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捨てられ聖女は魔王軍の料理番〜わたしが作る肉じゃがに、四天王が胃袋を掴まれています〜

作者: 瑠璃/風花
掲載日:2026/05/02

 イクシス王国において聖女達は、教会に身をおいて、要請によって各地に派遣される。聖女の身分は様々で、神聖力が高いのに平民であった私、メグは、侯爵令嬢のエリザ様に嫌がらせを受けていた。


 聖女なんてやめたい。神聖力があってもいいことなんてないと思ってた。

 実は私は、神聖力が発現するときに前世も思い出していたのだ。


 前世は日本人で、どこにでもいるような一人暮らしの社会人だった。自由を謳歌していた記憶がある私に、清貧で規律が多く、イジメまである聖女の暮らしは辛すぎた。

 

 ある日、神聖力の高さから王子妃になる話が出てきたらしい。そのせいだと思う。とうとう魔族の住む隣国の森に捨てられてしまった。王子妃になりたいエリザ様が仕組んだことだろう。


 本当は殺せと命じられていたんだと思う。

 せめて森で生き延びてほしいと、泣きながら食料とポーションをくれた老騎士は、私の髪を切って大切に包むと、そのナイフまでくれて帰っていった。


 途方に暮れたけれど、嫌がらせのない土地に来たのだと少しホッとして、森を散策した。


 高さのある木や草が生い茂り、暗くて怖そうな雰囲気があるものの、特に危険のある森ではなかった。

 

 安心して過ごせそうな場所を見つけては、石で釜を作ったり、果物や薬草を摘んだりして3日ほど過ごした頃、煙を見た兵士が訪れて保護された。捕まったとも言う。


 森に居た経緯を話すと、何故か城に連れられ、魔王様と話すことになった。


「なんと、聖女を追放するとかバカなのか?」

「追放されたわけじゃないです。嫉妬で殺されそうになったんです」

「余計悪いな。それで、森で暮らそうとしていたと?」

「もう帰るところがありませんから」

「ふむ。では城に住むといい。聖女がこの国のために働いてくれるなら大歓迎だ」


 黒いツヤツヤの髪に、燃えるような赤い目の魔王様は、淡々と話をし、それから広くてきれいな客間をあてがってくれた。

 

『聖女って、別に魔王の敵じゃなかったんだ』などと思った私はのんき者なのかもしれない。住むところができて良かったと思うのだった。


「こんなにきれいな部屋を使っていいんですか?」


 案内してくれたツインテールの可愛いメイド服の女性に聞くと、


 「人間を拾ったのは初めてですが、魔王様は動物とかエルフの子供とか拾ってくるのです」


 とのことで、私も拾い物にカウントされていた。魔王って言葉のイメージとぜんぜん違う。猫を拾う不良少年みたいに好感度がダダ上がりだ。


 その日の夕食は焼いた魚に醤油、蒸した塩味のじゃがいもと、サラダだった。サラダと言うより葉っぱ。


 雑な料理だなと思ったけれど、醤油というものは、この世界で初めて口にした。美味しい。


 翌日の朝は、大きな目玉焼きと串に刺した肉に葉っぱだった。目玉焼きは醤油派なので、それは嬉しかったけれど、思わず魔国での普通の料理なのか聞いてしまった。


「割とご馳走なんですけど、人間の国の方のお口に合わなかったですか?」


 料理をするという認識が低いのかもしれない。


「素材は美味しいと思うのですが、今度、私も料理してみてもいいですか?」

「料理をなさるのですか?」

「はい! 平民でしたから」


 そうしてメイドさん、改めキリエさんに厨房に連れて行って貰えることになった。

 食材は、じゃがいもの他に人参や玉ねぎもあったし、ブロックになった何かの肉は何種類もあった。

 砂糖はなかったけれど、代わりにシロップがあった。材料が潤沢で驚いた。


 1品は、肉じゃがを作ることにして、じゃがいもの皮をむいた。わくわくした料理長のガロさんが手伝ってくれたので、皮むきはあっという間。

 

 肉と玉ねぎとじゃがいもを炒めてから煮ていく。試しに聞いてみると、甘めの酒もあり、味見をしてから料理酒として使った。


 煮込んでいる間に、カブとキャベツでスープを作り、サラダはすりおろした人参を使ったドレッシングにした。


 出来上がったそれらを食器によそう。作り始めから、キリエさんもガロさんも興味津々で、目がキラキラしていたので、多めに作ってみた。


「これはなんだ!?」

「とても、おいしいですわ!」

「ほくほくして、甘くてまろやかな醤油の味もして、そして元気がみなぎってくる」


 元気がみなぎる? 美味しいのはわかるけど、美味しいと力が出るもんね、そういうことかな。添え物だったスープより断然肉じゃがが人気!


