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第28話・つまり色んな話を聞いたほうがいいってことだ

色んな話を聞いて、覚えておくことが大事ですね

一見何の関係もない話でも、覚えておいて得をした、なんて話はよく聞きます

自分も本業ではよくある光景です

 時間は飛んでその日の夜、トライは日課にしようか迷っている炭鉱で時間を潰したあと、教会の庭でスキルを眺めていた。

 本当に眺めているだけでなければ褒められた行動であったのだが。

 

「まさかうちの学生だったとはな」

 

 そう声をかけた先にいるのはリナだ。

 

「こっちのセリフです。

 まさかあの喧嘩番長がトライさんだったなんて……」

 

 喧嘩番長という言葉にヤバいと一瞬思ったようだが、なんとなく大丈夫な気がしてそのまま普通に会話を続けてみるリナ。

 トライに影響を受けて度胸がついたのかもしれない。

 

「意外だったかよ?」

 

「意外でした、実は女だったんだー! って言われるより意外でした。

 なんていうか、猫だと思ってたら虎だったみたいな……」

 

「なんで音子と俺を間違えてんだよ?」

 

 リナの例えは上手く伝わらなかった。

 虎などまさに前日つけられたばかりのあだ名であったこともあり、話題がタイムリーすぎてバカなトライには正確に伝わらなかったようである。

 普通はわかりそうなものだがそこはさすがトライ、バカである。

 

「いえ、なんか私が間違えました……」

 

「おう?」

 

 短い付き合いだが、リナはなんとなくトライの扱いがわかってきたような感じがする。

 馬鹿は馬鹿だが、要するに後ろに正直をつけたほうがいいような性格の男なのだ。

 リナにとってはむしろ好感が持てるタイプだったらしいが。

 

「それで、今日はなんでまた待ち合わせなんですか?」

 

「ん〜? 学校で会った二人いただろ?

 あいつらが昨日約束したアドバイス向いてるヤツだからな、今後のために話しとけってとこだ」

 

「え、でも私はもう……」

 

「それはそれ、これはこれだろ。

 特に今後の方針って意味だったらテルの話は聞いといて損はねぇはずだぜ」

 

 事実として、テルは学校で話を聞いた時点から様々な方向性を考えて情報収集を開始していた。

 さっきの今ではあるが、恐らくログインするころにはリナの希望に答えを出せるだけの準備が終わっているだろう。

 

「噂をすれば影……ってな」

 

 スキルウィンドウから顔を逸らし、リナの向こう側を見るようにして顔を向けるトライ。

 つられてリナも振り向けば目に写ったのは。

 

「お待たせ〜♪」

 

 超が付く二つの山だった。

 

 小走りで向かってくる綾華ことトロンだが、もうバインバインである、バインバイン。

 何がとは言わないが、非常に大事なことなので二回説明させていただいた。

 

「で、でかっ!?」

 

 製作会社はなんでこういうとこに力入れるのであろうか、絶対方向性を間違えている。

 

「うむ……まあなんだ、今後に期待ってことでだな……」

 

「……」

 

 彼女の名誉のために一応説明をしておくが、リナも決して小さいというわけではない。

 普通の領域を出ないだけで、あるはあるのだ。

 目の前にある巨山が規格外なだけであるが、どうしても比較してしまうのは仕方が無いかもしれない。

 

「これが格差社会ですか」

 

 

 ――――――――――

 

 

「第一回ビーストテイマーについて考えよう会議っ!」

 

 どこからかどんどんぱふぱふという音が聞こえたような気がする。

 

「おう」

「は〜い♪」

「え、なんですかこのノリは」

 

 リナの正確な指摘が入る。

 間違ってはいないが空気読む能力、もといエアリーディング検定試験的には赤点ギリギリだ。

 

「いいからノっとけ、内容は割とマジだから」

 

 トライから説明が入る。

 いきなりこのノリで会話が始まったら確かについていけないだろう。

 

「はい! シャイン先生質問です!」

 

「はいトロン君!」

 

「そもそもビーストテイマーってなんですか!」

 

 戸惑うリナとそれを諭すトライを他所にさっさと会議を始めるシャインとトロン。

 もちろん二人がただのノリでやっているわけもなく、初心者に教える形で内容を確認することでリナが無駄に恥をかいたり、知らないことを知らないままにすることが無いようにするという配慮からの行動だ。

 

 この辺はトライには意識してすることができない部分なので、それだけでも二人が来た意味がある。

 

「説明しようっ!」

 

 ビシィッと後光が見えそうなシャインがかけてもいないメガネを左手で直す仕草をし、右手の人差し指をたてて何故かカメラ目線になる。

 

「ビーストテイマーは長弓の適性を持った後衛が転職できる職業です!」

 

「特長は?」

 

「動物が仲間になります!」

 

「!?」

 

 ちなみに反応したのはトロン。

 ここまでシャインとトロンしか話をしていない。

 

「ただし!」

 

 ビシィッ!

