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74 決着!!

「な――っ」


 直後、波動に尋常ではないパワーが注ぎ込まれた――ボレーシュート。

 数多の名プレーヤーが試合を決定づけたボレーシュート。それを、魔王は忠実に再現させ、さらには、魔王なりにアレンジを加えた。無回転で蹴ったのだ。


 回転による摩擦を生じさせないために、波動玉は強弓で放たれた矢のようにアオを直撃する。手で放つ以上の魔力とパワーが宿っていた。まさに、魔王が連日行っていたシュート練習の成果がそこにあった。


 だがしかし、アオはやはり勇者であった。

 波動玉をモロに喰らいながらも、炸裂させまいと両手で波動玉をがっちりと挟みこんだ。ゴールを守るゴールキーパーみたいだ。


「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおっ」


 魔王も必死ならば、勇者も必死だ。青筋、力こぶ、絶叫、よだれ……出せるものは何でも出し切ろうとしている。

 そんなさなか、魔王はアオと目が合った。

 さっきまでの酷薄とした目つきをアオはしていない。真剣だ。

 負けたら、死ぬ。

 押し切られたら、死ぬ。

 バチバチの火花をとばし合う魔王とアオ。


「ぐあああああ……」

 徐々に魔王の威力が勝っていく。踏ん張るアオの足もとの地面が、ガコッと割れた。


「ぐああああああああっ……、負けたくねぇ、せっかく勇者になれたのに……。ヒーローになりたかった。誰かたった一人のためでもいいから、そう、お姉ちゃんのためにヒーローになりたくて、そうして思いがけず願い叶ったのにぃいいいい」



◇ 勇者アオ 走馬灯 ◇


「勇者様、本当にありがとうございます」

「今まで待っていた甲斐がありました。魔物達に襲われる毎日に怯えなくてすむなんて夢のようです」


 魔王ミスティゾーマを倒した勇者アオを、村人達は歓喜の輪で迎えてくれた。

 誰もがその目にアオへの親しみと敬意を込め、慇懃な態度で話しかけてくれる。中には恐れ多いと思っているのか、遠くのほうで土下座をするように這いつくばり、万感の思いをその視線で伝えてくる者もいた。


 誰かがまいた花吹雪がいつまでも舞っていた。落ちることなどないかのように、ひらりひらりと風に吹かれ漂い続けていた。


 こんなことは初めてだった。

 転生前の日本では、目つきが悪いやら性格に難ありとレッテル付けされてしまい、小さい頃からずっと(うと)まれていた感覚を持って日常を送っていた。

 好意的でない目を常に向けられ、針の(むしろ)はまさに自分の状態をあらわすとも思っていた。

 真剣に何かを話し合えるのは、きっと早坂だけ。いや、早坂も心の奥底では自分をどう思っているのか……、そう思ってしまうほど、そう性格やら認知が歪んでしまうほど、自分はいつもカヤのそとに置かれる毎日だった。


 だから、秋月結菜への想い。どうしてこんなにも彼女に魅かれるのかよく分からないけど、自分は彼女を救わないといけないと義憤に駆られていた。彼女にとっての勇者の卵みたいな存在に……そう思っていた矢先の、自動車事故――。その結果が、この異世界での勇者へと繋がった。


「お姉ちゃん……」

 気づくとそう呟いていた。口にするだけで、なんだか幸せだった。魂のずっと奥の方で、自分の姉と思われる女性が、鏡に向かってツインテールをしている映像が浮かぶ。誰だろう? でも、その映像が浮かぶと自分は最高の気分になれる。


「俺、勇者になったよ。卵よりも大きな勇者に」


 いつしか舞っていたはずの花びらは地面に大量に落ち散らばっていた。


◇ ◆ ◇ ◆


 よだれまみれで迎え撃つアオ。その目から一筋の涙が零れた。


「性格なんて変えられねーじゃん。俺、誰からも信用されなくてハブラレて、人間関係のどん底で這いつくばってて……くそっ、くそうっ。だけど勇者になって魔王倒したら、村人が俺のことを受け入れて……嬉しかったんだよ、初めて誰かの役に立てて、お姉ちゃんが言ってくれた〝この村の『勇者の卵くん』〟みたいなヒーロー(勇者)になれて、ししし幸せだっ――」


 言葉ごと呑み込むように、アオの十円ハゲの部位が深い紫色に染まった。

 脱毛が進んでいく。

 いつしかアオはバーコードヘアになり、風圧で髪が乱れ、落ち武者みたいな髪型になった。


「ぬおおおおおお」

 アオはリキんだ。

 勝ち目はアオには残っていない。

 彼は、それでも、最後まで諦めない。


(アオもきっと……孤独なのだ。弱みを見せられない『勇者』として転生させられて、アオなりに苦労して……)


 魔王に芽生える共感。同時に、アオが転生前のジャパンで、メンタルクリニックを受診していたことを思い出す。世界を破壊した衝動に駆られるほど人間関係に悩んでいたアオ。


(アオも……――吾輩と同じだ……)


 アオが持ってきたゴールに、波動玉ごとぶち込まれたアオ。

 

 ぶちゃっ――

 ふぁさっ――


 サファイアブルーの流れ星が、長い尾を煌めかせながら……――消えた。

 (はかな)さは微塵(みじん)もない。

 限界まで輝いた自負を感じさせる、誇り高きシューティングスターだ。


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