第29話・つまり話し合いは現実でもゲームでもやったほうがいいってことだ
世の中にはO☆HA☆NA☆SHIという肉体言語もあるそうですが、それではありませんのでご安心ください
ちなみに現実ではこれをやっておかないと結構な大惨事になることがあります、作者は経験済みです、そりゃもう何度も
「つまりビーストテイマーを目指しているが、仲間に受け入れられないのではと心配しているということですかな?」
教会とくれば神父、神父といえば懺悔という名の人生相談。
まさにそれを実行しているのは絶賛困惑中のリナであった。
困惑といっても相談の内容というよりは、その内容を正確に把握して人間のように返答をする目の前の男性に対してだが。
「えっと、そうなんですけど、え~っと……」
本来であればリナの目の前にいる神父はNPCであり、NPCとはすなわち決まった受け答えしかしないものだというイメージがある。
少なくともFG以外で人間のように受け答えするNPCというのはほとんどいないし(いないわけではない)、今までのゲームではこんな方法で会話するという手段が用いられていたことは無い。
リナは色んなゲームをやってきたというような人種ではないが、それでもこれは普通じゃないということだけは理解できているようだ。
だからこそ、人間のように会話し、身振り手振りまで普通にしている神父の姿は異様な光景に見え、それが彼女を困惑させていた。
「なるほど、難しい問題ですが……簡単な解決方法がありますな」
「えっ?」
あごに手をあててしばし考える動作をしたあとでそう話す神父。
文字の羅列ではなく、穏やかな「おじ様」という言葉がぴったりくるような話し方がまた人間くさい。
少なくとも今の神父を見て、ただのNPCだろと言えるプレイヤーはいないだろう。
そんなプレイヤーは周りにいないが。
「なに、今の仲間が受け入れてくれないのであれば、受け入れてくれる仲間を探してしまえばいいのですよ」
「……あ」
「例えば、トライさん達のような、ね?」
内容だけを聞けばそれなりにひどい話だ、今の仲間を捨てて新たな仲間を探せという意味に他ならない。
そしてそれがネットゲームではそれなりに嫌われる行為であるということも、リナは経験からなんとなくわかっている。
「でもそれは……」
「もちろん簡単な、と前置きしたとおり、他にも方法はたくさんあるでしょう」
否定的な意見を言おうとしたリナを遮り、あくまでも手段の1つであると諭す神父。
ぶっちゃけた話トライより話し方がうまい、ちょっと見習ってほしいくらいだ。
「ですが、これは仲間を裏切れという話ではありません。
いわば修行のようなものです、強くなって戻ってくれば、今の仲間も決してあなたを裏切り者とは思わないでしょうな」
「……」
「もちろんそれに見合うだけの努力は必要になりますが……」
神父の話はある意味で美談だ。
それこそ漫画やアニメの主人公が実行するような、理想といってもいい行動だ。
普通の人間ならそれを鼻で笑って実行などしようとしないような内容で、理想は理想だと切って捨ててしまえるような言葉にすぎない。
しかし今のリナには―――
「……そうですね、そうかもしれません」
―――信じられる。
理想を理想だと切り捨てるような内容には思えていない。
可能性がある、というだけでも今のリナにとっては大きな支えになっている。
その支えが実は今にも折れてしまいそうな細い棒切れだとしても、リナにとっては強く自分を支えてくれているものだから。
「助けになれましたかな?」
神父は相変わらず穏やかな調子で、確認するようにして聞いてくる。
自分のわずかな表情の変化を見られていたようなその言葉に、もはやNPCがどうとか考えるのも馬鹿らしい。
この「人」はこういう存在なんだと意識した瞬間、何かがストンと腑に落ちたような感覚がリナにあった。
もはや彼女は目の前の……いや、彼だけではない。
今まで彼女が接してきた様々なNPCに申し訳ないほどに、彼らを「彼ら」として考えるようになっていた。
「はい、ありがとうございました神父様」
ぺこりと頭を下げ、年上に対する自然な態度でお礼をするリナ。
そこには意思の無いNPCへの対応ではなく、意思を持った「人」に対する礼儀を含めていた。
――――――――――
