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第27話・つまりたまにはリアルの話もしたほうがいいってことだ

今回はリアルメインのお話かな?

彼らの日常はこんな感じ・・・じゃないな、うん違うな

「で、決まったか?」

 

 一頻ひときしり笑い合い、何かが吹っ切れたようなリナに向けてトライは改めて聞いた。

 

「はい、決まりました、決めました」

 

 真っ直ぐな意思の込められた瞳がトライを見つめる、それだけでも答えたようなものだったが。

 

「にゃ〜、聞いても大丈夫かにゃ?」

 

 それでもあえて言葉にさせようと音子は促す。

 人の意思は意外なまでに弱い。

 弱いからこそ、人はあえて自分を追い込み、逃げ場を無くし、弱くても進むしかない道を無理矢理に作り出すものだ。

 例えば、自分の意思を誰かに話してみたりとか。

 

「はい、むしろ聞いてもらいたいです」

 

 リナもそんな弱い人間だ。

 人に少し意見を聞いただけで、自分を見失いかけるほどに弱い。

 もちろんリナはそれを理解しているし、変えたいとも思っていた。

 

 だから、言う。

 言葉にしてしまう。

 約束は守るようにしている子だから、宣言という形で約束してしまうのだ。

 

「にゃ」

「おう」

 

 空気を読めた二人は、ただそれに頷くだけだ。

 それだけでいい、それだけしかしなくていい、それ以外はしないほうがいい。

 

「私は、私のやりたいようにやります!

 やりたいようにやって、でもネタだなんて言われないようなプレイヤーになってみせます!」

 

 キラキラと輝くような瞳は、少し前までの暗い感情は全く無い。

 

「にゃ」

「おう」

 

 だから二人はただ頷く。

 聞く前と同じように、同じ理由で。

 

「でも茨の道にゃ〜よ?

 私みたいに有用な方向に進むわけじゃなくて、有用性を見つけるわけだからにゃ」

 

 しかしそれだけでは足りないことも事実。

 音子はそれを経験として知っているからこそ、彼女なりにリナへと厳しい道だと教えることができる。

 

「大丈夫です。

 今なら、なんとかなるって思えますから。

 それに……」

 

 そこでトライを一度見るリナ。

 なぜ見られたかよくわからないトライは首をかしげる。

 

「おう?」

 

 当然、口から出るのは曖昧な相槌だけ。

 しかしリナは何故かその動作で安心できる。

 何も考えてないようで、核心のような何かを知っているようなトライを。

 

「好きにやればいい……やってから考えれば、大丈夫なんですよね?」

 

「おう」

 

 確認しただけのやり取り。

 それだけでなんとなく通じる、通じてしまう。

 ネットの世界、偽りの現実、それでも人の心は通じ合えるのだから。

 

「にゃ〜、リナちゃんまで虎ちゃんのバカが移ったにゃ?」

 

「おう!?」

 

「あはは、そうかも」

 

「おぉう……」

 

 トライが馬鹿なのは、初めて会ったリナでさえもわかるくらいに致命的なレベルであったらしい。

 

 

――――――――――

 

 

 そして一日が経ち、まだゲームを始めるには早すぎるほど早い時間帯。

 社会人がスーツを着て上司か客先に頭を下げ、事務の女性はカタカタと音をたてながらパソコンを操作し、受付の女性はいつ来るかもわからない訪問者のために笑顔を顔に貼り付け続けるような時間帯。

 そんな時間は三神達にとって、スーツの代わりに制服を着て、眠くなるヒーリングミュージックのような教師の言葉と格闘しなくてはならない時間だ。

 

「……zzz」

 

 まぁ彼のようにワンパンノックアウトされる生徒も珍しくは無いが。

 

「くら、堂々と寝すぎだぞ三神」

 

 スパーンといい音を出して教師が三神の頭を叩く。

 出席をとるのに使うあの黒い帳簿だ、やられるとわかるがあれ意外と痛い。

 そしてスパーンという音を出すのはかなりの熟練がいる、その音を出している時点でこの教師タダモノではない。

 

「痛ぇっ!?」

 

 さすがの三神でも感じるほどの痛さであったらしい。

 

「痛くやったんだから当たり前だ、日に日に鈍感になりおって」

 