「俺、リクとタオも呼んでくるぜ」


 ガロさんが、慌てて2人を呼んできて人数が増えた。


 どうやら、この4人は仲が良いみたい。

 ガロさんはちょっとガタイのいい人狼で、リクさんは美男子なダークエルフ、タオさんは執事風の吸血鬼。メイドなキリエさんはなんと夢魔だった。


「これは! 凝った料理ですね」

「なんとも言えん美味しさだ」


 4人とも、驚くほど肉じゃがを絶賛してくれた。

 他の料理もまた作るねと言って、その日は解散したけれど、今後は厨房にいつでも行って良いことになった。やったね!


 明日は何を作ろうかな。

 わくわくしながら、その日はふかふかのベッドで眠りについた。


 

 翌日、魔王様から呼び出された。

 何かまずかった? 料理をするのはワガママだった? 色んな思いが頭の中を巡って不安になった。


「4人から報告を受けたんだが、肉じゃがとやらは、どうして俺の分がなかったのだ?」

「……へ?」

「たいへん美味だったと聞いている」


 魔王様は、そんなことで圧をかけてきていたの? 食べ物の恨みは怖いとかいうけど、そういうことなの?


「また作りますから!」

「今から作れ」

「……はい!」


 そんなに食べたかったのかなと、首を傾げながらも、心を込めて作った肉じゃがは魔王様にも好評で。


「そういえば、おまえ、あいつらのこと名前で呼んでるらしいな」

「あいつらってキリエさん達ですか?」

「俺のことはフィンと呼べ」

「フィン様ですか?」

「違う! フィンだ」

「ええぇ? そんな恐れ多い」


 それから、厨房によく行くようになった。まだ何の肉か教えてもらってないけど、ハンバーグも作った。

 液体だけど味噌味の調味料なんてものもあったから味噌汁も作った。

 素材だけならイクシス王国より多いくらいだと思う。


 米やパンも食べたいな。主食を食べる習慣がなく、そういったものは発達しなかったようで、米の特徴を言うと探してくれることになった。


 前世もパンの作り方は知らない小娘だったので、パンは作れないけど、小麦はあったのでパンケーキは作ってみたりした。


 そんな生活をふた月ほど続けていた頃、イクシス王国が攻めてきた。実はイクシス王国は度々攻めてくるそうだ。

 魔族が侵略に来ると聞いていたけれど、立場で見方が変わるのか、情報操作をされていたのか、事実はイクシス王国が戦争を始めるということだった。


「フィン……戦場に行くの?」

「心配するな、防衛戦など慣れている。捕虜にパン職人がいないか探してこよう」


 魔王様は、私を抱きしめると、あやすように背中をポンポンと叩いた。


「私も戦場に連れて行ってください」

「……ならん」

「お役に立ちます。腐っても聖女ですから。ヒールもバフも使えます」

「……そうじゃないんだ。人を殺すところを見せたくないんだ」

「では、後方で控えてますから」


 フィンが、苦悩しているのがわかった。


「初日は肉じゃがな……」

「はい!」


 補給部隊の兵士たちに手伝ってもらって、大量のじゃがいもを持っていく。


「四天王と俺の分は、メグが手ずから作ってくれ。頼んだ」

「四天王って?」

「知らなかったのか、キリエとガロとリクとタオのことだぞ」

「ええぇぇ!」

「ああ見えて、あいつら強いんだよ」


 そうして臨んだ戦争は、四天王の活躍であっという間に勝利した。大将として後ろにいるというより、一騎当千で蹴散らしまくったらしい。


「お前の肉じゃがは力がみなぎるからな」

「そんなに美味しいと言ってもらえて嬉しいです!」

「……本人が気づいてないならいいか」


 私の元に戻ってきたフィンは、甘く囁く。


「離れたくないな……。和平交渉でしばらく城を離れるのが嫌だな。いっそのこと滅ぼしてしまおうか」


 その力がフィンにはあるけれど、今までしなかっただけなのだ。


「和平交渉について来るか?」

「行きたい! けど私は死んだことになっているから」

「第一王子とその妃の顔も拝まないとな」

「忘れていました……」


 フィンの大きな手が、私の頭を撫でる。

 

