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第18話・つまり俺は思ったより強くなってたってことだ

VRMMOの弊害・・・絶対にあると思うんですよね、なんたって自分の感覚が大事なんですから

「ふん!ふんっ!ふぅーんぬあっ!!!」


 かけ声がかかるたびに武器が宙を舞う。

 最初に杖らしき棒切れが飛び、次にメイスらしき鉄塊が飛び、最後に両手剣のような大きめの板が飛ぶ。


「ガッ!?」

「ギャッ!」

「グエッ!」


 緩い曲線を描いて飛んでいった3つのガラクタは、投げた人物の狙い通り空中に浮かぶ三体のモンスターに正確に当たった。


「っしゃ!」


 ガッツポーズをとるトライ。

 スキルレベルが上がったことで若干投擲速度と威力があがり、空中をひらひらと飛んでいたレッサーデーモンを正確に捉えることができた。


「タゲとったぞ! あとは任した!」


「わかった!

 もうちょっとだけ耐えてね!」


「はっ! この程度で潰されてたまるかってのぉぉあ!?」


 人間調子にのるとろくなことが無い。

 トライの顔面スレスレのところをゴブリンディガーのツルハシが掠めていった。

 例え当たっても大したダメージにはならないが、それでも凶器が目の前を通れば大半の人間はビビる。


「あぶねぇな『この野郎!』」


 半分無意識に近い状態で威圧スキルを発動させる。

 トロンとシャインに向かおうとしていたモンスター達が一斉にトライへ向き直り、はや歩き程度の速度で向かっていく。


「『ヒール!』追加は無し、一気にやってくれ!」


「了解! 詠唱終わったよ、トライ!」


「あいよぉ!」


 返事と同時にその場で一回転しながら両手剣を振り回す。

 範囲内にいたゴブリンディガー3体を真っ二つに切り裂く、しかし今トライの周囲には20近いモンスターが囲んでおり、むしろ倒されたことによって生まれた隙間に我先にとモンスターが滑り込んでくる。


「ふん! ぬ! るぁー!」


 一言目で大きく一歩を踏み込み、二言目で飛び上がりながら迫ってくるゴブリンディガーの顔面を踏みつける、三言目と共にさらに跳躍して華麗な大ジャンプを決めた。


「『フレイム!』」


 トライの大ジャンプが成功するのと同時に、モンスターの群れの中心が熱せられた鉄板のように赤くなる。

 一瞬溜めるように赤が白く変化した次の瞬間、噴水のように猛烈な勢いで火柱が立ち昇った。


 大ジャンプを終えて重力に従い、ズダンという音と共にトライが着地するころには、周囲にいた大量のモンスターはほとんどが分解を始めていた。


「ひゅ〜♪」


「ひゅーひゅー」


 初めて魔法らしい魔法を見た二人は変なテンションになっていた。



 ――――――――――



 場所は変わり地下3階。

 メタルゴーレムがいるはずの最奥部少し手前に、このエリアの安全地帯セーフティーエリアは存在していた。

 三人は素材の武器化もといシュートアイテムの生産と、武器防具の修理、メタルゴーレム戦の打ち合わせという名目の休憩をしている。


「お、鍛冶レベル22になった」


「10レベル毎に生産できるアイテム増えるよ、両手剣ならバスタードソードだったはず」


「いいな〜!」


「確かにバスタードソードだな、鉄2つ使うのか」


「ちなみに失敗すると問答無用で歪んだツーハンドソードになる」


「マジか、んじゃ暫くはこのままか」


「ただし鍛冶レベルは3倍の速度であがる」


「マジか、んじゃこっちだな。

『まとめて』生産」


 味気無いエフェクトが発生し、再び大量の失敗作がトライのアイテム欄に増えた。


「じゃあそろそろ準備はいいかな?

