全速力で駆け抜けるようなプレイ時間なのだが、不思議とリアルに支障をきたしているメンバーがいないのもこのギルドの特徴であった。
その中でも特に不思議なのがミィエンその人である。
この人物は8時~9時頃と一般的な頃合にログインしてくるのだが、誰もまともなログアウトするところを見たことがない。
一度メンバー全員が交代で徹夜してまで監視してみたことはあるのだが、夜中の5時頃になっても平然と行動している不思議人物なのだ。
さすがに朝の7時頃には仕事に出かけるためなのか、真っ当なログアウトをしていったものの、あんたいつ寝てんだよと言いたくなるような時間をFG内で過ごしている。
一時は昼夜逆転した自宅警備員(笑)じゃないかとの噂までたったのだが、彼のリアルを知る人物(ちなみにギルド外のプレイヤー)によれば普通に仕事してたよ、との証言がされた。
ネット上ではリアル事情に触れることは禁忌とされているため、ギルドメンバーも突っ込みきれないので、ミィエンの生態は謎に包まれている。
結果、睡眠とるのも仕事のうち、という言葉は彼から言われても説得力が欠片もない発言となってしまっている。
そこそこ夜更かしするメンバーには毎回ミィエンから「お前ら仕事しろ」とのお言葉があるのだが、「あんたにだけは言われたくない」と返すのはもはやこのギルドの合言葉のようになっていた。
「ふむ、とりあえず一旦置いておこう。
今日はちょっと重大発表があるので、あんな形ではあるが連絡させてもらった」
ちなみに、社会人チームは古くからこのギルドに参加しているメンバーが多い。
そのためミィエンがふざけたギルド告知を出すときは、大概何かしら話があるときだとわかっている。
先ほど空気が読めたプレイヤー達がまさにそれで、むしろ「やっとか」ぐらいの気持ちでこの流れを見ていたのが真実だ。
「学生チームは明日ログインした時点でわかるように告知を出しておこう。
話の内容についてなんだが……リナ、どうしようか?自分で話すかい?」
緊張して流れを見守っていたリナであったが、話の内容について←この辺でグッと力を込めた目でミィエンを見つめ始めた。
メンバーは離れた場所にいるので当然そんなことはわからないが、目の前で話をしているミィエンは空気バリバリ読んじゃったのであった。
むしろリナが空気読めよテメェーくらいの勢いで「睨んでいる」に近いのだから、気づかないほうがどうかしているとは思うが。
「はい、私から話させてください」
そのまますぐに話をしようかと思ったリナであったが。
「リナたんキターーー(゜∀゜)」
「嫁キターーー(゜∀゜)」
「キwwwタwwwコwwwレwww」
ガクッ
ちょっと出鼻を挫かれたリナであった
――――――――――
「「「「「えぇ~~~~~」」」」」
非常に、そうひっじょ~~~~~~~に残念そうに言葉を合唱するメンバー達。
仲いいなんてレベルじゃない、もう示し合わせていたんじゃないかくらいに同時に同じ音程で同じだけの長さの同じ言葉を吐いた。
「ふむ、まぁあまり引き止めるもんじゃないぞ」
事前に話を知っていたミィエンも、恐らくいきなりこの話を聞いたらこの合唱の一部になっていたのかもしれない。
それはそれで面白い意光景だったのかもしれないが、少なくとも今は誰かまとめ役がいないと話が進まないだろう。
「いいじゃないか、リナにもとうとう春が来たってことで」
さらっと爆弾発言を言ってのけるミィエンに、嵐のような質問攻めが開始される。
「どゆこと?」
「春ってあの春デスカー?」
「待て! お前ら聞いていいのか!?」
「聞きたくない! 聞きたくないけど俺の耳が! 耳が勝手に聞いているううう!」
「馬鹿な……春……だと……っ!?」
「くそっ、リナの春は化け物かっ!」
「耳がっ! 耳があああああああ!?!?!」
色々と危ない発言が多い気がするが気にしてはいけない。
「ふむ、つまりだな、リナは好きな人がd「違いますからねっ!?」……ツッコミが早くなってきたな」
ミィエンの言う通り、素早いツッコミだった。
非常に素早いツッコミだったのだが、歴戦の勇者達にとってはそれでも遅すぎるぐらいだ。
「好きな……」
「……人……」
「……だと?」
何故か背中に流れるはずの無いやたらと冷たいものを感じてしまうリナであった。
――――――――――
「ふむ、というわけでだなぁ」
「異議あり!!!」
