第14話・つまり暇潰しも大切だってことだ
暇潰し・・・暇潰しのためのゲームで暇潰し・・・あれ?と思ったことは何度もあります(経験談)
「うーむ、今日は新発見ばっかりだったな」
シャインの台詞である。
装備を新調し、さすがに時間が24時近くなっていたため今日はお開きにしようとしているところだった。
「そうなんか? 初日……じゃねぇけど、よくわかんねぇな」
「ロックタートルは飽きた! それだけはわかったわ!」
「ははは、明日からはもう少し楽しめそうなところに行こうか」
シャインとしては今からでも行きたいところなのだが、さすがに二人はネットゲーム初体験ということもあり、廃人に片足つっこんでるようなシャインに付き合わせるのも悪いだろうと考えてお開きにすることにしたようだ。
「トライのおかげでかなり変則的なやり方になっちゃったけど、楽しめたかい?」
「俺か!? 俺のせいなのか!? 」
お前のせいだ、と正直に言ったりはしないシャインではあるが、にっこりとしている顔はその言葉を語っているように見える。
「ん~、私達もそうだけど、シャインは楽しかった?」
「え、俺?
俺は……うん、楽しかったなぁ。
新発見もそうだけど、こういう遊び方もアリだな……ってね」
薄く笑うシャインの顔は、例えばトライがやれば挑発か馬鹿にしてるようにしか見えないものだが、シャインがやるとキラキラエフェクトまで見えそうなのだから困ったものだ。
「こういう遊び方ってどういう遊び方だよ、普段どんな遊び方してんだ」
「普段はなんていうか、安定最優先みたいな?
ローリスクローリターンな遊び方だから、こういう一見するとハイリスクノーリターンみたいなのは新鮮だったよ」
間違えてはいけない。
ハイリスク「ハイリターン」ではない。
ハイリスク「ローリターン」でもない。
ハイリスク「ノーリターン」です。
危ない割りに得るものが「無い」という意味だ。
「ひでぇな! リターンあったじゃねぇか!」
「だから一見するとって断ったじゃないか。
実際にはハイリスクハイリターンだったわけだしね。
だから楽しかったって言ってるんだ」
「ふぅ~ん?
でもシャインも楽しめたなら私も満足~♪」
「はっ、ちげぇねぇな。
先輩様がおんぶにだっこしてくれるよか大分楽しかったぜ」
結果、全員が楽しめた、ということだった。
楽しむための遊び、遊ぶためのゲーム、目的は十分に果たしたようだ。
「んじゃそろそろ落ちるかぁ。
また明日学校でな」
「ああ、決闘は断ってくれよ?
トライがいないとパーティーが機能しなさそうだからね」
「一緒に帰ってあげようか?」
「やめろ、逆に挑まれる」
「だったら俺が……」
「だからやめろって! お前らちょっとは自覚しやがれ!!!」
ネットゲームは去り際を掴むのが意外に難しい。
馬鹿な会話が続き、結局三人がログアウトしたのは24時を回ったあとだった。
――――――――――
そして三人のFGログイン二日目。
結局綾華もテルも一緒に帰ってきて、両方のトラブルに巻き込まれて(綾華は親衛隊、テルはテンプレな人助け)無駄にキラーン☆ な出来事があった。
しかし三人にとってはいつもの事。
無駄に助けた子に惚れられたテルという展開もあったが、結局はうやむやにして特に変わったことの無い日常であった、これを日常と呼んでいいかはわからないが。
FGに最初にログインしたのは家までの距離の関係上、トライだった。
と言っても、三人とも家が近所にあるため5分も離れてはいないのだが。
ただ綾華は女性であるため色々あるのだし、シャインは家がまぁ色んな理由があってログインが遅い。
具体的に言えば玄関から家までが遠いだとか出迎えしてくれる人がいるとかご飯を作ってくれる専属の人がいるとか。
一人暮らしでご飯もその他雑事も全て自分の都合で片付けられるトライが一番早いのは、ある意味当然の結果であった。
それをトライ自身も当然わかっているし、二人がどんなに早くてもあと1時間はこないであろうこともわかっている。
結果としてトライが何をするかと言えば……
「どっかいいとこ知らんか?」
「開口一番それですか」
神父のところだった。
「せっかく装備も新調したんだけどよ、シャイン曰く今の俺じゃオーガは温いらしいのよ」
「ふむ、しかし転職したてとなりますと難しいですな。
強いと弱いの中間にいるような状況ですからなぁ」
FGにおいて転職したての時期というのは苦行の時期でもあった。
転職すればそれだけでかなり強くはなるのだが、逆に言えばこれまでの敵では弱すぎるという事態になってしまう。
かといってランクが上のマップに行っても、転職したてでは相手にならないほど急激に強さが上昇している。
