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5 みっちー


 教室で魔王は陶酔していた。


 ボールを蹴る感触が心地良かった。殴る際のフィーリングに似ていた。

 直接手を下すことは少なかったが、それでも魔王は数多の者をその手で葬ってきた。

 攻撃呪文で敵をさくっと吹き飛ばすのも爽快だが、拳を突き合わせる肉弾戦も魔王は気に入っている。(魔王のグーパン一発で相手は大地に沈む)


 このヒューマンの世界では、傷害罪があることを学習済みだ。警察にしょっ引かれるなど、誇り高き魔王にあってはならない。

 故に、この世界では、殴打に近い感覚を味えぬと失望していた魔王であったが――。

 快感に酔いしれる魔王は恍惚の表情をつくる。


 蹴った瞬間のボールのたわみ具合が、グーパン一発の顔のひしゃげ具合に似ていた。

 たまらない。放課後、早く、ボールを蹴りたい。


「大空ぁ」

(ん?)

「復帰早々にこんなこと先生も言いたくないんだけどねぇ、でもさぁ、もうちょっと集中してよねぇ。さっきからノートもぉとらないしぃ、時計ばっか見てぇ、にやにやと気味悪りぃしぃ」


 9回目のお見合いが破談になった数学教師・三隅美智子(32 通称みっちー)が癖のある言葉づかいを炸裂させた。

 なお、現在、授業中である。

 板書されたものを生徒たちが熱心にノートに書き写す様は、さすがは進学校の光景だ。

そんななか、愉悦に耽っていた魔王の態度は、みっちーにとって腹に据えかねるものだった。


「じゃさぁ、ちょっとぉ、解いてくんないぃ、【問1】」

 みっちーがにたぁとなる。

(……出たっ! みっちーの『解いてくんないぃ』!)

 みっちーは急に誰かを指名して問題を解かせる教師だ。指名された生徒がその場で立ち上がり「マジかよ」となる表情に興奮するタイプである。


「正弦定理により3√2」

 椅子に座ったまま、即答する魔王。

「へ……!?」

「【問2】は……、【問3】は……。【問4】は……。【問5】は……。以上」


 あてられてもいない問2~5までをも瞬時に答えた魔王は、憮然とした顔をした。

 ヒューマンが学ぶ数学など取るに足らない。アインシュタインの相対性理論をもってしても、どうしてこの程度で、と魔王は飽き足らない。

 それだけに、みっちーから指名された際に、見下されたのではないかと、イラっときていた。


 ざわざわっと教室がざわつく。

 無理もない。大空碧人は補欠合格でこの学校に滑り込んだ、いわば学年ビリ。しかも、何度もみっちーの指名に沈められた過去を持つ。


「大空マジか」「あいつ休んで勉強してたん?」「留学?」「数学で留学なんてあんの?」

 一方のみっちーは、

「……、――、……あぶぶぶぶ」

 期待していた反応を見られなかったことが原因か、それとも9回目の破談が尾を引いたのか、気が触れたように教卓に突っ伏した。→保健室送り。

 なお、魔王の前の席は空席である。

 本来ならば早坂の席だ。しかし、彼は今、保健室で眠りについている。(その隣にみっちーが寝かされる)

 魔王のシュートを腹に受けた早坂は「ひぶっ」と、魔界でもなかなか聞かないモブキャラみたいな呻き声を吐き出した後、昏倒し、保健室へと送り込まれたのだ。


(早くボールを蹴りたい)

 小学生のように時計とにらめっこをしだした魔王であった。

 


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