 トロンのMPはどう?」


「全快したよ、行ってみよ〜」


「うっしゃ、メタルゴーレム出てこいやっ!」


 三人がメタルゴーレム目指して最奥部へ向かおうとした時。


 ズシン


「ズシン?」


 ズシン


「地響きもしてる気がすんな」


 ズシン


「あっちから聞こえるわね……」


 ズシン


「「「……」」」


 地響きが聞こえる方向は、正に三人が向かおうとしている最奥部へ繋がる道だった。

 ここまできたらテンプレである。


 暗く奥まで見通せない細長い通路。

 細長いとは言え人間二人ぶんほどの横幅があるその通路を、完全に塞ぐようにして何かが歩いてくる。

 近づくにつれてはっきりしてくる不思議な色合いの金属の塊。

 ステンレスにオレンジジュースを溢したような暖色の巨体は、ボールと柱を組み合わせた子供のオモチャを大人がかっこよく修正してみました☆みたいな、デフォルメとデザインが中途半端に混ざった見た目だった。


「なぁ、あれってメタルゴーレムだよな?」


「うん、間違いない」


「ラッキーかしら? アンラッキーかしら?」


 安全地帯からメタルゴーレム出現場所までは結構離れている。

 偶然入ってきたにしては出来すぎである。

 しかしこの状況を説明できる言葉をトライは知っていた。


「また主役補正かよ、このトラブル生産機どもめ」


「「俺の(私の)せいかっ!?」」


「当たり前だ、邪魔されないうちに戦っちまおうぜ」


 戦う理由はトラブル体質の二人のせいだと決まっているようだが、これは逆にチャンスでもある。

 安全地帯なら他のモンスターの邪魔が入る可能性は低い、入ったとしても精々が1体2体程度だろう。

 ほぼ確実に邪魔が入るはずの最奥部で戦う前の練習としては最高の状況だった。


「なんか腑に落ちないけど……確かに言う通りだ」


「そうね、いい練習ってことかしら。

 トラブル生産機呼ばわりはどうかと思うけど!?」


「やかましい、事実だろうが〜よっ! と」


 だろうが←このへんでトライは失敗作の両手剣を具現化させ、〜よっ! ←ここでシュートスキルを使ってメタルゴーレムに先制攻撃を放つ。


 ガッギィーン!


