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第25話・つまり弓ってのは強いわけだ

作者は強いイメージがあります

特に一点集中火力という意味では魔法職より強いと思ってます

万能ではないとも同時に思っています

「疲れました……」

 

「このゲーム疲労って感じるんだっけか?」

 

「物理的にというか精神的にです」

 

 疲労なんて無い、と教えてくれるシャインのいない空間、炭鉱地下2階の安全地帯セーフティーエリアで、疲れを言葉よりも態度で示しているリナがいた。

 空気がなぜか読めないトライはケロッとしている。

 

「まさかほんとに連戦とは思いませんでしたですよ」

 

「うむ、スカッとしたな!」

 

 晴れやかな顔でかくはずの無い汗を拭うふりをしたトライ、いい仕事したと言わんばかりの顔だ。

 

「スカッとしました、それはもうスカッと、必死すぎて感じたのはついさっきですが」

 

 リナはむしろ疲れたように地面を虚ろな目で眺めている。

 若干根暗なのかもしれない。

 

「耐久とか大丈夫か?」

 

「え? まあちょっと減ってますけど、別に問題は……」

 

 途中から嫌な予感を感じ始めるリナ、「ありません」の最後の一言が口から出ない。

 

「そうかそうか、問題ないんだな(ニタァ〜ッ)」

 

「え、え〜っと……」

 

「行くか(ギラリ)」

 

「は、はいよろこんで〜」

 

 某居酒屋チェーン店のような言い方になってしまうほど、トライの笑顔は凶悪だった。

 ヤ○ザなみである、ヤク○。

 

 

 ――――――――――

 

 

 キュンキュン!

 

 胸が高なる……わけではない。

 もちろんかわいいものを見て胸が熱くなったわけでもない。

 リナの放った矢が高速で飛ぶ音である、リナはかわいいが残念ながら胸キュンしてくれる人物は周りにいなかった。

 

「『ピアシングショット』!!」

 

 リナがスキルによって強化され、うっすらと青い光を纏った矢を放つ。

 

「ゴブゥッ!?」

 

 通常攻撃の倍はあるだろう速度で飛んだ矢は、一番手前にいたゴブリンディガーのど真ん中を綺麗に貫いた。

 普通であればその瞬間にゴブリンディガーは停止し、矢も同じく空中で停止したあとでモンスターと一緒に消えていく。

 しかし今回は普通ではなかった。

 

「ゴッ!」

「ブッ?」

「リン!」

 

「いや最後のヤツおかしいだろ」

 

 最初の一体を貫通し、止まることの無かった矢はその背後にいたゴブリンディガー達を同様にして貫いていく。

 結局壁にぶつかるまで勢いの衰えなかった矢は、ビィィンという音をたてて壁に突き刺ささることでやっと動きを止めた。

 

「ハハッ! すげぇスキルだな、その調子で頼む、ぜっ!」

 

 傍らに浮かんでいたリビングウェポン(失敗作)を掴み、野球のバッターのように構えるトライ。

 バッターと違うのは、「打つ」ためではなく「投げる」ために構えているために、回しすぎと言えるほどに体を捻っていたことだろうか。

 

 ぜっ! ←ここで投げる

 狙いは空中、羽を持つレッサーデーモン

 

 ブオンと豪快な風切り音をたて、投げられたリビングウェポンは高速回転をしながら結構な勢いで飛んでいく。

 リナの弓矢には遠く及ばないものの、人間の全力疾走くらいの早さ(時速50キロくらい)で飛んでいくそれを、空中にいるレッサーデーモンが避けることはできなかった。

 

 しかしギャッと短く悲鳴をあげ、胴体の半分ほどまでリビングウェポンを食い込ませたままであるというのに、怒り(のような気がする)の視線を向けてトライへ襲いかかろうとする。

 

 ストン

 

 ……が、リナの的確すぎる追撃によって頭に矢が突き刺さり、空中で停止した。

 

「……うわぁ」

 

 トライとしては数日前の自分を見ているようで、正直あまり嬉しい光景では無いようだ。

 手を止めるほどでは無いようだが。

 

「トライさん! 安全地帯はまだですかっ!?」

 

