第31話・つまりこの3日間で何があったかって話なわけだ
若干内容に不快感を感じる方がいらっしゃるかもしれませんので、先に言っておきます
もし不快だと感じるようでしたら、全体的に修正をいたしますのでご連絡いただければと思います
その部分に関しましてお断りしておきますと、決して馬鹿にしたり非難するためにそういう言い方をしているわけではないこと、ご理解とご協力いただければと思います
時間は前回から遡る。
どれくらい遡るかと言えば主人公であるトライ達と別れ、今までの仲間の下へと向かったあたり。
つまり3日前である。
――――――――――
「リナじゃないか、こんな時間にどうした?」
リナの仲間達、ギルド「○○は愛でるもの」が普段集まる場所は、何の特徴もない路地を通り抜けた先にある。
○○に何が入るのかを知るプレイヤーは一人を除いて誰もいない。
ゲームとはいえ、VRでは、少なくともFGには俯瞰視点という、上から見下ろしてくれたりするような機能は無い。
そのため特徴の無さすぎる路地の向こう側に、彼らが溜まり場にしている花畑のような原っぱが広がっている、ということはあまり知られていない。
リナがはぁはぁと息をきらしていたら萌えたなどと言う人もいたかもしれないが、残念ながらゲームであるのでそんな現象が起こるわけがない。
そんな勢いで走ってきたリナが溜まり場に駆け込んでみれば、いつもの見慣れた顔がそこにいた。
ジィエン=トゥル=ミィエン
わかる人はわかるのだが、そういう人でそれをモジった名前のプレイヤーだ。
残念そうな気配は見た目から全く想像できそうにない、筋肉むきむきのむしろアッー! な人に見えそうな体格をしている。
その上に乗っている頭は、黒髪オールバックの渋いおっさん顔だ。
ごつい体格に見合うだけの巨大な斧を背負っているが、その重量感に対して身に付けている防具は最低限といった感じだ。
筋肉を見せつけているかのように胸・肩・腰・腕・足にくすんだ赤っぽい皮らしきものが巻き付いているだけ。
「マスターさん、よかった」
マスターさんと呼ばれたこのプレイヤーこそ、リナが所属する「○○は愛でるもの」のギルドマスターその人である。
ちなみに確認されている前衛職の中では最大の攻撃力を誇る「ギガストライカー」である。
「ふむ?」
ちなみにこの「ギガストライカー」、ソロだと何もできない職業として有名である。
逆にパーティーだと必須と言われるくらい強力な職業でもある。
理由は職業名にもなっている専用スキル「ギガストライク」が原因だ。
このスキル自体は何の変わりも無い、ただ威力があがるだけというスキルにすぎない。
問題はウォリアー時に覚えるスキル「ストライク」、さらに転職していくことによってストライク系のスキルが順次解放されていくのだが、勘違いしないでもらいたいのが「ストライクが強化」されていくのではなく「ストライク系のスキルが増えていく」という点だ。
しかもストライク系の正確な仕様は、「威力の高い攻撃をする」のではなく「次の攻撃を強化する」が正しい。
オート操作だとすぐさま攻撃してしまうので意味が無いと思われていたが、マニュアル操作で使えば威力があがったまま待機状態となって時間に余裕ができることが発見された。
そしてストライク系に限り、この待機状態中になんと他のストライク系スキルの起動が可能という仕様も見つかったのだ。
全てのストライク系が同時に発動した状態の一撃は圧倒的なダメージを叩きだし、中盤程度までならボスでさえ一撃必殺という理不尽スキルなのだ。
が、当然デメリットも発見された。
ストライクの待機状態中は3歩以上歩くと解除されてしまう、バスケのトラベリング状態になる。
さらにアイテムの使用もストライク系以外のスキル発動もできないうえ、かすったような低ダメージでも攻撃をくらった瞬間に待機状態が解除されてしまう。
ギガストライカー自体もストライク以外に関しては強い職業ではないこともあり、仲間と協力したとき「だけ」化け物のような強さになる職業なのであって、逆にソロだと何にもできない職業として有名だった。
つまりギガストライカーは空気読めないと何にもできない職業だということになる。
逆に言えば、ギガストライカーをやっているだけでもその人は空気が読める人ということだ。
つまりマスターさんと呼ばれたこの男、ミィエンは空気が読める人だということだった。
「とりあえずやらないか?」
「何をですかっ!?」
発言などはアレなことが多い、というのはギルドメンバーなら周知の事実。
「うん、冗談だよ。
それで何かあったのかい?
