第17話・つまり楽しむためにも準備は必要ってことだ
必要ですよね
行き当たりばったりも悪くないですが、悪くないのはなんとかなってるうちだけです
どうにもならない行き当たりばったりは気まずい雰囲気になります(経験談)
「ちょっと待て」
疑問の声を先に出したのはトライだった。
なぜなら彼は事前情報という勉強の予習にも近い素晴らしいものを持っていたからだ。
「メタルゴーレムってここじゃありえねぇくらい強えんだろ?
なんでいきなりそんなヤツに挑む話になってんだよ」
神父曰く、メタルゴーレムだけは格が違うとの話。
転職しているトライの状況を知ってなお彼に忠告をしたということは、少なくともトライ一人では倒せない相手であるということを意味している。
「あぁ、明らかに格上の相手だね。
初期装備でオーガに挑むくらいには格上だ」
「相当格上じゃねぇか!? 勝てんのかよ!?」
トロンにはよくわからない例えだったが、実体験としてわかっているトライにとってはたまったものではない。
なんといっても一体倒すのに10度以上は死に戻りを経験させられた相手であるからして、初見で倒せるとはとてもではないが思えなかった。
「まぁ一人で戦うわけじゃないんだ。
それに今の状況で熟練度をあげるにはあのくらいじゃないとね」
「っつかなんでそいつなんだ?
やっててわかったけどよ、熟練度あげるだけならこのへんで雑魚を大量に倒したほうがいいんじゃねぇか?」
実際このマップで大量虐殺を繰り広げていた笑う魔王としては、熟練度の上昇の仕方がかなり良い方だと考えている。
熟練度が見えるようになったのは転職後なので、比較対象が少ない状況からの判断ではあるが……
しかしわずか1時間と少しでスキル1つの熟練度が最大まであがったことから考えても、トライにはかなりいい手段だと思えた。
「まぁそれもいいんだけどね、でもどうせそれをやりながら進むことになるから問題ない」
「ねぇねぇ、もうちょっとわかりやすく説明してよ~」
「うん、じゃあ説明するよ。
メタルゴーレムを狙う理由は主に4つ。
1つはこいつが装甲値とHPが異常に高くて、恐らく今のトライでもすぐには倒せないだろうから熟練度上げにいいっていうのが1つ。
もう1つは魔法に弱くて、特に弱点属性をつけばわりとあっさり倒せるだろうってこと。
3つ目はまたこのパターンなんだけども、経験値が無い敵なんだ」
「経験値が無ぇ?」
「そ、少ないんじゃなくて無い。
その代わりってわけじゃないけど、このマップで手に入るレアな鉱石をいい確立で落とすんだ。
そして4つ目、こいつは経験の宝珠っていうアイテムをそこそこの確立で落とす」
「経験の宝珠……使うと経験値がもらえるとかかな?」
「ちょっと違う。
これは自分の経験値を移しておけるアイテムなんだ。
貯められる経験値に上限は無いけど、1回使うと無くなっちゃう。
FGはどんなに大量の経験値が手に入ってもレベルは1つずつしか上がらないから、使い方が難しいアイテムだね」
このアイテムのプレイヤー間で使われている方法は、主に低レベルプレイヤーのレベルを無理矢理あげるために使われることが多い。
新キャラを作って一瞬でレベル10にあげて転職させる、などという方法で使われていることがほとんどだ。
ただし当然熟練度なんて入手できないので、普通にやるよりも弱くなるという事実がある。
そのためこのアイテムはお手軽だけど弱くなるアイテムとして微妙な扱いを受けているのが現状だった。
メタルゴーレム以外にも様々な手段で入手できるというのも、微妙な扱いに拍車をかけている。
「なるほどな、俺たちのプレイスタイルを考えると何個か持っておきてぇアイテムだな」
「だろ?