「奴らを思い知らせてやれ」

「もう、どうでもいい人たちです」


 本当にイクシス王国でのことは意識の隅に追いやっていた。今では婚約がされずに済んでよかったと思う。

 

「勇者でもない限り、この魔王と戦えるものなどいないのに、戦争を仕掛けてくるとはな。もっとも前の勇者は俺の親父だが」

「え?」

「醤油とか味噌とか親父が見つけたんだぞ」

「見つけた?」


 味噌と醤油が発酵させて作られたものではなく、魔樹から採取できることを知ることとなった。


 それにしても魔王様のお父様が勇者ってどういうこと? お母様が前魔王様ということよね。戦闘で愛が芽生えるものなの? いつか聞いてみたい。

 


 ほどなくして、イクシス王国に行くことになった。四天王はだいたい人間と見た目があまり変わらないので、護衛として来ることになった。


「俺達だけでイクシス王国の城を落とせる」


 護衛で来てくれたガロさんが言う。人狼のガロさんは普段は人間と変わらない姿だ。


「メグの肉じゃががあれば絶対勝てる。俺が作ってもダメなんだ」


 なんか絶賛だけど、肉じゃがは誰が作っても美味しいのになと思う。


「メグの料理の手は特別ですからね」


 キリエさんが微笑んでくれる。とても可愛いキリエさんは今日もメイド姿だ。


「魔族を呼びつける王はアホでございますね。危機感がないから、戦争も起こせるのでしょうけど」

 

 執事のような姿をした吸血鬼のタオさんは、眼鏡の縁をクイッと上げて言った。視力は悪くないけど、形から入るタイプだと言って、その姿で魔王様の執務の手伝いをしている。彼は吸血鬼だけど、魔力量が多いので昼間も動けるそうだ。


「今回はお灸を据えてもいいと思う」


 ぶっきらぼうに言うリクさんは、ダークエルフだけれど、イクシス王国に行くに当たって、姿を少し変えている。エルフ由来の美形さはそのままに、耳の形や肌の色を人間に近づけているのだ。


 私は少し気になっていることがある。拾ったエルフの子がリクさんなら、フィンはいったいいくつなんだろうと。見た目は20代後半くらいだけれど、真実が怖くて聞けない。まあ、誰の歳も知らないんだけどね。


 気さくに話してくれる4人は、最初に肉じゃがを作った日からずっと仲良くしてくれているけれど、紛れもなく魔王軍最強の四天王だ。


「さあ行くぞ」


 フィンとキリエさんと私が馬車で、他の3人は騎馬で道を行く。


 姿を知られていないので、道中は何事もなくイクシス王国の王城についた。


 国王は謁見の間で待っていたけれど、対するフィンは、へりくだった礼の姿勢を取らなかった。勝ったのはこちらなのだから当たり前だ。なのに国王は不満の顔を隠さなかった。


「なぜそこに我が国の聖女がいる!死んだはずでは!」


 第一王子が指を差して声を荒げたので、フィンが答えた。


「彼女は森で殺されそうなところを、保護した我が国民です」


 少し違うけれど、概ね嘘は言っていない。第一王子の隣の侯爵令嬢、もしかしたら王子妃のエリザ様の顔色は真っ青だ。


「どういうことだ? そなたは王子妃など不相応だと言って、自ら命を断ったと教会から聞いている」


 国王が問うので、私は困った。せめて派遣先で魔物に殺されたとかにしておけばよかったのに。


「ある日、馬車に乗せられて魔の森に捨てられたんです。そもそも教会でも、平民だからと常に嫌がらせを受けていましたから、抵抗できませんでした」

「わたくしは何も知らないわ!」


 何も言ってないのに、エリザ様が叫んだ。


「今更、メグを返すこともないし、戦勝国としては和平はどちらでも良い。やる気になれば簡単に攻め落とせるしな」


 フィンはエリザ様の叫びを無視して、国王に話を進めた。その好戦的な物言いに、近衛騎士たちが、剣を向ける。


 国王は、苦い顔をしていたけれど、捕らえろとは言わなかった。言ったらどうなるのかもう知っているのだろう。


「貴殿は我が国に何を求める?」

「今度こそ不可侵を。賠償金とは別でパン職人の派遣も頼みたい」

「パン職人!?」

「まあパン職人は冗談としても、戦争の責任として、国王の退位と王子の廃嫡は必須だな。誰が戦争を始めようとしたのかは知らないが」

「……断ったら……」


 フィンの提案が厳しすぎると思ったらしい国王は、すぐには受け入れられないようだった。

 

