7 結菜の部屋
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帰宅し自室のカーペットで女の子座りの結菜は、物思いに耽っていた。
復帰した碧人に会えた。それがこの上なく嬉しい。
彼は自分のヒーロー。わたしは忘れない……彼がわたしを助けてくれたことを。
ダンプに轢かれそうになった時、彼は恐怖に立ち向かい、その身を盾にしてくれた。まるで勇者みたいに。
ふと、記憶にない言葉が結菜の脳裏を掠めた。
『勇者の卵くん』
どうしてそう思ったのか、結菜自身にも分からなかった。
思考に耽っている際に、あ、ちょっとお尻を触られた気もする、と感じるも、何故か碧人相手なら笑って許せる気がした。まるで弟のおふざけみたいだ、と。
そういえば――、
(碧人君と目が合った時、彼はわたしの髪に触れようとした)
一瞬の出来事だった。すぐに彼は手を引っ込めた。
(わたしの髪を束ねようとした? おさげ? ……ツインテール? ひょっとして、この髪をツインテールにしたら……)
結菜はスマホ画面を鏡にして自身の髪の片側を束ねた。……悪くないかも。これが両方になる、と。
顔に血がついていることに真っ先に気づけよ、とつっこみたいところだが、血まみれが彼女の日常である。血ごときで彼女は1ミリも感情を動かされない。
(やってみよう)
部屋の窓から湿気の多い風が吹きこんだ。束ねた髪の先がゆらりと揺れる。
結菜は、自身の髪をきつく握り込む。
ツインテールの髪が、神々しく光っていることに、彼女は気づかなかった。