 シワの浮いた顔、その額に青筋を浮かべる教師。

 見事に決まった角刈りは白髪になってしまっていて年齢を感じさせる風貌だが、背後から立ち上る怒りのオーラは年齢なんてどこ吹く風だ、つまり怖い。

 

「日に日に手加減無くなっていくだけじゃねぇか」

 

「手加減されるような態度をとらんか」

 

「つまり大人しくしてりゃいんだよな?」

 

「まぁそうだな、お前の場合授業の妨害をしなければいいだろう」

 

「よし、んじゃ寝るわ」

 

「ていっ」

 

 ガスッ(←カドで叩いた音)

 

「いっっってぇっ!?」

 

 さすがに喧嘩で痛みに慣れているとはいえ、カドはさらに痛かったようだ。

 それを躊躇無く実行できるこの教師はやはりタダモノではない。

 

「前提が間違っとる。

 しばらく立っとれ」

 

「馬鹿な……一体何が間違ってたっていうんだ」

 

 ぬおぉと身もだえ、床に頭がつくぐらいにヤン○ー座りして必死に痛みに耐える三神がそう呟いた。

 

 なんとか復活してやれやれと言いながら立ち上がり、しかし机に置きっぱなしで読む気のない教科書に目だけ向けてじっとしている。

 

「……」

 

 ただ静かにそこに佇む三神。

 目だけはやはり教科書に向いている。

 

「……」

 

 実はこういうとき、立っている人物の顔がどうなってるかを確認するのは教師以外には難しい。

 後ろの生徒はそもそも背中しか見えないので、顔の向きはわかってもそれ以外はわからないのが普通だ。

 逆に前にいる生徒は、見るためには振り向かないといかず、授業中にそんなことをこの教師の前ですれば三神の二の舞になってしまう。

 一見横にいる生徒なら大丈夫そうだが、一つ隣程度の席だと上を見上げるようにしないと見えない。

 みんなカドはくらいたくないので、わざわざリスクを伴ってまでそんなものを確認しない。

 つまり誰も彼を見ていないということになるとどうなるか……

 

「〜であるからして(なんか大人しいな)」

 

 最近の学校では増えてきているホワイトボードに必要な情報を書き連ねていた教師は、妙に静かな……逆に不安になってしまうくらい大人しい三神を肩越しにチラ見してみる。

 

 そこには静かに立っている三神。

 机に置いた教科書を見るためか、顔は真下を向くように俯いている。

 そしてそんな彼の顔からキラリと光る何かが零れ落ち……

 

「……zzz」

 

 寝てることが発覚した。

 

「とりゃっ」

 

「あいだぁっ!?」

 

 マーカーペンが頭にどストライクしたのだった。

 

 

――――――――――

 

 

 さらに場所は変わり、昼休みの一時。

 チラホラと他にもグループがいるだだっ広い屋上で格差社会を表現したような弁当をそれぞれ持ち合い、三神とテルのおかず争奪戦を勃発させながら三人は語り合っていた。

 ちなみに余談だが、普通の学校だと屋上は閉鎖している場合が多い。

 よく漫画やアニメで屋上でたむろしている風景が描写されるが、良い子は真似してはいけない。

 封鎖されているからこそ、主役とその関係者以外が屋上に出てこないのかもしれないが。

 

「どうしたんだよ?」

 

「どうしたって、何がよ?」

 

 授業風景を見ていたテルが三神に質問をする。

 ちなみに彼らの両手は戦闘中だ、ハシを伸ばす三神とそれを打ち落とすテルの図になっている。

 

「今まで寝てるのは当たり前だったけど、イビキかくほどなんて珍しい、ってことよ」

 

 争奪戦には全く関与しない綾華が疑問を明確化する。

 しっかりと二人から、というか三神から距離をとっておかずを奪われないようにしているあたり賢い。

 

「ああ、昨日やりすぎたかんな」

 

 なんでもないという風に言う三神。

 しかしテルのほうはわりと真顔になってそれに返してくる。

 もちろん争奪戦はやめないが。

 

「ハマりすぎじゃないか? リアルに支障きたすようなら止めさせてもらうよ?」

 

 どうやらテルは本心からそう言っているようだった。

 彼はゲームに依存して現実リアルが悪化したプレイヤーを少なからず知っている。

 中にはゲームが原因でゲームを続けられなくなったという人までいる。

 少なくとも三神にはそんな風になってほしいとは思わない。

 

「バカ言え、その程度わかってらぁ。

 昨日はちょっと色々あったんだよ」

 

