第26話・つまり悩みは誰かに話さないと解決しないってことだ
このタイトルに関しては自信があります、間違いない
いまさらですがこの話は私の別作品と若干リンクしているようで別にしていません、ナレーションの最初のあたりをわからない方はスルーしてください
※注意
ネタバレですが、作中に出てくる「虎ちゃん」は誤字ではありません
超がつく有名プレイヤー音子の高らかな笑い声が、彼女の指定席から広場中に響いていた。
「にゃはは! アホにゃ、アホがいるにゃー!」
「るっせ、自覚してんだからほっとけっ」
「私は違いますからねっ!? 一緒にしないでくださいね!?」
笑い声の原因は当然、炭鉱でやらかしたトライのアホ行動である。
「あの炭鉱地獄にたった二人で、しかも魔法職無しでメタルゴーレムって……ぷぷぷ」
笑いを堪えてぷるぷる震える音子、わざとらしいくらいに笑いを堪えてるんですよーという姿勢だ。
「ブハッ! ブハハハ!
やっぱダメにゃーっ! 堪えきれんにゃーっ!
トライちゃんってばアホにゃ! 最高にゃーっ!」
事の顛末はと言えば、結局はトライがリナを連行もとい拉致誘拐した炭鉱の話になる。
あの後安全地帯までなんとか進み、矢の補充や装備の点検も済ませて休憩できた二人であった。
だがそこはやはりトライ。
有無を言わせぬ○クザ顔で提案という名の脅迫によって、無理矢理リナを連れて最奥部へと突入したのだった。
半端無い物理耐性を持つメタルゴーレムに魔法職無しで挑み、悪戦苦闘しているうちに炭鉱最下層特有の鬼沸き。
さらには妙にリアルなFGの仕様によって、切り札的な扱いだったピアシングショットがメタルゴーレムに当たった瞬間終了するという知りたくなかった事実も重なった。
ちなみにこれはピアシングショットが装甲値を上回っていないと貫通しないという仕様のためだ。
結果、モンスターの再出現に対して殲滅速度が追い付かないという状況になり、そもそも倒す手段に乏しいメタルゴーレムとモンスターの壁に押し潰されるようにして二人は死に戻りという結果になったのだった。
そして街に戻った二人は精算をするため、トライ唯一のFG上知り合いである音子のところに来て状況の説明を行ったところであった。
ちなみにリナは音子と知り合いというトライの話を聞いて軽く衝撃を受けていた。
「にゃ〜……ふぅ。
笑い殺されるところだったにゃ、ぷぷぷ」
「え、そんな死にかたあんのかこのゲーム」
「いやいや気づきましょうね、そんなわけないですからね?」
わりとマジで聞いているトライと素早くツッコミを入れるリナ。
ほんの少し行動をともにしたにしては、随分と仲良くなったようである。
余談だが笑い死にという現象は存在しない、が、イベントの1つにそういう死にかたをするものがあったりする。
失敗した場合の結果なので、知らないプレイヤーも多い事実ではあるが。
「んなことより買取り頼む。
他に知り合いいねぇしよ」
ちなみにリナはこのセリフも「頼れる生産系の知り合いは音子だけだ」としか聞こえていない。
あれだけ強くてベテランのような動きをするトライが自分よりも初心者だ、なんて考えもしてない結果なのだが、勘違いもいいとこである。
「にゃ〜、1日に2回も来たのはトライちゃんが初めてにゃ〜よ?
ハッ!トライちゃん=トラちゃん=虎ちゃん=猫科!
トラちゃんは私の同族だったにゃーね!?」
「いや意味わかんねぇから」
「いや意味がわからないですから」
ハモってツッコミを入れる二人のプレイヤー。
息もピッタリ揃うほどに仲良くなっているようだ。
「にゃ〜、同族じゃサービスしてあげるしか無いにゃ〜」
「いや聞けよ」
二人をガン無視してニヤニヤしながら音子がトレード申請をしてくる。
実はこれ、なんだかんだと理由をつけて知り合いにはサービスしまくる音子の特徴だ。
こういう点も相まって彼女の有名度はガンガンあがっていったという歴史あるやり取りなのだ。
「まあサービスしてくれんならいいけどよ……」
「え、いいんですか」
「この手のタイプは言い出したら聞かねぇんだよ、もう慣れたぜ……」
リアルで、という一言は言わなかった。
リナにはやっぱりゲーム内でそういう人と話す機会が多いベテランなんだなと勘違いされているが、そんなことに気づけるほど虎ちゃんは空気が読めるタイプではない。
「こんなもんかにゃ〜。
強化はやっとくにゃ?」
「俺はやってくれ、リナはどうすんだ?」
「あ、いえ、私はもう+6までいってるので大丈夫です」
「おぉ、すげぇな。
俺は+6失敗したぜ」
「いえ、貰い物ですから」
実際のところは売れにくいうえに使い道が無かった装備を鍛冶の練習(強化は材料を使うせいなのか生産よりレベルをあげやすい)に使ってたまたま+6まで成功してしまったという代物をリナに押し付けた、が正解なのだが、それを知っているのは渡した本人だけだ。
「じゃあやっちゃうかにゃ、トンテンカン〜っと」
「ああ、そういやよ、ちょっと聞きてぇんだけどいいか?」
作業の間に……といっても所詮ゲームであるからして、作業そのものは一瞬で終わるのだが。
その一瞬の間にトライが音子に声をかけた。
「こいつが悩んでるらしいんだけどよ、あんたそういうの得意か?」
「にゃ~? 悩み相談かにゃ?