 再びカメラ目線でキメ顔のシャイン。

 

「一般的にはネタ職業と言われています!」

 

「なんでだ?」

 

「理由は単純に動物タイプのモンスターが主要マップにいないからだね。

 長弓の扱いも癖が強いし、高レベルになるほど使えないって言われてる」

 

 シャインの説明にリナは表情を暗くしていく。

 ビーストテイマーをやりたいと言った時に仲間から散々言われたことを改めて確認するのは、なかなかつらい状態だったようだ。

 

「ただし、と続ける必要があるけどね」

 

「……え?」

 

 リナには言葉の意味がすぐには理解できなかった。

 ビーストテイマーはネタ。

 ビーストテイマーは使えない。

 ビーストテイマーで高レベルはいない。

 彼女はそう聞いていたし、そうだと思っていた。

 

 少なくとも、今までリナに「ただし」と続けてくれたプレイヤーはいなかった。

 

「まだ推測の域を出ないんだけど、多分これからは違う。

 そしてこれから話す内容を実行すると、プレイヤー間で大問題になると思う」

 

 1度そこで区切り、じっとリナの目を見つめるシャイン。

 それが恋愛フラグを乱立してきたという事実に気づいていないシャインは自然とそういう行為をやってしまう、本人が全く気づいていないのが問題だ。

 

「それでも、聞くかい?」

 

 じっと見つめてくるシャイン。

 かつてこれで何人の女性が落とされたか、少なくとも両手の指で収まる数ではない。

 

「……聞きます」

 

 決意のこもった言葉が返ってくる。

 ここでトロンだけは何かに気づくのだが、少なくともそれは恋愛感情ではなかったようだ。

 敏感に感じ取ったトロンは安心してその光景を見守る。

 

「いいのかい?

 多分他のプレイヤーに絡まれるよ?誹謗中傷の的にされるかもしれないよ?

 何もしてない相手から嫌がらせされるかもしれないんだよ?」

 

 自分たちの行為によって問題が起こる。

 ネットの世界でのそれは、現実のそれよりも被害が拡大することが多い。

 何よりも現実と違い、明確な解決という結果につながることがほとんど無い。

 それでもやろうとするのであれば、本人の覚悟が必要になる。

 

「それでも、聞きたいです。

 私は……今の私なら、きっと大丈夫だと思えますから」

 

 決意のこもった返答がリナから帰ってくる。

 

 余談だが、ここで顔が真っ赤になって「だ、大丈夫です!あなたがいてくれるなら!」とか言って告白しちゃったきゃー(/▽\)♪みたいな感じになるのが普段のパターンだったりする。

 

「それに……」

 

 チラッと肩越しに後ろを見るリナ。

 その先にいる人物は大きな欠伸をして「さっさと話せよ」と言わんばかりの態度であぐらをかいている。

 

「大丈夫ですよね、えへへ」

 

 顔を赤らめてにやけるリナ。

 それが意味することを理解できないのは、原因であるトライだけだった。

 

「……別の意味でやめとけと言いたい」

 

「応援すべきか本気で悩むわね」

 

「何の話をしてやがりますか貴様ら?」

 

「な、なんでも無いですよっ! ね? ね!?」

 

 

――――――――――

 

 

「さて、気をとりなおして説明しようか」

 

 言葉通り再びメガネをクイッとするような仕草をし、説明モードに入るシャイン。

 

「リナさんはドロージっていうNPCは知ってるかな?」

 

「ドロージって確か仲間にしたモンスターと旅をしているビーストテイマーっていう設定のNPCですよね?」

 

「そうそれ、話しかけても『モンスターの仲間に興味があるならまた来い』って言うだけで、ビーストテイマー含めてどんな職業で行ってもそれしか言わないキャラ」

 

