第24話・つまりリアルでもゲームでも対人関係は難しいってことだ
難しいです、凄く難しいです
トライは馬鹿なので全部ガン無視です、作中でも馬鹿発揮してくれます
馬鹿を見てニヤニヤしていただけたら幸いです
「……というわけでして、悩んでるんです」
真剣な悩みをトライに打ち明け、少しだけ軽くなった気分で顔をあげる。
そこには難しい顔をしたトライが、睨むようにして何もない空間を見つめていた。
「うむ」
一言だけ発し、難しい顔のままリナへと向き直り。
「わからん!」
ガックリ、リナからそんな音が聞こえたような気がする。
「要はですね。
やりたいことをやると仲間と疎遠になっちゃって、仲間と一緒にいたいならやりたいわけでもないことをやらなきゃなんですよ!」
「うむ、わからん!」
「今のでわかんなかったらどうしようもないですよっ!?」
どうしようもないから諦めろという助言をしてくれるシャインとトロンはこの場にいない。
非常に残念である。
「今さらだが1つ言っておく」
「なんですか?」
首をこてんと左に傾けるリナ、萌えを理解できるプレイヤーだったら彼女に恋をしていたかもしれない。
「俺はアドバイスはできん! 向いてない!」
「ほんとに今さらですっ!?」
Σ( ̄□ ̄;)って感じの表情をするリナ。
立ち上がってしまい、あまり高くない身長で目一杯びっくりしたアピールをしているのがまたかわいらしい。
トライにはあまり効果的ではないようだが。
「黙れ覗き!」
「はいっ! すいません!」
結構理不尽な怒られ方な気がするのだが、実際そのとおりであったリナは脊髄反射レベルで謝る。
「言っただろうが、聞くだけならってよ」
「ほんとに聞くだけだと誰が思いますか!」
確かにリナのほうが正論であろう。
聞くだけならと言って本当に聞くしかしないというのは人として珍しい。
というかダメ人間と思われても仕方ないかもしれない。
「黙れ覗き!」
「なんて理不尽!?」
再び繰り返される罵倒。
さすがに二度目は無かったようで、わずかながらもリナは抵抗をしてみる。
効果があったかどうかは謎ではあるが。
「そういう系のアドバイスは向いてるやつ紹介してやる。
だが今日はダメだ、もうログアウトして今頃いちゃついてやがるだろうからな!」
テルは微妙な勘違いをしているのでいちゃついているわけではないのだが。
綾華もその部分を指摘してしまえば告白するような状況になってしまうため、指摘しきれない。
そこがまた微妙な三角関係を作り上げ、今日まで維持し続けているのではあるが。
「はぁ、逆にそこまでしていただくのは悪いような」
「いつまでもジメジメしてウジウジして自分の中で考えてるうちは答えなんざ出ねぇよ。
経験談だ、信用していいぜ、今のままじゃ絶対答えなんざでねぇしどんな答えになっても後悔する」
どきり、としたのがわかる人にはわかっただろう。
少なくとも何かが心に響いたのは間違いない。
答えを出したいと思いながらも、仲間に相談することは中々できなかった。
もし自分のやりたい事を全否定されてしまったら、と思えば、自分そのものを否定されてしまうような気がしたから。
やりたい事をやればいいよ、と言われたとしても、それが上辺だけの発言でしかなかったらと思えば。
否定されなかったという事実から勘違いしてしまい、自分が気付かないまま孤立してしまうことになってしまうかもしれない。
怖かったのだろう、孤立してしまうことが。
嫌だったのだろう、一人であることが。
まぁ世の中ぼっちと呼ばれてもやり続ける人はいるが、彼女にそこまでのやる気は無かった。
「……ひどいです」
「……ああ、ひどいぜ。
言っただろ、俺はアドバイスとか向いてねぇんだよ」
言い方さえ変えれば、励ましの言葉になっていたのかもしれない。
言葉さえ入替えれば、元気を与えていたかもしれない。
「でも」
でも、と続くということは、もしかしたら彼女にとってはその言葉ではダメだったのかもしれない。
「でも、なんだよ?」
もしかしたら、飾るという言葉そのものを朝の生ゴミと一緒に捨ててきたようなトライの言葉こそが、彼女に一番響いたのかもしれない。
「でも、私だって、いっぱい言いたいことあるんです!