他にも入手方法はあるけども、俺たちのレベル帯だとここしか入手方法が無いからね」
「あれよね、まとめちゃうけど。
経験の宝珠を持ってればレベルはあとで上げられるから、色んな場所で遠慮なく戦えるようになるってこと……でいいのよね?」
「トロン正解。
そういうわけでメタルゴーレムです、質問は?」
ちなみに経験の宝珠はジョブレベルに影響を与えることはできない。
ジョブの経験値を移すことも移されることも不可能になっている。
「いいか?」
「なんだねトライ君」
「メタルゴーレムはわかったけどよ、当然他にモンスターもいんだろ?」
「当たり前のようにいる、といってもここにも出てくるゴブリンディガー、あとはバットと少ないけどレッサーデーモンかな」
「強いの?」
「弱い、レッサーデーモン以外は凄く弱い。
南マップの次くらいには弱いかな、レッサーデーモンはちょっとうざったいけど、苦戦する相手でもないから問題ないよ。
まぁメタルゴーレムは最奥部にしかいないし、道中練習しながら進んで行こう」
「おう、考えんのはまかせた」
「またあんたは……そのバカのせいでいつか痛い目見るわよ」
「もう慣れたぜ」
「あっそ……」
お前達のおかげで、という言葉は言わなかったトライであった。
――――――――――
「『おらこいや雑魚どもがぁ!!!』」
気合の掛け声と共に、トライは頭の中にぼやっとしたスイッチのような何かを押すイメージを考える。
スイッチが押されると同時に、トライの気合の掛け声に「何か」が重なったような感覚がする。
その「何か」に反応したように、周囲にいたモンスター達は一斉にトライのほうへと体の向きを変更した。
「……ってちょっと数多くね?」
新たに取得したスキル「威圧」
これは周囲のモンスターを威圧し、自分を脅威だと思わせることで注意を向けさせるというスキルである、ゲーム用語を使うならタゲ取りスキルというものになる。
ゴブリンディガーは3体ほどしかいないが、バットというそのまま蝙蝠の見た目をしたモンスターが大量にいる。
バットだけで10体ほどはいそうだ。
「さすがトライだな、思考コマンドのしかもマニュアル版をいきなり成功させるとは思わなかったよ」
スキルの発動方法は主に2種類ある。
1つは音声コマンドと呼ばれるもので、スキル毎に決まった音声を使おうという意思と共に発声することで、オートで使用されるというもの。
もう1つが思考コマンドと呼ばれるもので、トライのように頭の中にあるぼやっとしたスイッチのようなものを押すような感覚で、それぞれのスキルを使用するという「意思」を明確化する方法。
思考コマンドのほうはこのスイッチの感覚がわかりづらく、初心者は感覚を掴むのに苦労するので使えるようになるまでそれなりの練習が必要だったりする。
さらに思考コマンドにはオートとマニュアルがあり、違いとしてはオート用スイッチを半分だけ押すような操作がマニュアルになる。
オートは使った瞬間に体の動きから何から全てが、その瞬間その体勢から最も自然な流れで勝手に体が動いてくれるが、体の動きはパターンに従った規則的な動きしかできない。
マニュアルは自分で考え自分で動く必要があるが、スキルに対応した動きであると判断されている間はスキルの効果が持続し、しかも自分の思った通りの動きができるという状態になる。
つまり格闘ゲームで言うなら、連続ヒットするタイプの必殺技を打つか通常技をつなげてコンボをするかみたいな違いである。
ちなみにモンスターとの戦闘においては、今のところマニュアル操作でないと勝てない相手というのがほとんどいないため、専らオートしか使われていないのが現状である。
一部の効率重視な強豪プレイヤーのみがマニュアル操作至上主義を掲げているくらいだ。
「冷静に説明してんなよっ!?
数多すぎるからっ!捌ききれねぇから!?」
「はっはっはっ、トライが死んだら俺達も死ぬんだからがんばれ~」
「はっはっはっ、じゃねぇーーー!!!」
「がんばれ~♪」
「お前は助けろよ!? むしろ早く攻撃しろよ!?」
軽口を言い合っているがこの間ずっとトライは攻撃されている。
10体以上のモンスターにボコられる姿というのは、二人はリアルでも見たことが無いのでなんとなく傍観していた。
「さて、そろそろ始めようか」
「うん、こっちも寄ってきたみたいだしね」
トロンの言う通り、二人の後方、威圧の範囲外からもモンスターの群れが三人を目指して向かってきていた。
簡単に負けるような強さではないが、数は力でもある。
あまり多くなりすぎては対応しきれなくなる可能性があるので、さすがに戦闘を開始することにした。
「うざっっってぇ!!!」
トライもさすがにイラついてきたようで、防御を捨ててゴブリンディガーを攻撃し始めている。
1度の攻撃で倒してしまうあたりSTRの高さを物語っているが、バットのほうはすばしっこいのでトライでは倒すのに苦労するだろう。