聞くのは得意だけどにゃ~……ほい完成、+6成功したにゃ~」
完成したトライの武器と共に、音子から返ってきたのはそんな言葉だった。
事実彼女はFGログイン中のほとんどをこの場所ですごしている。
それは当然場合によっては暇な状況になるのだが、彼女のところにはひっきりなしにプレイヤー達がやってくるのだ。
できれば仲良くなっておきたいプレイヤーはたくさんいるので、誰も後ろに並んでいなければ少しでも仲良くなろうと様々な話を彼女とやり取りしていく。
結果彼女に集まる情報量は半端ではないのだが、彼女自身はそれを活かすような立場ではないため実質聞くだけということがほとんどだった。
逆に聞くだけで無駄にそれを広めたりするような人物でも無いため、話しやすいというのもあってさらに情報が集まるのだが。
「おぉ! マジか! サンキューな!」
大げさなくらいに喜ぶトライの姿は、まさに初心者のころ特有の初々しさだ。
リナにとっては純粋な人だなぁの感想だが、音子にとってはかわいいなぁという感想だ。
このへんはやはりトライという人物に対する認識の違いからなのであろうが。
「にゃ~、そんなに喜んでもらえると嬉しくなっちゃうにゃ~」
「おいおい、いいことあったら喜ぶなんて当たり前だろ?
それよか話聞いてやってくれよ」
「ト、トライさん別に大丈夫ですよ。
音子さんにわざわざ聞いてもらうような大それた話しじゃ……」
「うっせ、聞けるんだから聞いときやがれ。
話するだけならタダだろうが」
「うう~っ……」
「さて~っと、今日はそろそろ店じまいにゃ~」
「あん? そういやそろそろいい時間か」
「日付はとっくに変わってるにゃ~。
そういえば虎ちゃん、君らは普段どこで休憩してるのかにゃ?」
「ん? なんでんなこと……あぁ」
唐突にそんなことを聞いてくる音子に不思議そうな表情を浮かべるトライ。
だがしかし、その言葉の狙いに気づいてすぐに調子を合わせることにする。
空気が読めないトライだが、肝心なときに重要な空気を読むことはできるくらいには能力があったようだ。
「いっつも教会か、その脇にある原っぱにいるな」
「にゃ~、ガブ……今はシャインちゃんかにゃ?
彼もいるのかにゃ?」
にやにやとしながら語り合う二人の男女。
そのやり取りの意味がわかってないのはリナだけだった。
「???」
「さぁ~てなぁ~、落ちるつってたけどあいつのことだからまだいるかもなぁ?」
「そうかにゃ~、じゃあ会えるかもしれないし寄ってみようかにゃ~?」
にやぁっと笑みをさらに深める二人。
その二人がなぜかそろってリナへと振り返り、同時に言葉を発した。
「「どうせだから一緒に行くか(にゃ)」」
「……え~っと?」
――――――――――
で、やっぱり拉致されてきたリナは誰もいない草原で二人の狙い通りの事態に陥っていた。
「……というわけなんです」
「なるほどにゃ~」
「ちなみに俺はそういうアドバイス向いてねぇからな」
「それはわかってるにゃ」
「それもなんか悲しいぜ……」
つまり、人気のないところでちゃんと聞いてあげようという優しさだったわけだが。
ちなみにシャインがログインしてないことはわかりきっていた。
いまだにパーティーを組んだままの状態のトライには、シャインがログインしてるかどうかが一発でわかるのだ。
あくまでも悩み相談のために呼び出したのではなく、音子が「自分から」ここに来たという事実が大事だったのである。
有名税とでも言うべきか、有名になったプレイヤーの動向は挨拶1つとっても気にするプレイヤーはいたりするものなのだ。
「にゃ~、そういうことならちょっとだけアドバイスできるにゃ~」
「マジか、さすがベテランは違ぇな」
「えっと、どうすればいいんでしょう?」
にっこりと微笑みながら、音子はあるアイテムを実体化させる。
リナにとっては意外な、トライにとっては見慣れたアイテムが。
「……長弓?」
「長弓だな」
「長弓にゃ」
それはまさしくリナも扱う長弓だった。
しかし使われているであろう素材から、その装飾にいたるまでが明らかにリナのものより格上というのがわかる代物だ。
白銀に輝く美しい長弓で、弦の部分が光でできているかのような見え方をする不思議な弓だった。
「これでも昔は開拓組にいたにゃ~よ?
