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第23話・つまり理想と現実の違いは悩みの種ってことだ

理想と現実・・・どちらも必要なものです


現実から理想を求めるか、理想に合うものを現実で探すかで大分方針が変わりますけれども

「はぁ……」

 

 薄暗いという設定の、しかしゲーム的な理由で暗色系にまとめられているだけで実際には見通しの悪くない炭鉱の中。

 木枠によって通路を指定されているかのような道をトボトボと歩く人影があった。

 

 その人物の名はリナ。

 赤毛で頭の左右に短いツインテールをしている髪型なのだが、ゆらゆら揺れるように動いて可愛らしい。

 黒のレギンスに茶色系のショートパンツ、同系色のジャケットを着ているが、所謂へそだしというヤツで体のラインがはっきり見えてしまう。

 男の夢と希望は良くも悪くも普通だが、まぁ大きければいいというものでもないが。

 

 FG歴はようやく初心者の域を超え、2度目の転職を目前に控えた中級者レベルに差し掛かるところ、という程度のプレイ歴だ。

 日数的な話をするなら、1日2時間ほどプレイして約3週間ほど、という程度になる。

 

 転職を目前にしながらも、彼女は未だ転職をすることなく、転職の追い込みでレベル上げに勤しむわけでもなく、何かを探しているかのように地面に顔を向けてゆっくりと歩いている。

 

「辞めちゃおうかなぁ」

 

 FGで楽しいと言われる時期は、ほとんどのプレイヤーは2度目の転職から最後の一歩手前までと答えるだろう。

 ある程度の強さを実感できるようになり、しかもその強さが成長していく過程を味わえるほとんどがこの期間に行われる。

 最大レベルの手前などになれば、それはもはや準備が終わって駆け抜けるだけのいわば修行のような期間になってしまうからだ。

 

 その最大の楽しめる期間を目前にして、リナが辞めようかとまで悩んでいるのには当然理由があった。

 

「ビーストテイマーはネタ、かぁ」

 

ビーストテイマー

 後衛から派生するジョブの1つ。

 後衛から弓系装備に補正のかかるアーチャーを選択し、さらに転職を進めていくことで転職可能になる職業だ。

 最大の特徴は名前の通り、モンスターの一部を仲間にして一緒に戦えるという点。

 

 しかし現状でこの職業はネタ……笑い話にするための職業として認識されている。

 理由はいくつもある。

 まずビーストと付くことからわかるように、動物型の魔物しか仲間にできない。

 しかし動物型モンスターは基本的に弱い部類が多く、同じマップ内でも下位の強さであることが多い。

 全体で見ればさらに立場は低くなり、ボス以外で強力な動物型モンスターというのは少ない。

 それは高レベルになればなるほど顕著に表れ、現在の主要なマップでは動物型モンスターは1種類さえも存在していない。

 この事実がさらに拍車をかける。

 仲間にしたモンスターは基本的に性能があまりよくない。

 さらに動物型モンスターの先に述べた事情もあって、仲間にしてもわりと簡単に死んでしまう。

 強さ的には2段階は上のモンスターでないと、まともな戦力として数えるのは難しい。

 そんな仕様であるのに、バグか不具合かはわかっていないが同マップの外に仲間にしたモンスターを連れ出せないという状況なのだ。

 つまり現地調達の必要があるわけだが、言った通り高レベルマップには動物型モンスターがいないという不遇っぷりである。

 

 さらに言えば、こういうモンスターを仲間にできたり自分以外の攻撃手段がある、というタイプというのはほとんどのゲームにおいて本体は強くない場合が多い。

 ビーストテイマーも例に漏れず、他の弓系職業と比較して弱い部類になる。

 射程と威力にすぐれる長弓を強化する補正がかかるものの、何故か他の弓(短弓やボウガン等)には全く補正がつかない。

 しかも長弓はその射程がやや変則的で、遠距離ではシステムの補助が入り恐ろしいまでの命中率を誇るが、逆に近距離になると全く補助が入らない。

 サイズの問題で取り回しも難しく、近づかれたらアウトという職業なのだ。

 補正のつかない短弓や、そもそも不得手である近接武器を使っても焼け石に水程度でしかない。

 低レベルならともかく、高レベル帯では致命的すぎる欠点であった。

 

 威力こそ他の弓系とほとんど変わらないが、回避に優れるわけでも近接武器に補正がつくわけでもなく、そもそも最大の特徴が死にスキルと言われるような使い勝手の悪さ。

 何より近づかれたらアウトなのに、近づかれた時に距離を取るだけの逃げスキルがほとんど無いという笑い話。

 

 ビーストテイマーはネタ。

 

 FGをやる弓系職業において最早常識と化している情報であった。

 

