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39 決着

 で、ペナルティキック(PK)を得た魔王。

 本来ならば上級生が蹴るべきシーンで、魔王は堂々とボールをペナルティマークにセットした。キッカーを譲る気などない。周囲もこの成り行きに任せていた。


 まさに土壇場で得た大逆転のチャンス。

「碧人、力むな」

「いや、力め。おまえの殺人シュートならド真ん中に蹴っても止められねー」

 正反対なアドバイスが2つ。どっちやねんと心の中で魔王はつっこむ。


 こめかみに伝う汗を、乱雑に肩で拭った。

 ふと、ベンチに座る美神の方を向く。

(……はい?)

 美神はスマホを(いじ)りながら、おまけに髪も弄っている。スマホ画面でヘアースタイルをチェックしているようだ。

 こんな場面でなんという指揮官だ。

 隣に座るマミりんは、いつものように指をツンツンさせて、美神の肩に頭を乗せながら一緒にスマホ画面を見ている。

 あいつはどうだろうか?

 観客席にいる秋月結菜。

(かあーっ!)

 呆れをとおり越して頭を抱えたくなった。

 結菜はボンボンの毛を毟ることに夢中だった。ちょっとはこっちに注目しろよ。

 だがしかし、彼女達の自分勝手な振る舞いを見物しているうちに、リラックスしてきた。


 さて。

 右に蹴るか、左か、それともド真ん中か。

 魔王はジト目でゴールキーパーを見やる。

 ゴールキーパーは魔王と目を合わせてこない。この場において動揺の素振りを見せないのは、敵ながら天晴だった。

 ならば、全力で叩きつぶす。

 この時になって、ようやく美神達が「あ、蹴るの?」という感じで魔王に目を向けた。

 魔王は踵を浮かした。一歩、二歩と進む。次第に駆けるスピードを速め、ボールの真芯を蹴った。


 バスッ


 右に跳んだゴールキーパーの逆をつくシュート。

 蹴る直前のゴールキーパーの反応など、魔王には赤子のハイハイよりも遅く感じられる。魔王にとっては余裕レベルの動きだった。

 審判が試合終了の笛を吹く。

 繰り返す、魔王にとっては余裕だったはずだ。それなのに……――


「っしゃあああああああーーーっ!!」


 魔王は雄叫びをあげた。

 振り返る魔王に向けて、部員達が走ってくる。ベンチからも駆けてくる。

「碧人ぉおおおおーーーっ!」

「全員かかってこいやぁ!」

 半分冗談で魔王は両手を広げた。

「へ?」

 どすどすどすどすどすどすどすどすっ……

 手加減なくチームメイトが魔王にダイヴする。尻もちをついて後方に倒れた魔王に、容赦なく乗っかってきた。


 もしも魔王ではなく碧人だったならば、圧死。魔王だから彼らを受け止められた。

 いや、それよりも。

「無礼者!」と(ののし)る感情は、今の魔王には露とも湧かない。単純に、幸せだった。

 一緒に汗をかいて戦った仲間から祝福される。それが嬉しかった。

 魔界では皆、魔王を怖れていた。敵を殲滅し一時の勝利に沸いても、次の瞬間、魔王は彼の機嫌を(うか)がう者達に囲まれていた。


 そう。

 魔王はいつも孤独だった。


 しかし、今は違う。

 大空碧人としてヒューマンに転生した魔王。

 怖れられるどころか、皆から抱きつかれている。一緒に喜びを分かち合っている――仲間がいる。


「オーレー♪ オーレー♪」

 モンキーダンスみたいにはしゃぎ、謳いあげるヒューマン達の輪の中で、魔王も一緒に跳びはねた。謳いあげた。ハイタッチし合った。

 今、魔王は孤独ではない。


 と――、

 早坂がぽつりと呟いた。

「んじゃーぁ、個室ビデオだな」


 頬への往復ビンタを喰らったようにぴたりと動きを止める豚野郎ども。いびつな静寂が束の間あった。

〝絶対に、今日、ティッシュに出す〟

 エロスの神様がタクトを振るった。

「うおおおおおおおおおおっ!!!」

 この日一番の大音声。歓喜と熱狂の波動が、地球環境汚染予定軍からぶっ放された。


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