50 決意した魔王、だが……
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決意した後、魔王の行動は迅速だった。
ぼさぼさになっていた髪を切った。すっきりした。
烏の行水状態だったシャワーを倒した。もっとすっきりした。
休みがちだった学校に毎日通うようにした。それでも、学校に行けない日はあったが、そのことをもって魔王は自分を責めなかった。
休んでもいいじゃないか。ありのままの自分を受け入れよう。
朝の座禅体験ができる寺で、瞑想するようになった。20分ほど心を無にし、警策と呼ばれる木の棒で坊主に肩や背をしこたま叩かれた。己に雑念が混じっていると反省する魔王は、素直に頭を垂れ、叩かれたことに敬意を表す。
鬱気から楽しみを感じられず、大概において笑顔になどなれない魔王であったが、気づくと、自然に笑むことができるようになっていた。
「おおー、碧ちんが笑ったぁあああ」とオールバック太郎。
「わたしの碧ちゃん、笑顔が最高~♪」ときゅんきゅんするロリ顔花子。
両親が喜ぶと魔王も嬉しくなり、もっと彼らに笑顔を見せるようになった。
笑えるようになると、それが意欲にも繋がった。
依然として抗不安薬を飲んではいるが、心がざわつき不安に苛まれる頻度はだいぶ減った。
いつしか休まずに通学できるようになった魔王。
クラスでも、
「なんか碧人、最近明るくね?」
「前は結構ハブラレてたけど、今は違うよな」
「おまえ、表情が変わったよ。なんつーか、前は他人を見下すようなヤバい目つきだったけど、今ちげー。聖人みたい。ああゲームの勇者っぽいな」
魔王はその言葉で「よっしゃっ」と心の中でガッツポーズをきめる。
校門前で魔王を写真におさめようとするパパラッチもどきに対しても、
「暑くないですか? お疲れさまです」
と微笑みの会釈をするようになった。
サッカー部の活動にも復帰し、部員達と健全に汗をかく。
魔王が休んでいた間にキボコーは決勝トーナメントの階段を一段ずつのぼっていた。来週末にはベスト16の試合を迎える。
練習強度が増し、部員達は紅白戦でガンガン身体をぶつけ合っていた。
「頑張ろうぜ、負けるな!」
熱い言葉を吐く魔王。部員達も「おう!」と鬨の声をあげて応える。
清々しさに心が洗われていく。
部活動の在り方を巡って昨今色々と言われている現状ではある。
が、魔王は純粋に、部活動がもたらすプラス効果(主に感動や情熱)を存分に味わっていた。
誰かが必ず死ぬ魔界での訓練とは本質的に違う、眩い青春の輝きを、まさに魔王は謳歌していた。
そう……していた、のだ。