普通はそれでも我慢して弱い敵を倒し続け、ランクが上のマップに行けるようになるまで頑張るか、さもなくばパーティーを組んでハイリスクな敵を倒すかである。
「つってもな、1時間はただ待ってるのには時間ありすぎなんだよ。
なんかやっていてぇんだがなんかねぇか?」
「ふむ……レベルをあげる必要は無いのですかな?」
「あぁ、暇がつぶせりゃなんでもいいぜ」
「それなら鍛冶の心得があるようですし、鉱山など行ってみてはいかがです?」
「鉱山? 鉄でも掘れってか?」
「それもいいですし、鉱山に徘徊しているモンスターは鉄以外にも様々な鉱石を落とします。
聞いた話ですが、経験値はほとんど無いらしいですが、良質な鉄はそれなりの値段で取引されているようですよ」
ちなみに鉄に良質も何も無い。
アイテム欄にはただ「鉄」としか表示されない。
ただし鉄以外に、「鋼鉄」「ダマスカス鉱 (微レア)」「オーラ鉱 (レア)」「ハイメタル(超レア)」などが採取できる場所である。
そのため生産系のプレイヤーにとっては人気のマップで、それに伴って金策マップとして戦闘系プレイヤーの人気も高い。
しかし当然経験値は無いに等しいうえ、上位のマップが存在するためわざわざこちらのマップに向かうプレイヤーは多くない。
せいぜいトライのように、転職したてで装備も新調したけどお金が無い、戦闘能力が低い生産系プレイヤーが自力採取する、という理由以外で来ることはあまりない。
「鉱山入り口まででしたらワープサービスがありますし、1時間程度なら散策だけでも十分時間を潰せるでしょうな。
特に鉱石は売ってもいいですが、鍛冶の練習に使えるので便利かと思いますよ」
「なるほどな、そりゃいいや、行ってみっか」
「あ、注意点が一つだけ」
「あん?」
「最奥部にメタルゴーレムというモンスターがいるらしいのですが、これだけは注意なさってください。
鉱山のモンスターは基本的に弱いらしいのですが、そいつだけは別格です、見かけたらすぐに逃げることをお勧めしますよ」
「え、なにそのフラグ」
「フラグとはなんですか?」
「いや、こっちの話だ……最奥部な、最奥部に近づかなきゃいいのな。
……大丈夫……だよな? 」
「ええ、最奥部に近寄らなければ大丈夫です……多分」
「すげぇ不安になってきた」
――――――――――
「ザックザックwwwまじザックザクwww」
さっそく炭鉱にやってきたトライの台詞である。
ちょっと、いやかなり調子にのっている。
ワープサービスでやってきた場所はどこかの山の中腹あたりらしかった。
炭鉱の入り口として定番な、掘られた穴の内側を木枠で固定してある正に炭鉱! という感じの入り口。
反対側は森になっていて、踏み均したような一本道があるだけ。
その道も長くは無く、森の向こう側には結構広い空間が広がっているのがわかる。
「山の上だったら景色よさそうだけどな。
ま、それはまた今度だなっと」
そういって軽い感じで炭鉱の中に入っていったトライだった。
中はもうまさに炭鉱だった。
違うといえば、炭鉱にしては空間が異常に広いことくらいであろうか。
通常炭鉱は、あまり掘りすぎて広い空間を作ってしまうと崩落の危険性がある。
そのため広く大きくではなく、細く長く採掘していくため、広い空間というのは狙わない限りできにくい。
しかしこの炭鉱は通路からしてかなり広く、炭鉱というよりもむしろ洞窟に近い。
横幅は人間10人ならんでも余裕がありそうだし、天井の高さは10メートルはありそうだ。
その高さまでしっかりと木枠が組んではあるが、それに何か意味があるかは疑問が残る。
多分製作側がそのへんをあまり知らなかったんだろう。
例え知っていたとしてもゲーム上の快適さを理由に、同じような設計にしたかもしれないが。
「ほぁ~、こりゃまたザ・ダンジョンって感じ?」
誰にでもなく独り言を呟くトライ。
周りに誰もいなかったからよかったが、誰かいたらちょっとひかれたかもしれない。
「うし、なんか気合入ってきたな。
行ってみっか!」
そうして奥へと進んでいくトライ。
ちなみに今回は準備万端である。
シャインの言いつけに従い、ウィンドウ会話で様々なアイテムを購入してある。
ダンジョンの入り口、またはセーブポイントに帰還できる魔法のロープというアイテム。
1つで1000ほど回復するそこそこ安いポーション瓶を10個ほど。
緊急用の5000ほど回復する少し高めのポーションを3個。
さらには採掘ポイントで使えるというツルハシである。
それなりに資金は減ったが、まぁ普通の消費である。
「なにが出るかな~っと」
鼻歌まじりで歩いていたが、さっそくモンスターが現れる。
そのモンスターの見た目は……
「オーガか!?」