って言っても大分昔で、今とは全然違った時期だったけどにゃ~」
開拓組
それは別段何かの組織というわけではない。
サービス開始からそれなりの年数が経過しているにも関わらず、未だ半分も全容が掴めていないFGというゲーム。
この明かされていない未知の部分を捜し求め、日々最新のイベントをこなし続けるプレイヤー達のことを尊敬を込めてそう呼ぶのだ。
当然未知の世界から情報を持ち帰るためには、生半可な強さでは勤まらない。
開拓組にいる、というだけで、それはそのプレイヤー自身が相当な強さを持っていることの証明にもなるのだ。
「すごい……音子さんはやっぱりすごい人だったんですねっ!」
「よくわからんがすげぇんだな?」
「すごいんですよっ! っていうかなんで知らないんですか!?」
「まぁまぁ、昔の話だからにゃ~」
弓をゆっくりと地面に倒しながら、若干遠い目をしはじめる音子。
なんとなく、話を聞いたほうがいいような気配がする。
「……私はにゃ、リナちゃんと同じように感じた時期があったにゃ」
え、とリナは小さく呟いた。
目の前にいる超がつく有名プレイヤーが、自分と同じだったなんてとても信じられない。
「まぁ色々あったけどにゃ、私が開拓組から退いたのは、負けたからにゃ」
「負けた……ですか」
「そうにゃ、負けたにゃ」
肩をすくめ、やれやれといった風に動く音子。
それを気にしているという様子は少しも感じられない。
「とんでもなく強いモンスターにぶつかっちゃったにゃ、未だに何であんなモンスターと戦ったのかよくわからないにゃ。
当時の仲間の一人は何としてでもリベンジする! とか言って未だに探し回ってるにゃ~ね」
ちなみにそれこそがFGで最強の座を争うギルドの1つ「紅蓮親衛隊」のサブギルドマスター紅蓮その人である。
なぜサブギルドマスターかと言えば、これは紅蓮の強さを求める姿勢に憧れた周囲の人間が勝手に作り、半ば無理やり紅蓮を引き込んだことが理由である。
「私達は手も足もでなくってにゃ……
でも退いた理由はそこじゃなくってにゃ~」
再び遠い目でどこか虚空を見つめる音子の姿に、このとき初めて悲しみという感情が見えた。
「みんなで必死になって対策を考えたにゃ、それこそ当時の最高装備とか、レアアイテムとか、資金を無視して色々考えたにゃ。
だからこそ、わかっちゃったんだにゃ~……」
「なにが……何がわかったんですか?」
「……長弓に居場所が無かったにゃ」
「……」
「色々考えたんだけどにゃ、長弓で役に立てるっていう場面がほとんど無かったにゃ。
仲間はもちろん色々考えてくれだんだけどにゃ、長弓を使ってる私が一番理解しちゃったのにゃ。
あぁ、これは私がいたら邪魔だわってにゃ~……」
「そう……ですか……」
「だから私は退いたのにゃ、せめて成長させたDEXを活かして、なんとか仲間を助けられないかと思って今のスタイルになったにゃ。
結局今みたいな状況になっちゃったけどにゃ、今でも昔の仲間はよく来てくれるにゃ~」
「……そう、ですね」
目に見えて落ち込むリナに今頃気づいたのか、音子はあわてて否定する。
「あぁ~、違うにゃ、役に立たないって言ってるんじゃないのにゃ。
私が言いたいのは別のことにゃ」
「え?」
「私が言いたいのはにゃ、戦闘だけが仲間のためになるってわけじゃないってことにゃ。
私みたいに直接戦闘はしなくても、その戦闘を助けることで結果的に仲間を助けてるにゃ。
私が鍛えた武器を使って仲間が戦ってくれるなら、私は仲間と一緒に戦ってるようなもんだからにゃ!」
「要するに」
黙っていたトライが突然立ち上がり、ででーんと効果音が響きそうな態度でふんぞりがえる。
「好きにやりゃいいってこったろ、役に立ってねぇってわかってから考えりゃいいんだ」
「にゃっはっは! 虎ちゃんやっぱ馬鹿にゃ~!」
「あは、あははっ!」
「なんだよ? 変なこと言ったか?」
「言ったにゃ! 馬鹿にゃ! やっぱり馬鹿にゃー!」
「まかせろ! 自覚してるぜ!」
「あははっ! あははははは!」
「んだよ、リナまでそんなに笑うことかよ?」
「だって、あはははは……なんか、悩んでたのが馬鹿らしくなっちゃったっていうか、ふふ」
教会脇の原っぱに、二人の笑い声はよく響いた。
音子さんの以外な過去発覚
これにて彼女はお役ごめん・・・なわけはないのでご安心ください
※2012/8/28
メタ発言を修正・・・するほどの内容が無かったので細かい部分を若干修正
※2012/9/12
文章を全体的に修正、内容には変化なし




