70 「ゲーム・オーバーだな。けけけけ」
「死ねぇえええっ!」
(フラグ……)
そう思った矢先、とてつもない衝撃が来た。
ビシビシとひび割れる音。大地だけではなく、シールドからもあがった。
攻撃はこの一波だけではない。
ズンッ、ズンッ。二波、三波が来襲する。回数を重ねるごとに威力が増し、ビシビシ音がヤバい音響へと変わっていく。
「マズいわね。防ぎきれない」
攻撃の効果を実感したアオが、嗜虐的に笑み、いきり立った。
「ぬおおおおおおおおおおりゃああああああっ!」
バコオッ。
背後の路面がクレーターのように陥没する。ハリケーンの只中にいるようなめちゃくちゃな圧だった。薄くなったシールドにヒビが入り、割れた。
ドン――――――――ッ
喰らったことを一瞬で忘れさせるほどの重たい衝撃。
その身が大地に叩きつけられる。
腹に激痛が走った。ぱっくりと腹が割れている。血が溢れ、あっという間に勢いよく吹き出した。
回復呪文を唱える。だが、傷口が塞がるよりも裂けていく速度の方が勝っていた。
美神は?
横たわる美神は、意識を失っていた。顔が青白い。髪もごっそりと抜けている。
「おい、しっかりしろ。……目を覚ませよっ!」
回復呪文を止め、ずりずりと這いつくばって美神のもとへ魔王は行く。
「目ぇ覚ませよ! なあ!」
美神の胸は上下していない。
(そんな、まさか……)
再びぱっかりと裂け広がる腹。だが、魔王は回復呪文を自分ではなく美神に唱えた。彼女の身体がヒーリングをあらわす橙色に包まれる。それでも、いっこうに顔色が戻らない。呼吸も止まったままだ。
(こんな、こんな……とこで……)
魔王はぶんぶんと頭を振る。
(せっかく出会えたのに……。ようやく、転生して結ばれたのに……)
「ザキラスティアぁあああああああ――――っ!!!」
大地を、空を、遥か先の海面までをも揺さぶる絶叫。
灰色に染まる魔王の視界で、美神だけが色づいて存在していた。たとえそれが骸であろうとも、今の魔王にとってこの世界で唯一の彩色だ。
ジャリっとコンクリート小片を踏む音が立つ。思いのほかそれは魔王のすぐそばだった。というよりも、すぐ隣り。
「まったく……てこずらせやがって。最後はお涙頂戴かよ。っは、おまえらじゃ泣けねーよ。おかわりいらねぇ」
指先でくるくる回していた兜をポーンと投げ捨てるアオ。
逆手でエクスカリバーを持ち、高々と掲げた。
「ゲーム・オーバーだな。けけけけ」
ニヤリと黄ばんだ歯を見せる。
「いや、勇者が魔王を倒すから、この場合はゲーム・クリアか。はははは」