「なんか久しぶりに聞いた気がすんな」


 このマップでは聞くことのなかった、装甲値によって攻撃が無効化された音が響く。

 しかし音こそ無効化されているが、よく見ればメタルゴーレムの表面に切り傷らしきものが出来ている。


「あ、加護で一部無視してんのか」


「でもあれじゃあほとんどダメージになって無さそうだなぁ」


「詠唱始めるよ?」


 スキルを起動させようとするトロン、しかしその行動を止める声があがった。


「ちっと待ってくれ」


「え? なんでよ?」


「あいつの動きを知っておきてぇ、少し1人でやらしてくれ」


 話しながらもメタルゴーレムを睨むようにして目を離さないトライ、シャインとトロンが見たその横顔は、リアルで決闘を始める前にする真剣な顔と同じものだった。


「まぁ、何言っても聞かなそうだし、がんばれ」


「相変わらずあんたってバカよね」


「おぅ」


 ゆっくりと地響きをたてながら歩いてくるメタルゴーレム、しかしトライはそんな理由で油断したりはしない。

 足が遅い=動きが遅いという公式が通用しないという事実を経験している、いきなり見えないパンチや、ロケットパンチ的な遠距離攻撃をしてくる可能性だってある。

 油断してトライだけが負けるならともかく、自分が死ぬということは後ろにいるシャインとトロンも死ぬということに繋がる。

 今は何とかなるかもしれないが、この先レベルが上がっていけば鍵になるのは自分だと思っている。

 油断するかしないかは日頃の癖からくるものと経験から理解している以上、なんとなくで済ましてしまう機会は少ないほうがいい。



 ――――――――――



「『ふざけてんのか!?』」


 思わずスキルを使ってしまったトライ。

 それもメタルゴーレムに設定された不思議な仕様が原因だった。

 さあ戦闘だ、という合図のようにメタルゴーレムが雄叫び(ゴーレムが声出せんの? という疑問は置いておく)をあげたのだが、その台詞が―――


「ゴーーーレムっ!」


「「……」」


「すぐ慣れるよ……」


 アホである、はっきり言ってアホである。

 何を考えてこんな設定にしたんだ製作会社と掲示板でも有名なネタだ。


 ゴィンという音が響き、トライが杖をシュートしてゴーレムの頭にヒットさせつつ先ほどの台詞に繋がる。


「ゴレッ!?」


「なんでツッコまれた? みてぇな顔すんな!」


 実際ゴーレムでしかもモンスターなので表情なんてあるわけが無いのだが、Σ( ̄□ ̄;)←みたいな雰囲気が伝わってくるのだから不思議だ。


「ゴレーーームッ!」


 理不尽だ! とでも叫ぶように、両手を広げて恋人を抱き締めるために駆け出す男……のような姿勢でトライに向けて走り出すメタルゴーレム。


「言い方の問題じゃねぇーーー!!!」


 これまた理不尽だ! と叫ぶように声を張り上げ、両手剣を斜め右下に下げて突進していくトライ。


 トライの理不尽への反抗が始まった瞬間だった。



 ――――――――――



「ゴレッム!」


 豪快な風切り音と共に、柱のように太い鉄の塊が振るわれる。

 トライは突進の勢いを殺さないまま、むしろ腕に突っ込むようにして更に加速する。


「うるぁ!」


 左足を踏み込み、体を天井に向けるように半回転しながら、右下に構えていた両手剣でメタルゴーレムの腕の中心あたりを真下から斬り上げる。

 腕の進行方向だけを上方へと変えられ、地面にぶつかることで無くなるはずだった勢いがむしろ加速してしまう。

 鉄の塊が生み出す重量に遠心力が加わった勢いによって、ゴーレムは振った腕に引っ張られて左側へと大きくよろけた。


「ふん!」


 さらに斬り上げた両手剣を上半身の動きだけで構え直し、上段から真っ直ぐに降り下ろす。


 ガッギィーン!


 腕を振り抜いた姿勢だったため、ゴーレムの肩あたりにぶつかりいつもの効果音が響く、しかし結果のほうはいつもと同じ結果ではない。


 いつもより少し深く。

 いつもより少しわかりやすい傷痕ができていた。


 何よりいつもと違うのは―――


(思ったより速く動ける……?)


 トライはFGを始めてからずっと感覚で戦ってきた。

 前衛であるため、それはそれで大事なことではある。

 しかしFGはゲームだということの認識が甘かった。


(雑魚しか相手してなかったからわからんかったが、思ってたより全然速ぇ)


 人間は慣れる生き物である。

 しかし慣れすぎればそれが正常だと思い込んでしまうのもまた人間である。


 オーガとの限界にも近い戦い方を繰り返していたトライにとって、あまりにも弱すぎた道中のモンスター達。

 限界まで体を使う、ということがここまで無かった。


 だから、トライは転職したことによって飛躍的に上昇していた自分のキャラクターを、今までの通りに動かし、今まで通りにしか戦えていなかった。


「ゴレーーー!」


 雄叫び(?)をあげながら再び拳を振るうメタルゴーレム。

 今度は左手で地面スレスレからアッパーを狙っているようだ。


「だからっ!」


 両手剣を降り下ろした姿勢から、地面に傷痕を残しながら真横を縦に斬るようにして再び拳と剣をぶつける。

 下半身はやはり動かさず、腰から上だけゴルフのスイングを逆方向にしたような形で、拳をすくいあげるようにして腕の方向を変えさせ、トライの外側へ逸らす。


「その叫びはふざけてんのかよっ!?」


 懐に潜り込む形となり絶好の攻撃チャンスとなったが、しかしメタルゴーレムも同じ失敗をしたりはしない。

 体をゴーレムから見て右側に回転させたことで、引く形になっていた右手は真っ直ぐにつき出すだけで十分なパンチが繰り出せる状態になっていた。

 無様によろけることもなく、しっかりと右腕をつきだし、渾身の右ストレートがトライへと迫る。


「うぬぁぁぁ!」


 トライはそれを「受け止めた」

 今のステータスなら攻撃を見ることは可能だったし、事実トライは右ストレートが来ることをわかっていた。

 わかっていて、なおそれを受け止めたのだ。


「へっ、大したことねぇなっ!」


「ゴレッ!?」


「どぅぁしゃあ!」


 体の真正面に打ち込まれた鉄の腕、それをやっちゃった系の極振りしたSTRにものを言わせて無理矢理上方向に投げ飛ばす。


「おるあぁぁ!」


 野獣のような笑みを浮かべ、戦闘を再開するトライ。

 彼にとってはオーガ以来となる、「好敵手」を発見した喜びだった。

 ……が、それをわかっているのは本人含めて誰もいなかった。


「なんだろう、都市伝説が……」


「わかってるから何も言わないで……」


 シャインとトロンの後ろ姿は、何かを悟った様子だった。


慣れは怖いものです


取り返しがつかなくなる前に気づくのが大事です


※2012/8/28

メタ発言を修正

メタルゴーレムの説明で「伝わらないか」を削除

ゴーレムの雄叫びに関する部分を何箇所か修正

※2012/9/6

文章を全体的に修正、内容には変化なし

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