46 そう。 魔王は、変わったのだ。
ちょっとセンシティブな内容で、ごめんなさいです。魔王が変わる過程で筆者は必要だと思い、表現しました。読んでいてお辛くなりそうな場合は、読み飛ばしてくださいね。
だがしかし、これはこれで部員達の体力の限界値を上げることに貢献したのだった。
ぶっ放せない欲望のはけ口が自然とサッカーボールに向いた彼らのシュートは、以前に比べて鋭く、重たくなっていった。
身体のぶつけ合いでも、プロ顔負けの気迫でボールを競る。
「うがああああああっ! 来いよ、おら、来いよっ!」
溜まったパワーを毎日発散させ、強くなっていくのが魔王にはよく分かった。
(……こんな士気の上げ方があったとは)
粛清をもって配下の者達の士気をあげていた魔王は、美神の手腕に脱帽するとともに、次第にこれまでの自分の指示の在り方や、存在そのものに思考を回すようになっていったのだ。
(吾輩のやり方は正しかったのか?)
(吾輩には将としての器が小さかったのでは?)
(吾輩のもとで配下達は幸せだったのか?)
そうして、内省しては自分を責める癖がすっかり根付いた魔王。
マジメな性格の魔王は、日を追うごとに深い自責の念に苛まれていた。
(吾輩が統治していた魔界は、なんと惨い世界だったのだ……)
(恐怖こそすべてと思っていたが、それは吾輩が弱かったから。そのために幾多もの配下を死なせてきた……)
(公開処刑される直前に気が触れた者の目が今でも吾輩を睨んでいる……)
(吾輩こそが断罪されるべき……)
そうして行きついた行為の一つにリストカットがあった。
当然、やってはいけないものだと、魔王はネット情報などを見て理解してはいたのだが、……やってしまった。
自室から出てこない息子を呼びにいった碧人の母親・ロリ顔花子は、ベッドの上で横たわる魔王(手首から血がぶしゅう状態)を発見した。
「あああああああ~っ!」
ベッドはまさに血の海。
魔王属性が残るヒューマン・魔王は、通常の人間よりも血の量が多い。加えて滅多な量の出血でも致命傷には至らない。
死ねない事実を知り、慙愧に堪えない魔王は、生きる希望を失った。とろんとした目で花子を見つめる。
凄惨な現場に遭遇した花子。大量の鼻水を両の鼻腔からぶちまけながら救急車を呼ぶ。
「碧ちゃん、わたしの碧ちゃあーーーーんっ!」
花子は魔王をぎゅっと抱きしめた。
早く止血すべきだが、取り乱す彼女にその考えは過ぎらない。豊満な胸に魔王を埋め、「わたしの碧ちゃん!」と叫び続ける。
転生直後は、花子の乱れ顔を醜く感じていた魔王であったが、今ではすっかりヒューマンの感性に染まっている。
「お母さんごめんなさい……」と、胸の膨らみの隙間からか細い声を漏らす。
父親のオールバック太郎も駆けつけ、ワックスで固めた髪を崩しながら、
「碧ちーんっ! パパちんとママちんがついているからなぁあああああっ!」
ちん付けで呼ばれることを心底ウザいと感じていたが、自省の過程でヒューマンの感受性を学んだ魔王は、父親の言葉づかいにも愛情を感じるようになっていた。
「お父さん頑張るよ……」
やがて救急病院に連れていかれた魔王。
「お父さん、お母さんっ! わたくしは研修医を終えて医療に二年従事しておりますが現代医療の……いや、生命の奇跡をわたくしたちは目の当たりにっ――」
転生時とまったく同じセリフを吐く医師に対しても、たかだか二年でエバるなといった苛立たしさを抱かなくなっていた。
そう。
魔王は、変わったのだ。
ただ、ちょっと、いや、その……かなり……感受性豊かな、センシティヴな青年に。