私だって、私だって……わだ……し……だぁっで~……っ!」
涙の出ない泣き顔で、声をあげて泣き始めるリナだった。
飾らない、隠さない、偽らない、トライが行ったのはそれだけだ。
人とのコミュニケーションをとるうえでは、以外に難しいと言われていることをしただけだ。
それだけに、まっすぐに言われた言葉は、まっすぐに心まで届くことがある。
「んだよ……俺のせいか?」
トライのせいだ、とは言い切れないのであろうが、トライが切欠であったことは間違いないだろう。
それを理解できるはずのシャインもトロンも、この話を知るのはもっと先のことであった。
――――――――――
「泣き止んだかよ?」
「うぐっ、ふぁい、すびまぜんでした……ぐずっ」
心のタガが外れて唐突に泣き出してしまったリナを慰めるトライ。
「うし、んじゃ行くか」
スッと立ち上がりながら、片手をリナに向けたままトライが立ち上がった。
対するリナのほうは意味がわからずきょとんとしている。
「行くって、どこにですか?」
「決まってんだろ」
ニヤッと悪役顔の笑顔を決めるトライ。
悪巧みをしていると思ってしまう完全な悪顔だ、悪巧みできるだけの頭が無いことを知っている人以外にとってはだが。
「憂さ晴らし」
――――――――――
「みぎゃーーー! 無理っ! 無理無理無理ですーーーっ!」
「いけるって! 大丈夫だって! 俺が大丈夫だったんだから大丈夫だって!!!」
なんとなく卑猥な感じに聞こえてしまう会話だが、もちろんそんなことはしていない。
炭鉱地下1階に下りてズンズン進んでいき、リナは一度も降りたことのない地下2階へと足を踏み入れた。
2階はモンスターこそゴブリンディガーがほとんどではあるが、かなりの数が常時沸いているのでソロでここまで進むプレイヤーはほとんどいない。
実際リナも職業的な理由と、材料的にそんなに大量の素材が必要なわけでもないので、地下2階まで踏み入ったことは無かった。
そして2階に初めて侵入するということは、前回トライが体験したことを追体験することになるわけで。
「数多すぎですからっ!?」
地下2階に踏み入った途端、そこかしこから大量に現れるゴブリンディガーの群れ。
20体以上軽くいるその光景は、せいぜい2~3体程度しか同時に相手をしないのが常識のFGではかなり珍しい光景だ。
初見であれば驚くのも無理はない。
「大丈夫だって! おら喋ってねぇで攻撃攻撃!」
言いながらもすでに飛び出し、ゴブリンの群れへとリビングウェポン(とリナは思っている)を連れて飛び込んでいくトライ。
「おら『かかってこいや!』」
しっかりと威圧スキルを発動し、ゴブリン達の注意を集める。
リナとしては好きに攻撃できる理想的な状況となってしまえば、攻撃しないという選択は悪手だ。
「うーっ! もう知りません!」
背中に担ぐようにして持っていた長弓を構え、右腰に剣を挿すようにして持っていた矢筒から矢を一本取り出す。
キリキリと音を立てて弦を引き絞り、ゴブリンの群れに向かって狙いを定めようとして。
「ちんたらやってんなよ! 俺が全部倒しちまうぞ!?」
ガクッと体勢を崩す。
弓というのは割りと集中力のいる攻撃方法だ。
それをわからずに馬鹿にされて、集中力が途切れずにいられるほどリナのメンタルは強くなかった。
「ちんたらって、弓は狙いを定めるのが大変なんですよ!?」
もっともな意見ではあるが、しかし返すトライの言葉のほうがこの場合は正しかった。
「狙いもクソもあるかよ!?