 リナの声に対し、ゴブリンディガーの群れに適当な剣撃をしながらトライは返事をする。

 

「大部屋あと1つ超えた先だ! なんかあったか!?」

 

「矢が無くなりそうです!」

 

「じゃあ殴れ!」

 

「そこは普通休憩しようでは!?」

 

「全部倒せんならな!」

 

 そこでリナは一旦落ち着いて周囲を見回す。

 いまだにあちこちから沸き続けてくるモンスターの群れ、最初ほどではないものの、それでも普通では考え付かないくらいに数が多い。

 残りの矢を全て使いきったとしても殲滅できるかは微妙なラインだ。

 しかもまだ大部屋が1つあるというのでは、どれだけ効率的に運用しても足りるわけがない。

 

 残された選択肢は2つ。

 肉弾戦か、撤退か。

 

「一旦引きましょう」

 

 悔しい、そう感じないわけではない。

 数が多いとはいえ所詮は雑魚の群れ。

 矢さえ十分な数があれば対応できないほどではない、もちろんトライがいればという前提があればの話だが。

 

「一旦2階に戻りましょう、矢を作ってから……」

 

 それが無難だ。

 安全を優先することは悪いことではない、誰だって理由が無ければ死にたくは無い。

 特にVRという状況では、例え実際に死ぬことはないとわかっていたとしても、画面の向こう側でしか起こらなかった現象が目の前で発生するのだ。

 それは死の恐怖を容易に想像させ、痛みが無くとも忌避すべきことだとほぼ全てのプレイヤーが考えている。

 知識としてではなく、本能として。

 

 わかっている、わかっているとリナは思っている。

 それが普通だと、悔しさなんて感じる必要は無いんだと。

 所詮ゲームだ、少なくともリナと、リナの周囲のプレイヤーはそう考えている。

 効率的に、現実的に、打破できる状況を選択する、または打破できる状況を作り出してから実行する。

 

 それが、普通なんだと。

 

 だから、悔しい。

 どうしてちゃんと矢を補充しておかなかったのか。

 どうしてこんな場所だと調べておかなかったのか。

 どうして自分はこの状況を打破できるほど強くないのか。

 

 どうして、自分は―――

 

 ―――トライの言葉に―――

 

 ―――頷くことができなかったのか。

 

「進め!」

 

 構えを解き、後退を始めようとしていたリナはその言葉に体をビクッと震わせた。

 

「前に! 進め! 後ろに! 道は! 無ぇ!」

 

 剣を降り、モンスターを両断する、そのたびに一言ずつ語る。

 

 この言葉は、二人に重大な認識の齟齬を生み出す。

 

 トライは「来た道はモンスターの群れで埋まってるはずだから前に進んだほうがマシ」という意味で言っている。

 

 しかしリナは初めて来た階層であるため、そんな意味に捉えることはできなかった。

 リナにはこう聞こえている。

 

「ビビって逃げ出すようじゃ成長しない!」

 

 普通ならこんな理解の仕方はしなかったかもしれない。

 しかしここは戦場と言ってもいい場所、そこでは冷静な思考が鈍ることがある。

 さらには自らの置かれた状況と、わずかな心の葛藤がリナにそう感じさせた。

 

 しかし現実として矢が間に合いそうに無い。

 

「でも矢が足りないんですよ! ほんとに殴って倒すわけにも……」

 

「『うるせぇ』!!」

 

 リナは再び体をビクッとさせる。

 トライは怒っているのかと勘違いするほどに怖い顔をしている。

 スキル発動は絶対わざとだ、だってほぼ全部のモンスターがトライを見ていた状況だったから。

 

「よっ、と」

 

 体を回転させて周囲のモンスターを一掃するトライ、スキルではなく単なる「たたかう」である。

 

 一瞬空いた時間を使い、リナのほうに向かってくる。

 割りと全力疾走に近い。

 

「みぎゃぁぁぁあ! 人は引き留めておいて自分は逃げるんですか!?

 っていうかなんでこっちに! ハッ! 実は最初からMPK狙いの悪人だったのですね!?