そのまま話は終わりだとばかりにまとめようとしたミィエンを止める声があがる。
「ふむ、なんだね?」
それを無碍に扱うこともせず、きちんと話を聞くように言葉を止めるミィエン。
「自分、このままいきなりリナとしばらく会えないなんて嫌でアリマス!」
「自分もでアリマス! せめて何か思い出作りたいでアリマス!」
「私もでアリマス! 思い出があれば我慢できるでアリマス!」
「ふむ、では逆に聞こう。
君たち思い出が無かったらどうするのだね?」
ぶっちゃけた発言をし始めたギルドメンバー達に対して、ミィエンは穏やかな口調を崩さぬままでそう問いかける。
なんとなく空気が読めたリナは、「あ、なんかヤバイ」とは思ってみたものの、むしろこの流れは逆らったほうがヤバイと直感したようだ。
「「「その男ヌッコロ」」」
「……だそうだ」
「ハイヨロコンデー」
微妙に引きつった笑顔を浮かべるしかないリナではあった。
なんとなく、それでも嬉しそうな雰囲気を出しているのだが、それを知ることができるのは目の前にいるミィエンだけであった。
「しかし、思い出といっても何をするかね?」
「高レベルマップ強制連行ツアーは?」
「却下、マイナス方向の思い出しかできねーだろ」
「じゃあボス狩りとか」
「高レベルマップ連行とほぼ一緒じゃねーか」
「強制レベリングは?」
「お前らwww戦闘しかねーのか脳筋どもwww」
「逆毛が言うな、でも全員で楽しめるような思い出となると実際戦闘かなぁ?」
「最前線エリアつっこもうz「却下」……Oh」
途端に真面目な試行錯誤を開始するメンバー達。
仲がいいのか悪いのかはわからないが、少なくとも内容は真っ当な意見をぶつけあっている。
リナとしては自分のために考えてもらっていて申し訳ないような、このギルドにいてよかったと感動するような、少しだけ複雑な心境だった。
「マジレスすると、一気に転職させちまうとかどうよ?
それも下限転職じゃなくて上限転職で」
「それだ」
「それだ」
「そwwwれwwwだwww」
補足説明をしておくと、1次職についてから次の転職をする際のレベルの話をしている。
無職から1次職になるときはベースレベルが10から20の間に転職すればいいのだが、1次職以降はジョブレベルによって転職可能かどうかが変わってくる。
基本的には全ての職業は何次職であるかに関わらず、最大レベルが50となっている。
このうち転職可能となるジョブレベルは40からなのだが、40の時点で転職することを下限転職と呼ぶ。
逆に50になってから転職することを上限転職またはMAX転職と呼ぶのだが、現状ではMAX転職をする意味がそれほど無かったりする。
理由は転職前のスキルポイントを保持したまま転職できるため、必要なスキルを取る分には差分の10P程度気にならない量であるからというのが理由の1つ。
もちろん職業によっては上限転職が前提になっている職業もあるにはあるが、少なくとも長弓を使う職業ではそんな職業はない。
何よりリナの目指すビーストテイマーに関しては、現状ずっと下限転職をしたとしてもスキルポイントが余るくらいの余裕があるのだ。
もちろん最低限必須、と言われるスキルだけをとった場合の話であって、そこから色々手を出していけば全く足りないものではあるが、それは何もビーストテイマーに限った話ではない。
「ふむ、となると……明日から最大効率を出せそうな場所でレベル上げだな」
「異議なし」
「異議なし」
「異議wwwなしwww」
「そろそろ逆毛うぜーぞ、異議なし」
「誰か芝刈り機もってこ異議なし」
「何気に繋げてんじゃねーよ異議なし」
「うん、どこにツッコミを入れればいいのかわかりません」
リナは普段ツッコミ役に回ることが多いのだが、ボケが多すぎるこのギルドの前ではツッコミきれなかったようだ。
この後、リナは綿密に、綿密すぎるほどに組み立てられたギルドメンバーの計画を発表され、その内容に悶絶することになる。
矢を補充する手間まで考えられており、学校が終わり次第「最速」で帰宅し、「最速」でログインし、「最速」で行動を開始しなければならないという軍隊のようなメニューを3日かけてこなすことになる。
そうなると当然予習復習など家でできるはずもなく、真面目なリナは休憩時間に只管それらを行うこととなり、屋上へと向かう余裕など少しも無かった。
もちろんご飯と風呂の時間まできっちりと計算されているその計画表の前には、トライ達に説明をする時間など設定されているわけが無い。