「だから未実装のイベント用NPCじゃないかって言われてる……だったと思いますが」

 

 ちなみにこのNPCは公式イラストのビーストテイマーその人だったりする。

 有名なNPCではあるが割と辺境にいるため会ったことが無いプレイヤーは多い。

 

「ここだけの話、実は未実装じゃないと俺は考えてる。

 考えてるんだけど、ビーストテイマーの知り合いがいなくて確かめようが無かったんだよね」

 

「実装されてんのに誰もやってねぇってことかよ。

 誰かしらやってそうなもんだけどなぁ」

 

「そこは簡単な理由さ、誰も『話しかけなかった』だけのことだろう」

 

 なんのこっちゃと首をかしげるトライとリナ、納得しているのはトロンだけだ。

 

 首をかしげるという動作ではトライとリナは同じだが、その動作をした理由は全く違う。

 トライは「その程度のことで?」という自分にとっての普通がどれだけ異常であるかを全然理解していない理由からだが、リナは話す=ウィンドウ会話だと思っているのでそもそも何言ってんだこいつは状態だからだ。

 

「リナさんには論より証拠、実際に見てもらったほうが早いね。

 ……というわけでまずは」

 

 

 ――――――――――

 

 

「……神父さんで練習からいこうか(にっこり)」

 

 場所は変わり、四人は教会の中へと入っていた。

 と言ってもまだ入り口付近で、神父に声が届くには遠すぎる場所での会話だ。

 

「はぁ、いえなんかよくわからないんですが、『話す』って普通にみんな『話して』ますよね?」

 

 神父へと近づいていく途中でリナがそう尋ねる。

 

「そうだね、でもあれは『話して』るんじゃなくて、『進めてる』って感じだと思わないかい?」

 

「『進める』ですか……?」

 

 よくわからないといった顔のまま、しかし歩くことをやめはしない。

 

「つまり、ああいうことさ」

 

 え、と聞き返すリナだったが、次の瞬間にはシャインの言っていた意味の全てを理解してしまった。

 

「いよぉ! 元気してたかクソ神父!」

 

「ハッハッハッ、昨日会ったばかりでは無いですか」


「……え?」

 

 うんうんわかるわかるとリナの両脇で頷くシャインとトロン、二人も最初にこれを見た時はこんな感じだったと思い出して共感しているようだ。

 

「濃いぃ1日だったからな、神父と会ったのが久しぶりな気がすんぜ」

 

 トライは必殺「空気←なぜか読めない」が発動しているらしく、そんな三人には全く気づかずに話を続けている。

 

「ほほぅ、また面白い話を聞けそうですな。

 よろしければ聞いても?」

 

「おぅ、まずはだな……」

 

「はいストップ」

 

 会話が盛り上がりを見せていたところで、トロンが声をかける。

 

「あんたリナちゃんほったらかしにして何話し込もうとしてんのよ。

 もうちょっと気を使ってあげなさいよ」

 

 ちなみにだが一応解説したほうがいいかもしれない。

 

 リナちゃんほったらかしにして←この辺はリナをもっと見てやれという意味とリナの想いに私は気づいてますよという意味が含まれている。

 もっと気を使って←この辺は構ってやれよという意味はもちろんだが、この発言自体が私は応援しますよとリナにアピールしているのだ。

 

 もちろんその全部の意味に二人が気づくわけが無いのだが、こういう細かい部分が聞きたいことを聞き取る人間の心に響いたりする。

 

 トロンの会話能力がほんの少しだけ発揮された言葉は、二人にはどう聞こえたか。

 

「おう、そうだったな。

 悪い忘れるとこだったぜ」

 

 トライはなんというか普通だった、言葉通りの意味しか感じていない様子だ。

 

「お、おおおかまいなきゅっ!」

 

 逆にリナのほうは効果覿面のようだ、顔を真っ赤にしてあたふたしながら無理矢理話しているのがなんとも可愛らしいかった。

リナちゃんはどうしちゃったんですかね

今後二人の進展は話があるんでしょうかね


色々考えてはいるんですけどね、小説紹介で書いてあるとおり勢いで大幅変更とかありえる小説なので・・・


※2012/8/28

全体的にメタ発言を修正、ここまでひどいと笑いが出てきそう

※2012/9/12

文章を全体的に修正、内容には変化なし

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