第16話・つまりスキルを考えんのはめんどくせぇってことだ
ネタスキル
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「ふんっぬああ!」
気合いのかけ声と共に、野球のフォームのようにして上段から両手剣を投げつけるトライ。
見事なまでに縱回転をしながら真っ直ぐ飛んで行く巨大な剣は、結構なスピードが出ていることもあってあっという間にゴブリンに接近する。
「ギャア!?」
消えることもなく、見事にクリーンヒットした両手剣はゴブリンのHPを大きく減少させた、ような気がすると付け加えるのが正しい表現であるが。
FGは敵のHPが表示されないので、実際にはどれだけ減ったかなどさっぱりわからない。
少なくともまともなダメージが入っただけでもトライとしてはガッツポーズものだった。
「っしゃ! まだまだ行くぜぃっ!?」
さらに一本取りだし、今度は地面と水平に回転するようにして投げる。
しかし放すタイミングを間違え、ゴブリンに対して30度ほどズレた方向に飛んでしまった。
(曲がれーーー!)
しかし魔力操作というスキルを取得しており、しかも絶対に1回はこうなるだろうと予想していたトライに隙は無かった。
ぐぐぐっと見えない糸に引っ張られるようにして、投げられた剣はゆっくりと方向をゴブリンへと変化していく。
緩やかな曲線を描き、トライの2投目もゴブリンにしっかりヒットした。
「っしゃ! 次……って倒したか」
3投目を構えたが、ゴブリンはすでに三角形の塊へと変化し、空中に分解されて消えていくところだった。
「2発で撃破か、まあまあってとこだな」
このゴブリンを倒したことによって、鉄を1個入手しているので実質的な消費は両手剣一本分だけである。
「魔力操作も思ったよりいい感じだな、消費も少ねぇし」
こちらは一本にだけ使って消費は3、トライのMPは300あるので100本までなら操作できることになる。
もちろんMPは立ってるだけでも回復していくので、実際にはもう少し多いだろうが。
「熟練度のほうはどうかなっと」
転職した際に取得していた熟練度表示というスキルのおかげで、トライは熟練度を確認できる状態になっている。
結構凄い事実だったりするのだが、自分が取得している=誰か取得していると思っているので自覚は無かったりする。
「おお、結構いい上がりかたすんな」
シュート熟練度
30/1000
魔力操作熟練度
10/1000
「1回10ってとこか、シュートが高いのは倒したからか?」
根拠があっての言葉では無いが、間違ってはいない。
「熟練度があがりゃあ使い勝手もよくなんのかねぇ?
それともレベルみてぇにスキルレベルあげねぇと意味ねぇとか……」
正解は後者だったりする。
ただし最大レベルの10の時だけ、スキルレベルをあげられないので前者になるのだが。
「ま、それを確かめるための実験だな!
ジャンジャン行こう!」
スクッと立ち上がり嬉々としてゴブリンディガーを探し始めるトライ。
その横顔はニマリという擬音がピッタリな凶悪な笑顔であり、野獣が獲物を見つけたイメージを容易に想像させるものだった。
たまたまその瞬間を見かけた生産系プレイヤーが、新手のボスクラスモンスターと勘違いして物陰に隠れたことをトライは知らない。
「フハハハハハハ!
獲物はどぉ〜こぉ〜だぁ〜?」
「ヒイッ!?」
――――――――――
フハハハハハハ……
炭鉱内に高らかな笑い声が響く。
どう聞いても悪役にしか思えない。
「……トライかな?」
「トライじゃないかな」
「トライか」
「トライよね」
「「……」」
微妙な空気を漂わせてしまったのはトライの待ち人であるシャインとトロンであった。
薄暗い炭鉱内に響く高らかな笑い声。
同じ方向から響いてくる金属同士がぶつかる音。
時々響く大砲でも打ったかのような重低音。
恐らく気合いのかけ声なのだろうが、炭鉱内に反響して歪んで伝わってくるせいで、誰かの悲鳴に聞こえてしまう残念な叫び声。
「なんか都市伝説が生まれる瞬間に立ち会った気分だよ」
「うん、まあトライだし……バカだし?」
ちなみにこの奇声は本当に都市伝説と化した。
炭鉱の笑う魔王というちょっと厨臭いネーミングになったのに、誰も異議を唱えなかったという。
この伝説のせいで炭鉱に向かうプレイヤーは激減したとかなんとか。
「帰りたくなってきた」
「奇遇ね、私もよ」
しかし待たせているのは自分達である手前、このまま帰るというわけにもいかないだろう。
何より三人の中では唯一の前衛であるからして、トライがいないとまともなレベル上げもできない。
渋々といった感じで、本当に残念そうな感じで奇声の発生源へと向かう二人だった。
――――――――――
「フハハハハハハ!
