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64 吾が名は、魔界のキング・オブ・キング、魔王ミスティゾーマ

 ズサっ


 力尽きたように両膝をついたのは魔王だった。

 久しぶりのハゲチャウシカナイオンによる疲弊もあるが、それ以上に……

 ミノタルードの言葉が魔王の胸をついた。

(……ミノルタードは、魔物達のためにこの世界へ来た。それを吾輩は……)


「なるほどね。ミスティゾーマ……ね」

 美神の声は魔王の耳には届かない。魔王は葛藤の渦中へとその身を埋没させていた。

(このまま魔界を見捨てて、この世界でのうのうと暮らしていいのだろうか……)


 ――おまえは――生まれついての『魔王』だから。


 ふいに〝あの〟言葉が蘇る。

 ぬおおっ、と魔王は頭を抱えた。

(ミノルタードは吾輩に助けを求めに来たのでは……。それを吾輩が……)


 魔界での思い出がズババババと脳裏に浮かんでは消えていく。

 自分は、魔界で専制君主よろしく恐怖政治をしいていた。

 皆、吾輩を怖れた。皆、吾輩のために、死んだ……。


 殺戮、鬼畜、怨恨、ホラー、怖れ、嘆き……思い出せるシーンはブラック、かなりの超絶ブラックだ。

 それでも、今思えば――

 時に笑顔があった。嬉し涙もあった。ジョークもあった。エンターテインメントもあった。

 魔物が初陣を見事に勝利で飾った際の宴……心の底から喜びを噛みしめていた。

 彼らと一緒に踊り狂って夜を明かした。魔物特有の団結心や温かさがあった。

 魔物にも親兄弟がいる。殺された親の仇をとった魔物が泣きながら墓前で報告する姿を魔王はこっそり見たこともあった。


 考えれば……わりとヒューマンに近いことをしていた。

 そう、改めて気づいた。

(魔王だろうと、魔物だろうと、ヒューマンだろうと、亜人だろうと、獣人だろうと、エルフだろうと……感情を持つという点では皆、まるっと同じだ)

 だったら、だったら……――


 生まれついての『魔王』で、何が悪い。


 悩む必要なんてなかった。

 自分は魔王である。


 このヒューマンの世界において、勇者イコール善、魔王イコール悪のレッテルが貼られていようと、気にすることなんてない。

 ヒューマン世界のサブカル会社が創った、理解しやすい関係性に過ぎない。

 つまり、テンプレだ。

 魔王を悪者にして、勇者が悪に立ち向かう。すると、胸アツ物語が生まれる。感涙を誘い、ヒューマン達はこぞって関連商品を買う。

(都合がよすぎる……)

 魔界を取り巻く事実として、それは通用しない。


 魔界を、魔物達を殺戮の血の海に沈めたのは――勇者だ。


 伝説の勇者の降臨だと! 

 魔界なりのブラックさで均衡を保っていた平和。

 それをかき乱した野郎が、勇者なのだ。


 魔物の残党が安心して暮らせる場所を求め、ミノルタードは、時空の綻びから決死の覚悟を持ってこの世界へ来た。未知の地、地球、日本へ。

 すべては勇者が侵略してきたから。


 そう。

『勇者イコール悪』だ。

 さすがに、『魔王イコール善』とまではおこがましくて、この世界のぬるま湯にどっぷりつかろうとしている魔王には思えなかったが……。


 ――あああああ……我が王・ミスティゾー……マ……さ……ま……――


 そうだ。

 吾が名は、魔界のキング・オブ・キング、魔王ミスティゾーマ。

 何ら恥じらうものがあるものか――。


「あんた、いい目つきになったね。見違えるほどだよ」


 美神が壁から背を離した。

 その時だった。


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