 そこまで考えているということはわかっていないのだろう。

 本当になんでもない、というふうに軽く返してくるが、テルにはそれが苛立たしく感じられたのだろう。

 彼が知っている人達も、そんな風に軽く返していたのかもしれない。

 だからさらに語調を強めて言葉を返す。

 

「昨日は、ってまだ始めて数日じゃないか。

 そんな調子で体調壊すようなら本気で止めるぞ?」

 

「そうよ、あんたはいっつもやりすぎるんだから気をつけなさいよね」

 

 綾華もそんなプレイヤーを知っているわけではないだろうが、恐らくそういう人がいるという情報をどこかで手に入れているのだろう。

 なんとなく危ない気配を感じ、テルに同調して三神に警戒するように言ってくる。

 

「つってもよ、目の前に捨て猫みてぇなツラしたやつがいたら気になんだろ、普通は」

 

 おかず争奪戦の手をとめ、そのハシで自分の弁当のご飯を意味なくつつきはじめる三神。

 

「どういうことだ?」

 

「あぁ、つまり……」

 

 語り始める三神だが、その言葉に声を傾けている人物がテルと綾華以外にもいたことには気づかなかった。

 

 

 ―――かくかくしかじか―――

 

 

「……ってことがあったわけよ」

 

「なるほど」

 

「なるほどねぇ」

 

「初めて伝わった気がするわ」

 

「……」

 

 三人からほんの少し離れた場所で、一人の少女は考え込んでいた。

 

「どうしたの?」

 

 なんとなくぼうっとしているように見えるその少女に友人らしき別の女性がそう声をかける。

 

「う、ううん、なんでもない」

 

 少なくとも彼女に声をかけられるまで、自分がそんな状態であることに気づかなかったくらいには考え込んでいたらしい。

 彼女の何がそんなに三神達の会話を聞きたくなったのかはわからないが、気づいていない三人には関係ない。

 そのままテルが聞いた話から続きを話しているのを、やはりぼうっとしたような表情のまま耳だけで聞き取る。

 

「確かにピアシングショットは強力なスキルだからな、長弓じゃなくても使えるけど……」

 

 何かを含んだような言い方で、言葉の最後のほうに溜めのような気配を感じさせるテル。

 

「けど、って続くのかよ」

 

 三神はそういう気配には敏感だった。

 普段は空気読めないのだが、変なところでとても鋭い。

 

「続くな、というか続けないとダメなスキルだね」

 

「どーゆーこと?」

 

 漠然としすぎている話し方に、そもそもゲーム内の知識が多くない三神と綾華は頭に疑問符が浮かんでいる。

 

「あれは特性から言っても長弓でこそ最大に活用できるスキルなんだよね。

 特に……対人戦で」

 

「対人戦?」

 

 以前にも説明したが、FGでは本格的な対人戦は実装されていない。

 故にプレイヤー同士の直接対決によるPKというのは起こらない仕様になっている。

 当然話題に上ることも少ないので、二人にとっては……いや聞き耳をたてている少女も含めて三人にとっては以外な一言だった。

 

「まだ集団対集団は未実装なんだけど、四〜五人程度なら対戦できるんだ。

 まあなんていうか……そこでね」

 

「ふむ、実際になんかあったんだな?」

 

「まあなんていうか、あれはひどかった。

 障害物が無い平坦なマップでお互いに相当距離がある状態でスタートする仕様で、接触するまでに補助魔法とかかけてぶつかり合うっていうのが一般的なんだけど」

 

 そこで一度言葉を区切り、溜息をついて若干遠い目をしながらテルは続きを話す。

 

「開幕直後にピアシングショットで魔法使い瞬殺、間にいた人達は貫通効果でダメージ&詠唱ストップ、その後はヒーラーが詠唱する度に妨害され続け、最終的に一方的な勝利に終わったという……」

 

「うわぁ」

 

 テルの話す内容に最初に反応したのが綾華だった。

 彼女は立場上、自分が最初に何もできないままに脱落という状況を思い浮かべてそう言った。

 

「たちが悪いのが、負けたPTは明らかにレベルも装備も格上だったという事実」

 

「「うわぁ」」

 

 次の言葉には三神の声も重なった。

 レベルの差と装備の効果を十分すぎるほどに理解している二人にとってそれは嘆きたくなる事実だ。

 