 ノーマナーで通報してやるぅぅう!?!?」

 

 結構な勢いで迫るトライとそれに続くモンスターの群れ。

 ただしあまり知能というか戦闘用のAI設定がゆるいらしく、全てが全てトライに向かって突っ込んでくる。

 妙にリアルに設定されたモンスター達の肉体はいわゆる「重なる」という現象を起こすことはなく、お互いの体にぶつかり合ってあまり速度が出ていない。

 

「さっきのヤツ!」

 

「え? あ、う」

 

 半狂乱状態でおろおろあわあわしていたリナがトライの一言で正気に戻る、戻って気づいたのは危機的な状況と、それを一瞬で好転させられる理想的な状況だった。

 

 ある一点を除いて。

 

「だ、ダメです! 近すぎます!」

 

 長弓の欠点、近い敵に対してはシステムの補正が働かない。

 それはつまり、リアルで弓の心得が無ければ真っ直ぐに飛ばすことさえ難しいということだ。

 

 リナは当然、リアルでの弓など触ったことすらない。

 

 補正があるからまともに打てるのだ、システムに助けられているから戦えているのだ。

 ただの一般女性でしかないリナにとって、雑魚が相手であってもまともな攻撃を行うにはモンスターの群れは近寄りすぎていた。

 

 少なくとも、「一番手前」にいるモンスター達は。

 

「だったら後ろのヤツらを狙え!」

 

 駄目元で一応弓を構え、すぐにでも矢を放てる状態になっていたリナはハッとする。

 相手は行列、そして使うスキルの特性上、意識しなければいけないのは目の前の「点」ではなく、その行列そのものである「線」

 それに気がつき、見えるはずのない最後尾に意識を向ける。

 

(あ、また)

 

 意識した瞬間、未来予知でもしたかのように一瞬先の状況がイメージされた。

 自分の体がどう動けばいいのか、どこから矢を放てばいいのか、どのタイミングで行動を起こせばいいのか。

 

 弓に矢をつがえたまま、トライとモンスターの群れの間に滑るようにして割って入る。

 息を止め、弓の弦を思い切り引き、頭の中にあるスイッチを半分だけ押す。

 腰を落とし、右足は思い切り曲げて左足は真っ直ぐに伸ばして前に出す、重心をできるだけ低くするためだ。

 あとは弦を引っ張る指の力を解放すれば、ただ真っ直ぐに飛んでいく。

 腰を落とし、重心を下げ、低い姿勢から放たれる矢。

 その高さは、ゴブリン達の胸と同じ高さだった。

 

「『フッ!』」

 

 マニュアル操作によって放たれたピアシングショット。

 狙い通りに一番手前にいたゴブリンの胸を貫く。

 勢いは止まるはずもなく、その後ろにいたゴブリンを貫き、さらにその後ろへと貫き続けていく。

 

「ホブッ!?」

「ゴッ!」

「ブッ!?」

「リン!!!」

 

「いやだから最後のやつおかしいだろ!?」

 

 モンスターの群れには明らかな穴ができた、行列はモーセのごとく左右に割れ、ぽっかりと通路のような状態になっている。

 モンスターの壁の中央とか歩きたい通路でないことは間違いないが。

 

「ハハハッ! やりゃできんじゃねぇか!」

 

「ふわ……」

 

 自分のやったことに軽く呆けつつも、この場において唯一の仲間であるはずの男から不穏な気配を感じる。

 

「よし、この調子で行くぞ(ニタァ~)」

 

「は……はいヨロコンデ~」

 

 再び某居酒屋チェーン店の掛け声が出たのは仕方ない。

 トライの顔はそれほどに怖かった、マジヤク○である。

 

(それにしても、新発見だ~)

 

 ふと、リナは今自分が行った行動について考える。

 長弓は近距離ではどうしようもない、それがリナの中での常識だった。

 だが今のやり方で戦う限り、少なくとも水平方向に関しては全く問題ないことになる。

 さすがに地面に向けてとなると狙うべきポイントがわからなすぎるので難しいだろうが、それでも有効な手段には違いない。

 慣れるまでには時間がかかるかもしれな……

 

「おら次だ次ぃ!!!」

 

「は、はいぃ!」

 

 訂正、意外と早く慣れそうだ。

 

