51 「ちゃあぁぁぁあーーーん――っ」
事件は、ある日、部活の紅白戦の、後半で起きた。
ボールを受けた魔王が相手をごぼう抜きしているさなか、突然何かに躓いた。
スピードが出ていたために前のめりで吹っ飛ぶ魔王。空中で宙返りをした魔王は無傷で着地し、事なきを得るも、転んだことが解せない。
バランスを崩した辺りに目をやるも、地面に凹凸はなく、グランドの整備不良はみられない。
そもそも、味方の間を安心してすり抜けている際に、足に何かがひっかかったのだ。もっと直接的に言えば、誰かに、足をひっかけられた――。
ジトッとした視線を感じた。
目が合うとすぐに、視線をそらされた。
(ひょっとして……)
魔王は愕然たる思いを持って、ジト目視線そらし男に話しかけようと――する間際、ジト目視線そらし男の方からキレた。
「何だよ! 足があたっちゃったんだよ。おまえがいけねーんだろっ! 仲間のすぐ脇スレスレをドリブルでぶっ飛ばすから!」
ジト目視線そらし男は、魔王が学校を休んでいる間に、キボコーのフォワードとして活躍した者だ。言わば、決勝トーナメント躍進の立役者。ちなみに3年生で、魔王の先輩にあたる。
「何だよてめー、先輩にそんなツラ向けて」
憤るジト目視線そらし男。喋る度に口の端に白い泡がこびりついていく。
汚い。
でもそれ以上に、汚く感じられるのは……
(吾輩が転ぶように……ひょっとして吾輩がケガをするように……)
黒い感情がぬらりぬらりと魔王の心を侵食していく。
「何だその目は! てめー、俺がわざと足をかけたと言いたいのかよ!」
(……)
魔王は今、内心で自分自身のメンタルと戦っていた。
『味方を信じる心vs味方に裏切られた絶望によって傷ついた心』
バチバチに火花を散らしている。
不意に、魔王は胸ぐらを掴まれた。
「答えろよ! てめぇ、俺をハメようとしてるんだろ! 別に俺、僻んでなんてねぇよ! おまえがスタメンに選ばれようと、俺はベンチを温めりゃいいんだろ。それなのに何だ、てめぇ、俺がわざとおまえを転ばそうと、」
掴まれた胸ぐらをぎゅっと絞られ、揺さぶられる魔王。
「おい待て!」
見かねたキャプテン藤堂が仲裁に入る。
それを機に、他の部員達も、ジト目視線そらし男と魔王を引き剥がそうとする。
だが、魔王の襟もとをしめる力は緩まない。むしろもっときつくなっていた。
「やめろって!」「やめるぶひー」
こんな時に限って監督代理の美神はいない。ヘアサロンだ。
マミりんは指ツンしながら、頬を赤く染め、興奮していた。目がキラキラしている。
どうしてか、今わの際に聞いた勇者の言葉を思い出した。
――俺様がてめぇにこの世界の半分をくれてやろうか?
そう呟く勇者の底意地の悪さが際立った直後、
――って、やだね。けけけ。何、期待してんだよバカ。あげねーよ。つか、死ねや
邪な感情をもろに浴びながら眼前でエクスカリバーが一閃される。
闇。
ふるふると魔王は頭を振った。嫌なことを思い出した。
「おい、てめぇ、頭振って俺をバカにしてんのか!」
「違うっ!」
思わず強い力で、ジト目視線そらし男の身体を押しのけた。
「ぅうわ――――っ!」
言葉にならない声と一緒にジト目視線そらし男が吹っ飛ぶ。
勢いがつきすぎて、後方にいた部多谷を巻き込んだ。「ひぶ――っ!」ついでに早坂も巻き込む。「ちゃあぁぁぁあーーーん――っ」
(……)
一同は凍りついた。
そこそこ鍛えられたサッカー部員3人が一斉に吹っ飛ばされたのだから。(しかも1名は約0.1トンオーバー)