「結果それを悔しがって妬んだそのPTが長弓は使えないという噂を流し続けて長弓の立場が悪くなったという事件」

 

「「「うわぁ〜……」」」

 

 最後の人為的な悪意についてはさすがに少女の声も重なった。

 彼女にとっては人事ではなかったようだ、自分でも気づかないうちに声をあげてしまうくらいに。

 

「……ん?」

 

 当然変なところで敏感な三神はそれに気づく。

 流してもよかったのだが、なんとなくその声の出し方が気になったようだ。

 

「あ」

 

 振り向いた三神。

 声を出してしまって気まずくなっていた少女も三神達のほうを振り向く。

 当然そんな状況になれば、ばっちり目が合う二人。

 

「んん?」

 

 ただし注意点が一つ。

 

「え〜っと」

 

 三神は顔立ちはそこそこ整っているほうなのだが、「怖い」が先に来るような顔をしているのだ。

 普通に目が合っただけでも、一般人ならギロリという擬音が聞こえてくるわけで。

 

「ひっ」

 

 当然少女にはそんな擬音が聞こえたわけだ。

 暴走族の頭はってるような強い心の持ち主ならともかく、一般人でしかない彼女にとっては恐怖以外何も感じない。

 

「てめぇ……」

 

 立ち上がり、近づいてくる三神。

 その姿にきっと少女はズゴゴゴゴとかそのへんの擬音も見えているはずだ。

 ついでに噴火する火山とか、燃え盛る炎の背景も見えいていたかもしれない。

 

「すいませんっ! 盗み聞きするつもりじゃなかったんです〜!」

 

 とりあえず謝っとけとばかりに即効で頭を下げる少女。

 ただし両手をばたばた、顔からは汗がだらだら、リアルな涙目で顔を左右に振っておろおろしながら、つまりテンパってる。

 なんとなくそれでこの少女が誰だかわかったような三神……いやトライは少女に向かって問いかける。

 

「……リナか?」

 

 そう、彼女こそトライと昨夜の事件を駆け抜けたプレイヤー。

 

「いえほんとにわたしそんな喧嘩番長様にガン飛ばすようなことできるわけいやむしろ喧嘩番長とか言ってすいませんそんなふうにみてるわけではけっしてないんですがやっぱり雰囲気出てるな〜なんて思ったりしたりして誉め言葉のつもりだったとか何言ってんの的な考えは今リナって言いました?」

 

「最後の一言だけでよかったんじゃねぇのか」

 

 完全にリナだと確信したトライは、ゲーム内と変わらない悪魔のようなニヤリとした笑顔でそう語りかけた。

 見た目は180度どころか360度回ってそこからやっと180度変えたような似ていない姿形であるのに、なぜかリナはその凶悪な笑顔で落ち着いてしまった。

 なによりリアルではただ怖いだけだったのが、別の面を知ってそれだけではない人物だと思ってしまった。

 人間優しい面があると知っただけで、割とあっさり仲良くなれてしまったりするものだ。

 

「すいません、わたしテンパるとあんな感じに……

 っていうかリナって呼びましたよね?」

 

 一応確認してみる。

 

「ってことはリナで合ってんだよな?」

 

 質問に答えてないあたりさすがと言うべきであろうか。

 空気(←なぜか読めない)とか書いたほうがいいかもしれない。

 

「あー……もしかしなくてもトライ……さん、ですよね?」

 

「おう、やっぱリナか」

 

「ハ……ハハ……アハハ」

 

 やっと確認がとれたリナは、微妙に顔をひきつらせる。

 まさかゲーム内で知り合った無茶苦茶な人物が、自分と同じ学校のしかも喧嘩番長で超怖い人でゲームとか無縁だと思ってた人物だった衝撃の事実に、彼女はうまく笑うことができなかった。

 もちろん彼女だけでなく、彼女と一緒にお昼していた友人達も苦笑いだった。

 喧嘩番長と知り合いの友人、彼女達でなくても顔をひきつらせただろう。

 

 

 

 ……むしろ逃げ出さなかっただけリナの友人は素晴らしい精神力だったかもしれない。

あるあr・・・ねーよ(笑)


少なくとも自分は学友が実は同じネットゲームをやっていた、という状況に出くわしたことはありません


※2012/8/28

メタ発言を修正

全体的に修正しました、これまたひどい

※2012/9/12

文章を全体的に修正、内容には変化なし

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