聖なる刻印の災い
遊森先生の春のファンタジー短編祭り お題『武器』
●短編であること
●ジャンルは『ファンタジー』 ●テーマ『マニアックな武器 or 武器のマニアックな使い方』
軽くお読みください、続きません。ひっそり参加です。
「ねぇ、これ何? 」
「あっ、お前勝手に俺の上着探るな! 」
彼女は、彼の制服の上着の内ポケットから芋判を取り出した。よくぞこんな大きなモノが入っていたものだ。
彼の手が慌てて、彼女の芋判を持つ手に伸ばされる。
「理一くん、もう4月だし年賀状書くのはおそいっしょ? てか、私にも年賀状くれた事無いし」
理一と呼ばれた青年は、彼女の手から芋判を取り戻し、何かが彫ってある側面をフーフーと吹いている。
糸くずだがゴミだかが引っ付いたのか。
「で? 何でそんな生もの持ってるの。久し振りに逢ったと思ったら・・・・」
「しっ、静かにしろ、何処でアイツらが見ているか分からない」
「はっ?」
「実は今まで逢えなかったのはワケがある。俺な、ある組織を壊滅させる事の出来る紋章を手に入れたんだ!! 」
「・・・・・・はぁぁぁぁっ?!」
「あいつらは、異界から来た魔物なんだ。でな、ここからが重要だ。俺はこの世界を救うために万物の神から、聖なる野菜を託された! ! 」
ヒュー・・・学校の屋上で、彼と彼女の間に、春とは思えない寒い風が通り抜けた。
理一は芋判を高らかに掲げ、切断面を彼女に見せた。
「・・・(肉)って書いてあるけど・・・」
「そうだ! この聖なる野菜に、刻んだこの刻印こそ聖なる紋章。この形にしてやっと完全体となる!あぁっっ、お前にだけは知られたくなかった。俺に背負わされた宿命を!」
「何だか分からないけど、落ち着け・・・。ブレザーのポケットにそんなの入れてきてハズイからって、そんな言い訳する事無いじゃん。そりゃ理一くんアニメとかそういう感じの小説とか好きだし、私笑わそうとしてるのかなって思うけど。この場合、いいよ、間違えて持ってきてしまったって。正直に言ってよね」
「違うぞ砂都音、お前は事の重大さが分かってないぞ。俺はお前に逢えなかった一ヶ月、ずっと戦ってたんだ。それは辛い戦いだった、謎の組織に辿り着くまでに、仲間が一人、また一人と倒れて行き、そしてとうとう俺一人になっちまった」
「へー、そりゃ大変だったね」
「砂都音・・・俺はお前に伝えなければならない事がある」
「何よ、メアド変えたんだったら教えて。連絡取れなかったから心配したし、携帯も出ないしさ」
「こっちの世界に、諸悪の根源を連れて来てしまったんだ。俺はそいつを倒さないといけない、この聖なる野菜に刻まれた印章を使って! !・・・携帯は電池が切れて使えなくなってしまった、スマン」
ゴロゴロゴロ・・・、急に空模様が怪しくなって来てた。
先ほどまで晴れていたのに、雨は降って来ないが雷が稲光までして激しくなってきた。
「いかん! ヤツが、くる!! 」
「ちょっ・・・いい加減に・・・」
ピシャーーーーーン
学校の屋上に雷が落ちた! 思わず彼女は手を翳した。
オーホホホホホホッ・・・
屋上に高らかに響き渡る女の笑い声にびっくりして、思わず辺りを見回した。
そこには雷の落ちた跡に、薄い布で局部とスイカのような胸のトップだけ隠し、太ももまであるブーツを履いた謎大爆発のお姉さんが立っていた。
近くで何かそういう催し物があったのだろうか・・・。
コスプレってやつ。
てか、あの胸、整形? 髪の毛が緑で眼が赤ってどんだけ凝ってるのかと彼女は思った。