「はぁ」

 

 もう何度目になるかわからない溜め息を吐く。

 彼女はネットゲームの類いをほとんどやったことが無い。

 元の性格が真面目だったこともあり、教わったことはきちんと覚えたし練習もしていた。

 知識もある程度は学んでいたつもりだし、所謂マナー的な常識もしっかりとしている。

 

 しかしそもそも、ゲーム開始するときに公式イラスト付きで紹介されていたビーストテイマーの、強靭な肉体の狼型モンスターがプレイヤーに尻尾ふりふりしながら嬉しそうに戯れている絵が気に入り、この職業になろうと決めてやりはじめたのだ。

 それがネタ……笑い話にしか使われないような職業であれば、ゲーム内の友人・知人でさえあまりいい顔はされないだろうというのは目に見えている。

 表面上こそ変わり無いかもしれないが、冒険の同行はもっと有益な相手と組みたがるだろうし、それが続けばいずれ孤立してしまうだろう。

 そうなるだろうという予測ができるくらいには、彼女は空気を読む能力を持ち合わせていた。

 

「はぁ……」

 

 今からでも別の弓系に切り替えたほうがいいのか、しかしそれで自分は楽しいと言えるのだろうか、ビーストテイマーを諦めてまで自分はこのゲームを続けたいと思っていたのだろうか。

 

 様々な考えが頭に浮かんでは、答えの出ない疑問だけを残して消えていく。

 

 そんな彼女に聞こえてきたのは、怒りに満ちた声だった。

 

「バカか! バカなのかお前らは!」

 

「……?」

 

 遠くに聞こえた声が気になり、吸い寄せられるように近づいていく彼女だった。

 

 

――――――――――

 

 

 トライは怒りに身を震わせていた。

 怒りの矛先は、トライの目の前で申し訳なさそうに立っているゴブリンディガー……と空中に浮かぶ歪んだツーハンドソード。

 

 怒りの理由と言えば。

 

「まずは剣! てめぇなんだあの振りは! ガキのちゃんばらじゃねぇんだぞ!?

 ああいうのは振るっていうんじゃねぇ! 持ってるっていうんだ!

 へにょへにょすぎるわ!」

 

 そう、まさにそんな感じだった。

 相手にあたった瞬間にへにょってしまい、斬るというより当てている、むしろ触っているだけのような攻撃だった。

 子供のお遊びにしても、程度が低すぎて笑えない。

 

「……(しょぼん)」

 

 柄のほうを若干傾け、謝るような姿勢を取る剣。

 無駄に高度なAIである。

 

「次はてめぇだゴブリン!

 なんなんだてめぇの頭ん中は! 明らかに目の前に浮かんでる剣を無視すんなよ!?

 っつか頭に当たったら気づけよ! むしろ防げよ!? せめて防ぐ素振りくらいはしろよ!?

 なにガン無視しちゃってんの!? バカなの!? そんなに死にたいの!?」

 

「ゴブゥ……(申し訳ない)」

 

 頭の後ろに片手をまわし、リーマンが軽く謝罪するような姿勢で謝るゴブリンディガー。

 こちらも無駄に高度なAIをしているようだ。

 

(なにあれこわい)

 

 通路の曲がり角から覗くリナの感想である。

 モンスターに説教など色んな意味で怖いだろう。

 あれがイベントの類いで無い限り、気が狂ってるかバカか頭のネジがぶっとんでいるかしか理由が思い浮かばない。

 どれであっても出来れば知り合いにはなりたくない相手だ。

 

(っていうかなんでリビングウェポンがこんなとこに?)

 

 彼女は仲間に連れられてレベルの不釣り合いなマップを経験させられたことがある、レベリングとも違うお遊びのようなものではあるが。

 そのなかで見かけたリビングウェポン、高レベルの一歩手前に位置するような強いモンスターだったと彼女は記憶している。

 少なくとも炭鉱に出てくるようなモンスターではない。

 

(……でも襲われてる感じじゃないし、何してるんだろ?)

 

 説教してます、という的外れなツッコミを求めているわけではないだろう。

 

「わかったら仕切り直しだ!」

 

 トライの怒声にささっと距離をとり、戦闘体勢に入る三人。(一人と一体と一本?)

