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その四、告白

少女は美しく成長した。召喚される前の環境が環境だったからか、本人にあまり自覚は無い。

十三歳…反抗期に差し掛かってもいい頃だが、真理にその兆しはなかった。


はずだった。


「どうしちゃったんでしょうか、真理…最近私を避けるんです」

「いや、そんなこと、さっき初めてマリーちゃんを紹介された俺に言われてもな」

ジオの数少ない昔からの友人で、傭兵のロマッド…その巨大な熊のような体を屈めて、彼はにまにまと笑った。

「なんですかロマ」

「省略すんなっ、俺はロマじゃねぇ」

「そうですね、馬に失礼でした」

「そうだ、まったく失礼な…ん?」

「それで、何が言いたいんですか?」

しれっとロマッドの引っかかりを切ったジオの様子に、ロマッドは頬を引き攣らせる。

どうやらあの少女に避けられていることを、本当に気にしていて、ちょっと不機嫌なのだと分かったからだ。

少女に接するジオの表情だけでも、青天の霹靂だったが…

あの人嫌いがねぇ…と、しみじみ思いながらロマッドは口を開いた。

「いや、まさかジオがあんな可愛い幼な妻を娶っているとは」

部屋の前のドアが、ゴンッと音を立てて揺れた。

「うぉっ、なんだ?お前の魔術の掛かった家のドアが揺れるって、どんな怪力の生き物を飼ってるんだよ」

「気にしないでください。大丈夫、とっても優しくて可愛い子ですから」

ゴンッと再びドアが揺れる。

「……おめぇにとったら、凶悪ドラゴンでも優しくて可愛いだろうが……」

ロマッドはジオが【人間以外】に向ける顔を思い出して、ため息をついた。

敵対するならどんな相手でも躊躇わずに始末するが、ジオは降参した【人間以外】はそれがどんな凶悪な生き物でも、許し慈しむ。

東のドラゴン大陸のドラゴンの王が唯一ひれ伏す、魔術師…

まさか、かの存在の子供でも預かったり、貰ったりしてないだろうな?あんなか弱そうな女の子と暮らしているのに…と、少々不安に思いつつ…少女に向ってただいまと微笑んだ、ジオの嘘偽りない人間にはほとんど向けられない優しい笑みを思い出す。

「しかし、おめーはモテるわりに一生独身なんだろうと安心してたのによぉおおっ、幼な妻が趣味だったのかっ、くそー、男の敵めぇっ」

「真理は私の妻ではないぞ?」

「うな?いやちょっと待て、あんなでれっでれに甘い表情で接してて、妻じゃないのか?」

「当たり前だろう?」

「いや、当たり前って…」

突如現れ揺れた気配に、その小ささにロマッドは顔を上げた。

「あの子はまだ十三だぞ?」

そう言ってからジオも気付いたのか顔を上げた。

「真理?」

ジオは慌てて立ち上がり、さきほど二度揺れたドアを開けた。

そこでは少女が泣き崩れていた。

「真理どうした?どこか痛いのか?」

「どうせ私なんかじゃ、ジオのお嫁さんになんてなれないもんっ!」

真理は差し伸べられた手を払って、わーっと泣きながら自室へと走り逃げた。


手を払われた格好のまま、固まっているジオを置いて。


「あー…避けられてるって、つまりそうゆうこと…だったんじゃね?」

ロマッドの言葉に、ジオはぎこちなく姿勢を正した。

「…真理は私が好きなのですか?」

「いや、俺に聞くなよ。それ以前に見ての通りだろうが」

「私は三十五ですよ?」

「ああ、俺と同い年だな…それが?」

「…そう、そうでしたね、ここではそうでした…」

「?」

首を傾げる客は置いて、ジオはため息をついた。


そう言えば避けられ出す前、真理が初潮を迎えたのでその対処法を隣家の奥さんに任せ、一応必要だろうと性知識のあれこれを教える『保健体育』をしたのだったと思い出す。

好意を抱いている異性に、性教育を受けるってどんな辱め?

ジオは頭を抱えた。

その顔は見たことも無いくらい、真っ赤だ。

「うっ、こんな後悔したのは生まれて初めてですっ、恥ずかしいっ」

「え、おい…」

「どんな『変態』ですか、もうむしろ『性犯罪者』?うぅ、『ゴキブリ』のごとく嫌われてもおかしくないことをしてたとか、今気付きました、最低ですっ」

「いや、好かれてたじゃねーかっていうか、久々に聞くな…おめーの使うわけ分からない言語…本当にどうゆう意味だよ」

それよりも、ちゃんとマリーちゃんになんで妻にしてないのが当たり前なのか、説明した方がよくないか?俺にも分からねぇし…泣いてる娘をほっぽって、後悔してる場合か?と、ロマッドが言うのにジオは頭を上げた。

その通りだと思ったのだ。

「ロマッド、ありがとうございます。君は本当に時々、馬のように賢いですね」

にこっと笑って、早速真理の部屋に向ったジオを見送って、ロマッドはずるりと椅子から滑り落ちた。

「ジオが裏の無い笑顔でお礼…すげぇよマリーちゃん、君は救世主か女神なのか?」


いいえ、勇者です。と、ロマッドに教える者はいなかった。



ジオは真理の部屋のドアをノックした。

中からは微かに気配がする。

「真理、起きていますか?私の話を聞いて下さい」

『じお…ごめんなさい、聞きたくないの』

小さな呟きのような返答に、ジオは顔を顰める。

『真理、聞いて下さい。私には一つ問題があります、そのため君を可愛くて愛しいと思っても、今は妻にすることはできないのです』

そういってジオはあれ?と首を傾げる。自分の中の常識さえなければ、彼女を妻にしたいみたいではないか…と。

『今は』って……と。

『もんだい?』

真理はベッドからもぞもぞと起き上がって、ドアを少しだけ開いた。

一つ問題があって…という言葉は、以前にも聞いたことがある。

それに「今は妻にできない」ということは、将来なら自分を恋愛対象として見てもらえるのだろうか?と、微かな希望を抱いて。

目が合うと、ジオはほっとしたように微笑んだ。

「前にも確か…結婚出来ない事情で言ってたこと?」

ジオは頷く。

どうも女性の本性というか裏を読めてしまう。まともに友好を結べるのは、自分に気の無い相手だけだった。



「ええ、一生誰にも言うつもりはありませんでしたが……実は私は前世の記憶があるのです。君と同じように、この世界に召喚された『女性ゆうしゃ』のね」


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