63 ミノルタードがこっちに来た理由
一拍の間があく。
つるりとした表情の美神は、枝毛処理をし始めていた。誰がどう見ても、彼女の戦う気はゼロだ。しかも、さっきまでの純真無垢な顔つきはどこへいったというのか。
モオオオオオオオオオオッツ!
息を吹き返したミノルタード。美神はさておおき、魔王には勝てると踏んだのだ。
巨漢を感じさせない跳躍でミノルタードが魔王に迫る。
魔王はいま一度、マミりんと結菜を確認する。
ンゴゴゴゴゴゴ……
むにゃむにゃ……
髪の毛をいじっていた美神と目が合った。
「どうせあんたもどっかの魔界からの転生者なんでしょ」
(!?)
魔王は、美神の言葉に意識のすべてを持っていかれた。
美神がニヤっとする。
「己の髪を大事にしなさい。転生先輩からのアドバイス」
左手で斧を振りかぶるミノルタード。痛恨の一撃の構えだ。
魔王は自身の長めの前髪に触れた。両手で髪を労るようにとく。
すると、指先に魔力が籠る実感。
(これはっ……!)
モオオオオオオオオオオッツ!!!
手が紫色に色づいた。輝く。光度が瞬く間に爆発的なレベルに増大し――何故か足先に光源が溜まっていく。
通常ならば魔力が籠るのは手であるはずなのに。
ひょっとして、と魔王は感じた。
このジャパンに転生した理由、しかもサッカー部へ来たこの因果は、魔界では考えもつかなかった発想を得るためだったのではないか――というのは、魔王の行き過ぎた願望ではあるのだが(実際は、『ここマジ、ちょーブラック』の適当さ以外に理由はないのだ)。
≪ ハ・ゲ・チャ・ウ・シ・カ・ナ・イ・オ・ン ≫
魔王から迸る鋭い光。光は一ヶ所に集まり、ぶおぉんと大きな光球になる。直後――魔王はその光球を蹴った。
それは鋭く重たい波動砲となり、ミノルタードへぶっ放される。
直撃。
ミノルタードの身体の輪郭が、あっという間に溶け消えていく。
消えていくさなか、ミノルタードが自慢のモヒカンに手をやった。
モオオオオオオオオオオ――――ッ!
そこに毛はもう一本も残ってない。
消滅する寸前、ミノルタードがハッとした。
目を見開く。
『き……貴様……いや、あなた様はひょっとして…………』
今度は魔王が瞳を大きくさせた。
最後の力を振り絞ったミノルタードが言葉を紡ぎ、魔王に訴えた。
『生き残った魔物達はゲリラ的に勇者に対抗しております。が、残虐非道なる勇者は我らを死滅させんと殺戮に拍車をかけ、抵抗虚しく……。空間の亀裂を見つけたわたくしとリキシ―は、魔物の逃げ場を探して……あああああ……我が王・ミスティゾー……マ……さ……ま……――』
水上に浮かぶ泡沫のようにミノタルードの声が途切れた時、光がすぼみ、そこにはただ空間だけが残った。