余談ではあるが、トライ達に説明する暇を与えなかったのはギルドメンバー達のささやかな嫌がらせからだとかなんとか……
――――――――――
未読のギルド告知が2件あります。
彼はその告知をログインすると同時に知った。
彼はいつものことと思い、いつも通りにそれを開き、内容に失笑する。
『リナは俺の嫁』
ギルドマスターしか使えないこのギルド告知を使っての冗談。
彼が笑っているのは、これが冗談だとわかっているからだ。
彼以外にとっては、笑えない理由から冗談だと判断しているのではあるが。
「馬鹿だな、リナは俺のものだよ。
俺たちはお互いに……」
言葉にすることでもない、といった態度で、彼はそこで言葉を止める。
そのまま2件目の告知を見て、彼の表情は一転した。
『リナが惚れた男についていくことになったので一時脱退します。
ついては送別会を兼ねたリナの上限転職祭りを開催するので、用事が無いメンバーは全員参加すること』
ちなみにこの告知がされた瞬間、リナがミィエンにガビーンって感じでツッコミを入れてはいる。
入れてはいるのだが、一回やっちゃった告知は取り消せないという事実を知って愕然としたリナ、という図が展開されたのは余談である。
「……」
しかしそんな和むような光景を知らない彼は、ただ言葉を失って唖然としていた。
時刻は夜の9時、告知が本当ならば、メンバー全員でリナのレベル上げを行っているのであろう。
特に用事も無かった彼は、告知に従うのであればそれに合流するのが普通のはずだった。
「……誰だ」
唖然としていた表情は、やがて怒りの表情へと変化していく。
怒りはやがて憎しみへと変わり、憎しみを抱えた彼は相手の男を「敵」と思い込んでいく。
厄介であったのは、彼が学生であり、それはつまり若いということであった。
若い精神の特徴、それは往々にして、自分こそが正しいと思い込んでしまうことがあることだ。
自分が正しく、自分に反するものは全て悪であると。
そして彼に「敵」と認識された相手は、相手の事情など知ろうともせずに悪であると思い込み、そしてそれを疑わない。
自分にとって都合が悪かったというただその一点のみで、相手が悪であることを決め付けてしまう。
現実では、お互いの都合が合わなかっただけで、正義も悪もないということを、彼はまだ学んではいない。
「誰だ……っ! 俺のリナを奪った悪いヤツは、誰だっ!?」
彼は歩く、当ても無くただ歩く。
リナのためを思うならば、本来なら彼女の成長を手伝うべきであるのだが、今の彼にはそんなことは思い浮かばない。
自分の側にいるのが最良であり、最善であると疑わない。
「思い知らせてやる、俺のリナに手を出したらどうなるか、わからせてやるっ!」
相手の事情なんて関係ない、リナの事情でさえも関係ない。
彼にとって都合のいい形が、リナにとって一番いい形なのだと信じて疑わない。
彼は歩き、歩き、歩いた。
街中を一巡し、誰を探しているのか、何を探しているのかわからなくなるほどに歩き続け、探し続けた。
教会の傍らで話し込むトライ達の声を聞き取るまで、ひたすらに探し続けた。
「……だからリナがいればよぉ……」
(……リナ?)
それは本当に偶然だった。
確立で言えば何万分の一というほどの、奇跡と言ってもいいほどの偶然だった。
「いやしかし、それだとリナさんの負担が大きすぎるだろう」
教会の傍ら、サッカーグラウンドのように短く刈りそろえられた芝生の上で話し込む三人のプレイヤー。
「結局、リナちゃんがいないと検証のしようも無いわけよね」
「だなぁ、あ~、リナ早くこねぇかな」
彼が、確信するには十分すぎた。
同名の別プレイヤーのことを言っているのかもしれない。
ただそういう愛称なだけの、別プレイヤーの話をしているのかもしれない。
キャラクターでさえない、リアルネームを出しているだけかもしれない。
彼でなければ、彼でさえも、今の状態でなければ、その可能性を考えたかもしれない。
しかし、と続けなければならないのが残念ではあるが。
(あいつらだ)
彼は、若かった。
(あいつらが、「悪いやつ」だ)
自分の思いが根底から間違っているという事実を受け止めるには、彼はあまりにも若すぎた。
思い込み怖い
※2012/8/28
メタ発言を修正
全体的に修正、これもそれなりにひどかった
※2012/9/13
文章を全体的に修正、内容には変化なし