死にさらせぇっ!!!」
高笑いをしながら失敗作をゴブリンディガーへと投げつけ、見事に体の中心を貫いた。
脇腹から真横に切り裂かれ、上半身と下半身がお別れを告げた瞬間に例の不自然な停止が起こり、空中で停止したままの上半身から空中に分解されていき、それに合わせて失敗作も分解されていった。
ちなみにここまでに30体以上のゴブリンを倒しているのだが、シュートスキルの威力はもちろん性能が変化した様子は無い。
状況を確認するためにステータスを開こうとして、人影が見えたのでそちらに振り返った。
「おう、来たか」
「お待たせ、やっぱりトライか……はぁ」
「おい? なんでいきなり溜め息ついてくれてやがんだこの野郎は」
「人の口に戸は建てられないってことよ」
「何の話してやがるんでございやがりますか?」
知らぬは本人ばかりとはよく言ったものである。
笑う魔王は意味がわからないとばかりに首を傾げ、頭の上にハテナマークを浮かべていた。
「まぁ、そんなことよりもだ。
使い勝手はどう?」
「あぁ、いい感じだぜ、遠距離攻撃ってのはいいもんだ」
「むぅ~」
頬を膨らませて不貞腐れるトロン。
いきなりな行動に意味がわからない二人は揃って疑問の顔を浮かべた。
「どしたよ? なんか不満か?」
「二つ、不満、ある」
まずい、と二人は思った。
言葉を途切れ途切れに話すトロンの癖。
この癖が出た時は結構本気で不満があるか怒っている時だ。
話の内容によっては厄介なことになると直感した二人は、イケメンとフツメンという絶対に共存しえない永遠の敵同士という壁を超え、一時休戦することを決めた。(注:超大げさ)
「よし、聞こう!」
「そうだね、すぐ聞こう!」
「トライ、ばっかり、レベルあがってる、ズルい。
私だってレベルあげて楽しみたいのにっ! ズルいズルい!」
「あ、そこか」
「そういえばそうか」
トロンにとっては未だ比較対象がトライしかいない。
シャインはメインキャラを持っているので、実際のレベルは二人よりずっと上だし、何より経験から来る知識がある。
それがどのくらいの差なのか今のトロンにわかるものではないが、少なくとも昨日今日始めたばかりで追いつけるものではないことくらいわかる。
他に一緒に始めたプレイヤーがいるわけでもないので、当然比較するにはトライが妥当な相手になるわけなのだが……
片やレベル20でスキルも装備も色々揃っちゃったトライ。
片やレベル10で転職したてでスキルも特に取得していないトロン。
確かにこれでは劣等感を抱いてしまっても仕方がないかもしれない。
「もう1つ!
あんたが遠距離攻撃とっちゃったら私の意味が無いでしょうが!」
「え?」
「え?」
「え???」
トライは「そうなの?」的な、シャインは「何言ってんの?」的な、トロンは「なんで逆に聞かれてんの?」的な言い方である。
その微妙な違いを聞き分けられる人がいるかどうかは疑問だが。
「あー、まぁそのへんの説明もしながらスキル構成考えようか。
とりあえず安全地帯まで移動しよう」
「おう、よろしく頼む、マジ頼む、ほんとお願いしますシャイン様」
「うむ、今回は任せるがいい」
「おー、まかせるまかせるー♪」
仲良く歩き出す三人のうち、二人の背中にはあるはずのない冷や汗が見えたような気がした。
――――――――――
「なかなか面白い具合だったね」
「だろ? ぐぐぐって曲がるんだよ」
「ずるい……」
安全地帯に入る前に一度ゴブリンディガーと戦闘になった。
トライのスキルお披露目とばかりに、失敗作を投げて近づかれる前に終了してしまったが。
しかしお披露目は成功したようだ。
「まぁまぁ落ち着いて。
トライ、スキルの熟練度はどうなってる?」
「ちょいまち」
シュート熟練度
1000/1000
魔力操作熟練度
270/1000
「……ってなってんな」
「ふむ、だったらシュートはレベルあげてもいいかもね。
シュートはスキルレベルがあがると威力があがるし、熟練度が最大なら追加ボーナスもあるだろうし」
「ん、1つだけのがいいのか?」
「うん、多分毎回熟練度をあげてからのほうがいいんじゃないかと思う。
まぁ推測の域を出ないけど、万全を期すならそのほうがいいだろうね」
「うい、んじゃポチッと」
「ねーねー、私はー?」
「そんじゃ説明していこうか、ちょっと長いからよく聞いてね」
シャインが長いと言ったら長いんだと二人はわかっているので、座りなおして聞く姿勢をとる。
「じゃあまず熟練度のことは一回おいておこう。
今の俺たちの役割はトライが前衛で壁役、俺が後衛っていうより中衛でヒーラー兼トロンの護衛役、そんでトロンは後衛で火力役っていう役目になっていく予定です。