「ちょっと、もしかするけど理一くんの貴女なに? 」
「わらわは、勇者リーチのいわゆる宿命の相手じゃ」
「理一くんごめん、私もう着いていけないわ。彼女と趣味も合いそうだしお幸せにね、一ヶ月心配して損しちゃった」
「おーほほほほほ、そなたが勇者殿の想い人、サトーネ姫かえ。お主の勇者殿は辛い戦いになると姫の名前を叫ぶのじゃ、わらわは非常に妬けたのぅ」
「ばばばばばっ」
理一が顔を真っ赤にして腕を振り回した。
「さぁ、勇者殿。最後の戦いじゃ、眷属は連れて来なかったぞえ。お主とわらわとの命を懸けた戦いをしようではないか」
謎のお姉さんは片手を空に挙げて、何か掴むように指を動かした。
そして、そこには大きな鎌が握られていた。
「最近のコスプレってすごいね、武器まで凝ってるんだね。ねぇアレどうやって作ってあるの? ホームセンターとかで全部材料揃うの? 」
「砂都音、いいから下がってろ。俺、お前の所に帰りたくって、ずっと、戦ってたんだ。でもこれで最後なんだ、やっと俺は手に入れたから! ! エルフ族のスーリエ、猫耳族のピピ、魔女のアミーナ、これでやっとみんなの仇がとれる ! 」
「何なのその、どうしようもなくハーレムなメンバーは・・・」
理一が芋判を謎のお姉さんに向かって見せた。
とたんに謎のお姉さんの顔が忌々しげに歪んだ。
「おのれ、神聖なる野菜イッモーナと時と破壊の神キーン=ニッカルの魔封じ印を手に入れたか」
「ただの、サツマイモの芋判じゃん。お姉さん、ノリがいいね」
「砂都音 ! これからこの大魔王フィフィンを黄昏の空間へ閉じ込める ! 巻き込むとヤバイからマジ離れてろって ! 」
「どこに巻き込むのよ、お姉さんその悪魔が持ってるみたいな鎌見せて」
砂都音はフラフラと大魔王フィフィンの傍に近づいた。
「サトネェェェェッ ! ! 」
理一がフィフィンへ一直線に走った。
手に芋判を掲げて!
フィフィンが鎌を振り上げると同時に、芋判の側面は赤く輝き。
スイカのような胸の心臓の辺りに、ポンっと間抜けな音をして芋判、いや聖なる野菜の刻印が押された。
「おのれぇぇぇぇぇ! ! 勇者よ ! わらわがこのままただ滅すると思うなかれ ! お前の一番大切な物を連れて行こうぞ ! ! 」
「へ? 」
砂都音がフィフィンの腕に巻き込まれる。
「サトネェェェェッ! ! 」
変なお姉さんに抱きつかれた砂都音がキョトンとしている。
おぉ、この胸本物か、すごいね。とか言いながら人差し指でプニプニ胸を押している。
辺りは黒い炎が地面から吹き上がり、フィフィンと砂都音を包んで行く。
理一が必死に彼女に手を伸ばすが何かに阻まれて届かない。
オーホホホホホ・・・・
そして、大魔王フィフィンの高笑いと共に、彼女は学校の屋上から跡形もなく消えたのだった・・・。
後にはガックリと膝を付いて項垂れて、手に芋判、いや聖なる野菜の刻印を握り締める理一の姿だけが残された・・・・。
★ ★
砂都音は、髪を誰かに撫でられている感覚がして目が覚めた。
どこだ ? ここは、さっきまで屋上でコスプレのお姉さんと理一と一緒にいたのに・・・。
パチっと目だけ開ける、何、このやたらと広いベットは・・・。
顔を右から左に向けた時に、どアップで男の顔が目に入った。
銀髪碧眼の超美形が、自分の隣に横たわっていた。
「目覚めたか、運命の乙女、余の妃よ」
ここ、どこ? ウチお兄ちゃんも行方不明なのに、私まで誘拐された?
物語はまだ始まったばかり・・・
Fin
すみません、こんな話で(´・ω・`)