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58 サッカーを通じて知り合った仲間達との絆


「……あれ?」

 意識を戻した女鹿が首を素早く左右に振る。巣穴から顔を覗かせたプレーリードッグが安全を確認するみたいに鼻をひくつかせた後、

「おまえだけ?」

 立ち上がり、遠くの方まで目をこらす。

「いきなり気を失ってどうしたんスか?」

「は? だって……おまえも見ただろ? つか、俺、おまえに突き飛ばされたし。あの変な……ゴリラみたいな奴」

 その際の衝撃を思い出した女鹿は、ブルっと身体を震わせた。すぐにキョロキョロと再度の安全確認をする。

「ゴリラ? そんなのいませんよ」

 シレっとした顔をつくり、魔王は言下に否定した。

「嘘だよ。俺見たもん。おまえの背後に毛むくじゃらのゾンビみたいなの」

「ここ、屠畜場の跡地に学校建てたんで、アレじゃないっスか?」

「マジ? ……アレか」

 両手で幽霊ポーズをつくる女鹿。

 ちなみにここが屠畜場であった事実はない。ハッタリをかましている。

「うわーマジか。初めて見たよ……。初体験はゴリラよりも美人の女版が良かったなあ」


 リキシ―の死体は既に綺麗さっぱり消えていた。

 どうやらヒューマンの世界で魔物が死ぬと痕跡さえ残らずに消滅するようだ。


 女鹿は肝を冷やしたらしく、

「もー、ランニングの気分じゃねぇな」

 グランドの隅にある荷物をいそいそとまとめだす。

「じゃあ、俺、帰るから。おまえも帰った方がいいぞ、またアレが出たら……」

 口にしている途中で再び怖くなった女鹿。身体を両腕で抱き締める女教師ポーズをした。ある意味で、アレよりも気味が悪い。

「お疲れさまでした」

「ああ、」

 女鹿が頷き、魔王に背を向ける。

「その……――早くグランドに戻ってこいよ。待ってるから、俺も、みんなも。また一緒にサッカーしよーぜ」

「――」

 さくさくと校門に向かう女鹿が振り返る気配はない。

 遠ざかる足音。闇に紛れていく背中。


 女鹿は何気なく言ったにすぎないだろう。

 でも、どくどくと体内でサウンドが鳴り始める。脈打つ鼓動。

 魔王はぎゅっと拳を握り締めた。

 女鹿が角を曲がりその姿が完全に見えなくなる。足音もふつりと消えたように聞こえなくなった。


 どくどく。どくどくどくどく――。


 女鹿が去っても、女鹿が残した言葉は、消えなかった。

 柔らかい風が吹く。しまい忘れられていたサッカーボールを見つけた。魔王はそれを器用に足でリフトアップした。優雅に舞い上がるボールが、月明かりを受け、宙のアーチに棚引く流れ星みたいだった。

(ああ、ボールのこの感触……)

 魔界では味わえなかったこの〝サッカーボールとお友達になる〟感覚を、魔王は二度と失いたくないと思った。

 そして、サッカーを通じて知り合った仲間達との絆も、失いたくはなかった。

 一歩、足を踏み出した魔王は、やがて確かな足どりで家路についていく。



 ツンツンツンツンツン――。

 リキシ―の惨殺シーンを、マミりんはこっそり眺めていた。浮かれ気分でツンツンがどんどん速くなる。

 ――と、

(あっちの空にも、妖精がいる)

 マミりんが遠く、碧人の住居がある方角の空を見あげた。

 魔王の後をつけるように、静かに足を動かす。


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