53 魔王は、倒されるべき存在……
再び学校を休みだした魔王。
幸い、魔王によって突き飛ばされた3人は軽症の擦り傷程度だった。
日が暮れた自室で膝を抱えて三角座りをする魔王。
「ふう……。はあ……」
何百回目かのため息。
コンコン、とドアが叩かれる。
「碧ちん、生きてる?」
「碧ちゃん、生きてる?」
控えめな両親の問いかけ。
「……うん」
「碧ちん、眠れてる?」
「碧ちゃん、眠れてる?」
「……うん」
嘘だった。今夜も明けぬ夜を過ごすだろう。
「もう、行って」
掠れた声で魔王がぽつりと言った。
ドアの向こうで、ビクビクっとした空気が立つ。
この言葉を両親との合図にしていた。もう話しかけてこないで。さもないと……またダンプに――。手首にナイフを――。
すごすごと去っていく両親の気配がやがて消える。
「ふう……。はあ……」
あれ以来、空耳は聞こえてこない。
でも、魔王は怯えていた。いつまたあの声が聞こえてくるのかと。
胸がざわざわしする。眠っていないのに眠れない。
魔王の体力をもってすれば1カ月睡眠をとらなくても何てこともない。
だが、『早寝早起きは三文の徳』を、そうだ勇者になろう以来心がけてきた魔王。眠れない自分に嫌悪感を抱いていた。
魔王の自室となった碧人の部屋には、碧人が遊んでいたものが多々残されている。
碧人はスマホゲームよりもレトロなテレビゲーム派だったようだ。押し入れの中にはハードとソフトが充実していた。
魔王は初めてそれらを出してみる。気分転換したかった。
夢遊病者のように、ゲーム機をセッティングしていく。意識があるようで完全に無意識だった。
ソフトをハードに刺そうとした際、タイトルが目に飛び込んできた。
『魔王クエスト ―伝説の勇者―』
(――っ!)
魔王はハードごとゲーム機を窓に投げつけた。
ハアハアと息を荒くする魔王。
(……ほ、他に違うのはないのか?)
縋るように押し入れをゴソゴソする。
『人類史上最も臆病だった俺が勇者として魔王をぶった斬るまで1~8』
『極悪魔王を断罪したところ土下座された勇者は寛大なる慈悲をもって魔王を許す1~3』
『ゆるっと魔王倒そうぜ ボールぶつけた勇者は魔界の覇者となる』
碧人が読んでいたラノベやマンガだ。
タイトルから、どれもが勇者が魔王を倒すものだ。
(魔王は、倒されるべき存在……)
――おまえは――生まれついての『魔王』だから。おまえは――生まれついての『魔王』だから。おまえは――生まれついての『魔王』だから。
「うわあああっ……あああああああっ」
空耳が溢れ、魔王を冷たく包み込む。
カーテンで閉ざされた部屋の闇が濃くなった。
魔王は両耳を塞ぎ、激しく頭を振る。