 

「ゴブーーー!」

 

 ゴブリンディガーの奇声を合図にして、戦闘が開始された。

 

(なにあれ)

 

 上段から正しい使用方法らしくツルハシが振り下ろされる。

 右足を下げ、半身になってそれを避け、自然にゴブリン側へと近寄ることになった剣がツルハシと同じようにして振り下ろされる。

 

 ブォンっと勢いがある攻撃であったが(トライが満足毛な顔をしてるのが若干ウザイ)、ゴブリンも予測していたようで後ろに下がることで回避する。(さらにトライが満足気になる)

 しかしステータス的な理由なのか、完全に回避するには若干反応が遅かった。

 ツルハシを持っていた右手に剣が当たり、僅かではあるものの傷を負ってしまっていた。

 

(わー、ちゃんと学習してるよ。

 モンスターって相当高度なAIしてるんだなー)

 

 暢気に観戦モードのリナであったが、トライがチラチラとリナのほうを見ていることには気づいていなかった。

 

 

 ――――――――――

 

 

「よし、お疲れさん」

 

 歪んだツーハンドソードだけでゴブリンを倒した後、トライは剣になんとなくそう声をかけていた。

 

「……(ぺこぺこ)」

 

 柄の部分を何度か下げ、「どうもどうも」的なリーマンっぽい動作で応じる剣。

 製作会社は力を入れる部分が間違っているのではないだろうか。

 

(ほぁ〜、結局リビングウェポンだけで倒しちゃったよ。

 雑魚相手とはいえよくあれだけ避けられるなぁ)

 

 言えば仲間を活かす戦いかた、それはリアルで格闘技など思いつきすらしなかったリナの目指すところだ。

 ビーストテイマーになったらモンスターに頑張ってもらって自分は援護に回ろうと決めている。

 

(ってまたビーストテイマーのこと考えてる、なるかどうかの判断するのが先なのに……)

 

 壁を背にして座り込み、体育座りの形になって膝に頭を埋めてみる。

 

「……はぁ」

 

 結局珍しいプレイヤーを見たというだけで、何も自分の参考にはなっていない。

 仲間をとって別系統の職業になるか、ビーストテイマーになって自己満足に浸るか。

 どちらかしか選べないのなら、いっそ辞めてしまうべきなのか。

 

 リナは思考の迷路に入り込み、近づいてくる足音に気づくことはできなかった。

 

「おいこら」

 

「ひぃうっ!?」

 

 勢いよく振り返った先にいたのは歪んだツーハンドソードの剣先だった。

 

(死っ! 死ぬっ!?)

 

 ゲームなので涙なんて出るわけないのだが、涙目のようなウルウルの瞳になるくらいは融通がきく。

 まさにその融通を限界いっぱいギリギリまできかせてもらっているのではないかというほどに瞳をウルませ、かわいい子猫ちゃんなんです食べないでくださいオーラを全身から振り撒いてなんとか切り抜けようとするリナ。

 

「あー……なんかすまん?」

 

 こうか は ばつぐん だ !

 

「は、はいぃ〜」

 

 ゲームだからありえないのだが、精神的な理由から腰が抜けて立ち上がれなくなったリナは、なんとかそれだけ言葉にできたのだった。

 

 

――――――――――

 

 

「で、何してやがったんだ?」

 

 炭鉱地上一階の安全地帯で、無造作に並べられていた木材に腰掛け、トライから口を開いた。

 

「え〜っと考え事をしながら材料集めしてました」

 

 弓系は弓とは別に矢が必要になる。

 中には特殊なものもあるが、鉱石から作った鉄の矢でもかなり威力があがるので、普通はそれを作る。

 なので弓系は通常の冒険とは別に、こういった材料集めをすることは別段珍しいことでは無い。

 

「そこじゃねぇだろ?」

 

「うぐっ」

 

 ギロリという擬音が聞こえそうなトライの顔は非常に怖い、悪役っぽい顔だ。

 

「え〜っと……」

 

「まぁいいけどよ」

 

「え?」

 

 以外とあっさりした言葉に、逆に拍子抜けしてしまう。

 

「なんか悩んでんだろ、そういうときゃ誰かの行動ってのは目につくもんだ」

 

「そうですね……」

 

 悩んでなくてもトライの奇行は目についたと思う、とは思っても言わない。

 

「悩んでるって、やっぱりわかります?」

 

「バカか」

 

「え、ひどい」

 

「膝かかえて溜め息ついてるヤツが悩んでねぇわけねぇだろ」

 

 確かに十人いたら九人はそう思うだろう。

 

「あはは……確かに」

 

 はぁと最後に付け加え、もう隠す気も無くなったようだ。

 

「聞いてやるくれーはできるぞ」

 

 ここまで全身から悩んでますオーラを出されて、そう言わざるを得ないトライであった。


新キャラ登場です


この子は書いていて非常に人間くさいので楽ですね、主にナレーション的な意味ですが


※2012/8/28

メタ発言を修正

リナの胸に対する部分を若干修正

「ギロリ」付近を修正

※2012/9/12

文章を全体的に修正、内容には変化なし

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