「そりゃあ、その場合は属国にして王族の処刑だろ」


 ガロさんが、サラッといったので、国王は「ひっ!」と顔色を変えた。


「ガロ、脅さなくてもいい。国王よ、細かい取り決めは宰相としたら良いのか? 国王は変わるからな」

「魔国から攻めたことはありませんから、我が国を舐めたのでしょうけど、流石に目に余ります。今回はきちんと交渉させていただきます」


 フィンとタオさんが発言すると、国王は諦めたようで、ぐったりとしていた。


 そんな中、エリザ様が静かに逃げようとしていた。


「メグを殺そうとしたのに、逃げるのか」

「わたくしは知らないし、証拠もないわ」


 私はたくさんの騎士の中から、助けてくれた老騎士を見つけたので、フィンの袖をひいて伝えた。


「証人が殺される前に保護しないとな」


 フィンは老騎士の前に転移で移動すると、彼を連れてきた。


「おじいさん、あの時はありがとうございました」


 老騎士は、どうすれば良いかオロオロしていたけれど、私の顔を見ると優しい顔になった。


「髪を切ってすまなかったね。生き延びていて良かった」

「あなたのことはこちらで保護させていただこう」


 そう言ってから、フィンがエリザ様の方を向くと、彼女は声にならない呻き声を上げてへたり込んだ。国王が捕らえるようにジェスチャーをした。


 呆然としたエリザ様は、虚ろな目で何かブツブツと言っていて、引きずられるように退出して行った。


 憐れに見えたけれども。王子妃の夢を一度は叶えたんだから、いいよね。


 残った国王と第一王子は、一線を引くことを約束した。


「後はタオにまかせて帰ろう」


 イクシス王国がどうなるかはわからないけど、国民が辛い目に遭うことはしないと、もう信頼していた。だから私は微笑んだ。


「そうだ、これからもメグを傷つけることがあったら許さない」

「ひぇっ」


 フィンは、国王達や周りをぐるりと見ながら言い放ち、それから私の顔をじっと見た。


「これからも毎日、メグの肉じゃがを食べさせてくれないか?」


 少し照れたように言われて私は面食らった。


「毎日?」


 フィンは優しく頷いた。耳と目のはしが赤い気がしたけど、ちょっと意味がわからない。


「毎日はたぶん飽きるかなぁ?」


 よくわからないまま素直に答えると、フィンは一瞬不思議そうな顔をして、固まった。何か間違えたかしら。味噌汁じゃないし、まさかね。


「私もメグの肉じゃが大好き!」


 キリエさんの言葉を皮切りに、ガロさん達も嬉しい言葉を言ってくれた。


「メグの肉じゃがは世界一だしな」

「毎日でも私も食べたいと思います」

「俺も、飽きたりしない」


 感動して、目が潤んできた。でもやっぱり毎日は飽きると思う。


「皆さん、ありがとうございます!」


 小声でフィンが何かを言っていたけど、私には聞き取れなかった。


「……だぁあ。そういう意味じゃない……」


 頭を抱えるフィンにキリエさんが声をかける。


「魔王様、どんまいっ」




 後日、イクシス王国は元国王の兄の息子が王位を引き継ぐことになった。実は魔族の血が入っている平民と結婚したために、王族をやめていたらしく、今回の和平に相応しいということになった。


 魔族と言っても、異民族くらいの感覚だった魔国側は、人間とは争う気はないので、平和な世になって良かった。


 私は『みんな好きすぎだな』と思いながら、3日に1回は肉じゃがを作っている。

 お米は少し前に見つかって、大きな謎卵で作るオムライスも大好きだ。


 この平和がずっと続けばいいなと思いながら今日も厨房にいる。


 あれ? 私って聖女じゃなかったっけ?

メグちゃんの肉じゃが食べたい。

魔王様もっとがんばれ!

などなど、楽しく読んでいただけましたら幸いです。


ブクマや感想・評価をいただけましたら大変励みになります。

ここまで、読んでいただきまして、本当にありがとうございました。

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