そんな汗をかいてはぁはぁなんて息をきらしてくれたら萌えたと思う急ぎかたをするほど急ぐなんてくっそぅっ!」
発言に関してはアレなことが多い、非常に多い。
わかりきっているギルドメンバーでさえ時折ひくぐらいには多い。
非常に残念なプレイヤーだった。
「えと、マスターさん?」
「ああ、すまない。
それでどうしたんだい?」
急に落ち着いて真顔で話し始めるミィエン。
ギャップが激しいのもこの人の特徴であったりする。
「はい、実は私、方向を決めましてですね」
「ふむ?
……それは俺一人で聞く話じゃなさそうな気がするんだが」
「いえ、えっとみんなにも話すつもりですけど、まずはマスターさんに聞いていただきたいです」
ミィエンはそれなりのFG歴を持つプレイヤーで、ギガストライカーの強さと弱さに早い段階で気づいた人物の一人だ。
試しにと仲間に呼び掛けて、ギガストライカーをメインに据えた戦闘をしてみたところ、これが大当たり。
そのまま仲間と色々調べているうちにギルドへと発展し、気がつけばそこそこの規模のギルドマスターになっていたという経歴の持ち主だ。
つまりは長い期間をギガストライカーとして過ごしているということであり、1つのギルドをまとめあげるだけの器量を持っているという証明になる。
事実彼は性格がちょっとあれだが、見た目もちょっと、まああれではあるが。
とにかく彼のアドバイスや指摘は同じギルドの仲間にとって尊重すべきものであり、何かあったら彼に相談すれば大丈夫というくらいに信用されている。
つまりはトライと真逆の人物ということだ。
「ふむ、何かあったんだね?」
「あはは……」
さすがというべきか、機敏に何かを察したミィエンはすぐさま聞く姿勢をとり、リナへと真剣な表情を向ける。
どう話しても色々気付かれそうなこの状況に、リナは曖昧な苦笑いをするしかなかった。
――――――――――
「ふむ、つまり惚れた男についていk「違いますからねっ!?」……冗談だよ」
リナは1度今の状況から離れます、という自分の行動に関してのみを話した。
しかしやっぱり色々きづいてしまったミィエンが放った一言がそれである。
「ふむ、しかし真面目な話、それは私達から離れる必要があるのかい?
聞いている限り必ずしも離れる必要があるように思えないのだけども」
「それは……ちょっとやり方に問題がありまして……」
リナが話した内容には、「直接会話」に関する部分が含まれていない。
ミィエンとしても隠し事があるな、までは気付いているものの、まさかNPCと直接話すなんて意味だとは考え付くはずがない。
故に、「問題」と聞いて彼が真っ先に思い浮かぶのは。
「違反行為じゃないだろうね?」
仕様上直接PKはできないが、前話で語った通りMPKという手段は実行できる。
それ以外にも、公式サイトに認定されていない手段でのRMT、つまり現実のお金でゲーム内の資金や装備を取引する行為もほとんどのネットゲームでは違反になる。
厳密には違反ではないものとなると、貴重なアイテムを落とす敵を独占するために同じマップにいる他のプレイヤーに妨害行為や嫌がらせを繰り返す、などというのもある。
手段を問わないやり方というならば、ざっと出しただけでもこれだけ出てくるのだ。
「問題がある」と言われた時点で、いい方向ではなく悪い方向の問題かと疑ってしまうのは、むしろ当然のことだった。
しかしリナははっきりと反論する。
悪いことをしている後ろめたさなど、少しも感じさせない強い目力と一緒に。
「違います、それだけは絶対に」
「ふむ、どんな問題なのかは言えないんだね?」
「……すいません、今はまだ……」
リナは何の気なしに言ったつもりであったが、そこはエアリーディング検定合格者のミィエンである。
「今は、って言ってくれるならいいんじゃないかな?