「……というわけで、意味がわかったかな?」
「はい、わかっちゃいました」
会話を終わらせ、教会に並べられた長椅子に腰掛けてシャイン・トロン・リナは再び話し合っていた。
ちなみにトライは先ほどの続きと言わんばかりに、神父と冒険話を再会して熱く語り合っている。
「だからよぉ! そんときにリナがこう必殺! って感じでよぉ!」
「ほほう、それはもはや弓の名手ですな」
自分の話あたりがかなり誇張されている内容に、リナが顔を赤くしているような気がする。
もちろん大げさに言っているだけで嘘は言っていないので、否定するにできない内容ではあったが。
「……まぁ気にせず続きを話そう」
「そうそう、あいつを気にしてたらキリないわ」
慣れている二人は華麗にスルーしている。
トライの必殺「空気←なぜか読めない」は二人にとってはもはや見慣れた光景のようだ。
「うぅ~、お願いしますです」
赤い顔を隠すように若干俯かせ、前髪で少し目が隠れている状態でリナはそう返す。
初々しいその態度にニヤついた顔をするシャインとトロンだが、リナは俯いてしまっているのでその表情には気づかなかった。
「まぁ説明しちゃうけど、ようするにこういうことなんだよね。
俺達は今までウィンドウ会話ばっかりだったわけだけど、こうやって直接話しかけることでもNPCとの会話は成立しちゃうんだ」
「ついでに言うけど、直接話しかけてもイベントが発生するのは確認済みよ。
むしろ直接話しかけないと発生しないイベントもあるくらいに、ね」
さすがにトライと神父の会話に聞き耳をたてている場合ではない言葉を聞き取り、リナは意識を二人のほうへと向ける。
「直接話しかけないと……ってことは」
「そう、ドロージもおそらくそのタイプだ。
予想の域を出ないけど、多分ビーストテイマーになって直接話しかけることでイベントが発生すると考えてるんだ」
希望を見つけたかのように明るい顔へと変化するリナ。
しかしそれを見てシャインは、ただし、と言葉を付け加える。
「恐らく条件はビーストテイマーだ。
もしかしたらそれ以外にも色々あるかもしれない。
でもこの方法はまだ誰も知らないし、自分達だけで条件を探していかないといけないことになる、なにより……」
真剣な顔つきでリナをじっと見つめるシャイン。
彼はそういう小技が女の子を落とすんだと気づいていない、きっと彼は一生気づくことは無いのだろう。
「条件の1つがビーストテイマーである以上、リナさんはビーストテイマーに転職しなくちゃいけない。
もし条件が違っていたり、ビーストテイマーじゃなくても大丈夫だった場合、最悪君はキャラ作り直しになる。
さらに言えば、必ずしも強くなれるわけじゃないかもしれないんだ」
さらにいったん言葉を区切り、真剣な顔つきに心配そうな感情を含ませてシャインは続ける。
「君の仲間は、君のその行動を認めてくれるかい?」
「あ……」
リナの仲間達。
トライ達よりも長く付き合いのある知り合い達。
親友というほどでもないが、今まで少なからず恩を受けてきた彼ら。
その彼らにビーストテイマーはよろしくないと教えられ、ビーストテイマー以外の色んな道を薦められてきた。
この行動は、彼らの今までの厚意を全て裏切ると言ってもいい行動だ。
シャインはこういったことが原因で仲違いしたプレイヤーを何人も見てきた。
本人にとっては大したことではないと思っていても、それまで一緒にいたプレイヤーには心の傷にまで発展してしまうこともあるのだ。
特にネットゲームの世界においては、現実よりも一方的に相手を拒絶できる状況が多いため、このパターンは少なくない事態でもある。
「リナ」
いつの間にか神父との会話も終え、じっとリナを見つめていたトライが声をかける。
「1つだけ言っとくぜ」
ニヤッとヤクザスマイルを浮かべ、このメンバー以外が見たら脅されると勘違いしそうな状況でトライが語りだす。
「ゲームってのはよ、やりてぇようにやるもんだぜ?」
トライの言葉にきょとんとしてしまうリナ。
その表情は何かに気づいたというか、核心をつかれて呆気にとられたような表情でもあった。
「目的を間違えなければ、って付け加えたほうがいいんじゃないかな?」
にっこりと微笑んだままで、シャインがそう付け加える。
