72 ≪ ハ・ゲ・チャ・ウ・シ・カ・ナ・イ・オ・ン ≫
(……そうか。そういうことか)
魔王はここに至って、転生後に初めて結菜と会った際に、彼女の髪をツインテールにしようとした自分の行為を理解した。
碧人の嗜好が魔王の脳に残っていたのだ。
これが故に、魔王はちょっとしたラッキースケベにも過剰に反応していたのかもしれない。魔界ではラッキーどころかガッツリスケベでかなりの耐性があったにもかかわらず。
(これって……遺伝のように碧人の要素が吾輩に受け継がれている。すなわち、アオと吾輩とで共通項があるかもしれない……ということか? じゃあそこに、突破口があるのでは?)
魔王は深い沈黙、いや充分な黙考に耽る。考えろ。考え尽くせ。
「だーっ」
分かる訳がない。そもそも碧人が固有に持つ性癖はツインテールとかスケスケブラだ。そんなのをドストレートに思いつくはずがない。
というか、その時点で、魔王は思いだすべきであった。
古の魔界の言い伝えの続き――。
〝指どうしを突き合わせる者が危険を炙り出し、長い髪を二つに結んだ者による黄金色の光がチカラを助ける〟
そういうことで、頭を抱え込む魔王。
(……ん?)
抱え込んだ右手でもう一度側頭部を摩る。すりすり。
(んんんん……)
魔界では髪は命。毛髪の豊かさこそが力の根源となる。
魔王が魔王であり続けられたのはひとえに、魔界随一の髪量を誇っていたから。
だから――
側頭部に十円ハゲがあるわけない。
ということは……この十円ハゲは碧人特有の要素。
強い風が吹いた。
台風が来ていた。ジャパンの夏は台風シーズンである。
びょおおおお、と風が髪を巻き上げる。マミりんの髪も、結菜の髪も、手を離した魔王の髪も。そして、先ほど兜を投げ捨てたアオの髪も。
(……あった!)
風に煽られた髪が吹き上がり、アオの側頭部、今の魔王と同じ位置にくっきりと、十円ハゲ!
魔王は自身の前髪に触れる。その時、古の言葉が過った。
〝指どうしを突き合わせる者が危険を炙り出し、長い髪を二つに結んだ者による黄金色の光がチカラを助ける〟
ツインテールとツンツン。
まさに間一髪、起死回生の、
≪ ハ・ゲ・チャ・ウ・シ・カ・ナ・イ・オ・ン ≫