トロンには火力を重視してもらうことになるから、そのへんのスキルをとってもらうことになるね。
トライがとったシュートは確かに遠距離攻撃で便利だけども、当然欠点があるんだ。
魔力操作のレベルがあがればどうなるかわからないけど、少なくとも今の時点では単体攻撃しかできない。
だからトロンにとってもらうスキルは範囲攻撃系と、火力重視系のスキルをとってもらおうと思ってるよ」
「ほうほう、具体的に言うと?」
「まず魔法にはレベルというものが設定されています。
そして魔法を覚えるにはスペルスクロールっていうアイテムが必要になってきます。
レベル0から現在確認されているもので最大はレベル5まで、これは魔法使い系になると取得できる魔導っていうスキルのレベルに関係してきます。
レベル0は誰でも職業関係なく使える魔法だけど、魔法のレベル以上の魔導スキルレベルが無いとその魔法は覚えられません。
覚えたら覚えたで、その魔法自体にもレベルが設定されてるんだけど、このレベルをあげるためにはスキルポイントを消費しないとレベルがあげられないんだ」
「うむ、わかんねぇ。
あとはまかせた」
トライは早々に諦めた、そんなめんどくさい職業にならなくてよかったと安堵している。
「つまりトロンには、魔導スキルをとってもらって威力が高い魔法と範囲攻撃できる魔法のスキルレベルをあげてもらう、ということになるね」
「ん~? つまりどういう役割になるの?」
「役割というか……流れで説明してみようか。
まずはトライがシュートで先制攻撃をして、自分に敵をひきつける。
俺がそれを回復しながらトロンに敵がいかないように護衛して、その間にトロンが強力な魔法を使って殲滅する、っていうのが理想的な流れかな」
「おぉ、そりゃ助かるぜ。
シュートは便利だけどよぉ、一回手に持つ必要があっから近づかれるとどうしようもねぇんだよな」
「だろ? 特に複数の敵が同時に出てきたら同時に倒す手段がトライには無いからね。
俺の記憶が確かだったら、剣士時代には一瞬で殲滅できるようなスキルは無かったはずだしね」
一応剣士には複数を同時に攻撃するスキルはある。
しかし威力が高くなく、少なくとも一瞬で戦況を覆すような能力は持っていない。
「あ、ちなみにトライは敵をひきつけるスキルもとってもらうからね。
あとで教えるから無駄にスキルポイント使わないように」
「ういよ」
ちなみに現在トライのスキルポイントは10ある。
転職したてのときは9だったので、シュートに2つと魔法操作に1つ使って3つ減ったのだが、FGではジョブにもレベルが設定されていて、ジョブレベルがあがるとステータスポイントが10、スキルポイントが1つ増えるという仕様だった。
現在ジョブレベルは4に上昇していたので、残りは10となっていた。
「でもそれって後半になったらまた変わってくるんじゃないの?」
「後半になるころにはトロンがもっと強くなっているはずだから問題ないよ。
それに俺の経験上、魔法使い系はレベルがあげやすいし、俺の考え通りなら熟練度もあがりやすいはずだしね」
「マジか、魔法使いずりぃな」
「大器晩成型ってことだよ」
「ふふん、羨ましいだろ~♪」
先ほどまでの不機嫌は一体どこへやら。
女心と秋の空とはよく言ったものであった。
「というわけで、今日は最奥部を目指します」
「「え?」」
名前:トライ
職業:ソードマン・ベネフィット
BLV:20
JLV:4
特殊能力:ヴァナルガンドの加護LV20(HP上限、HP自然回復速度、攻撃力40%上昇、敵装甲値40%無視)
所持スキル:熟練度表示可能、シュートLV2(0)、魔力操作LV1(270)
武器適正:両手剣
ステータス
HP:5700+2280(250)
MP:300(68)
STR:855+342(325)
VIT:570(250)
AGI:570(165)
DEX:570(325)
INT:300(68)
LUK:570(125)
残りステータスポイント:30
残りスキルポイント:10
シュートがネタな理由
回復も攻撃も可能ですが、効果にアイテムの性能が直結しています
しかも攻撃用・回復用スキルならMP消費のみでシュートより高い効果が発揮できるうえ、回復は自分を対象にできません
さらに言うなら、わざわざそのために生産するくらいなら成功品をNPC売りしたほうが稼げます
鍛冶レベルが高ければ尚更、なのでほとんどのプレイヤーは貴重なスキルポイントを消費してまで取得しようとはしません
※2012/8/28
メタ発言を修正
「どう聞いても悪役です」付近を修正
「トライ選手~」付近をばっさりカット
その他細かい部分を若干修正
※2012/9/6
文章を全体的に修正、内容には変化なし