こんだけ数がいたら適当に狙っても当たんだろうが!」
そのくらいに数は多い。
適当に群れているところに矢を放つだけで、絶対どれかには当たるだろう。
「あーもうっ! 誤射しても文句言わないでくださいよ!」
実際それであまりよろしくない雰囲気になったことがあるのだろう。
リナとしてはそれを避けるためにも、正確に狙いをつけたいところだったのだろう。
「心配すんな! 慣れてる!」
味方からの誤射に慣れてるってどういうプレイをしてるんだろう、と思ったが口には出さない。
特殊な性癖の持ち主であるかもしれないわけであるからして。
「はっ!」
気合の掛け声とともに、適当に「その辺」という程度の認識で矢を放つ。
狙いはトライの周囲にかけよっているゴブリン集団の最前線で、ゴブリン一体分の隙間も空けずに群がっている。
実際これで当たらない、というほうが考えずらい場所に向けて攻撃をした。
「ゴブェッ!?」
鳴き声と共に一体のゴブリンが例の不自然な停止をする。
よく見ればリナの放った矢がそのゴブリンの腹あたりを斜めに突き刺さっていた。
リアルであればそれでも死なない場合もあるにはあるが、そこはやはりゲームである。
かすり傷のような当たり方でない限り、明確化されたステータスとダメージ、そしてHPという設定に則り、そのHPを0まで減らせるだけのダメージを与えたようだ。
「次っ!」
消えていくゴブリンを最後まで見届ける、なんて間抜けなことをしている余裕はない。
なんせ狙う相手はまだまだ沸いてきているのだから。
「ははっ! やりゃできんじゃねぇか!」
自分も一体のゴブリンを真っ二つに切り裂きながら、トライはリナにそう声をかけた。
トライの傍らに浮かぶリビングウェポンで左側の敵を攻撃しながら、トライ自身は右側にいたもう一体へと剣を向け、返事も聞かずに再び攻撃する。
「はっ! やっ! ふっ!」
リナのほうももはや最初の集中力はどこへやら、少なくとも素人にはそういう風に移るような勢いで次々と矢を放っていく。
しかしその放った矢の悉くが、当たり方の差こそあれ全てゴブリンに命中していることを知れば考えは少し変わるだろう。
1つの対象を正確に狙うために使う集中力と、複数の対象を連続で狙い続ける集中力は別種のものだ。
弾幕系のシューティングゲームをやったことがある人ならわかるであろうが、点と線の違いと言えばわかるだろうか。
大量の敵の弾を前にして、わずかな隙間である「点」を見つけて避けていくためには視界を狭くする必要がある。
これはある意味で最も集中と呼んでいい状態だ。
しかしずっとその状態でいるわけにもいかないし、何より疲れてしまう。
敵の弾が真っ直ぐ飛んでくるだけのものであるなら、むしろその射「線」上から外れてしまったほうが簡単だ。
「線」を避けるために必要なのは広い視野であり、必要な情報を取得できるだけの集中力が必要になる。
どちらがより集中力が必要か、というわけではないが、種類は違えどどちらにも集中力というものが必要なのだ。
今のリナは、点で集中することをやめ、線を意識して行動している状態だった。
「やっ!」
(あ、頭に当たる)
そんな一連の動作の中で、何気なく放った一発。
その一発はなぜか、正確にゴブリンの頭部に突き刺さる明確なイメージを伴った。
「ゴブルァッ!?」
そしてそのイメージ通り、ほとんど違いがあることなくゴブリンの頭に矢が突き刺さり、不自然な停止をすることで倒したことがわかった。
「……?」
「休んでんなー! まだいんだぞゴラァ!」
「はいっ、すいませんっ!」
今起こった不思議な体験を考える時間も無く。
キリのないゴブリンディガーの群れを相手にしているうちに、リナはそんな体験のことなど忘れてしまったのだった。
「ちょっ! 数多すぎですから!?
っていうか進んでるし! 最初の位置から進んでますよ私たち!?」
「いいんだって! 安全地帯まで行かねーとどうせ休めねーんだって!」
「ずっとこの状態ですかっ!」
「ずっとこの状態だ!」
「鬼いいいいいいい!?」
地下2階には二度と入らないと心に決めたリナであった。
ちなみにリナちゃん、基本真面目な子です
ゲームで泣いちゃうとかどんだけだよとか思っちゃうかもしれませんが、意外といるもんですよ
作者は泣いたことあります、あのころは若かった
※2012/8/28
メタ発言を修正
リナに関する部分を大幅修正、というより全体的に修正
これはひどい
※2012/9/12
文章を全体的に修正、内容には変化なし




