78(最終話) 「碧人、おかえりーっ」
よだれと汗まみれで、はあはあと荒い息を漏らす雄豚ども。
「やだっ、気持ち悪っ」
吐き捨てた美神は、ふいに魔王の方を見た。
((……))
魔王も、美神も、お互いに見合った。
静かに。言葉を交わさずに。
心を通じ合わせた。
樹々の隙間から漏れる陽ざしが、二人を包み、煌めかせた。
先に視線を逸らしたのは魔王だった。
さ、よ、な、ら
声にはしない。
念ずる。これだけで、美神には、ザキラスティアには、通じるだろう。
魔王は踵を返し、この場から立ち去ろうと――
「碧人」
立ち止まるものか。
去るんだ。去れ。
己に強い気持ちで命令したのに……、魔王は足を止めて、しまった――。
しかし、振り返れない。
ドキドキと強い鼓動が胸を内側から叩く。痛かった。
魔王の背後の空気がふっと弛緩した。
美神が笑んだ。見えないけど、見える。彼女がそばにいるだけで、たとえ目をつぶされようとも、彼女の一挙手一投足を読み違えることはない。
「着替えてきて……練習着に。県大会で優勝するにはあなたが必要なのよ。そうしたら、インターハイ。あと、この世界においても。……また、あの腐れ転生神がヘマして襲撃があったらどうするの?」
突如として、ザザザザッと足音が魔王の背後に迫る。それは、魔王を無条件に反応させるもの、振り返らせるもの。
「え!?」
早坂が、女鹿が、部多谷が、キャプテン藤堂が、部員達が魔王を取り囲む。
同じことを魔界でやられたら、彼らを瞬殺しただろう。それだけの危機意識が魔王には備わっている。
でも、そんなことはしない。
何故ならば、そこに殺意は微塵もないから。
あるのは、ただ1つだけ――彼らの純真な、他者を思いやる〝気持ち〟。
「碧人、おかえりーっ」
胸の底から熱いものが湧いた。
いつしかぽろりぽろりと魔王の目から零れ落ちる。
美神が足もとのボールを蹴った。近距離なのに強く蹴ってきた。
「うおっ」
魔王は慌ててボールをトラップする。その瞬間、美神の、いや、ザキラスティアの心の声が聞こえた。
――この世界で何があろうとも、わたしとあなたがいれば……大丈夫。
魔王は目頭を押さえ、改めて美神を――
「碧人ぉおおおおおっ」
野郎どもが碧人に向けて一斉にダイヴした。
あっという間に、もみくちゃにされる魔王。
「おまえ何泣いてるんだよぉっ!」「もっと泣かそうぜ」「男の涙は気持ち悪ぃな」「凌辱プレーっすか」
と、
息をハアハア弾ませ、一人の少女が校庭にたどり着いた。
肘も、膝も、頬も、全身が血まみれだ。
「や、やや、やっと、た、たどり着けました……はあっ、はあっ……」
常人ならば失血多量で意識を失いかねない大怪我を負っている。
魔王をもんでいた部員が、ぴたりと動きを止めた。
「ちょ、ちょっと、そそそ、そこで……ふぇ、ふぇら……」
「っ!」
小汚い豚野郎どもが一斉に同じことを妄想する。ザッと上半身を屈め、頭を垂れた。
「あ……へ……? お、お辞儀ですか?」
結菜も真似てお辞儀を返した後、
「ふぇら、フェラーリにぶつかっちゃって……ど、どーんっと弾き飛ばされちゃって……はあっ、はあっ……ち、遅刻してしまいました」
(どーしてフェラーリに轢かれて、立っていられるの? スーパーカーだよね?)
応急手当をするために、美神が結菜を保健室へ連れて行く。
サッカー部の野郎どもにもまれて成長を感じた魔王は、着替えのために部室へと向かった――。
♨ ♨ ♨
気が緩んでいた。
どーしようもないくらいにヒューマンの世界にどっぷり浸かり、危機への嗅覚を魔王は失っていた。
「あ」
部室で着替え中のマミりんの指先が、背中のブラのホックにかかっていた。
時が止まりかける。
空を斬り裂くスピードで繰り出されるお辞儀。
「は、早く着替えろっ!」
屈んだ姿勢で後ろを向く。
直後、
「あ」
ぷつっ、とブラのホックが外される音。
マンモスが咆哮した。制服のズボンは生地が薄い。
ふぁさり、と何かが落ちる音よりも早く、疾風のごとく魔王は部室から飛び出した。前屈みで。
(おわり)
お忙しいなか読んでいただき、本当にありがとうございました!
めっちゃ下ネタだらけでくだらない小説だったと思います、よねっ? ……バカバカしさを作者なりに突き詰めてみました。ドン引きしたり、かあーっと思わせたことがあったと思います、すみません。
正直、本作のようなコメディものを続けようか迷っていたりもします。(わりと健全な和風ファンタジーものを別名義、別投稿サイトで書いておりまして。実は)
もしも、例えばこの作品のPart2みたいなものを書いたら、1ページぐらいなら暇な時に読んでもいーよー、という方がいらっしゃいましたら、☆評価していただけたら嬉しいです! それを励みにPart2に挑戦しますね!!
でわでわ。