「『ファイヤーボール!』」
ボッという軽い点火音と共に、人の頭サイズの火の玉がトロンの頭上に出現する。
「いっけー!」
火の玉をトライに群がるバットの一体に向けて解き放つ。
素人が投げた野球の球くらいのスピードで向かっていき(やるとわかるが結構早い)、バットに気づかれること無く見事に命中する。
「やったっ」
「次! 早く次!」
「後ろは俺が抑えておくからガンガンやってくれ!」
「おっけーまかせて! 『ファイヤーボール!!!』」
魔導スキルを取得し、シャインが購入してきていたファイヤーボール(魔法レベル1)を覚え、やっと魔法使いらしくなったトロンが嬉々として魔法を放っていく。
どうやら今まで溜まっていたものがあったらしいその表情は、見た目も相まって一枚の絵になりそうな笑顔だった。
やってることが虐殺だから絵にはできないが……
「うおぉ!? また増えた!?」
しかし倒しても倒しても沸いてくる大量のモンスターの前に、そんなことを気にしている余裕は無かった。
――――――――――
「ったくどんだけ大量にいんだよこの階層は」
「まぁあのくらいだよ、スリリングだったろ?」
「スリルありすぎだろ!?」
「でも楽しかったしいいじゃない」
三人は地下2階の安全地帯で休憩をしていた。
といっても大量のモンスターは安全地帯にもそれなりの数が入り込んでおり、休憩するまでに若干時間はかかったが。
「地下3階は数が減るけど、所々にモンスター溜まりができてることがほとんどだ。
大きい部屋があったらまず大量のモンスターがいると見て問題ないよ」
「マジかよ……」
「ついでにレッサーデーモンも出てくるしね。
こいつは見かけたらシュートでできるだけ削ってくれ、多分ファイヤーボール一発じゃ倒せないと思うから」
「あいよ、覚えとく」
「頼んだわよ、肉壁君!」
「おうよ、そういや熟練度のほうはどうよ?」
安全地帯に来るまでかなりの数のモンスターと戦っていた。
トライ自身はそうでもないが、バットのほとんどをトロンが倒していたため、レベルこそあがっていないが熟練度は相当なものになっているはずだった。
「えっとまずジョブが5になってる。
熟練度は私達じゃわかんないわよ?」
「そういやそうだったか、ステータス見してみそ」
今のところ熟練度表示のスキルはトライしか持っていない。
というか恐らくFG内でもトライしか持っていないのではないかとシャインは考えている。
「他人のものも見れるの?
とりあえず……はい、どうぞ」
「おう……とりあえず見れるな。
ファイヤーボールも魔導も最大になってんぞ」
「そっか、じゃあファイヤーボールはあげなくていいんだよね……シャイン?」
「……あ、ああ、魔導だけレベルをあげてくれ。
そしたら次はこのスペルスクロールを使ってフレイムっていうスキルを覚えてね」
「了解~♪」
指示をしながらも、シャインは別のことに思考を巡らせていた。
(他人の熟練度も見れる……ってことは俺達はトライがいれば最大値でレベルを上げられることになるな。
取得条件がよくわからないけど、やっぱりこれって凄いスキルだよな……)
本人は自覚がないのでよくわかっていないし、自覚がない故に誰かに自慢したりすることもないだろう。
そもそも熟練度そのものがプレイヤー間ではあまり認識されていないことだし、公表するのはもう少し後にしておこうと決めるシャインであった。
「フレイム覚えたよ?」
「ん? ああ、じゃあ少し休憩したら地下3階まで行こうか」
「あ、今のうちに修理と生産してぇんだが、鉄どんくれー使ってもいいんだ?」
「あぁ、鉄なら全部使っていいんじゃないか?
レッサーデーモンとメタルゴーレムのアイテムがそこそこ高値で売れるから、鉄は全部生産に回してシュートしてくれ」
「あいよ、助かるわ。
んじゃお前らの鉄ももらっていいか?」
「あー、どうせなら私も自分の鍛冶レベルあげたいかな?」
「それもそうか、だったら俺もそうするよ。
シュートで投げるなら武器の種類関係ないしね」
「そうなんか、んじゃ各自で作るか。
あぁ、トロン、作るときに『まとめて』って言うと勝手に全部使ってくれるぞ」
さきほど仕入れた実体験に基づく情報をさっそく提供しちゃうトライ。
仲間だから当然といえば当然なのだが、ここで情報を秘匿して自分の利益にするという発想がそもそも無いようだった。
悪く言えばバカではあるが、シャインとトロンはそんなバカなところが好きであったりする。
「おっけー、んじゃ早速……」
「9割失敗するけどな!」
「∑(・д・;)」
デメリットまで包み隠さず教えてしまうところも、またバカであった。
経験の宝珠は高レベルエリアになるとそれなりに取得できます
1時間戦えば1個は出るくらい
※2012/8/28
メタ発言を修正・・・するほど無かったのでほぼ無修正
細かい部分を若干修正
※2012/9/6
文章を全体的に修正、内容には変化なし