 実はこの技術、長弓をこよなく愛する自称狩人のプレイヤー達によってすでに発見されている技術だったりする。

 しかし壁が多かったり狭い室内だったりすると通用しないことが多く(できなくはない)、いまいち認知度が低い。

 結局は小回りが利いて運用が容易く研究が進んでいる短弓やオートボウガンが最前線では重宝されている現状のため、上級プレイヤーでも一部が知っているのみに留まっている。

 逆に言えば、その程度しか認知されていないということであり、少なくともリナの周囲にそれを知っている人物はいなかった。

 

(どうして知ってたんだろう)

 

 ふとトライを横目に見てみれば、リビングウェポンとともに嬉々としてモンスターの群れに飛び込んでいくところだった。

 

(実はものすごい熟練プレイヤー……にしては装備が貧弱すぎるような)

 

 勘です、ただの勘です、シャインがいればそう教えてくれたかもしれない。

 ある意味では勘だけで長弓の特殊な扱い方を言い当てたのはすごいかもしれないが、それでもやはり勘で言ったに過ぎない。

 装備が貧弱なのは初心者だからで、リナよりもやってる期間は短いからだ。

 どちらにしてもそれを教えてくれる人がいないことが残念でならない。

 

 しかし熟練プレイヤーかと迷ったのには、リナとしては当然理由がある。

 一度しか使わなかった貫通効果のある後衛スキル「ピアシングショット」。

 それを持っていると理解した瞬間にモンスターを行列化させ、最も有効で最も効率的で、何より矢を節約できる手段をとった。

 かすり傷のような攻撃を食らって一時的にリナへと向かおうとしたモンスターも、すぐさま「威圧」と自らが前線に飛び込むことで自分へとモンスターを集める。

 巧みなまでにモンスターの群れを誘導し、リナが狙いやすい場所に向かって一直線になるようにしてからリナの元へと戻ってくる。

 リナはただその動きを観察し、時折空中にいるレッサーデーモンを打ち落としながら必殺の瞬間を待つだけだ。

 

「『ピアシングショット』!!」

 

 5度目のスキルを放つころには、その大部屋のモンスターはほとんどが倒されていた。

 矢のほうも想定していた消費の半分程度しか減っていない。

 

「おう、行くぞ!」

 

 残るモンスターも数体、今しがた再出現リポップしたのではないかと思われる個体ばかりだ。

 あとは帰還アイテムでも使えば大丈夫かと思っていたリナにとって、その言葉は何を言っているのか理解できなかった。

 

「行くってどこにですか? もう終わりじゃないです……か……っ!?」

 

 言いながら、トライの言った意味を急速に理解していく。

 

 モンスターが再出現リポップするときの三角形が集まるエフェクト。

 倒した瞬間を逆再生しているような光景がリナの視線の先に発生していた。

 

 それも5箇所ほど同時に。

 

「一気に倒したから一気にまた出てきやがるはずだ、今のうちに安全地帯まで行っちまうぞ!」

 

「い、急いで帰還アイテムをっ!」

 

 わたわたとしながらアイテムの画面を開き、帰還の準備をしようとしたが。

 

 ガシッ

 

「はい?」

 

「いいから行くぞ、安全地帯行ってからでも遅くねぇだろ」

 

「お、遅いですうううぅぅぅ!」

 

 ズルズルと引きずられるようにして奥へと進むトライとリナ。

 結局リナは帰還アイテムを使うことはできないまま、奥の大部屋を通り、地獄のような沸き方をする炭鉱を安全地帯まで戦い続ける羽目になったのであった。

 

 後日、炭鉱の笑う魔王という都市伝説に、女性プレイヤーが一人で行くと暗闇に引きずりこまれてログアウトできなくなるという噂が追加されることになったというのは完全に余談である。

 

 

 

「炭鉱には二度と行かない!」

 

 

 

 リナは涙の出ない涙目でその時のことを語るのだとか。

リナもそこそこ天然の勘違い娘だったり

まずい、綾華のキャラがどんどん薄くなっていく・・・


※2012/8/28

メタ発言を修正

全体的に修正、これもひどい

※2012/9/12

文章を全体的に修正、内容には変化なし

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