先ほどの真剣な表情とはまったく違うその笑顔、このギャップもモテる要素だということなど、当然のごとく自分では気づいていない。
「あんたが言うと間違った方向に聞こえるから不思議よね」
トロンの発言も最もである。
PKしてでも、と言い出しそうなくらいトライの顔は怖い。
「……私、行ってきます!」
何かを決めたリナは立ち上がり、三人と神父の顔を一人ずつじっと見つめる。
「ありがとうございます。
私、ちゃんと話してきます!」
「おう」
「がんばって」
「行ってらっしゃい」
「あなたに神のご加護がありますように」
そしてリナは教会の出口に向かって歩き出す。
迷いの無い、覚悟を決めた人間特有の感情を背負って。
――――――――――
「……大丈夫かな?」
「大丈夫だろ」
「大丈夫でしょ……って言いたいかな」
「大丈夫ですよ、彼女なら」
上からシャイン・トライ・トロン・神父である。
やはり言った手前、シャインはリナのことが心配なようだ。
そういう細かな気配りも女性にモテる……ようするにモテる要素が満載なのだこの男は。
「ま、あとはリナ次第だろ、俺達じゃどうしようもねぇ」
「それもそうだけどさ、なんかあとは自分でなんとかしろって感じでちょっとね」
「実際私達じゃどうしようもないわよ、こればっかりは」
「全ては神の御心のままに……というのも無責任ですな」
四人はなんとなく、ほんとうになんとなくだが大丈夫だと思っている。
しかしそれはなんとなくという根拠のない漠然とした思いにすぎない。
だから彼らはそのなんとなくを後押ししてくれるだけの理由が欲しかったのだが、彼ら自身からその理由が出てくることは無かった。
だからみんなで確認しあい、自分達に何かできないか考えているのだ。
残念ながら、何もできないという結論にいたるしかないのではあるが。
「うじうじしてても仕方ねぇんだ、今後のこと考えようぜ」
「今後って言ってもしばらくレベル上げの予定だぞ」
「だったらリナが戻ってきた場合の予定も考えちまおうぜ。
あいつがいりゃ相当色々行けそうだろ?」
「私と役割かぶってる気がするんだけど大丈夫なのかな?」
トライの必殺その2「鶴の一声」が発動した!
実際この会話を機に、神父が持っているプレイヤーの知らない情報まで交えて様々な予定を考えていく四人。
少なくともそこにリナがこの話にのってくるかどうかを不安がるような、マイナス方面の意識を持っている人物はいなくなっていた。
「つまりリナが一点集中でトロンが範囲って形になるわけか」
「言葉にすればそのとおりだけど、実際には臨機応変にってことになるよ。
後半になればなるほどどっちかだけで倒せるような相手って減ってくるから、どっちも必要ってのが正直な話かな」
「でもそれってトライも攻撃に参加したら同じじゃない?」
「後半の敵は防御力とか装甲値が異常に高いのが混ざってたりするからなぁ。
それにトライの役割は雑魚掃除と肉壁として考えたほうがいいと思ってるし、火力は別に考えたほうがいいかな」
「でもよ、現実的な話俺一人で三人を守るのってけっこうきっちぃぜ?」
「だよなぁ、回復役も俺一人じゃ厳しくなりそうだし、結構ギリギリな構成になっちゃうな」
「でもさ、弓一人いるだけで行けるマップがこれだけ増えるんでしょ?」
「うん、今の状況でも3箇所くらい増えるね。
例えばこのマップなんかでは……」
と、いう感じでどんどん作戦会議が進んでいく。
長弓は使えない、という偏見が無いトライとトロン。
正確に特徴を掴み、有用性を理解しているシャイン。
結局ログインしてないときに相談しろよ、というような内容をひたすら話し合い、三人のレベル上げという作業が始まったのはここから1時間後だった。
それも結局は。
「ようはリナが戻ってこねぇと話にならんってこったろ!」
必殺「虎の一声」によって、まずはレベル上げをしてから考えようという意見でやっと動いた結果だった。
トライの動いてから考えるという馬鹿思考がいい方向に働いたようだ。
次話で第三章「炭坑編」は終了となります
7月中にはなんとかアップしたいところですが・・・がんばります
※2012/8/28
メタ発言を修正
全体的に修正、この辺から暴走がひどいな
※2012/9/12
文章を全体的に修正、内容には変化なし