オーガそっくりの見た目であった。
オーガより二回り程度小さい体つきに、安全ヘルメットとツルハシ装備をした暗い緑色の見た目をしている。
正確にはオーガではなくゴブリンに属するモンスターで、その名を「ゴブリンディガー」と言う。
「……なんか小せぇな」
それはそうであろう、なんといっても相手はオーガではなくゴブリンだ。
「うし、試し切りじゃ! 死ねおるぁああああ!!!」
さっそく愛剣となったベルセルクブレードを構え、突進していくトライ。
ゴブリンディガーもツルハシを構え、迎え撃つ。
二人が交差する瞬間、トライにとっては聞きなれたガッギィーンという音が響いた。
トライから。
「は?」
通り抜けるようにして横に振るった剣から、ほとんど抵抗を感じることは無かったことにトライは違和感を覚える。
いままで苦労させられた装甲値の感触が全く無く、いきなり装甲値が無い状態を斬ったような感触だった。
違和感の正体を探るべく、後ろを振り向いてみると。
「死んでるし!?」
ゴブリンディガーは死んだときのエフェクトへと変化し、ゆっくりと消えていくところだった。
「今の音はなんだったんだよ!?」
気になってしまった結果、自分の体から音がしたことを思い出して体を見てみる。
今のトライは装備を新調したため、以前のような布の服を着ているわけではない。
ロックタートルの皮……ようするに岩を使った鎧を着ている。
ロックシリーズと呼ばれる装備は、防御力は高いが重量があるため、前衛以外は装備しにくいという特徴の鎧を身に着けていた。
頭は頬までカバーするフルフェイスの顔部分をとっぱらったような岩である。
胴は軽鎧のように胸と腰、肩のみを保護している岩。
腕と足にも同じように鎧のような岩がくっついている。
ゴーレム系のモンスターにこんなのがいそうだな、という見た目だ。
その岩の胴部分、右肩あたりに小さな白い跡がついていた。
どうやらゴブリンディガーのツルハシが当たったようだが、全くその効果を発揮できなかったようだ。
ツルハシは岩を掘る道具なのに岩を掘れなかったとは嘆かわしい。
「あ~……これがプレイヤー側の装甲値ってことか」
まさにその通り。
装甲値は何もモンスター側だけの特典ではない。
プレイヤーにも当然装甲値が存在し、一定以下の攻撃力は完全にシャットダウンできる。
この特典があるため、防御専門の前衛プレイヤーというのもFGにおいては珍しくない、むしろ重要、というか前衛の3割くらいは防御専門である。
他のネットゲームでは、自分が活躍したいと思うプレイヤーが多く、攻撃能力が高い職業が人気となるのが普通である世界にあって、3割というのはかなり高い数字になる。
「確かにこりゃ楽だわな……
ま、モンスターが低下すんだからこっちも低下すんだろ、調子にのらねぇほうがよさそうだ」
実際その通りである。
といっても普通はそれを実感するような行動は滅多に無い。
低レベルマップでのレベリングでは、それを実感するころにはレベルがあがってしまうし。
適正レベル以上のマップではそもそも無効化できる場面のほうが少ない。
意外と知られていない事実であるのは、そのへんも理由のひとつであったりする。
「うし、とりあえず進む……前にアイテム確認っと」
モンスターからアイテムがそれなりに手に入ると聞いていたため、さっそくアイテム欄を確認してみる。
「鉄……に壊れたツルハシ? 売却アイテムか、それ以外は特に無しっと」
いきなりレアアイテムが手に入るとは思っていなかったようだが、微妙なドロップに残念そうな表情を浮かべる。
「ま、ちゃっちゃと進みますかねぇ……」
微妙なドロップは数で補おうと心に決め、トライはさらに奥へと進んでいく。
進んで進んでときどき会うゴブリンディガーを倒しながら、2Fへと進む。
そこでトライはちょっとした命の危機を感じることとなる。
「数多すぎだろ!?」
地下へと降り立った瞬間、わらわらと大量に出現するゴブリンディガーの群れ。
ぱっと見ただけでも10体以上は確実にいるその群れを見てしかし、トライが思うことは別のことだった。
「大量の鉄ゲット!」
そうして乱獲に近い戦闘を開始した結果、さきほどの台詞につながることとなるのだった。
「ザックザックwwwまじザックザクwww」
大量の鉄が取れる意味でのザックザク。
敵を斬るときの効果音な意味でのザックザク。
両方の意味を持たせているということを理解してくれるプレイヤーは、幸運なことに誰もいなかった。
ダンジョン構造の不思議はいつになっても解けません
※2012/8/28
メタ発言を修正
帰宅途中の描写を大幅修正
その他細かい部分を若干修正
※2012/9/5
文章を全体的に修正、内容には変化なし