少なくとも私はそれだけで十分さ、いなくなるわけじゃないんだろう?」
空気が読める男はやはり違うようだ、性格と見た目がちょっとあれだが。
「マスターさん……」
「ふむ、そうと決まれば全員に告知しないとね」
ミィエンはそう言ってウィンドウを開き、ギルドの欄から何かを操作していく。
「何やってるんです?」
今更ではあるが、リナも何気に初心者である。
情報収集はある程度しているが、彼女の場合ビーストテイマーやマナー、マップのモンスターについてがほとんどで、プレイヤー自身の操作や仕様などについては疎い部分がある。
つまり今、ミィエンが何をしようとしているかよくわかっておらず、見る人が見たら「ちょwwwおまwww」と叫んでしまいそうな作業だと気付くことはできないということだ。
「ふむ、すぐに分かるよ」
ミィエンの言葉の意味、彼の言った通り、リナはそれをすぐに理解することになった。
ピロリン♪
未読のギルド告知が1件あります。
「ギルド告知……?」
不意に出現したウィンドウには、そんな言葉が記載されていた。
ニヤニヤとしたミィエンの表情に嫌な予感がしつつも、リナはその内容を確認してみる。
『リナは俺の嫁』
「ちょっとーーーっ!!!」
「あ、間違えた。
本音出ちゃった」
絶対わざとだと思いながらも、それを強く言うヒマはリナに与えられなかった。
理由はリナとミィエンの周囲に、遠距離会話をするときのようなコール音を響かせる光球が大量に出現したせいだ。
これはギルド専用のチャットルームのようなもので、光球に触れるとそれに触れたメンバーが同時に会話できるようになるものだ。
「ふむ、全員が全員を招待したみたいだね。
チャットもこれだけ集まると結構な光景だなぁ」
「うあー、うるさいですー」
これは招待されたプレイヤーにしか音が鳴らないものの、見ただけでも10以上の光球が周囲に浮いている。
ミィエンは平然としているが、リナにとっては目眩さえしそうなほどに騒がしい音量だったようだ。
「ふむ、まとめてしまうかな」
ミィエンはそのうちの1つに触れ、同時に反対の手でまたしてもウィンドウを操作していく。
数秒後には光球が1つ、2つと消えていき、リナが目眩から立ち直ったころには1つの光球が残るだけになっていた。
「リナ、みんな待ってるみたいだよ」
「は、はひ」
まだ少し眩暈がしているのか、ふらふらと歩いて光球に触れるリナ。
その瞬間頭の中にチャットのようなウィンドウが出現し、視界には映らないが脳内で見れるという説明しがたい状況へと変化した。
そしてすぐさま、ギルドメンバーから怒濤の音声とその履歴であるチャットラッシュが始まった。
『リナは俺の嫁だ』
『いや、リナは俺の嫁』
『バカ言え、リナは俺の嫁』
『おいおいお前らバカか?リナは俺の嫁』
『私女だけど、リナは私の嫁』
『フッ、お前らに真実を教えてやる、リナは俺の嫁』
『黙れ貴様らwwwリナは俺の嫁に決まってんだろwww』
ギルド名の「○○は愛でるもの」
○○に入るのはリナの二文字だと、ギルドメンバー達は信じている……らしい。
ちなみにギガストライカーのストライク系全発動、一回やると全く成長させていない場合のMP3分の1を消費する、という程度に考えています
※2012/8/28
メタ発言を修正
全体的に修正、ここからが特にひどい
※2012/9/13
文章を全体的に修正、内容には変化なし




